事業承継の費用はいくら?相場・手数料・税金と誰が払うかを解説
事業承継にかかる費用は、親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)で構造が変わります。相続税・贈与税、株式の買取資金、仲介手数料の相場と算定基準、税理士など専門家報酬の見方、そして誰が負担するのかまでを整理。費用を抑える補助金や事業承継税制の使い方も解説します。
事業承継を考え始めた経営者が最初に突き当たるのが、「結局いくらかかるのか」という疑問です。ところが調べても出てくるのは仲介会社の手数料の話が中心で、親族に継がせる場合の負担や、後継者側が用意すべき資金までは見えてきません。
事業承継の費用は、「誰に承継するか」で構造そのものが変わります。親族内承継では税金が中心になり、従業員承継では後継者の資金調達が最大の壁になり、第三者承継(M&A)では専門家への手数料が大きく効いてきます。本記事ではこの3パターンを同じ土俵に並べたうえで、支払う側(現経営者)と引き継ぐ側(後継者)の両方から費用を整理します。
後継者がまだ決まっていない経営者の方はもちろん、事業を引き継ぐ立場の方にも役立つ内容です。読み終えるころには、自社の場合にどこへお金がかかり、どこを抑えられるのかが具体的に見えているはずです。
事業承継にかかる費用の全体像|承継先で何が変わるか
事業承継の費用を「いくらか」と一言で答えられない理由は、承継先によって発生する項目がまったく違うためです。まずは費用の種類と、承継先3パターンでの違いを俯瞰しておきましょう。
事業承継の費用は大きく3種類に分かれる
事業承継にかかるお金は、次の3つに整理できます。この分類を押さえておくと、見積もりを取ったときに何が抜けているかを判断しやすくなります。
- 手続き費用:登記の登録免許税、株価算定、契約書の作成、印紙税など
- 専門家費用:税理士・弁護士・M&A仲介会社・金融機関などへの報酬
- 税金:相続税・贈与税・所得税・法人税・消費税など
このうち金額が最も大きくなりやすいのは税金と専門家費用で、手続き費用そのものは相対的に小さく収まります。逆にいえば、費用を抑えるためには税金と専門家費用に集中させることが効率的です。
承継先3パターンで費用構造はこう変わる
事業の引き継ぎ先は、親族・従業員・第三者の3つに大別されます。それぞれで「何にお金がかかるか」がどう変わるのかを表にまとめました。
| 項目 | 親族内承継 | 従業員承継 | 第三者承継(M&A) |
|---|---|---|---|
| 中心になる負担 | 相続税・贈与税 | 後継者の株式取得資金 | 仲介手数料と譲渡益への課税 |
| 主に負担する人 | 後継者(納税) | 後継者(買取資金) | 売り手(両手取引では買い手も) |
| 関わる専門家 | 税理士・弁護士 | 税理士・金融機関 | 仲介会社・FA・DD担当 |
| 使える公的支援 | 事業承継税制 | 事業承継税制・金融支援 | 事業承継・M&A補助金 |
| 金額が読みにくい点 | 自社株の評価額 | 資金調達ができるか | 成功報酬の算定基準 |
表のとおり、親族内承継と従業員承継では税金と資金調達が中心になり、第三者承継ではそこに専門家への手数料が加わります。自社がどのパターンに当てはまるかによって、見るべき数字が変わると考えてください。第三者への承継については第三者承継の記事でも詳しく解説しています。
費用を負担するのは誰か
「事業承継の費用は売り手と買い手のどちらが払うのか」は、実務でよく問題になる点です。負担者は次の3者に分かれます。
【現経営者(譲る側)が負担するもの】
- 売り手が契約したM&A仲介会社・FAへの着手金や成功報酬
- 株価算定や税務相談の報酬
- 株式の譲渡益に対する所得税・住民税
【後継者(引き継ぐ側)が負担するもの】
- 株式を買い取る資金、またはその借入の返済
- 贈与や相続で株式を受け取った場合の贈与税・相続税
- 買い手としてデューデリジェンスを依頼する場合の調査費用
【会社が負担するもの】
- 役員変更登記などの登録免許税
- 会社が自己株式として買い取る場合の取得資金
- 退任する経営者へ支払う役員退職金
注意したい点は、会社のお金と個人のお金を混同しないことです。オーナー個人が株主で後継者個人が株式を取得する場合、売買代金は会社ではなく株主個人が受け取り、後継者も個人として支払います。一方で役員退職金や登記費用は会社の支出です。なお、株主が法人である場合や、後継者が設立した持株会社が取得する場合は取り扱いが異なります。この線引きが曖昧なまま話を進めると、資金繰りの見通しが狂います。
親族内承継にかかる費用と税金
子どもや兄弟姉妹へ引き継ぐ親族内承継では、株式の対価をやりとりしないケースが多く、代わりに贈与税や相続税が費用の中心になります。渡し方によって税額が変わるため、方法ごとに整理します。
生前贈与で承継する場合にかかる費用
存命のうちに株式を渡す場合は贈与税がかかります。課税方法は2つあり、どちらを選ぶかで負担が変わります。
- 暦年課税:年間110万円の基礎控除を超えた部分に課税されます。税率は10%から55%までの累進で、直系尊属から18歳以上の子・孫へ贈与する場合(特例贈与財産)と、それ以外(一般贈与財産)で税率表が分かれています
- 相続時精算課税:一定の要件を満たす場合に選択でき、累計2,500万円までの特別控除があります。2024年分の贈与からは、これとは別に年110万円の基礎控除が設けられました。ただし相続時に精算されるため、税負担が消えるわけではありません
自社株の評価額が大きい会社では、暦年課税で少しずつ渡すと年数がかかり、まとめて渡すと税率が跳ね上がります。どちらの方法が有利かは株価と後継者の年齢、相続財産全体の構成で変わるため、試算せずに決めるのは避けたいところです。
相続で承継する場合にかかる費用
経営者の死亡によって株式が移る場合は相続税の対象です。相続税には3,000万円+600万円×法定相続人の数という基礎控除があり、これを超える部分に10%から55%までの累進税率が適用されます。
相続で気をつけたいことは金額よりもタイミングです。相続税の申告と納付の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内で、納付は原則として金銭で一括ですが、一定の要件を満たせば延納や物納が認められる場合もあります。自社株は換金しにくいため、株式という財産を相続したにもかかわらず納税資金がないという事態が起こり得ます。
納税資金を確保する手段としては、生命保険の活用、会社による自己株式の買い取り、役員退職金の支給などが挙げられます。いずれも事前の準備が要るため、相続が起きてから考えるのでは間に合わない危険性があります。
自社株の評価額が費用を大きく左右する
贈与税も相続税も、課税の土台になるのは自社株の評価額です。非上場株式には取引相場がないため、財産評価基本通達に沿って評価額を算出します。評価方式は会社の規模や株主の立場によって変わり、代表的なものは次の3つです。
- 類似業種比準方式:同業の上場企業の株価を基準に、配当・利益・純資産を比較して評価する方法
- 純資産価額方式:会社の資産から負債を引いた金額をもとに評価する方法
- 配当還元方式:受け取る配当をもとに評価する方法で、経営に関与しない少数株主に適用されます
ここで理解しておきたいことは、業績や内部留保の状況によっては株価が高く評価され、税負担が重くなりやすいという構造です。堅実に経営してきた会社ほど承継のハードルが上がるという、事業承継税制が生まれた背景でもあります。評価額の試算は税理士に依頼することになり、その報酬も費用として見込んでおく必要があります。
なお、株式を対価と引き換えに譲る場合の価格の考え方は、贈与・相続の評価とは別の話です。売買価格の決まり方は企業価値の記事で解説しています。
遺留分への対応にかかる費用
後継者に自社株を集中させると、他の相続人が受け取る財産が少なくなり、遺留分をめぐる争いに発展することがあります。遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に保障されている最低限の取り分のことです。
争いになれば弁護士費用や調停・訴訟の費用が発生し、経営そのものが不安定になります。予防策としては、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)の遺留分に関する民法の特例があります。推定相続人全員の合意を前提に、後継者が取得した自社株を遺留分の算定から除外する「除外合意」や、価額を合意時点で固定する「固定合意」を利用できる制度です。
利用には推定相続人全員の書面による合意に加え、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可が必要で、手続きを専門家に依頼する費用がかかります。それでも、争いが起きた場合の損失に比べれば小さい負担だと考えられます。
参考:相続税の税率|国税庁
従業員承継(EBO・MBO)にかかる費用と税金
役員や従業員へ引き継ぐ場合、事業の中身をよく知る人が後継者になるため引き継ぎ自体は円滑に進みやすい一方で、後継者に株式を買い取る資金があるかという別の壁が立ちはだかります。
後継者が用意する株式の取得資金
従業員承継では、後継者が現経営者から株式を買い取る形が基本です。非上場株式には市場価格がないため、株価算定を行ったうえで当事者間で価格を決めます。税務上の評価額がそのまま買取価格になるわけではありませんが、税務上の時価とかけ離れた価格で売買すると課税上の問題が生じる場合があるため注意が必要です。業績の良い会社ほど価格は大きくなりやすく、役員報酬の範囲で貯められる金額と必要な買取資金との間に開きが出るのは珍しくありません。
従業員承継が資金面で行き詰まるのは、後継者の能力ではなく株価の水準が原因であることが多いという点は押さえておきたいところです。したがって対策も、後継者を説得することではなく資金の組み立てを設計することになります。
資金が足りない場合の調達方法
買取資金を一度に用意できない場合、次のような選択肢があります。
- 金融機関からの借入:後継者個人が融資を受けて株式を取得する方法です
- 持株会社を設立して買い取る:後継者が設立した会社が融資を受けて株式を取得し、対象会社からの配当などを原資に返済していく方法です
- 複数年に分けて買い取る:一度に全株を移さず、段階的に譲渡していく方法です
- 経営承継円滑化法の金融支援:都道府県知事の認定を受けることで、日本政策金融公庫の融資や信用保証の特例を利用できる制度です
いずれの方法でも、返済の原資になるのは承継後の会社が生み出すキャッシュフローです。後継者個人が借り入れる場合は役員報酬や配当を通じて返済し、持株会社を使う場合は対象会社からの配当が原資になります。返済計画が実態に合っているかどうかが、従業員承継の成否を分けます。金融機関との交渉や事業計画の作成を専門家に依頼する場合は、その報酬も費用に含めて考えてください。従業員承継の進め方そのものについては従業員承継(EBO・MBO)の記事で詳しく扱っています。
現経営者側にかかる税金
株式を売却した現経営者には、譲渡益に対して税金がかかります。上場していない株式の譲渡は申告分離課税の対象で、税率は所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%の合計20.315%です(2026年8月時点)。
課税されるのは売却代金そのものではなく、そこから取得費と譲渡にかかった費用を差し引いた譲渡益です。創業者が設立時から保有している株式は取得費が低いため、譲渡益が売却代金に近くなる点には注意が必要です。
なお、株式を対価なしで譲る場合は、受け取った後継者側に贈与税がかかります。特例贈与財産の税率表が使えるのは、直系尊属から18歳以上の子や孫へ贈与する場合です。贈与する側が後継者の直系尊属にあたらないときは、一般贈与財産の税率表が適用されます。
個人保証の引き継ぎに伴う負担
金額としては表に出にくいものの、従業員承継で見落とせないのが経営者保証の扱いです。会社の借入に現経営者が個人保証をつけている場合、後継者がそれを引き継ぐかどうかを金融機関と調整する必要があります。
「経営者保証に関するガイドライン」には事業承継時の取扱いを定めた特則があり、前経営者と後継者の双方から二重に保証を取らないことなどが示されています。保証を外す、あるいは引き継がずに済ませるための交渉には手間がかかりますが、後継者が引き受けるリスクを大きく左右する論点です。
第三者承継(M&A)にかかる費用
親族にも従業員にも適任者がいない場合の選択肢が、第三者への承継です。第三者承継では、税金に加えて相手探しから成約までを支援する事業者への手数料が大きな費用項目になります。手数料は親族内承継・従業員承継には出てこない項目である一方、譲渡金額が大きい場合は税金のほうが上回ることもあります。
仲介会社・FAに支払う手数料の種類
M&A仲介会社やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)に支払う手数料は、支払うタイミングごとに名称が分かれています。すべてを設定している事業者もあれば、成功報酬だけの事業者もあります。
- 相談料:正式な契約前の相談にかかる費用。無料としている事業者も多くあります
- 着手金:アドバイザリー契約を結んだ時点で支払う費用。成約しなくても返還されないのが通常です
- 月額報酬(リテイナーフィー):契約期間中、毎月支払う費用
- 中間金:基本合意の締結など、一定の段階に到達した時点で支払う費用
- 成功報酬:成約時やクロージング時など、契約で定めた時点で支払う費用。金額としては最も大きくなります
費用を比較するときは、個々の名称ではなく「成約まで進んだ場合の合計」と「途中で終わった場合の負担」の2つで見ると判断しやすくなります。着手金が無料でも成功報酬の料率が高ければ総額は逆転しますし、着手金があっても成約率が高ければ結果的に安く済むこともあります。
成功報酬はどのように計算されるか
成功報酬の算定にはレーマン方式が広く使われています。取引金額を段階に区切り、金額が大きい部分ほど低い料率を掛けて合算する仕組みです。
注意すべきは料率そのものよりも、何を「取引金額」とするかという算定基準です。基準には主に次の3つがあり、同じ会社の同じ取引でも報酬額が変わります。
- 株式価額基準:実際に授受される株式の譲渡金額を基準とする方法
- 企業価値基準:株式価額に有利子負債を加えるなどして算出した金額を基準とする方法。有利子負債から現預金を差し引くかどうかなど、定義は事業者ごとに異なります
- 移動総資産基準:株式価額に負債総額を加えた金額を基準とする方法
借入のある会社では、移動総資産基準は株式価額基準より基準額が大きくなり、報酬も膨らみます。同じ名称でも中身は事業者ごとに違うため、契約前に手数料規定上の定義まで確認しておきましょう。計算方法の詳細はレーマン方式の記事で、料率を含めた手数料全体の考え方はM&A手数料・成功報酬の相場の記事で解説しています。
最低手数料の設定に注意する
多くの事業者は成功報酬に最低手数料を設けています。レーマン方式で計算した金額が最低手数料を下回る場合、最低手数料の方が適用される仕組みです。
そのため、譲渡金額が小さい案件ほど、実質の手数料率が跳ね上がります。数百万円規模の譲渡で最低手数料が数百万円に設定されていれば、譲渡代金の大半が手数料に消えてしまいます。小規模な事業の承継を考えている場合は、最低手数料の有無と金額を最初に確認しておくのが安全です。
デューデリジェンス費用は誰が負担するか
デューデリジェンス(DD)は、対象会社の財務や法務のリスクを調べる調査です。通常は買い手が自ら専門家に依頼するため、費用は原則として買い手の負担になります。ただし売り手が自ら調査を実施するベンダーDDの場合は、売り手が費用を負担します。
売り手側の負担は、資料の準備と説明対応にかかる手間が中心です。ただし調査でリスクが見つかれば譲渡価格の減額交渉につながるため、金銭の支出がなくても結果的に手取りが減ることはあります。日ごろから決算書や契約書、労務関係の書類を整えておくことが、売り手にとっての実質的なコスト対策になります。
売り手にかかる税金はスキームで大きく変わる
第三者承継では、株式譲渡と事業譲渡のどちらを選ぶかで税金の負担者も金額もまったく変わります。「譲渡」とひとまとめにせず、必ず分けて考えてください。
| 項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 対価を受け取る人 | 株主(個人株主の場合は個人) | 会社(法人) |
| 主にかかる税金 | 個人株主は譲渡所得に20.315%(申告分離課税)/法人株主は法人税等 | 譲渡益が会社の所得に加算され法人税等の対象 |
| 消費税 | 株式の譲渡は非課税 | 建物・棚卸資産・のれんなどは課税(土地・有価証券は非課税) |
| 不動産に関する税 | 不動産の所有者は会社のままなので発生しない | 不動産を移せば登録免許税・不動産取得税がかかる |
| 印紙税 | 株式譲渡契約書は課税文書に該当しない | 営業の譲渡に関する契約書として課税文書に該当する |
| 許認可 | 会社が保持したまま存続(届出や審査を要する場合あり) | 原則として引き継げず、買い手が取り直す |
表のとおり、株式譲渡では対価が株主に入り、事業譲渡では会社に入ります。手取りベースで比較するには、事業譲渡の場合に会社へ残った資金をどう個人に移すかまで含めて考える必要があります。役員退職金の活用を含めたスキーム別の税負担はM&Aの税金の記事で、事業譲渡に絞った計算方法は事業譲渡の税金の記事で扱っています。
専門家に依頼するといくらかかるか
「事業承継のコンサル費用はいくらか」「税理士に頼むといくらか」は、検索でもよく調べられている疑問です。ただし専門家報酬には公的に定められた基準がなく、関与する範囲と会社の規模によって金額が大きく変わります。そのため、金額そのものより「何にお金を払っているのか」を理解して見積もりを読む力の方が役に立ちます。
事業承継に関わる専門家と担当範囲
事業承継では複数の専門家が関わります。担当範囲と報酬の形を整理すると、誰に何を頼むべきかが見えてきます。
| 専門家 | 主な担当範囲 | 報酬の形 |
|---|---|---|
| 税理士 | 自社株の評価、贈与税・相続税の試算と申告、税制の適用判断 | 業務ごとの定額、または顧問料への上乗せ |
| 弁護士 | 契約書の作成と確認、遺留分対策、株主間の調整 | 時間制(タイムチャージ)、または着手金と報酬金 |
| 公認会計士 | 企業価値評価、財務デューデリジェンス | 調査範囲と工数に応じた個別見積もり |
| M&A仲介会社・FA | 相手探しから条件交渉、成約までの全体支援 | 着手金・中間金と成功報酬の組み合わせ |
| 金融機関 | 後継者の資金調達、取引先の紹介 | 融資関連の費用、アドバイザリー報酬 |
| 事業承継・引継ぎ支援センター | 公的な相談窓口。方向性の整理、支援機関の紹介 | 相談は無料 |
専門家ごとに得意分野は異なります。何を誰に主担当として依頼するかを整理しておくことが、費用の重複を防ぐうえでも重要です。M&Aにおける税理士の役割やM&Aと弁護士の記事も参考にしてください。
報酬の決まり方は大きく3タイプ
専門家報酬の決まり方は、次の3タイプに整理できます。どのタイプかによって、費用が読める場面と読めない場面が変わります。
- 定額型:業務ごとに金額が決まっている形。事前に総額が読めるのが利点です
- 時間制(タイムチャージ)型:単価に稼働時間を掛ける形。相談が長引くほど費用が増えます
- 成果連動型:成約や譲渡金額に応じて報酬が決まる形。成立しなければ費用が抑えられる一方、成立時の金額は大きくなります
費用が想定を超えるのは、タイプの違いを理解しないまま依頼したときです。時間制であれば「どこまでを依頼範囲とするか」を先に決め、成果連動型であれば算定基準と最低金額を先に確認することで、見通しは大きく改善します。
相場を鵜呑みにしないための見積もりの取り方
インターネット上には「事業承継のコンサル費用は◯◯万円」といった数字が並んでいますが、根拠となる調査が示されていないものも少なくありません。金額だけを比べても意味がないのは、含まれる業務範囲が事業者ごとに違うためです。
見積もりを取るときは、次の点を必ず書面で確認してください。
- 業務範囲:どこからどこまでが料金に含まれるか。含まれない業務は何か
- 算定基準:成功報酬がある場合、何を基準に計算するか(株式価額・企業価値・移動総資産)
- 最低金額:最低手数料の設定があるか、いくらか
- 途中終了時の扱い:成約に至らなかった場合、支払済みの費用は返還されるか
- 実費の扱い:交通費・登記費用・専門家への外注費が別途かかるか
- 契約期間と専任条項:契約期間中に他社へ依頼できるか
複数社から同じ条件で見積もりを取り、この6点を横並びで比較すると判断しやすくなります。金額の大小より、範囲と条件をそろえて比べることが重要です。
無料で相談できる公的窓口もある
費用をかける前に方向性を整理したい段階であれば、公的な相談窓口を利用する方法があります。事業承継・引継ぎ支援センターは、国が全国に設置する公的な相談窓口で、相談自体は無料です。商工会議所や商工会、よろず支援拠点でも事業承継に関する相談を受け付けています。
公的窓口だけで承継が完結するとは限りませんが、自社が何を検討すべきかを整理したうえで専門家に依頼できれば、結果として依頼範囲が絞られ費用も抑えられます。相談先の選び方はM&Aの相談先の記事で詳しく比較しています。
事業を引き継ぐ側(後継者)が負担する費用
事業承継の費用は譲る側の視点で語られがちですが、実際に大きな負担を抱えるのは引き継ぐ側であることも珍しくありません。後継者や買い手の立場で、どこにお金がかかるのかを整理します。
引き継ぐ側が負担する費用の全体像
引き継ぐ側の負担は、承継の形によって次のように分かれます。
- 親族として引き継ぐ場合:贈与税または相続税の納税資金
- 従業員として引き継ぐ場合:株式の買取資金と、借入をした場合の返済
- 第三者として買い取る場合:買収代金、デューデリジェンス費用、仲介手数料の買い手負担分
いずれの場合も、承継時には取得資金や税金、専門家費用などの負担が先行しやすくなります。手元資金をすべて注ぎ込むと運転資金が枯渇するため、承継後の資金繰りまで見据えて計画する必要があります。
納税資金をどう用意するか
親族内承継で後継者が直面するのが、株式という換金しにくい財産を受け取りながら、税金は現金で納めなければならないという構造です。準備の方法としては次のものが挙げられます。
- 生命保険を活用し、相続発生時に現金を受け取れるようにしておく
- 会社が自己株式として一部を買い取り、後継者に納税資金をつくる
- 退任する経営者へ役員退職金を支給し、株価の引き下げにつなげる
- 事業承継税制の適用を受け、納税を猶予する
役員退職金は、支給によって会社の純資産が減るため自社株の評価額が下がるという効果もあります。ただし不相当に高額と判断された部分は損金に算入できないため、金額の妥当性は税理士に確認してください。
第三者として会社を買う場合の費用
買い手として事業を譲り受ける場合は、買収代金のほかに次の費用がかかります。
- デューデリジェンス費用:財務・法務などの調査を専門家へ依頼する費用
- 仲介手数料の買い手負担分:売り手と買い手の双方から手数料を受け取る事業者の場合に発生します
- 登記費用:役員変更登記や、不動産を移す場合の登録免許税
- 許認可の取得費用:事業譲渡で許認可を引き継げない場合、買い手が新たに取得します
手数料の体系は事業者によって差が大きく、買い手側の負担がない仕組みもあります。TRANBIでは買い手は月額プラン料金のみで利用が可能で、成約時の手数料も発生しません。TRANBIにおける買い手の料金体系については成約手数料ゼロの意味の記事で解説しています。
承継した後に発生する費用も見込んでおく
見落とされやすい点が、引き継いだ後にかかる費用です。前経営者の時代に先送りされていた設備更新やシステムの入れ替え、就業規則の整備などが、承継直後にまとめて表面化することがあります。
また、事業譲渡で引き継いだ場合は、屋号や取引先との契約、許認可の名義を切り替える手続きが必要です。株式譲渡であれば法人格が変わらないため、これらの切り替えは原則として発生しません。ただし契約に定められたチェンジ・オブ・コントロール条項への対応や、許認可によっては届出・承諾が必要になる場合があります。どちらのスキームを選ぶかは、税金だけでなく承継後の手間とコストにも影響します。
事業承継で発生する税金の一覧
ここまで承継先ごとに費用を見てきましたが、税金は複数のパターンにまたがって登場します。誰にどの税金がかかるのかを一覧で整理しておきましょう。
承継の形ごとにかかる税金
同じ「事業承継」でも、財産の渡し方によって課税される人も税目も変わります。
| 承継の形 | 課税される人 | 主な税金 |
|---|---|---|
| 生前贈与で株式を渡す | 受け取った後継者 | 贈与税 |
| 相続で株式が移る | 相続人 | 相続税 |
| 株式を売買する | 売却した株主 | 個人株主は所得税・復興特別所得税・住民税(合計20.315%) |
| 事業譲渡で事業を売る | 譲渡した会社 | 法人税等、消費税 |
| 不動産の移転を伴う | 取得した側 | 登録免許税、不動産取得税 |
| 役員退職金を受け取る | 退任する経営者 | 所得税・住民税(退職所得として課税) |
役員退職金は退職所得として扱われ、勤続年数に応じた退職所得控除が適用されます。給与や配当として受け取る場合と比べて税負担が軽くなりやすいため、承継時の資金の受け取り方としてよく検討されます。
不動産を引き継ぐ場合の登録免許税と不動産取得税
会社が土地や建物を持っている場合、スキームによって不動産関連の税負担がまったく変わります。
株式譲渡では不動産の所有者は会社のままなので、登録免許税も不動産取得税もかかりません。一方、事業譲渡で不動産を移転する場合は、所有権移転登記に登録免許税がかかり、取得した側に不動産取得税が課されます。
税率は移転の原因や対象によって異なり、軽減措置が設けられている場合もあります。金額の影響が大きい項目なので、不動産を保有している会社では早い段階で税理士に試算を依頼してください。
消費税の扱いもスキームで変わる
消費税についても、株式譲渡と事業譲渡では扱いが分かれます。株式の譲渡は消費税の非課税取引です。これに対して事業譲渡では、譲渡する資産のうち建物・機械などの有形資産、棚卸資産、のれんが課税対象となり、土地や有価証券、売掛金は非課税です。
事業譲渡では譲渡代金に消費税が上乗せされるため、買い手は代金以外にその分の資金も用意する必要があります。契約書に記載された金額が税込か税抜かで負担が変わるため、条件交渉の段階で確認しておきましょう。
事業承継の費用を抑える方法
事業承継の費用は、制度の活用と準備の進め方によって変わります。使える支援策と、費用を膨らませないための考え方を紹介します。
事業承継・M&A補助金を活用する
国は事業承継やM&Aにかかる費用の一部を補助する制度を設けています。事業承継・M&A補助金には目的別の申請枠があり、自社の状況に応じて選びます。
- 事業承継促進枠:親族内承継や従業員承継で経営革新に取り組む場合
- 専門家活用枠:M&Aで専門家を活用する場合。M&A支援機関登録制度に登録されたFA・仲介業者への支援費用が対象です
- PMI推進枠:M&A成立後の統合作業に取り組む場合
- 廃業・再チャレンジ枠:既存事業を廃業して再挑戦する場合
専門家活用枠を使う場合、依頼先がM&A支援機関登録制度に登録されているかどうかで補助を受けられるかが変わります。補助率や補助上限額、対象となる経費の範囲は公募の回ごとに見直されます。申請を検討する段階で、必ず最新の公募要領を確認してください。制度の全体像と申請の流れは事業承継・M&A補助金の記事にまとめています。
事業承継税制で納税を猶予する
事業承継税制は、一定の要件を満たす場合に自社株にかかる贈与税・相続税の納税が猶予される制度です。法人向けと個人事業主向けがあり、税負担が承継の障害になっている会社にとっては効果の大きい選択肢になります。
まずは納税を猶予する制度であり、適用後も要件を満たし続ける必要があります。要件を外れると、猶予されていた税額に利子税を加えて納付することになります。一方で、後継者が死亡した場合や次の後継者へ承継した場合など、一定の要件を満たすときには猶予されていた税額が免除されることもあります。制度の適用には計画の提出期限や適用期限が設けられており、改正のたびに変更されています。詳しい要件と最新の期限は事業承継税制の記事で確認してください。
早く準備を始めるほど選択肢が増える
費用を抑えるうえで効果が大きいのは、準備期間を長く取ることです。時間があれば、暦年課税による計画的な生前贈与、役員退職金の支給による株価対策、後継者の育成など、選べる手段が広がります。
逆に、相続が発生してから対応を始めると、打てる手は相続税の納め方をどうするかに絞られていきます。準備期間の長さが、そのまま選択肢の数につながります。後継者が決まっていない段階であっても、自社株の評価額を把握しておくだけで打ち手は変わってきます。
依頼先の手数料体系を比較する
第三者承継を選ぶ場合は、依頼先によって手数料の総額が変わります。着手金の有無、成功報酬の算定基準、最低手数料の設定を並べて比較してください。マッチングプラットフォームを使って自ら相手を探す方法もあり、仲介会社に一任する場合と比べて費用構造が変わります。
依頼先ごとの特徴は大手M&A仲介会社ランキングの記事で、手数料の内訳はM&Aの仲介手数料の記事で比較しています。
事業承継の費用に関するよくある質問
事業承継の費用について、経営者からよく寄せられる疑問にお答えします。
Q. 事業承継の費用は全部でいくらかかりますか?
A. 承継先と会社の規模によって幅が大きく、一律の金額は示せません。
判断の目安になるのは、株式の価値をどう見積もるかです。親族内承継では、財産評価基本通達に基づく税務上の自社株評価額が贈与税・相続税に直結します。従業員承継では、株価算定を踏まえて当事者間で決める買取価格と、その資金を用意できるかが焦点になります。第三者承継の場合、成功報酬の算定基準になるのは税務上の評価額ではなく、実際の譲渡価格や企業価値です。税務上の株価とM&Aの取引価額は別物なので、混同しないよう注意してください。
Q. 費用は譲る側と引き継ぐ側のどちらが払いますか?
A. 費用の種類によって分かれます。
M&A仲介会社・FAへの手数料は、契約する事業者の料金体系によって売り手・買い手のいずれか、または双方が負担します。贈与税・相続税や株式の買取資金は引き継ぐ側の負担です。デューデリジェンス費用は買い手が自ら依頼するため買い手負担となります。登記費用や役員退職金は会社の支出です。
Q. 事業承継のコンサルティング費用の相場はどれくらいですか?
A. 公的に定められた基準はなく、関与する範囲と会社の規模で大きく変わります。
インターネット上の金額は、含まれる業務範囲が示されていないものも多く、そのまま比較しても判断材料になりにくいのが実情です。複数社から見積もりを取り、業務範囲・算定基準・最低金額・途中終了時の扱いをそろえて比べることをおすすめします。
Q. 費用をかけずに事業承継する方法はありますか?
A. 完全に無料で済ませることは難しいものの、抑える方法はあります。
各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターは無料で相談でき、事業承継・M&A補助金を使えば専門家への費用の一部が補助されます。マッチングプラットフォームを利用して自ら相手を探す方法も、費用構造を変える選択肢のひとつです。
Q. 赤字の会社でも事業承継に費用はかかりますか?
A. かかりますが、内訳は黒字の会社と異なります。
赤字が続いて純資産が薄い会社では自社株の評価額が低くなりやすく、贈与税・相続税や買取資金の負担が軽くなることがあります。ただし不動産などの資産を多く保有する会社では、赤字でも純資産価額が高く評価される場合があります。一方で登記費用や専門家への報酬は業績と関係なく発生します。赤字であること自体が承継できない理由にはなりません。
Q. 事業承継では結局いくら受け取れるのですか?
A. 受け取る金額は「かかる費用」とは別の話で、会社の評価額と交渉によって決まります。
第三者承継の場合、譲渡価格は業績や資産の状況、買い手が見込むシナジーなどを踏まえて決まります。手取り額は、そこから手数料と税金を差し引いた金額です。価格の決まり方はM&Aの価格の相場の記事で解説しています。
まとめ|事業承継の費用は「誰に承継するか」で決まる
事業承継にかかる費用は、一律の相場では語れません。親族内承継では相続税・贈与税が、従業員承継では後継者の株式取得資金が、第三者承継では税金に加えて専門家への手数料が、それぞれ大きな負担になります。自社がどのパターンに向かうのかが決まらないうちは、金額を調べても判断材料になりにくいのが実情です。
共通して費用を左右するのは、株式の価値をどう見積もるかです。親族内承継では税務上の自社株評価額が税額を左右し、従業員承継では当事者間で決める買取価格とその資金調達が焦点になり、第三者承継では実際の譲渡価格が手数料の算定基準になります。いずれにしても、株式の価値を把握しないまま進めると見通しが立ちません。まずは税務上の評価額を確認しておけば、税制や補助金といった打ち手の効果も試算できるようになります。
費用を抑える最大の要因は、準備に使える時間です。時間があれば計画的な生前贈与も株価対策も選べますが、相続が起きてからでは選択肢が限られます。後継者が決まっていない段階であっても、自社株の評価額を確認し、承継先の候補を洗い出しておくことには意味があります。
- 費用の構造は承継先で変わる。まず自社がどのパターンかを決める
- 税務上の自社株評価額が効くのは税額。買取価格や譲渡価格は当事者間で決まる別物
- 見積もりは金額ではなく、業務範囲と算定基準をそろえて比較する
親族にも従業員にも適任者が見つからない場合でも、第三者への承継という道が残されています。国内最大級のM&A・事業承継マッチングプラットフォーム「TRANBI(トランビ)」では、譲渡を希望する事業と譲受を希望する方が直接出会うことができます。まずはM&A案件一覧を見て、どのような規模の事業がどれくらいの金額で取引されているのかを確かめてみてください。
