シナジー効果の意味がわかるM&A事例。業界別のメリットも紹介

シナジー効果の意味がわかるM&A事例。業界別のメリットも紹介

M&Aでは、シナジー効果を見込んだ譲渡価格が設定されます。そもそも、シナジーにはどのような意味があるのでしょうか?シナジーの種類やスケールメリットとの違いについて把握しましょう。シナジー創出に成功したM&Aの事例も紹介します。

M&Aにおけるシナジー効果とは

M&Aを行う目的の一つに『シナジーの創出』が挙げられます。シナジー(synergy)とは本来、複数の物事が作用し合い、単体時よりも優れた効果や能力を発揮することです。M&Aにおけるシナジー効果とは何を意味するのでしょうか?

買収で生じるプラスアルファの利益のこと

ビジネスやM&Aにおけるシナジー効果は、2社以上が協力することで、1+1=2以上の価値や利益が生じることを指します。

例えば、A社とB社が業務提携によってノウハウや技術を共有し、『新たな商品が生まれる』『売上が大きく伸びる』『業界での知名度が上がる』となれば、シナジー効果が発揮されたといえるでしょう。

多くの企業は、単純な足し算ではない新たな価値の創出を求めて、M&Aを実行するのです。

企業がシナジー効果を重要視する背景の一つとして『ライフサイクルの短命化』が挙げられます。消費者のニーズは多様化しており、製品やサービスがヒットしても、人々に長く愛されるとは限りません。

市場で競争優位性を保つには、常に新たな価値を生み出していかなければならないのです。

アナジー効果との違い

アナジー(anergy)とは、シナジーの対義語にあたる言葉です。多くの企業はシナジーを狙ってM&Aを実行しますが、異なる複数の企業が統合した場合、必ずしもプラスの効果が発揮されるとは限りません。

企業や事業間で生じるマイナスの効果は『アナジー効果』と呼ばれ、M&Aでは以下のような事例が見受けられます。

  • 重要な取引先や顧客が離れる
  • 買収後に従業員やキーパーソンが辞める
  • 業務システムの統一にコストがかかる
  • 経営方針の違いにより経営者や従業員のモチベーションが下がる
  • 経営の多角化で本業がおろそかになる

関連事業のM&Aは効果が出やすいとされる

どのような種類のシナジーがどの程度生じるかは、売り手と買い手の相性によって決定されます。一般的に、既存事業と関連性のある事業や会社を買収した方がシナジー効果は出やすいため、相手の方向性や戦略をしっかりと把握することが重要です。

もちろん、既存事業とまったく関係のない事業のM&Aにより、高いシナジー効果が生まれた事例もありますが、方向性が大きく異なると、アナジー効果が出る可能性の方が高くなってしまうのです。

シナジーを得るどころか、本業の業績までもが悪化してしまったケースもあります。

シナジー効果の例

M&Aにおけるシナジー効果は、生産・販売・売上・投資・経営といったあらゆる方面に及びます。数あるシナジー効果の中から、『投資シナジー』と『経営シナジー』の事例を紹介します。

投資シナジー

投資シナジーとは、それぞれの持つ経営資源(ノウハウ・技術・情報・人員・設備・お金など)を共同投資することで得られるシナジー効果です。

新製品を生み出すには、それなりの時間やコストがかかりますが、双方が経営資源を出し合い、協力して研究開発を行えば、単独時よりもコスト・時間・労力を大きく削減できるでしょう。

ライバル企業が太刀打ちできない、画期的な商品やサービスが開発され、業績の向上につながる可能性があります。

経営シナジー

経営シナジー(マネジメントシナジー)は、マネジメント層(経営者・管理者・役員など)が持つノウハウや情報を共有することで生み出されるシナジー効果です。

M&Aの実行後、優れた経営者が知恵を出し合い、新たな戦略を打ち立てれば、企業の業績が大きく改善する可能性があります。各企業に蓄積されてきた成功体験や失敗談は、経営戦略の策定に大いに役立つでしょう。

赤字だった会社や事業が、新たな戦略によって黒字回復を遂げたとすれば、経営シナジーが効果的に働いたといえます。

スケールメリットとの違い

M&Aでは『スケールメリット』が得られるケースもあります。プラスの効果である点はシナジー効果と共通していますが、スケールメリットは『規模の拡大』によってもたらされる効果です。

スケールメリットとは

『スケール(scale)』は『規模』を表す英単語で、スケールメリットは『規模の経済』といった意味で使われることも多いです。

シナジー効果が複数の事業や製品の組み合わせで生じる『相乗効果』であるのに対し、スケールメリットは同種の物を多く集め、規模を大きくすることによって得られるプラスの効果や利益を意味します。

スケールメリットの対義語は『スケールデメリット』です。規模の拡大で必ずしもポジティブな効果が得られるとは限りません。以下に、各業界でのスケールメリットとシナジーを見込んだM&Aの事例を紹介します。

物流業界の例

事業規模が小さい場合、人件費や管理費、輸送費などを下げようと思っても、なかなか思い通りにならないことがあります。大手の物流会社の傘下に入る、または業務上の提携を組めば、さまざまなスケールメリットを生かせるでしょう。

例えば、目的地が一緒の荷物を混載してまとめて輸送した場合、人件費やガソリン費の削減が可能です。複数社で倉庫を共有し、荷物を一緒に管理すれば、倉庫費や人件費も節約できるでしょう。

一方、物流業界ではシナジー効果を狙ったM&Aも行われています。家電量販店を展開する大手が物流会社を傘下に収めたことで、『大型家電の配送の効率化』や『独自の新サービスの提供』などが可能となった事例があります。

卸売、小売業界の例

卸売・小売業界・飲食業界は、スケールメリットを生かしやすい業界です。小売業界は1店舗のみで運営するよりも、チェーン化して全国展開した方が知名度や信頼度がアップします。

多店舗展開の場合、『一括仕入れ』により1回で仕入れる数量が増えるため、卸売業者との値段交渉がしやすくなります。数量によっては仕入れ値が大きく下がる可能性があるでしょう。

仕入れコストの削減によって、販売価格を限界まで引き下げるという戦略も打ち出せます。

シナジー効果を狙った事例としては、大手コンビニ会社による高級スーパーの買収が挙げられます。2014年、ローソンが成城石井を買収したことで、小売事業における競争力が強化されました。

大都市圏市場では、高級志向と低価格志向の『二極化』が進んでいます。成城石井の持つブランド力とローソンの持つロジスティックスや顧客データをうまく組み合わせ、多様化するニーズに対応していく目論見です。

財務、組織への効果も

M&Aでは、財務面や組織面でのシナジー効果も期待できます。財務シナジーには『余剰資金の有効活用』や『節税』、組織シナジーには『生産性の向上』などがあります。

余剰資金の有効活用

財務シナジーの代表例として、『余剰資金が有効活用できること』が挙げられます。買収や合併で企業のキャッシュフローが増えた場合、資金を銀行に預けたままにせず、経済活動に活用した方が企業にとってはプラスになるのです。

例えば、成長が見込めるベンチャー企業や事業に再投資すれば、将来的により大きな利益が返ってくる可能性があるでしょう。余剰資金を使って優秀な人材の確保に力を入れるのも有用です。

生産性の向上

中小企業白書(2018年版)によると、M&A(企業再編・事業譲渡)を実施した企業と非実施企業を比べた結果、M&Aを実施した企業には『労働生産性の向上』が見られました。

労働生産性とは、従業員1人あたりどれくらいの付加価値を創出しているかを測る指標で、『労働生産性(円)=付加価値÷従業員数』で算出されます。

譲受企業において、M&Aをした年の労働生産性を100とすると、翌年は数値が104.1にまでアップし、その後もほぼ右肩上がりに推移しています。組織再編や吸収合併、株式譲渡を行った企業にも、同様の結果が見られました。

データからは、M&Aはパフォーマンスや生産性の向上に一定の効果があることがうかがえます。生産性が向上した背景には、業務効率が上がったことや社員のモチベーションが高まったことなどが考えられるでしょう。

参考:2018年版中小企業白書 第6章M&Aを中心とする事業再編・統合を通じた労働生産性の向上 P.322-323|中小企業庁

対象会社の繰越欠損金による税負担の軽減

繰越欠損金による税負担の軽減は、代表的な『財務シナジー』の一つです。

M&Aのスキームによっては、買い手が売り手の『債務』を引き継ぐケースがあります。仮に、売り手が多額の繰越欠損金を抱えていた場合、買収によってシナジー効果により売り手で利益が計上できた場合には、一定期間税金を圧縮、つまり『節税効果』を見込める可能性があります。

繰越欠損金とは、繰越欠損金制度に基づいて将来に繰り越された欠損金のことです。しかし、買い手が黒字の場合、繰越欠損金を抱えている売り手を買収したからと言って、その繰越欠損金が利用できるわけではないことに留意が必要です。あくまでも、売り手の中で利益を計上できるようになって初めて買収前の繰越欠損金の利用ができ、節税効果を果たすことができます。

M&A事例

シナジーの創出や企業価値の向上を狙い、国内では多くのM&Aが行われています。近年実施された、大企業によるM&Aの事例を紹介します。

KDDI

2017年、携帯電話事業を手掛ける日本の大手、KDDI株式会社は、株式会社ソラコムを買収し連結子会社化しました。ソラコムは、IoTシステムを構築・運用するIoTプラットフォームのリーディングカンパニーです。

買収に至った理由として、『新たなIoTビジネスの創出』『日本発のIoTプラットフォームの構築』『グローバル展開』『次世代ネットワーク(LPWA/5G)の共同開発』という四つのシナジー効果が挙げられています。

IoTビジネスの領域において、両社はそれぞれの強みを生かしたハイブリッドな展開を見込んでいるようです。2021年3月、ソラコムはKDDI auネットワーク(5G/4G LTE)に対応するデータ通信契約『planX2』の提供を開始しています。

参考:IoTプラットフォームSORACOMがKDDI au 5Gネットワークに対応、データ通信サービス提供開始 | ソラコム コーポレートサイト

GMOインターネットグループ

GMOインターネットグループは、インターネットインフラ事業・EC支援事業・決済事業を幅広く手掛けており、業界では一定の知名度を確立しています。

2021年5月24日、GMOインターネット株式会社は株式交付を行い、株式会社OMAKASEの株式交付親会社となりました。

OMAKASEは、人気の飲食店やレストランに特化した『予約サービス』を展開する企業です。OMAKASEが持つ顧客基盤や運営ノウハウがGMOインターネットグループに融合されることで、EC支援事業や決済事業で大きなシナジーが発揮されるでしょう。

ナルミヤ・インターナショナル

2020年10月、株式会社ナルミヤ・インターナショナルは、株式会社LOVSTの全株式を取得し、完全親会社となりました。

ナルミヤ・インターナショナルは、ベビー・子ども服の企画販売事業を手掛ける企業で、国内に650店舗以上の直営店を有します。子どもフォトスタジオ事業を展開するLOVSTを取り込んだのは、既存の子ども服事業とのシナジー効果を創出するためです。

現在、ナルミヤ・インターナショナルでは、都内を中心にキッズフォトスタジオ『LOVST BY NARUMIYA』を展開しています。キッズファッションやオリジナルドレスの豊富さは、アパレル企業ならではです。

まとめ

シナジー効果は、M&Aで得られる最大のメリットといっても過言ではありません。シナジーの創出によって、高度な研究開発に着手できるようになったり、生産性が向上したりして、結果的に会社の業績アップにつながります。

シナジー効果を最大限に発揮させるためには、M&A後の統合作業が不可欠です。売り手と買い手の相性によって、シナジー効果の種類や大きさが変わるため、相手を見極めることも重要でしょう。