M&AにおけるMBOを解説。経営陣が自社株式を買う意味とは?

M&AにおけるMBOを解説。経営陣が自社株式を買う意味とは?

MBOとは、経営陣が自己資金や資金調達によって自社を買収する行為です。経営陣が自社を買収する背景には、何があるのでしょうか?上場企業や中小企業がMBOを選択するメリットや、EBOとの違いも解説します。

MBO(マネジメント・バイアウト)とは?

MBOは『Management BuyOut』の頭文字を取ったものです。M&Aの手法の一つで、日本語では『経営陣買収』と訳されます。MBOの目的や流れ、EBO(Employee BuyOut)との違いについて見ていきましょう。

経営陣が自社の株式を買い取ること

MBOは、会社の経営陣が自社の株式を自ら買い取り、会社の経営権を取得する手法です。既存株主から株式の過半数を買い取ると、株主総会の普通決議の可決が単独で行えるようになるため、会社の実質的支配が実現します。

MBOと一般的なM&Aとの違いは『買い手が誰であるか』です。M&Aは第三者によって実施されますが、MBOは『自社の経営陣により行われる』という点を押さえておきましょう。

後述しますが、企業がMBOを行う主な目的としては、経営体制の見直しや上場の廃止、のれん分けなどが挙げられます。

MBOの流れ

MBOはどのような流れで実施されるのでしょうか?株式を取得するまでの大まかな手順は以下の通りです。

  1. 事前調査を行い、事業計画と資金計画の策定を行う
  2. 既存株主の株式保有割合を確認する
  3. 株式の評価を行い、株式取得の条件(価格・支払い方法など)を決定する
  4. 株式を取得する

株主との交渉では思わぬ問題が発生し、当初の計画の変更を余儀なくされるケースも少なくありません。経営者や経営陣だけでなく、弁護士や外部のコンサルタントを交えて、MBOを進めていくのが一般的です。

経営陣の自己資金が足りない場合は、最初に特別目的会社(SPC)を設立した上で、金融機関から資金調達を行います。

EBOとの違い

MBOと似たM&Aのスキームに、EBO(Employee BuyOut)があります。EBOのEmployeeは『従業員』、BuyOutは『買収』という意味です。つまり、以下のような違いがあります。

  • MBO:自社の経営陣による買収
  • EBO:自社の従業員による買収

MBOの主体は経営陣であるのに対し、EBOでは自社の従業員が株式の取得を行います。中小企業において後継者が見つからない場合、従業員に会社経営を継承する目的でEBOが選択されるケースがあります。

MBOのメリット

MBOは会社の経営改革ができるM&A手法の一つです。より長期的な戦略に基づいた経営ができるようになる上、経営者の意思決定スピードが速まります。

中長期的な視点で経営を行える

不特定多数の第三者が株主である場合、会社の長期的な成長よりも、短期的な業績向上や目先の利益還元を求めがちです。そのため、会社も株主の要求や期待に応えようと、利益追求に偏重した経営を行ってしまうことが少なくありません。

MBOを実行すると、分散していた株式の多くが経営陣に集中します。不特定多数の株主や投資家への利益還元を過度に意識せずに、中長期的な視点で経営ができるのはメリットといえるでしょう。

意思決定のスピードが上がる

会社の経営方針を決定する際には、株主を招集して株主総会を開きます。株主総会は株式会社の意思決定機関で、株主は1株1議決権の行使により会社の意思決定に参加します。

株主が多く、かつ分散している場合、経営者の方針に対して理解が得られないケースも増えてくるでしょう。株主としての権利を行使し、会社にさまざまな請求をしてくる可能性もゼロではありません。その結果、迅速な意思決定が阻害されてしまいます。

MBOの実施後は、経営陣が株式の大部分を所有することになります。すなわち、株主=経営者になるため、意思決定のスピードが大きく向上するのです。

MBOを選ぶ目的とは

MBOは、ノンコア事業の切り離しや上場企業の上場廃止などを目的に実施されます。中小企業においては、後継者となる身内がいない場合、MBOで経営陣に会社を承継するケースも珍しくありません。

のれん分け

ノンコア事業を会社から切り離したいときや、子会社を親会社から独立させたいときにもMBOが用いられます。

MBOは『経営陣が自社株式を取得して自社を買収すること』と定義しましたが、MBOでは株式譲渡のほかに、事業譲渡のスキームが用いられるケースもあります。

  • 売り手:親会社または会社
  • 買い手:自社の経営陣

取引対象:子会社の株式(株式譲渡)・ノンコア事業(事業譲渡)

MBOは、会社内部の人間による友好的な買収であることから、実施効果は『のれん分け』に近いとされます。『のれん分け』は、長年働いてくれた従業員に対し、主人が同じのれん(屋号)を掲げて商売することを許す仕組みです。

売り手である会社は、子会社やノンコア事業を会社から切り離すことで、コア事業に経営資源を集中投下できます。売却金をコア事業の成長資金として充当することも可能でしょう。

一方、買い手である経営陣側は、これまで培ってきたノウハウを生かしながら、自由裁量によって事業を拡大させていけます。

非上場化

MBOによって会社が経営陣に買収されると、上場企業は非上場企業となります。上場会社を非上場化する理由はさまざまですが、大きく以下の二つの理由が挙げられます。

  • 会社の経営改革を促すため
  • 上場維持コストを削減するため

株主への利益還元を重視すると、短期的な利益の追求に経営が偏ってしまいます。非上場化で株主からの圧力がなくなれば、会社の将来を見据えた中長期的な経営戦略を策定できるようになるのです。

また上場を維持するには、年間12万円の適時開示情報閲覧サービスの利用料に加え、上場時価総額に応じた年間上場料が数十万円から数百万円かかります。

さらに、上場企業には投資家保護の観点からさまざまな制約が課されます。監査や内部統制をはじめ、投資家に対する広報活動であるIR(インベスター・リレーションズ)に関する費用は馬鹿になりません。

MBOを実施すれば、上場維持にかかわる多大なコストを削減できるでしょう。

参考:新規上場ガイドブック | 日本取引所グループ

後継者不足の解消

中小企業や非上場企業では、企業の後継者不足が深刻化しています。かつてはオーナーの子どもや親族が家業を引き継ぐのが一般的でしたが、生き方を自由に選択する風潮が強まった昨今では、親の跡を継がない若者が増えているのが実情です。

自社の経営陣に事業承継をするMBOは、後継者不足を解消するのに有効な手段です。M&Aで第三者に売却する方法もありますが、経営者の中には『赤の他人に承継するのは抵抗がある』という人もいます。

長年、共に働いてきた経営陣であれば、経営方針や事業内容を熟知しているため、安心して会社を任せられるでしょう。

LBOを用いたMBO

会社を買収する際には、買収資金が必要です。自己資金だけでなく、金融機関やファンドから買収資金を調達する手法をLBO(Leveraged BuyOut)と呼びます。

MBOでは、経営陣の自己資金だけでは資金調達ができないケースが多く、LBOによるMBOが多用されます。

MBOに必要な資金

借入を行う前に、経営陣で自己資金をいくら用意できるのか確認します。株式の買収資金の全てを自己資金でまかなえるのであれば、借入の必要はありません。

経営陣の手元資金のみで行うMBOは、『自己資金型MBO』と呼ばれます。出資者から経営に口出しをされないことや、借入の利息を支払わずに済むことなどがメリットとして挙げられるでしょう。

手続き方法は、M&Aにおける株式譲渡とほぼ同じです。LBOによるMBOよりも簡素で、時間や手間がかかりません。

自己資金の不足分はどうする?

自己資金が足りない場合は、LBOによるMBOを実施します。この場合、金融機関やファンドから買収資金を調達する目的で、受け皿となる会社を設立しなければなりません。

この会社は、特定の目的のためだけに設立されるため、『特別目的会社(Special Purpose Company)』と呼ばれます。特別目的会社(以下SPC)を設立したのち、買収対象企業の資産を担保にして借入を行います。大まかな流れは以下の通りです。

  • 経営陣がSPCを設立する
  • SPCが金融機関から買収資金を借りる
  • SPCが対象企業の株式を取得し、子会社化する
  • 子会社とSPCを合併させる

合併とは、複数の会社を一つの会社に統合するM&Aのスキームです。単なる買収の場合、経営権は買い手側に移りますが、売り手の法人格はそのまま存続されます。

一方、合併では合併される側(消滅会社)の法人格はなくなり、権利義務や資産が包括的に合併する側(存続企業)に引き継がれるのが特徴です。

MBOでは、『SPC=消滅会社』『子会社(対象会社)=存続会社』となる点に注意しましょう。合併後はSPCの借入金を引き継ぎ、金融機関に返済を行います。

まとめ

MBOは経営陣による会社買収で、経営方針の変更や上場の廃止、事業承継などの場面で用いられます。株式が経営陣に集約されるため、意思決定が迅速化するでしょう。中小企業においては、後継者不足を解決する手段としても活用できます。

MBOは自己資金の調達方法によって、手続きの流れが大きく変わります。SPCによるスキームではいくつもの段階を踏まなければならないため、弁護士やコンサルタントの助言を得ながら、慎重に進めていきましょう。