個人事業におけるM&Aのポイント。手続きの流れや注意点などを解説
近年、大企業や中小企業のみならず、個人事業でもM&Aが盛んになっています。個人事業におけるM&Aのメリットや事業承継の方法、M&Aの基本的な流れなどを解説します。将来、第三者への事業譲渡を考えている個人事業主は、ぜひ参考にしましょう。
2022-11-24
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個人事業のM&Aが増えている?
M&Aといえば、大規模な企業グループや外資系企業などによる買収劇のイメージを持っている人は多いでしょう。しかし昨今は、比較的規模の小さい中小企業や個人事業でも、積極的にM&Aが検討されています。
個人事業におけるM&Aの現状
近年は中小企業のみならず、個人事業主の間でもM&Aが注目されており、案件数も着実に増えています。
個人事業主ではM&Aはできないと考えている人や、自分には無関係だと思っている事業主も少なくありませんが、個人でも事業を売却できるのはもちろん、逆に事業を購入(買収)することも可能です。
個人事業主のM&Aは『スモールM&A』とも呼ばれており、100万~1,000万円ぐらいの規模で事業の売買が行われています。
後継者問題に悩む事業主が他の事業主にビジネスを売却することで、事業の継続に成功している事例も多く、今後さらに個人間、あるいは個人対企業の事業譲渡が盛んになるでしょう。
そもそもM&Aとは?
M&Aはすでに一般的に使われている言葉ですが、本来は『Mergers and Acquisitions』の略語であり、日本語にすると『合併と買収』といった意味になります。
事業の統合や売買を意味するもので、メディアに取り上げられる事例から、どうしても大企業や外資系企業のイメージを持たれがちですが、事業の統合・買収は個人事業間でも可能です。
むしろ、スモールビジネスの方が利害関係者は少なく、事業資産も譲渡しやすいのでスムーズにM&Aが完了するケースが多く見られます。
個人事業のM&Aが注目されている理由
中小企業や個人事業のM&Aが注目されている理由としては、後継者がいない事業や人手不足に悩む事業主が増えている点などが挙げられます。
特に、後継者がいないために廃業せざるを得ない事業も多く、その解決策の一つとして、M&Aによる第三者承継の事例が目立つようになりました。
さらに、企業が効率的に事業を拡大するために個人の事業を買収したり、当初から売却を目的にして事業を始めたりする人が増えたことなども要因です。
法人によるM&Aとの違い
一般的な企業のM&Aは、買い手側が対象企業の株式を取得して傘下に置くケースが多いですが、個人事業は株式を発行できないので、株式譲渡によるM&Aはできません。そのため、M&Aの基本スキームは事業譲渡となります
株式を発行していない有限会社や合同会社などは株式譲渡のように持分譲渡という形で対応ができます。
また株式会社の場合、当該企業の資産や事業価値を株式に置き換えて評価しますが、個人事業の場合は事業そのものを評価するので、購入側の価値基準によって評価額が大きく変わる可能性があります。
なお、法人のM&Aの方法や流れは以下の記事で解説しているので、こちらも参考にしましょう。
個人事業におけるM&Aのメリット
個人事業がM&Aによって事業を売却したり、事業を譲り受けて規模を拡大したりするメリットを考えてみましょう。売り手側は後継者問題の解決や事業譲渡による売却益の獲得が可能になり、買い手側は低リスクで事業を始められるのがメリットです。
後継者問題の解決につながる
後継者問題に悩んでいる事業主が多い中、M&Aによって事業を売却したり、経営権を譲渡したりすることで事業の存続が可能になります。
身内に事業を引き継がせたいと考える事業主は多いですが、親族に拒否されたり、従業員にふさわしい人材がいなかったりするケースは珍しくありません。
そこで、M&Aによって事業の引き継ぎ先を広く探すことで、安心して事業を任せられる相手を見つけられる可能性が高まります。法人に譲渡が決まったことで、個人で事業をしていた頃よりも、経営が安定するケースも少なくありません。
事業譲渡によって利益が得られる
売り手側のもう一つのメリットとして、事業譲渡によって売却益を得られる点が挙げられます。事業を売却することで多額の資金を入手でき、それを原資に新たにビジネスを始めたり、引退後の生活資金に充てたりすることが可能です。
人によっては、事業を売却することを前提に起業している場合もあります。売却益には税金がかかるものの、安定した利益を上げている事業であれば、新規事業を始めるのに十分な資金が残るでしょう。
低リスクで起業ができる
M&Aの買い手側のメリットとしては、低リスクで事業を始められる点があります。
事業を立ち上げても安定した利益を出せるようになるまで長い時間がかかり、軌道に乗る前に事業が立ち行かなくなってしまうリスクもあります。思うように利益が出ず、廃業に至るビジネスは決して少なくありません。
そこで、M&Aによって十分な利益を出しているものを買収すれば、低リスクで安定した事業を始められます。
さらに、事業立ち上げのコストを抑えられるのも魅力で、既存の設備や運営ノウハウをそのまま利用できるため、一から事業を始めるよりも効率的にビジネスが可能です。
【個人事業向け】M&Aによる事業承継の方法
個人事業がM&Aによって事業承継を行うための方法を解説します。株式会社の場合、株式を買い手に譲渡して経営権を渡すのが一般的ですが、個人事業の場合は以下のような行政サービスや仲介業者、マッチングサービスなどを利用します。
事業承継・引継ぎ支援センターを利用する
中小企業基盤整備機構が『事業承継・引継ぎ支援センター』を全国で運営しているので、それを利用してM&Aの相手を見つけることが可能です。
同センターはもともと、事業の第三者承継を支援していた『事業引継ぎ支援センター』に、親族内承継の支援を担う『事業承継ネットワーク』の機能を統合し、事業引き継ぎをワンストップで支援している行政サービスの一つです。
事業承継の相談窓口として利用でき、M&Aに関する知識や手続きについて無料で教えてもらえます。M&Aの仲介サービスを提供しているわけではありませんが、おすすめの仲介業者を紹介してくれるので、相談を含めて利用してみるとよいでしょう。
参考: 事業承継・引継ぎポータルサイト
M&Aの仲介業者に紹介してもらう
M&Aのあっせんを専門にしている仲介業者に、承継先を紹介してもらう方法もあります。
仲介業者が事業の売り手側と買い手側の間に立って交渉してくれるので、話が進みやすいのがメリットです。仲介業者は独自のネットワークを有しているので、表に出てこないような相手も承継先として紹介してもらえる可能性もあります。
ただし、取り扱っている案件の多くは法人向けであり、個人事業にはほとんど対応していない業者も少なくありません。
事前に個人事業の承継を含むスモールM&Aに対応しているか、しっかりと確認しておきましょう。また、手数料が数百万円から数千万円と高額になる場合があるので、料金体系もチェックが必要です。
M&Aマッチングサービスを利用する
個人事業を含む小規模事業のM&A案件を探すなら、M&Aマッチングサイトがおすすめです。仲介業者に依頼するのに比べて手数料も安く、スモールビジネスの案件も数多く扱っています。
自分で時間を割いて相手を探すのが苦にならない人ならば、粘り強く探し続けることで理想的な承継先を見つけられる可能性があります。
近年はさまざまなM&Aマッチングサイトが増えていますが、その中でも『TRANBI』は2,700件以上のM&A案件を掲載しており、500万円以下で交渉できる案件も豊富です。
承継先が見つからないならば、無料で会員登録して情報を掲載してみましょう。少額の案件も多く、人材のマッチングも可能です。
個人事業のM&Aの流れ
個人事業のM&Aを行う基本的な流れを押さえておきましょう。相手を見つけて交渉し、事業譲渡の合意に至るのは法人のM&Aと同じですが、株式譲渡に関するやり取りがないため、比較的スムーズに契約が可能です。
事業の承継先や買収する事業を探す
仲介業者やマッチングサービスなどを利用して、M&Aの相手を探しましょう。仲介業者を利用する場合、まずは業者と秘密保持契約とアドバイザリー契約を結ぶ必要があります。
これらは取引上の秘密保持や仲介業者によるサポートを受けるための契約で、必ず締結しなければいけません。
一方、マッチングサービスを利用する場合は、事業主自らが事業に関する情報を登録し、買い手候補が出てくるのを待つ形になります。
相手候補と面談する
仲介業者からの紹介やマッチングサービスで候補者が見つかった場合は、相手との面談に入ります。複数の応募者が出てくる可能性があるので、個々に面談をして、譲渡先を絞り込んでいきましょう。
事業の将来性やビジネスに対する価値観、今後の方針などを確認して、相手としてふさわしいか判断する必要があります。面談でふさわしい相手だと感じられれば、詳しい条件交渉の後に、事業譲渡の合意に至ります。
基本合意書の作成とデュー・デリジェンスの実施
面談と交渉により話がまとまったら、M&Aに関する基本合意書を作成します。基本合意書はここまでの合意内容を確認するために作成するもので、法的拘束力は持たないものの、今後の手続きの流れや従業員の扱いなどを取り決めたものです。
基本合意書が作成されると、次に『デュー・デリジェンス』と呼ばれる買収調査が実施されます。
これは買い手側が事業の実態を調査するためのものです。財務や法務などの専門家が売り手側を訪問し、M&Aに関する資料が真正なものか、隠れた問題点やリスクなどがないかチェックします。スモールM&Aの場合は、買い手自身のみで実施することも多いです。
もし売り手側の開示内容と調査結果に差異がある場合は、基本合意書の合意条件が変更されたり、再度条件交渉がなされたりします。
デュー・デリジェンスに関しては、以下の記事で詳しく解説しているので、こちらも参考にしましょう。
最終合意と事業の譲渡・譲受
買収調査で問題がなければ、基本合意書に調査結果を反映させ、M&Aの(最終的な)契約書が作成されます。契約書に売り手側と買い手側がそれぞれ署名・押印をすれば契約締結となり、法的な拘束力が生まれます。
契約締結後は内容の変更が難しいので、専門家のアドバイスを受けながら、事前にしっかり確認するようにしましょう。
一般的には契約書締結と同時に事業譲渡の決済も実行される場合が多く、この時点でM&Aによる事業譲渡が完了しますが、個人事業M&Aの場合は事業の引継準備などのため契約書の締結と決済の間に一定の期間を空けることが多くなっています。
個人事業のM&Aの注意点
個人事業のM&Aにおいて新たに事業を引き継ぐ経営者は、以下の点に注意が必要です。売り手側も買い手がスムーズに事業を運営できるように、事前に社内の調整をしておきましょう。
従業員や取引先との関係
従業員がいる事業を引き継ぐ場合、新たな経営者は雇用契約の結び直しが必要です。
従業員は新たな雇用主と契約を結ぶことになるので、条件交渉が発生する可能性があり、合意に至らなければそのまま退職してしまう可能性もあります。さらに、事業主が変わることを理由に、退職を願い出る人もいるでしょう。
また、取引先との関係に変化が生じる可能性もあるので、利害関係者との調整に注力しなければいけません。
これらは事業を引き継いだ者の重要な仕事ではありますが、売り手側も新たな事業主がスムーズに事業を運営できるように、事前にできる限りの調整をしておく必要があります。
資金の準備が難しい場合もある
一般的に、法人の事業承継よりも、個人事業の方が少額でM&Aが可能なものの、後継者が事業の買収資金を捻出できないケースもあります。
小規模とはいえ数百万円の購入資金が必要な事業が多いため、個人で買収する場合は資金不足がネックになるケースは珍しくありません。
事業の買収資金が不足している場合は、事業承継・引継ぎ補助金はじめとした支援制度の活用を検討しましょう。
M&Aにかかる税金は?
事業譲渡ではさまざまな税金が発生します。どういった種類の税金が課されるのか、基本的なところを押さえておきましょう。
事業譲渡では売却益に所得税がかかる
個人事業のM&Aによる事業譲渡で売り手が売却益を得た場合、所得税の負担が発生します。事業を売却して得た金銭は譲渡所得とみなされ、譲渡した資産によって総合課税と分離課税のいずれかが適用されるので、違いを理解しておきましょう。
例えば、事業に関する不動産の売却益は分離課税となり、当該不動産を5年以上保有していた場合は長期譲渡所得となり、約20%(所得税が15%、住民税が5%)の税率です。
一方、それ以外の資産の売却益は総合課税の対象で、他の所得との合計額に対して、その金額に応じた税率が適用されます。
事業譲渡では購入時に消費税がかかる
M&Aによる事業譲渡で買い手が買収金額を支払う際に、消費税の負担が発生します。実際に納税するのは売り手側となりますが、実質的な負担は買い手が負うケースが一般的です。買収金額の予算が決まっているのであれば、消費税を込みで必ず考えるようにし、場合によっては総予算を開示し売り手側に対して金額交渉をしてみるのも手です。
個人事業のM&Aの事例
最後に、個人事業のM&Aの実例を紹介します。いずれもマッチングサービスをうまく活用して、事業承継に成功した事例です。
赤字転落から売上2倍超にV字回復した飲食店
東京都港区にある飲食店を、4名のオーナーが共同出資する形で買収した事例です。元オーナーが新規事業をやるために売却した店舗で、買収後は思うように売上が伸びず、しばらく赤字が続いていました。
そこで、店舗のコンセプトを抜本的に見直し、デジタル関係やマーケティング関係の人と出会える場として、来店する目的を積極的に作り上げたことで、見事に売上のV字回復を果たしています。
廃業目前のサンドイッチ専門店を200万円で売却
医療機関向けの配食事業を展開していたA社は、2019年に事業拡大でサンドイッチ専門店を開店したものの、主力事業が忙しくなったため廃業を検討するようになりました。
取引先の金融機関からM&Aを推奨されたため、TRANBIを通じて承継先を募ったところ、申し込みが殺到し、最終的に200万円で事業の売却に成功しています。
まとめ
個人事業におけるM&Aの現状やメリット、事業承継の方法などを解説しました。近年は大手企業のみならず、中小企業や個人事業のM&Aの事例が増えています。
後継者問題の解決や低リスクでの起業など、売り手側・買い手側ともにメリットが多く、今後さらに多くの個人事業がM&Aによって譲渡されたり、事業を拡大したりすることが予想されます。
個人事業の案件を多く取り扱っているマッチングサービスもあるので、廃業や引き継ぎを考えている事業主は、この機会にM&Aを検討してみるとよいでしょう。