M&Aはどのような流れで進むのか。期間、費用、必要となる書類

M&Aはどのような流れで進むのか。期間、費用、必要となる書類

M&Aは一定のプロセスに基づいて実行されます。初めて会社を買収する人は、M&Aのフローやかかる期間、取り交わされる契約書の種類を把握しておきましょう。マッチングサイトで売り手を効率よく見つけるコツや、デュー・デリジェンスの重要性も解説します。

M&Aはどのように成立するのか

近年は、中小企業や個人が会社を買収するケースが増え、国の事業承継支援制度も整いつつあります。一方で、初めて会社買収にチャレンジする人の中には、『全体的なフローが分からない』『何から手を付けてよいか迷っている』という人も多いのではないでしょうか?

M&Aの契約までの流れ

M&Aにはさまざまなスキーム(手法)がありますが、契約成立までの大まかな流れは以下の通りです。

  • M&A戦略の策定
  • 仲介会社・アドバイザーの選定
  • 秘密保持契約の締結
  • 対象会社とのマッチング
  • トップ面談
  • 企業価値評価
  • 基本合意書の締結
  • デュー・デリジェンス
  • 最終交渉
  • 最終契約書の締結
  • クロージング
  • アフターM&A

M&Aのプロセスは大きく『準備フェーズ』『交渉フェーズ』『最終契約フェーズ』に区分されます。

最初のプロセスである準備フェーズにおいては、M&A戦略の策定やM&Aアドバイザーの選定を行います。続いて対象会社とのマッチング・交渉へと進み、バリュエーションやデュー・デリジェンスを経て、最終契約に至るのが一般的です。

M&Aにかかる期間

M&Aの成立までにかかる期間は、半年から1年前後です。ただし、事業承継・M&Aプラットフォーム『TRANBI(トランビ)』には、わずか1カ月でM&Aが成立した事例もあります。

自分で起業する場合と比べると、1カ月という期間は短すぎると感じるかもしれません。しかし、市場動向は日々変化しているため、成立までの期間が長くなればなるほど、当初のM&A計画が実現できない可能性が高まります。早期に成立すれば、それだけ事業の成果も早く表れるでしょう。

M&Aをスムーズに進めるためには、ニーズや目標を整理した上で、期間を明確に決めることが重要です。スケジュールが曖昧なままスタートすると、無駄な時間やコストが費やされてしまいます。

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まずはニーズを整理して準備

ここからは、買い手の立場で各プロセスの詳細を解説していきます。M&Aは、マッチング・交渉前の準備をいかに丁寧に行うかによって、その後の結果が大きく変わります。ニーズや方向性を明らかにした上で戦略を策定しましょう。

コストはかかりますが、業務全般をサポートしてくれるM&Aの専門家の活用も検討したいところです。

戦略策定

会社や事業を買収する際は、必ず戦略を策定します。同業種を買収してスケールメリットを目指す場合と、まったく異なる事業分野で買収を行い事業の多角化を狙う場合とでは、最適なM&Aのスキームが変わるでしょう。

戦略が不十分な場合、想定していたシナジーが発揮されないばかりか、不要な資産や負債を抱える結果につながります。戦略の策定では、以下のポイントを押さえておきましょう。

  • M&Aの目的
  • M&Aで実現したいシナジー効果
  • 自社の経営資源との統合方法
  • 予算と資金の調達手段

仲介会社などに相談する場合

M&Aでは、仲介会社やアドバイザーを活用するケースが見受けられます。必ず必要なわけではありませんが、第三者の目線から適切なアドバイスをしてくれるため、『右も左も分からない』という初心者にとっては頼れる存在といえます。

M&A仲介会社の主な役目は、売り手と買い手の意見を聞き入れながら、それぞれにふさわしい相手を探すことです。中立的な立場であるため、アドバイスは双方の利益のバランスを考えたものになります。

一方M&Aアドバイザーは、売り手または買い手と契約し、『契約者の利益の最大化』を目指して業務を遂行するのが特徴です。

仲介会社やアドバイザーを活用すると、相談料や着手金、定額顧問料などの費用がかかります。資金にあまり余裕がない場合は、『商工会議所』や『事業承継・引継ぎ支援センター』などの公的機関に相談する手もあります。

M&Aマッチングサイトにニーズの登録

M&Aマッチングサイトとは、Webサービスを介して売り手と買い手をつなぐサイトのことです。日本国内はもちろん、海外案件の検索も可能なため、自分のニーズに合った相手を効率的に探せます。

マッチングサイトは、M&Aアドバイザーとの契約がセットになったものと、マッチングのみを行うものがあるため、登録前に確認しましょう。サイト選びのポイントは以下の通りです。

  • 運営会社の知名度や実績
  • 料金体系
  • 案件数
  • サイトの使いやすさ
  • サポート体制

事業承継・M&Aプラットフォーム『TRANBI(トランビ)』の場合、プレミアムプランに加入すると、売り手との交渉が可能となります。成約時の手数料はかかりません。

検索画面から候補先を探す方法もありますが、事前に『買いニーズ』の登録をしておくと、売り手から買い手に売却交渉のオファーが届きます。

利用料金|トランビ 【M&Aプラットフォーム】
利用料金
利用料金|トランビ 【M&Aプラットフォーム】

月額料金3,980円~M&A交渉が可能、案件の閲覧は無料

相手企業とのマッチング

M&Aは、限られた時間と予算の中でプロセスを進めていく必要がありますが、相手企業の選定に焦りは禁物です。入念な検討を怠ると、本当にベストな相手を逃しかねません。マッチングの手順とポイントを解説します。

ターゲット選定

まずは、M&A仲介会社やリサーチ会社が保有する企業のデータベースを活用し、『ロングリスト』と『ショートリスト』を作成していきましょう。ターゲットを検討・決定するプロセスは、『ターゲット・スクリーニング』と呼ばれます。

ロングリストとは、エリアや業種、事業規模といった『一定の選定基準』を満たした企業をピックアップし、一覧表にまとめたものです。自社の基準に合わない企業を除外し、ターゲットを選定しやすくする目的があります。

ショートリストは、ロングリストをさらに細かく絞り込んだものです。5~10社ほどを選定した上で優先順位を付け、上位数社を候補とします。

NDAの締結

M&Aでは、財務情報や技術情報、ノウハウといった『企業の機密情報』を取り扱います。

外部に情報が流出すると、企業が損害を被ったり、利害関係者に不信感を与えたりする恐れがあるため、当事者間で『秘密保持契約書(NDA)』を締結した上で情報を開示するのがルールです。

具体的には、互いの機密情報を第三者に無断で漏えいしない旨を定めたもので、情報の取り扱いルールや契約に違反した場合のペナルティーなどが盛り込まれます。

契約書はひな型を使用しても構いませんが、そのまま流用するのではなく、状況に合わせて修正を加えましょう。

企業概要書をもとに検討

NDAが締結されると、売り手から『企業概要書(IM)』が開示されます。IMとは、売り手企業の詳細情報やアピールポイントなどが記載された資料です。

買い手は、開示された内容を精査し、実際にM&Aの交渉に進むかどうかを検討します。以下は、IMに記載される内容の一例です。

  • 企業情報
  • 事業内容(商品・サービス・ビジネスフロー)
  • 組織情報(株主構成・従業員数・組織図)
  • 財務状況(直近数年分の損益計算書・貸借対照表)
  • 事業計画

IMは売り手と売り手のアドバイザーが作成します。自社の魅力や優位性を伝えようとすると主観が入りやすくなるため、買い手は開示された情報に虚偽や誇張がないかを丁寧に精査しなければなりません。

特に財務状況や事業計画に関しては、専門家にサポートを依頼するのが望ましいでしょう。

対象会社とのコンタクト、条件交渉

交渉フェーズでは、企業価値評価(バリュエーション)を実施した上で、M&Aに用いるスキームを選定します。基本合意書の締結までの流れとプロセスの具体的な内容を確認しましょう。

トップ面談

IMの分析後、候補先に『トップ面談』を打診します。結婚に向けたお見合いと同じように、『相手との相性』や『経営者の人間性』を確かめるのが目的です。基本的には、具体的な条件の交渉は行いません。

売り手のオーナーは『自社のどこに興味や魅力を感じたのか』『M&A成立後はどう事業を展開していきたいのか』に興味を持っています。

『この人になら従業員と会社の将来を託せる』と思ってもらえるように、買い手はビジョンや買収の理由、シナジーをしっかり伝えられるようにしておきましょう。トップ面談は1回で終わるケースもあれば、複数回にわたることもあります。

企業価値評価

取引価格を決めるには、『企業にいくらの価値があるのか』を調べる必要があります。

上場企業は株価から明確な株式時価総額を算出できますが、非上場企業はその価値が分かりません。そこで、企業の価値を定量的に算定し、算定結果を価格交渉のたたき台とするのです。

企業価値評価の方法は複数ありますが、中小企業のM&Aでは『時価純資産+営業権方式』が多く用いられます。評価時点で会社が保有している資産の時価合計額にのれん(営業権)を加えたものを企業価値とする方法で、ほかの手法よりも計算が簡便で分かりやすいのがメリットです。

企業価値評価は、交渉フェーズの中でも特に重要なプロセスであるため、場合によってはM&Aの専門家にサポートを依頼しましょう。企業価値評価のタイミングは『重要な意思決定や契約を締結する前』が基本です。以下のように複数回行われるケースもあります。

  • 基本合意書の締結前
  • デュー・デリジェンスの実施後
  • 最終契約書の締結前

M&Aスキームの選定

M&Aのスキームとは、会社の経営権や事業を買い手側に移転する方法のことです。代表的なM&Aスキームには、以下のようなものがあります。

  • 株式譲渡
  • 事業譲渡
  • 合併
  • 分割
  • 株式交換
  • 株式移転

スキームを決定する際は、M&Aの目的・税務上のメリット・取引価格・想定されるリスクなど、さまざまな要素を考慮しなければなりません。

中小企業のM&Aで多く用いられているスキームは『株式譲渡』です。売り手の株主が持つ株式の過半数、または全てを買い取ることで経営権を取得する方法で、ほかのスキームよりも手続きがシンプルなのが特徴です。

意向表明

M&Aを進める意思が固まったら、売り手に対して『意向表明書(LOI)』を提出します。『M&Aを実施したい』という買い手の意向を示すための書面で、以下のような内容を記載します。

  • 希望するスキーム
  • 希望する買収価格
  • 今後のスケジュール
  • 費用負担
  • 独占交渉権の依頼

提出は必須ではありませんが、意向を明確に示した方がその後の交渉はスムーズに進むでしょう。売り手に対して、M&Aへの本気度を示す意味合いもあります。

『独占交渉権』とは、買い手が独占的に交渉を行える権利です。M&Aのプロセスでは多くの費用が発生するため、途中で他社に乗り換えられるとこれまで費やしてきた時間やコストが無駄になってしまうでしょう。そこで、期限付きで売り手に他社との交渉を禁止することを求めます。

基本合意

M&Aの基本事項が決まったところで、双方で『基本合意書』を締結します。これまでの交渉内容を明確にした上で、次に続くデュー・デリジェンスのスケジュールを確認する目的があります。意向表明書を省略した場合は、基本合意書の条項に独占交渉権について記載しましょう。

最終的な合意を定めるものではありませんが、基本合意書に記載された内容を変更する場合は、売り手に対して合理的な理由を示す必要があります。

確認書という位置付けのため、法的拘束力はありませんが、『独占交渉権』や『秘密保持義務』の条項には法的拘束力を付与するのが一般的です。

デュー・デリジェンスの種類と費用

基本合意書を締結したら、買い手は売り手に対してデュー・デリジェンス(Due Diligence)を実施します。会社法で定められたものではありませんが、投資対象となる企業の価値やリスクを調査するのは必要不可欠といえるでしょう。

財務・税務・法務の3種が代表的

デュー・デリジェンス(以下、DD)は、最終契約に先駆けて実施される買収調査です。事業継続の妨げとなるリスクが潜んでいないかを洗い出した上で、対象会社の価値を再評価します。

DDは広範囲に及びますが、中でも重要度が高いのは以下のDDです。

  • 財務DD:財務状況や損益状況、資金繰りなどに問題がないか
  • 税務DD:法人税の申告状況や管理体制に問題がないか
  • 法務DD:訴訟や紛争などの法的リスクが潜んでいないか

特に、中小企業には『簿外債務』と呼ばれる帳簿に記されていない債務が潜む可能性があるため、念入りな調査が欠かせません。公認会計士や税理士、弁護士などの各分野の専門家と対象会社の事業拠点を訪問し、開示された資料を調査します。

デュー・デリジェンス費用の目安

DDの費用は数十万~数百万円と幅があり、一般的な相場は存在しないといってもよいでしょう。企業の規模やDDの範囲、深度などによって、費用が大きく左右されるためです。

徹底的に調べようとすると切りがないため、何をどこまで調査するのかを明確に決めた上で、調査を依頼するのが望ましいといえます。

小規模のM&Aで、かつ買い手の予算も限られている場合は、財務・税務の簡易的なDDのみに絞る手もあります。費用は数十万円を見ておきましょう。

DDで全てのリスクを抽出するのは困難なため、最終契約書には『表明保証条項』を設けるのが一般的です。契約目的物の内容が正確、かつ真実であることを売り手に保証させるもので、違反事実が発覚した際は相応の責任を負わせることが可能です。

いよいよ最終段階へ

DDの実施結果をもとに、売り手と買い手は最終交渉を行います。最終契約書を締結した後は後戻りができません。クロージング、アフターM&Aへと進み、M&Aは完了します。

最終条件交渉、契約締結

DDの後の最終条件交渉では、経営陣の退職金や従業員の待遇、譲渡代金といった細目事項を取り決めます。DDで問題やリスクが発覚した場合は、それらを反映させた上で、最終価格を決定しなければなりません。

『最終契約書』は基本合意書とは異なり、全てに法的拘束力があります。締結した後は変更できないため、納得がいくまで見直しましょう。以下は、最終契約書に記載される内容の一例です。

  • 取引内容(スキーム・取引価格・対価の支払い方法など)
  • クロージングの前提条件
  • 表明保証事項
  • 誓約事項
  • 表明保証に違反した際の補償内容

『クロージングの前提条件』とは、契約締結日からクロージング日の期間内において、当事者が契約上の特定条件を満たした場合のみクロージングができることを定めたものです。

『表明された内容が正確であること』や『誓約事項に記載された内容が全て履行されていること』などが前提条件として定められます。

クロージング、アフターM&A

『クロージング』とは、売り手から買い手に経営権を移転させる手続きのことです。引き渡しの手続きをし、対価の支払いが完了するとM&Aの取引が成立します。

すぐにクロージングが完了するケースもあれば、売り手がクロージングの前提条件を満たせず、完了までに1年以上かかるケースもあります。

クロージング完了後は、以下のような売り手と買い手の経営を統合させる作業を行います。統合プロセスは、『PMI(Post Merger Integration)』と呼ばれ、クロージング後の『アフターM&A』の中でも最も重要な作業の一つです。

  • 経営面の統合(理念や戦略)
  • 業務面の統合(インフラ・人材・業務システム)
  • 社員の意識面の統合(組織文化や企業風土)

M&Aの直後は社内が混乱した状態となるため、買い手はPMI計画を策定した上で、一つずつ統合を進めていかなければなりません。従業員への説明や規程の整備、有能な人材の確保など、やるべきことは山積みです。

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まとめ

M&Aは、それぞれのプロセスが成功の可否を左右します。綿密な計画や戦略を策定した上で、各プロセスを丁寧に実行していくことが重要です。

買い手にとって、クロージングがゴールではありません。統合作業がおろそかになるとM&Aは失敗に終わるため、準備段階からアフターM&Aまで気を抜かず、着実に作業を進めていきましょう。

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記事監修:小木曽公認会計士事務所 小木曽正人(公認会計士、税理士)
【プロフィール】
1999年公認会計士2次試験合格後、大手監査法人にて法定監査、IPO支援等に従事したのち、2004年より東京と名古屋にてM&A専門チームの主力メンバーとして100件以上のM&A案件に従事。2014年12月に独立開業し、M&A、事業承継、株価評価といった特殊案件のみを取り扱った会計事務所を展開している。