事業承継を個人が行う場合の流れ。案件の探し方や譲渡金額も確認

事業承継を個人が行う場合の流れ。案件の探し方や譲渡金額も確認

経営者の高齢化や後継ぎ不足が問題となる昨今、親族以外の個人が事業を承継する事例が増えています。事業承継を目的としたM&Aでは、どのようなスキームが用いられるのでしょうか?売り手・買い手に必要な手続きや案件の探し方を解説します。

事業承継の現状

事業承継とは、会社の経営権や経営資産を後継者に譲り渡すことです。中小企業では後継者不足が深刻化しており、親族以外に事業を承継する『親族外承継』が増加傾向にあります。

後継者不足問題とは

多くの中小企業は『後継者不足問題』に頭を抱えています。経営者が退職間近な年齢であるにもかかわらず、後継ぎ候補が見つからない状況なのです。

中小企業庁が公表する『令和元年度(2019年度)の小規模事業者の動向』によると、経営者の年齢と後継者未決定企業の割合は以下の通りです。

  • 60代以上:49.5%
  • 70代以上:39.9%
  • 80代以上:31.8%

休廃業・解散した企業のうち、約6割は当期純利益が黒字であり、後継者難からやむなく廃業する企業が多い実態がうかがえます。

中小企業は地域の経済や雇用を支える重要な役割を担っています。経営者の高齢化が進み、黒字の企業が次々と廃業すれば、日本経済は大きな打撃を受けるでしょう。

参考:2020年版「小規模企業白書」第1部第3章第2節 経営者の高齢化と事業承継|中小企業庁

親族への事業承継が難しい理由

事業承継のパターンには、自分の親族に会社を引き継ぐ『親族内承継』、自社の社員に引き継ぐ『従業員承継』、第三者に引き継ぐ『第三者承継』があります。

かつては事業承継というと、自分の子どもや孫に引き継ぐケースが大半でしたが、近年は親族内承継の割合が減少傾向にあるようです。

その理由としては、『後継者候補に承継の意思がない』『後継者となる人材が育っていない』などが挙げられます。ライフスタイルが多様化している現代、家業で苦労するよりも、自分のやりたい仕事で生きがいを見出したい若者は多いようです。

後継者に会社を継ぐ意思はあっても、事業を理解していなかったり、性格的に不向きであったりすれば、経営者自らが承継を断念するケースもあります。後継者教育には時間がかかるため、何年も前から計画的に準備をしなければならないのです。

親族外承継は一般的になっている

日本政策金融公庫総合研究所のレポートによると、親族外承継の割合は小規模事業者で約35%、中規模事業者で約58%となっています。将来的に後継者不足が深刻化すれば、親族外承継はさらに増えると予想されます。

親族外承継のメリットは、親族内に後継者候補がいなくても、自社にふさわしい人材が見つかる可能性が高い点です。経営方針やビジョンに理解のある従業員や役員を後継者にできれば、承継後の事業はスムーズに展開するでしょう。

従業員承継ではなく、M&Aで第三者に事業を引き継ぐ『第三者承継』も増えつつあります。

参考:親族外承継に取り組む中小企業の現状と課題|日本政策金融公庫

個人事業主がM&Aで事業承継をする意味

株式会社や合同会社といった法人格を持たずに、個人で事業を営む人は『個人事業主』や『小規模事業者』と呼ばれます。自分が育ててきた事業を第三者に譲ることには、どのような意義があるのでしょうか?

事業や人材、想いを引き継ぐ

事業承継は単なる経営者交代とは異なり、これまで培ってきたノウハウ・技術・想いを後世に残すこと、誰かに引き継ぐことに重点が置かれています。

事業を辞めるのは自由ですが、先代から受け継いできた知恵がある場合、自分の代で途絶えてしまうでしょう。

『後世に残したい技術や伝統がある』『自分の想いを誰かに引き継いでもらいたい』『従業員の雇用を守りたい』という場合、多くの事業主は事業承継を選択するようです。

譲渡対価を得られる

事業承継の方法は複数ありますが、後継者が見つからない場合は、M&Aによって事業を売却する手法が用いられます。M&Aとは『Mergers and Acquisitions』の略で、企業の合併と買収を意味する言葉です。

かつてはM&Aというと、大企業やグローバル企業が行うイメージがありましたが、経営者の高齢化や後継者不在の問題が顕在化したことで、近年は小規模事業者や中小企業がM&Aを選択するケースが増えています。

M&Aで事業を売却した場合、経営者は『売却金』を受け取れます。老後資金や新たな事業の立ち上げ費用が確保できるのは大きな利点といえるでしょう。

経営者保証を外せる

『経営者保証』とは、金融機関から融資を受ける際に経営者個人やその家族を連帯保証人とする制度です。事業承継では、後継者が経営者保証を引き継ぐ可能性があるという理由から、後継ぎ候補がなかなか見つからないケースも珍しくありません。

中小企業庁では事業承継を推進するため、2020年4月1日より『経営者保証に関するガイドラインの特則』の適用を開始しました。特則によると、適用要件を満たし、かつ金融機関の審査にクリアした場合は『経営者保証の解除』が可能です。

また2020年4月には、『事業承継特別保証制度』が新たに設けられ、後継者候補の確保に関するハードルはさらに低くなっています。

  • 事業承継時、一定の要件を満たした場合は経営者保証が不要
  • 既存の借入金(経営者保証あり)は、借換によって経営者保証の解除が可能
  • 経営者保証コーディネーターの確認を受けた場合、信用保証制度の保証料を軽減

制度の詳細や条件は、中小企業庁のHPを確認しましょう。

参考:事業承継時の経営者保証解除に向けた、新しい支援施策が2020年4月1日よりスタートします|中小企業庁

参考:経営者保証に関する支援|事業承継・引継ぎポータルサイト

後継者のいない会社や事業を探すには

近年は、個人が店舗や小規模企業を買収する『スモールM&A』が増加しています。「後継者のいない会社や個人事業を買収したい」という場合は、どのような方法で相手を探せばよいのでしょうか?

買い手と売り手をつなぐ専門サイトで探す

相手探しにかかる時間を短縮したいという人は、『M&Aマッチングサイト』の活用が便利です。会社や事業を売りたい人と買いたい人をつなぐ専用サイトで、譲渡価格が1000万円以下の少額案件も多く掲載されています。

『TRANBI(トランビ)』は、業界最大級の会員数を誇るM&Aプラットフォームです。M&A案件は2000件以上で、新規案件が随時追加されています。

マッチングサイトの最大のメリットといえば、24時間365日いつでも案件を探せる点でしょう。自分が興味のある案件に直接問い合わせができる上、M&Aの仲介業者に比べて利用料も割安です。

ただし、M&Aの直接的な支援は行っていないため、初心者にとっては心もとなく感じるかもしれません。不明点があれば、『事業承継・引継ぎ支援センター』に相談しながら進めていくことをおすすめします。

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M&Aを通じて 挑戦者で溢れる社会を創造する

事業承継・引継ぎ支援センターに相談

『事業承継・引継ぎ支援センター』とは、小規模事業者や中小企業の事業承継をサポートする公的相談窓口です。47都道府県に設置されており、主に以下のサービスを提供しています。

  • 事業承継に関するマッチング支援・情報提供
  • 事業承継・引き継ぎに関する助言
  • 事業承継計画の策定
  • 経営者保証解除に向けた専門家支援

中小企業のM&Aに精通した専門スタッフが丁寧に説明してくれるため、初心者には心強いでしょう。専門家派遣に伴うサービスは、別途費用が発生する場合があります。詳しくは各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センター窓口に問い合わせましょう。

参考:トップ|事業承継・引継ぎポータルサイト

後継者人材バンクへの登録も

『後継者人材バンク』とは、後継者を探したい企業と創業希望者を引き合わせるサービスで、『事業承継・引継ぎ支援センター』が提供しています。事業の買収を検討している人は、センターの窓口に直接相談し、利用登録を行いましょう。

後継者人材バンクには、『センターの各種サポートが受けられる』『M&Aの仲介会社を利用するよりも費用が安く済む』という大きな二つのメリットがあります。

後継者人材バンクのHPには、マッチングの成功事例やインタビューが掲載されているため、案件探しの参考にしましょう。

参考:後継者人材バンク|事業承継・引継ぎポータルサイト

個人事業を承継する方法と対価

M&Aには、株式譲渡・事業譲渡・会社分割・合併などのさまざまなスキームがあります。中小企業のM&Aでは株式譲渡や事業譲渡が用いられますが、法人格のない『個人事業主』は株式を発行しないため、必然的に事業譲渡を選択することになるでしょう。

事業譲渡を行う

『事業譲渡』とは、事業の一部または全部を譲り渡すスキームです。売り手の財産・権利・契約・債務などを個別の手続きによって承継させる必要があるため、他のスキームに比べると手続きに手間がかかるかもしれません。

例えば、従業員を譲り受ける場合は、買い手と従業員との間で新たに雇用契約を交わす必要があります。事業譲渡の大まかな流れは以下の通りです。小規模なM&Aの場合、いくつかのプロセスが省略されるケースもあります。

  1. 相手探し
  2. 秘密保持契約書の締結
  3. 顔合わせ・交渉
  4. 基本合意書の締結
  5. 買い手によるデュー・デリジェンス
  6. 最終契約書(事業譲渡契約書)の締結
  7. クロージング

事業譲渡契約書には、譲渡事業の内容・譲渡価額・譲渡日・従業員の取り扱い・守秘義務・公租公課などの負担などが記載されます。ひな型の使用も可能ですが、事案ごとに内容が変わるため、専門家の助言を基に作成しましょう。

譲渡額の目安は?

最終的な譲渡価格は、売り手と買い手の交渉で決まります。『純資産の額+営業利益の3年分』を一つの目安にするケースもありますが、実際は事業内容・規模・立地・従業員の数・将来性などによって価格が大きく変わると考えましょう。

M&Aのマッチングサイトを見ると、100万~500万円前後の少額案件もあれば、数千万円規模の案件もあります。譲渡価格が妥当かどうかについては、専門家のアドバイスを参考にしましょう。

事業承継・M&A売却案件一覧|トランビ【M&Aプラットフォーム】
事業承継・M&A売却案件一覧|トランビ【M&Aプラットフォーム】

M&A案件一覧

売り手が行う手続き

個人事業主が事業を譲渡するには、廃業届を提出して『廃業』にした後、後継者に『開業手続き』を進めてもらう流れになります。

廃業届、青色申告の取りやめ届出書等の提出

事業を引き継ぐにあたり、現在の事業主は管轄の税務署に以下の書類を提出する必要があります。

  • 廃業届(個人事業の開業・廃業等届出書)
  • 所得税の青色申告の取りやめ届出書(青色申告者のみ)
  • 所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書
  • 事業廃止届出書(消費税の課税事業者のみ)

廃業届の提出期限は、事業譲渡の確定後1カ月以内です。国税庁のHPから『個人事業の開業・廃業等届出書』をダウンロードし、廃業に関する内容を記載しましょう。

業績不振や廃業の理由で申告納税見積額が払えないと見込まれる際は、『所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書』を提出します。

参考:[手続名]所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請手続|国税庁

個人版事業承継税制は利用できる?

『個人版事業承継税制』とは、贈与税・相続税が納税猶予され、最終的に税金の実質負担がゼロになる制度です。

具体的には、先代が2代目に事業を承継し、のちに2代目が3代目に事業を承継させた場合、2代目が支払うはずの贈与税や相続税が免除されます。2019年1月1日~2028年12月31日の間に実施される相続・贈与が対象で、事前に承継計画書を提出するのがルールです。

個人版事業承継税制はあくまでも贈与・相続に対する優遇措置です。M&Aによる売却は対象ではありません。

参考:個人版事業承継税制の前提となる認定|中小企業庁

買い手が行う手続き

事業譲渡に伴う手続きは、売り手よりも買い手の方が複雑です。特に『許認可』の取得手続きは時間がかかるため、余裕を持ったスケジュールを組みましょう。許認可が得られず、予定通りに事業をスタートできなかったという事態は避けたいものです。

開業届、青色申告承認申請書等の提出

事業を引き継いだ側は、所轄の税務署に『開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)』を提出します。提出期限は、事業譲渡が行われてから1カ月以内です。

青色申告をする場合は『青色申告承認申請書』を忘れずに提出しましょう。提出を忘れると自動的に白色申告となり、以下のメリットを享受できません。

  • 最大65万円の青色申告特別控除
  • 純損失の繰り越し(事業から生じた純損失を翌年以後3年間にわたって所得金額から差し引ける)
  • 純損失の繰り戻し(前年も青色申告の場合、純損失が生じた年分を前年度の所得金額に繰り戻せば、所得税額の還付が受けられる)
  • 青色事業専従者給与(事業にかかわる家族への報酬を青色申告者の所得から控除できる)
  • 貸倒引当金の計上(金銭債権に対して5.5%の額を貸倒引当金繰入として必要経費に計上できる)

参考:No.2070 青色申告制度|国税庁

屋号はそのまま使える?

前経営者が登録していた屋号をそのまま引き継ぐことは可能です。開業届の『屋号の欄』に、屋号を記入して提出しましょう。

ただし、元事業主が屋号を『商号登記』していた場合、同一所在地で同一商号が使えない可能性があります(商業登記法第27条)。屋号の引き継ぎについて元事業主と話し合った上で、法務局にて変更手続きを済ませましょう。

従業員や取引先と再契約

事業譲渡で従業員や取引先を引き継ぐ場合、個別に再契約の手続きを行います。取引先については、売り手と買い手の代表者が一緒に取引先を訪問し、事業譲渡の経緯を話します。事情を理解してもらった上で再契約を進めましょう。

従業員の待遇や労働条件は、従来通りに引き継ぐのが一般的です。事業譲渡で労働条件が悪化すれば、大量離職につながりかねません。雇用保険や労災保険の手続きも忘れずに済ませましょう。

飲食店や建設業などは許認可の取得

事業承継では、許認可が引き継がれません。『許認可』とは、事業を行うために行政機関(警察署・保健所・都道府県など)から取得する許可を指します。

許認可なしではビジネスが継続できないため、事業に必要な許認可を洗い出し、取得手続きを遅滞なく済ませましょう。

例えば飲食店であれば『飲食店営業許可』、アンティークを扱うリサイクルショップの場合は『古物商許可』を取得しなければなりません。建設業・クリーニング業・酒小売業・旅館業・理美容業などにおいても許認可が必要です。

まとめ

小規模事業者や個人事業主の事業承継には、主に『事業譲渡』のスキームが用いられます。近年は、身内以外に事業を引き継ぐ『親族外承継』が一般的になっており、マッチングの方法が多様化しています。

事業主が変わったことで取引先との契約が終了したり、従業員が離職したりするケースは珍しくありません。事業譲渡を円滑に完了させるため、売り手と買い手は協力して手続きを進めましょう。

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