スモールM&Aとは?メリット・デメリットと流れ・注意点を徹底解説
スモールM&Aの基礎知識からメリット・デメリット、具体的な進め方や失敗を防ぐ注意点までを解説。事業承継や起業・副業での活用イメージがつかめる入門ガイドです。
「後継者不足で事業の将来に不安がある」「新規事業を迅速に立ち上げたいが、ゼロからでは難しい」といった悩みを抱えていませんか。
そのような課題を解決する現実的な選択肢として、近年は「スモールM&A」と呼ばれる小規模M&Aが注目されるようになりました。
スモールM&Aは、従来の大型M&Aとは異なり、中小企業や個人、会社員でも実行できる規模の事業承継や事業買収を指します。
本記事では、スモールM&Aの基礎知識、メリット・デメリット、手法、進め方、そして注意点を整理して解説します。
この記事を通じて、スモールM&Aが自社の成長戦略や個人のキャリアプランにおいて、いかに有効な選択肢であるかを理解し、次の一歩を踏み出すための確かな知識を身につけてください。
スモールM&Aとは?特徴と注目されている理由
スモールM&Aとは、一般的には、取引規模が数百万円〜数億円程度の小規模なM&Aを指します。
この規模感は、従来のM&Aが数十億〜数百億円規模の大企業間での戦略的統合が中心だった点と大きく異なります。
スモールM&Aの主な対象は、地域に根差した中小企業、個人事業主、さらには副業や新たなキャリアとして起業を目指すサラリーマンや個人です。日本国内では後継者不足による廃業リスクが高まっており、事業承継の手段としてスモールM&Aの需要が拡大しています。
同時に、働き方の多様化やM&Aマッチングプラットフォームの普及により、個人が比較的少額で事業オーナーになれる手段として、会社員や副業層にも広がりを見せています。
スモールM&Aのメリット
スモールM&Aは、通常のM&Aに比べて小回りが利きやすく、双方にとって柔軟な選択肢となり得ます。具体的にどのような利点があるのかを見ていきましょう。
買い手側のメリット
起業家や事業拡大を目指す中小企業にとって、スモールM&Aは「ゼロからイチを作る」労力を大幅に削減できる強力な手法です。
【低コスト・短期間での事業開始】
最大のメリットは、コストとスピードです。
通常の起業や新規事業の立ち上げには、オフィス契約、内装工事、設備導入、採用活動など、多額の初期投資と準備期間が必要です。
スモールM&Aであれば、すでに稼働している店舗やオフィス、設備をそのまま引き継ぐことができます。場合によっては数百万円程度の譲渡金額で成立する案件もあり、初期費用を抑えつつ、契約直後から事業をスタートさせることが可能です。
【既存資産の承継による早期収益化】
会社や事業を買収するということは、単に設備を買うだけではありません。
「顧客リスト」「取引先との関係」「熟練した従業員」「ブランド認知度」といった、目に見えない資産(のれん)も引き継ぐことになります。
ゼロからのスタートでは最初の売上を上げるまでに数ヶ月かかることも珍しくありませんが、M&Aであれば買収初日から売上が発生する仕組みが整っています。これにより、事業の立ち上げに伴うキャッシュフローのリスクを大幅に軽減できます。
【「時間を買う」ことによる参入障壁の低下】
許認可が必要な業種(運送業、建設業、人材派遣業など)や、独自の技術・ノウハウが必要な分野への新規参入は容易ではありません。
スモールM&Aを活用すれば、必要な許認可やノウハウを保有している法人ごと取得することが可能です。
本来であれば数年かかる実績作りや体制構築の時間を「お金で買う」ことで、参入障壁を一気に飛び越え、競合他社に対してスピード面での優位性を築くことができます。
売り手側のメリット
売り手にとってのスモールM&Aは、単なる「会社の売却」にとどまらず、経営者としての出口戦略や人生の再出発という意味合いを持ちます。
【後継者不在問題の解決と事業承継】
現在、多くの中小企業が「黒字廃業」の危機に直面しています。
親族や社内に適任者がいない場合でも、M&Aによって第三者に事業を引き継ぐことができれば、会社を存続させることができます。
長年培ってきた技術やサービスを次世代に残せるだけでなく、従業員の雇用を守り、取引先に迷惑をかけずに済む点は、経営者にとって大きな心の安らぎとなります。
【創業者利益(キャピタルゲイン)の獲得】
廃業を選択した場合、在庫の処分や原状回復費用などで手元に資金が残らない、あるいは持ち出しになるケースも少なくありません。
一方、M&Aで株式譲渡や事業譲渡を行えば、対価として現金(創業者利益)を得ることができます。これを引退後のゆとりある生活資金に充てることもできれば、別の新しい事業を始めるための原資とすることも可能です。
【個人保証や担保からの解放】
日本の中小企業経営者の多くは、会社の借入に対して「個人保証(連帯保証)」を入れています。これが心理的な重圧となり、引退したくてもできない経営者は少なくありません。
M&A(特に株式譲渡)が成立すれば、基本的に会社の借入金とともに個人保証も買い手側の経営者や法人に引き継がれます(※金融機関の承諾が必要)。借金の重圧から解放され、晴れやかな気持ちでリタイアを迎えられるのは大きなメリットです。
スモールM&Aのデメリット
多くのメリットがある一方で、小規模案件ならではのリスクや難しさも存在します。
これらを事前に理解しておくことが成功の鍵となります。
【買い手側のデメリット】
「安く買える」ことの裏には、管理体制の未整備や属人化といった特有のリスクが潜んでいます。
【情報の不足と潜在的リスク】
小規模事業者の場合、大企業のように財務諸表が厳密に管理されていないケースが多々あります。どんぶり勘定であったり、契約書が口約束ベースであったりすることも珍しくありません。
また、帳簿に載っていない債務(簿外債務)や、未払いの残業代、将来的な訴訟リスクなどが買収後に発覚する恐れがあります。デューデリジェンス(買収監査)を慎重に行う必要がありますが、費用対効果の面で簡易的な調査にならざるを得ない点も悩みどころです。
【PMI(買収後の統合プロセス)の難しさ】
スモールM&Aの対象となる企業は、前経営者の個人的なカリスマ性や人間関係で成り立っていることが多くあります。
経営者が代わった途端に、「あの社長がいないなら取引しない」と顧客が離れたり、新しい経営方針に反発して従業員が退職したりするリスクがあります。
PMI(Post Merger Integration)と呼ばれる買収後の統合作業において、従業員や顧客の心情に配慮した繊細なハンドリングが求められます。
【限定的な事業インパクトと割高な手数料】
案件規模が小さいため、買収によって得られる利益額も当初は限定的です。
その一方で、M&A仲介会社やマッチングサイトを利用する場合、最低報酬額(ミニマムチャージ)が設定されていることがあります。
例えば、譲渡価格が300万円の案件に対し、手数料が200万円かかるようなケースも考えられます。
投資回収計画を立てる際は、譲渡価格だけでなく、仲介手数料やデューデリジェンス費用などの付帯コストも含めてシビアに計算する必要があります。
売り手側のデメリット
愛着ある会社を他人に譲る過程には、精神的な負担や契約上の責任が伴います。
【経営権の喪失と方針変更リスク】
会社を売却すれば、当然ながら経営権は買い手に移ります。売却後も顧問として残るケースなどはありますが、最終的な意思決定権はありません。
自分が育ててきた事業の方針がガラリと変えられたり、社名が変更されたりすることに寂しさを感じる経営者もいます。
また、約束していたはずの従業員の待遇が、時間の経過とともに変更されるリスクもゼロではありません。
【希望条件を満たす買い手の探索困難】
「赤字でも売りたい」「ニッチな業界である」「地方に拠点がある」といった場合、条件に合う買い手を見つけるのに難航することがあります。
スモールM&Aのマッチングサイトは増えていますが、掲載すればすぐに売れるわけではありません。希望する譲渡価格と、市場(買い手)が評価する価格に大きな乖離があり、交渉が長期化したり、最終的に破談になったりするケースも散見されます。
【交渉の負担と表明保証リスク】
買い手との交渉、資料作成、デューデリジェンスへの対応は、通常業務と並行して行う必要があり、経営者にとって大きな負担となります。
また、最終契約書には通常「表明保証(開示した情報に嘘や偽りがないことを保証する条項)」が盛り込まれます。もし売却後に重大な虚偽や隠蔽が発覚した場合、損害賠償請求を受ける可能性があります。
悪意がなくても、把握していなかったリスクで責任を問われることがあるため、誠実かつ正確な情報開示が必須となります。
スモールM&Aの手法
スモールM&Aを実現するための手法は多岐にわたりますが、中小企業のM&Aにおいては主に「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つが用いられます。
どちらの手法を選択するかによって、譲渡される対象範囲、手続きの煩雑さ、税務上の取り扱い、そして引き継ぐリスクが大きく異なるため、それぞれの特徴を理解し、目的に応じた適切な選択が重要です。
手法①:株式譲渡
株式譲渡は、売り手企業の株主(多くの場合オーナー経営者)が保有する株式を買い手に売却することで、会社の経営権(支配権)を丸ごと移転させる手法です。
スモールM&Aにおいて最も多く用いられる手法であり、その理由は手続きが比較的簡便である点にあります。
会社そのものを包括的に引き継ぐため、事業に関する許認可や従業員との雇用契約、取引先との契約関係なども、原則として個別に巻き直す必要がなく、そのまま承継されます。
ただし、買い手にとっては、目に見える資産だけでなく、帳簿に載っていない簿外債務や潜在的なリスクも含めて「すべて」を引き継ぐことになるため、事前のデューデリジェンスによる徹底的なリスクの洗い出しが極めて重要になります。
手法②:事業譲渡
事業譲渡は、会社の経営権そのものではなく、会社が持つ事業の一部または全部を、買い手との合意に基づいて選択して売買する手法です。
例えば、「複数ある事業のうち、この収益部門だけ」「この店舗と関連する資産だけ」といった形での譲渡が可能です。
買い手にとっては、必要な資産(店舗、設備、在庫、ノウハウなど)や事業部門だけを選んで譲り受けることができ、不要な資産や簿外債務などの潜在的なリスクを引き継ぐ必要がない点が大きなメリットです。
一方で、株式譲渡に比べて手続きが煩雑になる傾向があります。資産や負債を個別に移転させる必要があり、従業員や取引先との契約も、原則として買い手との間で個別に再契約が必要となります。
また、事業に必要な許認可も、買い手が新たに取得し直す必要があるのが一般的です。
スモールM&Aが多い業態
スモールM&Aは、特定の業態で特に活発に行われる傾向があります。
これらの業態に共通するのは、ビジネスモデルがある程度標準化されており、個人や小規模な体制でも運営・買収が比較的しやすいこと、そして事業承継ニーズが高いことです。
Webサイト関連
インターネット上の資産であるWebサイト(Webメディア、ECサイトなど)の売買は、スモールM&Aの中でも特に人気のある分野です。
物理的な店舗や大規模な設備、多くの在庫を必要としないため、場所を選ばずに運営でき、個人や副業でも参入しやすいという大きな特徴があります。
ネットショップ
既に運営されており、一定の顧客や売上実績があるネットショップ(ECサイト)を買収するケースです。
ゼロからサイトを構築し、集客し、ブランド認知度を高めるには多大な時間がかかりますが、M&Aであれば、構築済みのサイトデザイン、商品リスト、顧客情報、そしてSEO(検索エンジン最適化)によるアクセスをまとめて引き継げるため、迅速にEコマース事業を開始できます。
アフィリエイトサイト
特定のジャンル(例:金融、美容、ガジェット)に特化し、訪問者に有益な情報を提供することで広告収入(アフィリエイト収益)を得ているWebメディアやブログサイトも活発に売買されています。
既に検索エンジンで特定のキーワードで上位表示されているなど、一定の評価を得ているサイトであれば、買収直後から安定した収益源を確保できる可能性があります。
店舗や学習塾を買う
地域に根差し、特定の顧客層にサービスを提供するビジネスも、スモールM&Aが活発な業態です。
これらのビジネスは、設備や顧客基盤、そして何よりも「立地」といった有形の資産が事業価値に大きく貢献するため、新規開業のリスクを抑えたい買い手にとって魅力的です。
飲食店
居抜き物件として店舗設備一式(厨房機器、内装、テーブルなど)を引き継ぐ飲食店のM&Aは、スモールM&Aの代表例です。
新規開業時に最もコストがかかる内装・設備投資を大幅に抑えられるほか、既存の常連客やブランドイメージ、確立されたレシピや熟練した従業員を引き継げる可能性がある点も、大きなメリットです。
エステサロン
美容室、ネイルサロン、エステサロン、整体院といった美容・健康関連のサービス業も、M&Aが頻繁に行われます。
これらのビジネスは、リピーター客の存在と、技術を持つスタッフ(施術者)の確保が事業の核となります。
M&Aにより、優良な顧客リストや施術ノウハウ、優秀なスタッフを一括で確保することを目的とするケースが多く見られます。
学習塾
地域密着型の個人経営の学習塾や小規模な予備校も、経営者の高齢化などにより事業承継のニーズが非常に高い業態です。
買い手にとっては、既に通っている生徒や経験豊富な講師陣に加え、地域コミュニティで築き上げられた評判や合格実績といった無形資産を引き継ぐことで、新規開校時と比べて早く安定した経営基盤を確立しやすくなります。
スモールM&Aの流れ
スモールM&Aを成功させるためには、場当たり的に進めるのではなく、計画的かつ慎重にプロセス(手順)を踏む必要があります。
目的の明確化から始まり、案件探し、当事者間の交渉、専門的な監査、最終的な契約締結まで、典型的な流れをステップごとに解説します。
STEP1:目的・条件の明確化
出発点は、「なぜM&Aを行うのか」という目的を明確にすることです。
買い手であれば「新規事業の時間を買いたいのか」「既存事業とのシナジーを求めるのか」「副業として収益源を確保したいのか」。
売り手であれば「後継者問題の解決か」「創業者利益の確定か」「事業の更なる発展のためか」。
この目的を明確にした上で、自社(または個人)の強みや弱みを客観的に分析し、どのような事業領域を、いくらの予算(想定資金)で譲り受けたいのか(売りたいのか)、具体的な希望条件を整理します。
この初期段階の軸がぶれると、後の案件選びや交渉で判断がぶれやすくなります。
STEP2:案件探し・マッチングサイトの利用
目的や条件が固まったら、いよいよ具体的な案件探しに移ります。
従来は金融機関やM&A仲介会社からの紹介が主でしたが、現在はスモールM&A向けマッチングサイトを利用する方法が一般的です。
国内の主要なM&Aマッチングプラットフォームに登録し、業種、地域、売上規模、希望価格などの条件で検索し、希望に合う案件をリサーチします。多くの案件情報を比較検討できる点が、マッチングサイトを利用する大きなメリットです。
STEP3:交渉・デューデリジェンス
関心のある案件が見つかったら、まずは「ノンネームシート」と呼ばれる、企業名が特定できない形に匿名化された企業概要書で一次情報を確認します。
ここでさらに深い関心を持てば、秘密保持契約(NDA)を締結した上で、「企業概要書(IM)」と呼ばれる、より詳細な財務情報や事業内容が記載された資料を開示してもらいます。
その後、経営者同士の面談(トップ面談)を経て、買収の意思が固まれば、デューデリジェンス(買収監査)のフェーズに入ります。
公認会計士や弁護士などの専門家を交え、開示された情報が正しいか、潜在的なリスク(簿外債務、法務トラブルなど)がないかを徹底的に調査する、M&Aにおいて非常に重要なプロセスの一つです。
STEP4:契約・クロージング
デューデリジェンスの結果を踏まえ、発見されたリスクなどを反映させた上で、最終的な買収価格や譲渡条件(従業員の処遇、オーナーの引き継ぎ期間など)について詳細な交渉を行います。
双方がすべての条件に合意に至れば、最終契約書(株式譲渡契約書や事業譲渡契約書)を締結します。
そして、契約書で定められた日に、買い手から売り手へ代金の決済が行われると同時に、株式や事業の移転(クロージング)が実行され、M&Aが完了します。
このプロセスでは、契約書の作成やレビューにおいて、M&Aアドバイザーや弁護士といった専門家のサポートが不可欠です。
スモールM&A案件の探し方・選び方
スモールM&Aの成否は、「どの案件を選ぶか」に大きく左右されると言っても過言ではありません。
マッチングサイトの普及により、数多く存在するスモールM&A案件の中から、自社や自分にとって本当に価値のある「お宝案件」を見つけ出し、同時に「地雷案件」を避けるには、いくつかの重要な視点とノウハウが必要です。
選び方①:業種・規模
まずは、自社(または個人)の既存事業や過去の経験、保有する強み(スキル、人脈など)との親和性(シナジー)が高い業種を選ぶことが、成功への近道です。シナジーが期待できれば、買収後の事業運営や成長戦略が描きやすくなります。
全くの未経験分野に参入する場合は、なぜその分野を選ぶのかという明確な理由と共に、その市場の将来性や、買収後に自分が付加価値を発揮できる事業規模であるか(大きすぎず、小さすぎないか)を慎重に見極める必要があります。
自身のスキルやリソースで「扱いきれる」案件かどうかが重要な判断基準となります。
選び方②:マッチングサイトの活用
現在、スモールM&Aの案件探しはマッチングサイトの活用が主流です。TRANBI(トランビ)、BATONZ(バトンズ)、M&Aナビ、M&Aクラウドなど、国内には多数のプラットフォームが存在し、それぞれに特徴があります。
掲載されている案件数や業種の偏り(Web系に強い、地方案件に強いなど)、利用料金体系(買い手無料、成約手数料のみ、月額制など)、M&Aアドバイザーなど専門家によるサポート体制の充実度などを比較検討することが重要です。
複数のサイトに登録し、情報の幅を広げると同時に、各サイトの使い勝手や担当者の質なども見極め、自分の目的に最も合ったプラットフォームを選ぶことが求められます。
選び方③:ノンネームシート・事業の強みの確認
ノンネームシート(匿名の企業概要書)や、その後に開示される詳細資料(企業概要書)を正しく読み解くリテラシーが求められます。
単に売上や利益といった過去の財務指標だけを見るのではなく、「なぜ売り手はこの事業を手放すのか」という売却理由を深く考察することが重要です(単なる後継者不在なのか、業界の先行き不安や何らかのトラブルを抱えているのか)。
また、その事業が持つ独自のアピールポイント(技術力、顧客基盤、ブランド、立地など)や、競合他社と比較した際の優位性、そして買い手と売り手双方の経営課題やM&Aの目的(例:買い手は販路拡大、売り手は雇用維持)が合致しているかを、冷静かつ多角的に見極める必要があります。
スモールM&Aを成功させるポイント
スモールM&Aは、新規立ち上げよりも成功確率が高いとされる一方で、買収後の経営がうまくいかず、期待した成果を出せないケースも少なくありません。
失敗を避け、M&Aを「真の成功」に導くためには、契約締結(クロージング)をゴールとするのではなく、買収後の事業成長までを見据えた上で、押さえておくべき重要なポイントが存在します。
ポイント①:明確な事業計画・将来性の提示
(売り手の視点)買い手に対して、財務や市場に関するデータを正確かつ誠実に提示することが信頼関係構築の大前提です。
その上で、自社の強みや将来性を論理的に説明できる資料を準備することが、良い買い手と出会う鍵となります。
(買い手の視点)買収後にどのような戦略でその事業を成長させていくのか、説得力のある事業計画(成長シナリオ)を具体的に作成することが極めて重要です。「買収してから考える」という姿勢では、既存の従業員や顧客の不安を招き、事業の失速につながります。
ポイント②:リスク管理と専門家活用
スモールM&Aでは情報が不足しがちであり、売り手側も自社のリスクを正確に把握していないことすらあります。
したがって、買い手はデューデリジェンスを徹底し、財務、法務、税務、労務などあらゆる側面から潜在的なリスクを洗い出すことが不可欠です。
特に経験が浅い場合、自己判断に頼るのは非常に危険です。経験豊富で信頼できるM&Aアドバイザー、弁護士、税理士、公認会計士といった専門家の支援を、費用を惜しまずに積極的に確保すべきです。彼らの知見を活用することが、結果として最大のリスクヘッジとなります。
ポイント③:資金調達・事業承継支援
買収資金の調達は、特に個人や小規模な買い手にとって最大のハードルの一つです。
すべてを自己資金で賄うのが難しい場合、日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」など、M&Aに特化した融資制度の活用を検討することが成功の鍵となります。
また、自治体や国が提供する「事業承継・引継ぎ補助金」など、返済不要の補助金・助成金も多数存在します。
これらの公的支援制度をリサーチし、活用できるものは積極的に活用することで、資金的な余裕が生まれ、買収後の経営を安定させることができます。
おすすめのスモールM&Aマッチングサイト
スモールM&Aの案件探しにおいて、今や欠かせない存在となったのがM&Aマッチングサイト(プラットフォーム)です。それぞれに手数料体系、案件数、得意分野、サポート体制が異なるため、自身の目的や規模に合ったサイトを選ぶことが重要です。
ここでは、特に利用者数が多く、代表的な3つのサービスを紹介します。
おすすめ①:TRANBI(トランビ)
国内最大級のM&Aマッチングプラットフォームの一つであり、スモールM&Aの草分け的存在です。
特徴は、掲載されている案件数が圧倒的に多く、数千万円〜数億円規模の案件から、1,000万円以下の個人でも手が届きやすい小規模案件まで、業種も多様性に富んでいる点です。
個人やサラリーマンによる副業・起業目的の小規模案件の売買も活発で、スモールM&Aの第一歩として、まずは情報収集のために登録する人が多い、充実したサービスが特徴です。
おすすめ②:BATONZ(バトンズ)
TRANBIと並び、スモールM&Aの代表的なプラットフォームであり、特に中小企業の事業承継に強みを持っています。小規模案件から中堅企業まで幅広く取り扱っており、最大の特徴は、全国のM&Aアドバイザーや税理士、弁護士といった専門家が「バトンズパートナー」として登録しており、M&Aの交渉や実務プロセスを手厚くサポートする体制が整っている点です。
初心者でも安心して取引を進めたい場合に適しています。
おすすめ③:M&Aナビ
地方の中小企業や小規模事業の案件が比較的豊富とされるマッチングサイトです。
大きな特徴として、買い手は成約時のみ手数料が発生する(もしくは無料のケースもある)モデルを採用していることが多く、M&Aの検討段階で初期費用(登録料や月額料)を抑えて案件を探したい場合に適しています。
各サイトのサポート体制やサービス内容、手数料体系をしっかりと比較し、自身の目的に合った選び方をすることが重要です。
TRANBIを活用したスモールM&Aの事例
スモールM&Aの理解を深めるためには、抽象的な理論だけでなく、具体的な事例に触れるのが一番です。どのような人々が、どのような動機で、どのような事業を、どのようにしてM&A(買収・売却)したのか。
ここでは、TRANBIを活用してスモールM&Aを成功させた3つの事例を紹介します。
事例①:サラリーマンが未経験から挑戦!500万円のサロン買収で売上2.5倍
インターネット広告会社に勤める30代のA氏。「いつか起業したい」ものの、ゼロからの立ち上げの難しさを感じ、情熱を注げる対象も見つからずにいました。
当初は「M&Aは経験がないと無理」と思っていましたが、他のサラリーマン経験者の話を聞き、「自分もできるかも」と個人M&Aを決意します。多くの経験者が利用していたM&Aプラットフォーム「TRANBI」に登録。
予算500万円以下、かつ本業のWebマーケティングスキルを活かせそうな実店舗を探しました。そこで見つけたのが、口コミは良いもののWeb集客に未着手だったホワイトニングサロンです。
「手を加えれば売上を伸ばせるイメージが湧いた」と確信し、交渉を開始しました。買収資金は、コラムでも触れた日本政策金融公庫からの融資を活用。熱意を込めた30ページの事業計画書で、担当者の信頼を勝ち取りました。
結果、M&A知識ゼロの状態からわずか5ヶ月で買収が成立。買収後は営業日を増やし、本業のスキルで集客を強化したところ、売上は前月比250%増を達成しました。A氏は「100点のM&Aを気負いすぎなければ、短期間で買収は可能です。まずは経営の経験値を溜める手段として非常に有効」と語ります。
この事例は、TRANBIで自分のスキルとシナジーのある案件を見つけ、公的融資を活用すれば、サラリーマンでも短期間で起業・副業を成功させられることを示しています。
◆成約インタビュー:「予備知識のない普通のサラリーマンでも半年でM&Aはできる!」31歳でホワイトニングサロンのオーナーに就任
事例②:廃業まで残り2週間!29歳がTRANBIで即断、800万円で老舗洋菓子店を承継
コンサルティング業を営む20代のA氏。「いつか菓子店を開きたい」という夢がありましたが、ゼロからの開業には数千万円の投資が必要で、踏み出せずにいました。
一方、地元で18年愛された洋菓子店のBオーナーは、親の介護で経営継続が困難に。
後継者が見つからず、TRANBIに掲載した時点で「あと1~2週間で廃業」を決意する瀬戸際でした。移住を機にTRANBIを見ていたA氏は、この案件を発見し「これだ!」と直感。
廃業のタイムリミットが迫る中、「一度お店を閉店させてはならない」と即断しました。譲渡額は約800万円。
A氏は「この金額で老舗の技術と設備、顧客を引き継げる案件は二度と出会えない」と考え、価格交渉はしませんでした。買収後は、A氏が自身のスキルを活かして経営・販促を担当し、製造は既存スタッフに任せる体制を構築。
前オーナーもアドバイザーとして技術伝承に協力し、引き継ぎ後わずか3ヶ月で売上は前年を超えました。この事例は、後継者不足で廃業寸前の貴重な事業が、TRANBIのスピーディーなマッチングによって救われた好例です。
開業コストと「時間を買う」というM&Aのメリットが最大限に発揮されています。良い案件はスピード勝負であり、買い手の「即断力」が成功を掴む鍵であることを示しています。
◆成約インタビュー:“あと1~2週間で廃業”の洋菓子店を救った、20代若者の即断力
事例③:本業シナジー目的!Webマーケ会社が赤字の美容店舗を買収し、1ヶ月で再生
美容業界向けにWebマーケティング支援を行うA社。
常々「クライアントの業務を深く理解し、ニーズを的確に把握したい」と考え、自社で美容店舗を運営する道を模索していました。ゼロから立ち上げるより、既存店舗を買収してノウハウを活かす方が早いと判断。
A社代表は「新聞を読む感覚」で日常的にTRANBIをチェックし、「お買い得感」のある案件を探していました。そこで発見したのが、赤字状態の美容系店舗。売り手の最大の課題は「集客」でした。
これはまさに、買い手であるA社の得意分野でした。売り手の弱み(集客)と買い手の強み(Webマーケ)が完璧に一致。A社は「お互いの弱い部分をカバーできる運命の相手」と確信し、交渉はスムーズに進みました。
案件発見から買収までにかかった期間は、わずか1ヶ月足らず。買収後、早速得意のSNS広告などで集客施策を実行し、売上は着実に向上しています。
A社は「M&Aは宝探しのような感覚」と語ります。一見赤字で魅力がなくとも、自社の強みで再生できる「お宝案件」がTRANBIには眠っています。本業とのシナジーを目的とした新規事業立ち上げに、スモールM&Aがいかに迅速かつ有効な手段であるかを示す事例です。
◆成約インタビュー:美容業界の顧客理解のため、スモールM&Aで店舗運営に挑戦!マーケティングスキルを武器に赤字店舗を立て直す
スモールM&Aに関するよくある質問
スモールM&Aを初めて検討する方からは、その可能性とリスクについて、多くの共通した疑問が寄せられます。「本当に自分にもできるのか」「どれくらいのお金が必要なのか」「失敗したらどうなるのか」。
ここでは、特に代表的な質問とその回答を、より具体的にまとめました。
サラリーマンや個人でもM&Aは可能か?
結論から言えば、可能です。
スモールM&Aは、まさにサラリーマンや個人が、自身のキャリアの選択肢として副業・起業の手段として活用するために市場が拡大しています。1,000万円以下のWebメディアや小規模店舗などの案件も多数存在します。
ただし、買収後の事業運営(経営)は、会社員としての業務とは全く異なります。
本業との両立可能性、経営者としての覚悟、そして買収後の事業運営にかかる実務面のハードルや、必要な資金調達の方法については、事前に十分な計画と準備が必要です。
必要な資金や資金調達の方法は?
案件によって必要な資金は、数万円(Webサイトの売買など)から数千万円、数億円と様々ですが、スモールM&Aの中心的な価格帯は数百万〜数千万円の案件が多いとされています。
資金調達の方法としては、まず自己資金(貯蓄)が基本となりますが、全額を自己資金で賄う必要はありません。
日本政策金融公庫の「新規開業資金」や「事業承継・引継ぎ支援資金」、または民間金融機関からの融資(プロパー融資、信用保証協会付き融資)を組み合わせて活用するのが一般的です。
特に公庫は、個人の起業やスモールM&Aに対しても比較的積極的に融資を行っています。
主な失敗例やリスクには何があるか?
最も多く、かつ深刻な失敗例は、事前のデューデリジェンス(買収監査)不足によるものです。
買収後に「想定外の簿外債務(未払いの税金や社会保険料、リース残債など)が見つかった」「事業の核であった主要な従業員や取引先が、オーナー交代を機に離反した」「開示されていた事業の実態(売上や利益)が、聞いていた内容と異なっていた」などのケースが挙げられます。
こうしたリスクを避けるため、財務・法務・ビジネスの各側面から、専門家を交えた入念なチェックが不可欠です。
専門家サポートの利用価値は?
M&Aのプロセスは、法務(契約書作成・レビュー)、税務(税務リスクの評価、最適なスキームの選択)、財務(企業価値評価、財務デューデリジェンス)など、高度な専門知識を要する領域の集合体です。
M&Aアドバイザー、税理士、弁護士、公認会計士といった専門家は、これらの複雑なプロセスを円滑に進め、適切な案件の選定、リスクの洗い出し、煩雑な契約手続きなどをサポートしてくれます。
特に経験が浅い場合、手数料を惜しんで専門家のサポートを利用しないことは、結果としてより大きな損失につながるおそれがあります。彼らの知見を利用する価値は、非常に高いと言えます。
まとめ
本記事では、スモールM&Aの定義からメリット・デメリット、具体的な流れ、そして成功のポイントまでを網羅的に解説しました。
スモールM&Aは、後継者不在に悩む中小企業経営者から、起業や副業を目指すサラリーマン・個人まで、あらゆる層にとって有効な選択肢となっています。
成功への第一歩は、優良な案件に数多く触れ、相場観を養うことです。そのためには、国内最大級の案件数を誇るM&Aマッチングプラットフォーム「TRANBI(トランビ)」の活用が欠かせません。
TRANBIには、個人でも手が届く小規模な案件も含め、多様な業種の案件が掲載されており、スモールM&Aの「今」を知る最適な場所です。
本記事で得た知識をもとに、まずはTRANBIで具体的な案件情報に触れ、事業承継や新規事業の可能性を広げる、次の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
