2025年度版 M&Aに関する税制と活用ポイント|中小企業向け優遇策を徹底解説
M&Aに関連する税制を正しく理解し、適切な優遇措置を活用することで、税負担を大きく減らし、M&Aの効果を高めることができます。利用できる税制優遇措置が明確にし、M&Aをより有利に進めるための具体的なアクションプランの検討にお役立てください。
M&Aを検討する際、「税金の負担はどの程度か」「税金を抑える方法はないか」と悩む方は多いのではないでしょうか。 実は、M&Aに関連する税制を正しく理解し、適切な優遇措置を活用することで、税負担を大きく減らし、M&Aの効果を高められます。
本記事では、M&Aに関する税制の全体像から、その中核となる「組織再編税制」、そして中小企業が特に活用したい「経営資源集約化税制」や「事業承継税制」といった具体的な優遇措置まで、網羅的にわかりやすく解説します。
この記事を最後まで読めば、自社が利用できる税制優遇措置が明確になり、M&Aをより有利に進めるための具体的なアクションプランを描けるようになるでしょう。 まずは、M&Aの成功に不可欠な税制の知識を確実に身につけることから始めましょう。
M&Aに関する税制とは?
M&Aに関する税制とは、企業の合併や買収といった組織再編行為に伴って発生する税金に関する制度の総称です。
その中核をなすのが、専門的に「組織再編税制」と呼ばれる制度ですが、その他にも中小企業向けの特例措置など、M&Aの目的や企業の規模に応じて様々な優遇措置が設けられています。
制度は企業の競争力強化や事業承継の円滑化を目的とし、要件を満たせば税負担を軽減または繰り延べできます。
M&Aの取引形態によって課税される税金の種類や計算方法は異なるため、自社の状況に合った税制を正しく理解し、活用することが重要になります。
M&Aに関する税制の種類と優遇措置
M&Aを円滑に進めるため、国は様々な税制優遇措置を設けています。
これらを活用することで、M&A実行時の税負担を軽減し、投資効果を高めることが可能です。
ここでは、M&Aで中心となる代表的な優遇措置の概要を解説します。
組織再編税制(課税の繰り延べ・繰越欠損金の引継ぎ)
組織再編税制は、M&Aに関する税制の中核をなす制度です。
一定の要件(支配関係の継続、事業の関連性など)を満たす「税制適格組織再編」に該当する場合、主に2つの大きな優遇措置が受けられます。
一つは、譲渡する資産の含み益に対する課税が将来に繰り延べられる点です。
これにより、M&A実行時の税負担とキャッシュアウトを大幅に抑制できますが、租税回避を防ぐための制限も設けられています。
経営資源集約化税制(中小企業向け)
これは特に中小企業のM&Aを後押しするための制度で、「中小企業事業再編投資損失準備金」とも呼ばれます。
M&Aのために他の法人の株式を取得した場合、その取得価額の一部を「準備金」として積み立て、その事業年度の損金に算入できます。原則として損金算入できるのは取得価額の最大70%です。
2024年度税制改正で、生産性向上や賃上げを伴うM&Aを促す「特別計画枠」が新設されました。この枠組みでは、一定の要件を満たすことで、損金算入できる割合が最大90%、特に革新的な取り組みと認められる場合には最大100%まで引き上げられます。
M&Aに伴う将来のリスクに備えつつ、足元の法人税負担を軽減できる非常に強力な制度です。利用するには、事前に「経営力向上計画」を作成し、国の認定を受ける必要があります。
事業承継税制
事業承継税制は、後継者不足に悩む中小企業の円滑な世代交代を支援するため、非上場株式を後継者へ引き継ぐ際の贈与税や相続税の納税が猶予・免除される制度です。
特に現在の「特例措置」では、対象株式にかかる贈与税・相続税が全額納税猶予となります。この特例措置を利用するには、2026年3月31日までに「特例承継計画」を都道府県に提出し、2029年12月31日までに株式の承継(贈与・相続)を実行する必要があります。
この制度は親族内承継だけでなく、第三者へのM&A(株式譲渡)の場面でも活用できる点が大きな特徴です。
M&Aで活用する場合、買い手(後継者)がこの制度の適用を受けることで、株式取得に伴う贈与税等の負担なく事業を引き継ぐことが可能になります。
ただし、利用には以下の様な主要な条件を満たす必要があります。
- 「特例承継計画」の提出:事前に都道府県へ計画を提出し、認定を受ける必要があります。
- 事業の継続:承継後5年間は事業を継続しなければなりません。
- 雇用の維持:承継後5年間の平均で、承継時の従業員数の8割を維持する必要があります。
- 代表者の継続:後継者が会社の代表として5年間業務に従事する必要があります。
条件を満たせば、買い手は買収資金以外の税負担を気にせずに済み、M&Aの実行が容易になります。
売り手も自社を魅力的に見せられ、最適な相手を見つけやすくなります。
M&Aに関する税制措置を利用するメリット
M&Aに関する税制優遇措置を活用すれば、企業には多くのメリットがあります。
税負担の軽減に加え、キャッシュフロー改善やリスク備えにもつながり、M&A成功の可能性を高めます。
ここでは、具体的な5つのメリットについて詳しく見ていきましょう。① 法人税の支払いを減らせる
最大のメリットは、法人税負担を直接的に軽減できる点です。
例えば、中小企業事業再編投資損失準備金を使えば、株式取得額の一部を損金計上でき、課税所得を減らして法人税額を抑えられます。
これは、M&Aという大きな投資を行う企業にとって、非常に大きな財務的インパクトをもたらします。
② キャッシュフローの改善に寄与
税金の支払いが減少するということは、その分だけ手元に残る現金(キャッシュ)が増えることを意味します。
M&Aの直後は、PMI(統合作業)など追加資金が必要になる場合もあります。
税制優遇によって確保できたキャッシュは、こうした追加投資や運転資金に充当でき、企業の財務基盤を安定させ、より円滑な経営統合を後押しします。
③ 損金算入で資金繰りが楽になる
準備金の損金算入は、将来のリスクに備えつつ、足元の資金繰りを楽にする効果があります。
M&Aには常にリスクがありますが、この制度を使えば、投資損失に備える準備金を税負担を抑えて積み立てられます。
これにより、企業はより安心して、成長に向けた大胆なM&A戦略に踏み出すことが可能になります。
④ 簿外債務リスクに備えられる
M&Aにおいては、事前のデューデリジェンス(資産査定)で発見できなかった簿外債務が後から発覚するリスクが常に存在します。
中小企業事業再編投資損失準備金は、こうした予期せぬ債務が発生し株式価値が下落した際の損失補填にも使えます。
将来の不確実性に備えるという観点からも、この準備金制度は非常に有効な手段です。
⑤ 偶発債務にも柔軟に対応可能
偶発債務とは、将来特定の条件次第で発生する可能性のある債務(例:訴訟リスクなど)です。
こうした偶発債務が現実の損失となった場合にも、積み立てた準備金を取り崩して対応することが可能です。
これにより、M&A後の経営を不安定化させる可能性のある偶発的なリスクに対しても、財務的な柔軟性を持って対処することができます。
M&Aに関する税制措置を利用する際の注意点
M&Aの税制優遇措置は魅力的ですが、利用には重要な注意点があります。
見落とすと節税効果が得られず、追徴課税などのリスクもあります。
ここでは、制度を安全かつ効果的に活用するために、事前に必ず確認しておくべき5つの注意点を解説します。
注意点①:適用条件を事前に確認する
各税制優遇措置には、対象となる企業の規模、M&Aの目的、取得する株式の割合など、詳細な適用条件が定められています。
例えば、経営資源集約化税制であれば、経営力向上計画の認定を受けることが大前提となります。
これらの条件を一つでも満たしていない場合、制度を利用することはできません。
計画前に、自社のM&Aが対象かを、専門家と確認することが重要です。
注意点②:税務署への届出が必要になる
税制優遇を受けるためには、単に条件を満たすだけでなく、定められた手続きに従って税務署へ適切な届出を行う必要があります。
具体的には、法人税の確定申告書に、準備金の損金算入に関する明細書などを添付して提出しなければなりません。
手続きを忘れると、要件を満たしても優遇措置は受けられないため、申告時のチェック体制を整えておくことが重要です。
注意点③:誤適用による追徴リスクがある
もし適用条件を満たしていないにもかかわらず、誤って優遇税制を適用して申告してしまった場合、後日の税務調査でその誤りが指摘される可能性があります。
その場合、本来納めるべきだった税金(本税)に加えて、過少申告加算税や延滞税といった追徴課税が発生します。
意図せずペナルティを受ける恐れがあるため、要件の解釈には注意が必要です。
注意点④:デューデリジェンスが不可欠
税制面だけでなく、M&A成功にはデューデリジェンス(DD)が欠かせません。
DDを通じて、買収対象企業の財務状況や法務リスク、そして税務上のリスク(過去の申告漏れなど)を徹底的に洗い出します。
特に、簿外債務や偶発債務の有無は、準備金の必要額を見積もる上でも重要な情報となります。精度の高いDDは、税制効果を最大化し、M&A失敗リスクを減らします。
注意点⑤:制度改正に常に注意が必要
税制は、経済情勢や政策の変更に伴い、毎年のように改正が行われます。
M&A関連ルールは変化し、一度の知識が数年後に古くなる可能性があります。
M&Aを検討する際には、常に最新の法令や通達を確認し、専門家から最新の情報を得るよう心がけることが極めて重要です。
M&Aに関する税制を活用する流れ
M&A税制優遇措置を活用するには、計画的に段階を踏む必要があります。
申請からM&A実行、事後の税務処理までの流れを理解することが、手続きを円滑にします。
ここでは、一般的な活用プロセスを5つの手順に分けて解説します。
手順①:活用可能な税制を調べる
まず最初のステップは、自社が検討しているM&Aのスキームにおいて、どのような税制優遇措置が利用可能かをリサーチすることです。
企業規模や業種、目的に応じて、経営資源集約化税制などから、適した精度を選びます。
この段階で、M&Aアドバイザーや税理士に相談し、選択肢を整理するのが効率的です。
手順②:適用要件を満たすか確認
次に、リストアップした税制優遇措置の具体的な適用要件を一つひとつ確認し、自社のケースが条件を満たしているかを精査します。
例えば、経営力向上計画の認定が必要な場合は、その計画に盛り込むべき内容や達成すべき目標などを具体的に検討します。
手順③:専門家と活用方法を検討
適用要件を満たせそうだと判断できたら、税理士や公認会計士などの専門家と、具体的な活用方法について詳細な検討に入ります。
準備金の積立額とタイミングを資金計画と照らしてシミュレーションします。
税務リスクを抑える会計処理や契約条項についても助言を受けます。
手順④:必要な書類を準備・提出
計画が固まったら、申請に必要な書類の準備に取り掛かります。
経営資源集約化税制を利用する場合は、「経営力向上計画に係る認定申請書」や、M&Aの具体的な内容を示した「事業承継等事前調査に関する事項」などの書類を作成します。
書類は複雑なため、専門家と作成し、不備なく管轄省庁へ提出しましょう。
手順⑤:M&A実行後に税務処理対応
認定後にM&Aを実行し、税務処理を行います。
M&Aが完了した事業年度の法人税確定申告の際に、準備金の損金算入を適用するための申告書を作成し、税務署に提出します。
準備金は5年間据え置き、6~10年目に均等で取り崩して益金算入するため、長期資金計画に組み込みます。
経営者・担当者が最初に押さえるべきこと
M&Aの税制について理解を深めることは非常に重要ですが、それと同時に忘れてはならないのが、M&Aの最も本質的な成功要因です。
それは、自社に最適なパートナーを見つけることです。
税制優遇措置があっても、シナジーがない相手や文化が異なる相手とのM&Aは成功しにくくなります。
そこで、まず経営者や担当者が第一歩として取り組むべきは、情報収集です。
例えば、国内最大級のM&Aプラットフォームである「トランビ」の活用は非常に有効です。
トランビでは、匿名で自社の情報を登録したり、無料で豊富な売り手・買い手企業の情報を検索したりすることが可能です。
ツールを活用し、交渉前に市場価値や候補の全体像を把握することで、成功確率を大きく高められます。
M&Aに関する税制のよくある質問
M&Aに関する税制は専門的な内容が多いため、多くの経営者や担当者から様々な質問が寄せられます。
ここでは、特に頻繁に寄せられる疑問について、Q&A形式で分かりやすくお答えします。
中小企業事業再編投資損失準備金の仕訳方法は?
準備金積立時は、借方に「中小企業事業再編投資損失準備金繰入(費用)」、貸方に「中小企業事業再編投資損失準備金(負債)」と仕訳します。
これにより、費用を計上して課税所得を減らすことが可能です。
そして、5年間の据え置き期間後に取り崩す際は、この逆の仕訳(借方:準備金、貸方:準備金取崩益)を行い、益金として計上します。
経営資源集約化税制と他の制度の違いは?
経営資源集約化税制の最大の特徴は、M&Aの「リスク」に備えるための準備金を損金算入できる点にあります。
設備投資減税が投資促進を目的とするのに対し、この制度はM&Aの将来リスク(株価下落など)を財務面でカバーします。
また、経営力向上計画の認定が必須である点も大きな特徴です。
買収後の繰越欠損金はどうなる?
税制適格要件を満たす合併の場合、一定の条件下で被合併法人の繰越欠損金を買収後の会社が引き継ぐことが可能です。
しかし、租税回避が目的と見なされる場合などは引継ぎが制限されます。
繰越欠損金の活用は税務メリットが大きく、引継ぎの可否は慎重に判断します。
優遇税制の対象となるスキームはどれか?
経営資源集約化税制の場合、主な対象は他の法人の「株式」を取得する取引です。
事業譲渡は原則対象外で、スキームにより適用可否が異なります。
自社が検討しているM&Aの手法が、優遇税制の対象となるかを事前に専門家へ確認することが重要です。
まとめ
本記事では、M&Aを成功に導くために不可欠な税制の知識について、その全体像から具体的な優遇措置までを解説しました。
M&A税制は、課税繰延が可能な「組織再編税制」を中核とし、中小企業向けに「経営資源集約化税制」や「事業承継税制」もあります。
これらの制度を自社の状況に合わせて戦略的に活用することで、税負担を最適化し、M&Aの投資効果を最大化できます。
しかし、各制度には複雑な適用要件があり、常に改正の可能性があるため、独断での判断は禁物です。
まずはM&Aプラットフォームで情報収集し、早期に税理士へ相談して最適な税務戦略を立てることが成功への一歩となるでしょう。
確認作業を怠ると後の手続きが無駄になる可能性があるため、慎重に進めましょう。