M&Aとは?意味、種類、手順、メリットを図解で分かりやすく解説!

M&Aとは?意味、種類、手順、メリットを図解で分かりやすく解説!

M&Aは企業の成長や経営改善をもたらす強力な手法ですが、その成果を最大限に引き出すためには、その意味から手順、様々な種類やメリット・デメリット、そして成功や失敗の事例まで、包括的な理解が必要です。本記事では、それらを分かりやすくかつ具体的に解説します。これからM&Aを検討する企業経営者や関係者はもちろん、一般的なビジネスパーソンの方もぜひご一読ください。

M&Aとは?意味、読み方、定義

M&Aとは?

M&A(エムアンドエー)は「Merger and Acquisition」の略語であり、企業が一つに統合される「合併」(Merger)や一方の企業が他方を所有する「買収」(Acquisition)を意味します。これは企業間の取引で、2つ以上の会社が一体化したり、ある会社が他社を取得したりするプロセスです。

M&Aは経済活動の中で頻繁に見られ、企業が競争力を強化したり、成長戦略を推進したりするための一つの手段として認識されています。

そして、M&Aは単に企業の買収や合併だけを含むものではありません。より広範な観点からは、企業間の提携や協力関係の構築、事業の多角化、新規市場への進出なども含むことがあります。

また、M&Aには様々な手法が存在します。これには株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割などがあります。一部または全体の事業移転を伴う取引全般がM&Aに含まれるのです。

このように、M&Aは企業がビジネスの展開と進化を果たすための重要な戦略的手段となっています。

M&Aの目的

M&Aの目的

M&Aは組織の成長、戦略の変更、あるいは企業価値の確定を図る手段として多くの企業に利用されています。売却側、つまり譲渡企業の観点から見ると、M&Aには様々な目的が存在します。

その中には、経営資源の集中、後継者問題の解決、投資の回収や現金化の促進、社員や技術ノウハウの承継、そして創業者利益の確定などが含まれます。

売り手(譲渡)企業がM&Aを行う目的

売り手(譲渡)企業にとってM&Aには様々な目的があります。企業がその存在を継続し、価値を最大化するための一つの手段として、M&Aは後継者問題の解決から投資の回収、事業の整理、そして創業者利益の確定まで幅広い目的で利用されます。

後継者問題の解決

後継者が不在または適切な後継者が見つからない場合、企業はM&Aを実行して事業の存続を図ることがあります。これにより、企業は廃業を避け、既存の従業員の雇用を維持しつつ、事業を新たな経営者に引き継ぐことが可能です。

投資の回収・現金化の促進

企業は、その将来的な収益を評価して投資を早期に回収するためにM&Aを利用することがあります。これは特に長期的な投資を行っている企業にとって有益で、投資回収までの時間を短縮し、資本を早期に確保することが可能となります。

事業の整理・資源の集中

企業は、一部の事業を売却して、より利益性の高い部門に資源を集中させることを実行する場合があります。これは企業のパフォーマンスを向上させ、経営資源の利用効率を高めることにつながります。

従業員やノウハウの承継

企業はM&Aを通じて、従業員や重要な技術ノウハウを維持・承継することが可能です。これは、従業員の雇用を守るとともに、事業の継続性を確保する上で重要なメリットとなります。

創業者利益の確定

創業者や経営者は、M&Aを通じて企業の価値を現金化し、その貢献に対する対価を得ることが可能です。これは、引退後の生活費を確保したり、新たな事業の立ち上げ資金に充てたりするために活用できます。また、IPO(株式公開)とは異なり、M&Aは比較的迅速に実行できるため、資本回収の手段としても有効です。

筋肉質経営の実現

不採算な事業を売却し、資源を収益性の高い事業に集中することにより、企業は筋肉質な経営を実現することができます。これは、企業の競争力を高め、経済環境の変化に対する柔軟性を向上させるきっかけとなります。

救済型(事業再生型)M&A

経営難に陥った企業が救済され、新たな経営体制の下で再生を図るためのM&Aも存在します。これは、「助け合い」という日本の道徳心に基づく考え方であり、企業の価値を保全し雇用を維持することが目標です。

以上、売り手(譲渡)企業がM&Aを行う主な目的です。これらの目的は状況や目指す結果により異なりますが、すべてが企業の価値維持・向上を目指すものであり、その実現手段としてM&Aが活用されます。

買い手(譲受)企業がM&Aを行う目的

買い手(譲受)企業がM&Aを行う目的は様々です。企業がその価値をより高め、競争力を得るための一つの手段として、M&Aは新規事業への参入、既存事業の強化、スケールメリットの獲得、そして相乗効果(シナジー)の実現など、幅広い目的で利用されます。

新規事業への参入

M&Aは企業が新しい市場への参入に利用する優れた手段のひとつです。これにより、企業はゼロから事業を構築するよりも少ないリスクとコストで進出することができます。事業構築だけでなく、事業の技術、知識、販売チャネル、人材など、本来であれば1から構築する必要があるものをM&Aにより獲得できるため、新たな市場への参入を迅速かつ効率的に行うことが可能です。

既存事業の強化

M&Aは企業が自社の既存事業を強化するための選択肢でもあります。これは、自社のサービスや製品に関連する事業を取得することで実現され、生産性の向上、優秀な人材の獲得、新たなビジネスパートナーとの関係構築などによって既存事業を強化します。

企業と事業の規模拡大

買収企業が販売企業の資産や人員を取得することで、企業の規模を拡大しスケールメリットを得ることができます。これにより、交渉力やブランド認知度の強化などの利点を享受し、仕入れコストの削減、広告費の節約、採用力の強化などが可能となります。また、市場競争の激化により、企業は事業規模の拡大を通じてスケールメリットを生み出す必要があります。M&Aは資本の強化と効率的な経営を実現する手段の一つとなり、最も効率的な商品、サービス、生産/販売システムを選ぶ中で選ばれる存在となるための重要な戦略です。

時間の短縮

M&Aは企業が時間を「買う」ための手段でもあります。新規事業の立ち上げや既存事業の規模拡大には、綿密な計画を練る必要があり時間がかかりますが、M&Aによりそのプロセスを大幅に加速することが可能になります。

相乗効果(シナジー)の実現

M&Aは企業が自身の弱点を補い、強みを最大化するための手段でもあります。

自社だけでは不足している新しい技術や人材、市場を持つ企業と結合することで、より迅速に弱点を補完し、自社の強みを最大限に活用することが可能になります。

たとえば、伝統的な物流ネットワークを持つ企業がIT企業と合併することで、新たに効率化されたサービスを提供することが可能になります。これらの理由から、多くの企業がM&Aを活用してビジネスの成長と拡大を図っています。それぞれの企業は自社の状況と目標に合わせてM&Aの戦略を構築し、新たな市場への参入、既存事業の強化、スケールメリットの獲得などを実現しています。

M&Aを検討するタイミング

M&Aの検討タイミング

M&Aを実行する場合には、タイミングを見極めることが重要です。ビジネス戦略の一部としてM&Aを検討する時、売り手企業と買い手企業とではその判断基準が異なります。

売り手企業は事業の将来性や経営資源の有効活用、企業価値の最大化を追求します。一方、買い手企業は市場機会の探求、競争力強化、新規市場への参入などを重視します。

双方に共通するのは、M&Aが経営の長期的なビジョンと一致し、両社にとって利益をもたらす状況を見つけることが求められるという点です。

売り手(譲渡)企業がM&Aを検討するタイミング

企業がM&Aを検討する時期は、その経営状況や目指す目標、産業環境など様々な要素により変わります。

その中でも特に重要なのが、「後継者の不在」「事業継続の困難」「企業価値の最大化」「業界の再編・変革への対応」の4つのポイントです。これらの状況は、M&Aを検討する大きな動機になります。ここでは、4つのポイントについて詳しく見ていきましょう。

後継者の不在

後継者の不在は、中小企業や家族経営企業における最も一般的な問題で、M&Aを考慮する主要な動機です。経営者が退職する年齢に達した場合、次世代のリーダーが見つからなければ、事業の存続が困難になる状況に陥ります。

このような状況でM&Aは非常に有益なソリューションとなります。他の企業との合併や買収により、適任者が見つかる可能性があるためです。また、新たな企業経営者の新しい視点やアイデアを持ち込むことで、組織に新しい活気を与える可能性もあります。

その他、既存の経営者が健康やパーソナルな問題で急に退任する必要が出た場合、M&Aは企業の安定した運営を維持するための迅速な解決策となり得ます。企業価値を保全し、スムーズな経営体制の移行を図るために、M&Aは有効な選択肢です。

ただし、後継者の不在は大きな課題であり、経営者が適切な計画を立てることは企業の未来を左右します。その一環として、経営者は時期を見計らってM&Aの可能性を検討し始めることが多いのです。

経営資源の最大化

経営資源の最大化は、M&Aを検討する重要な動機となります。企業は、自社の資源や能力を最大限に活用できていない状況に直面することがあります。それが人的資源、物的資源、または知的資源である場合でも、未活用の資源は企業の成長と収益性にとって大きな障害です。

このような状況では、M&Aは企業が自身の資源を他の企業と組み合わせ、最大限に活用する機会を得る可能性があります。相手企業との結合により、両社の強みが相乗効果を生むことがあるためです。また、相手企業が自社に欠けているスキルやリソースを持っている場合、これはさらなる価値を創出する可能性もあります。

しかし、資源の最大化を実現するためには、適切なパートナーを見つけることが不可欠です。M&Aは高度かつ戦略的な取引であり、自社の需要と相手企業の提供がうまくマッチしなければなりません。

この観点からM&Aを検討する場合、企業は自社の現状と未来の目標を理解し、どのようなパートナーシップが最も有益であるかを見極めることが重要です。そして、事業を買収するか合併するかの決定は、これらの目標達成に対して最も効率的な手段を選択することが求められます。

業界の再編・変革に対応するため

業界の変動性と経済の変化に対応するため、企業がM&Aを検討することは一般的です。技術の進化、規制の変更、消費者の嗜好の変化など、業界の動向は絶えず変わります。これらの変化に対応するため、企業は自社のポジションを強化し、競争力を維持するためにM&Aを活用するのです。

特定の業界における統合は、競争を減らし、市場シェアを増加させる可能性を秘めています。これにより、企業はより大きな価値創造と、業界内でのリーダーシップポジションを達成できます。また、新たな市場や新たな業界に参入するためにM&Aを利用するケースも多いです。

一方で、M&Aにはリスクも伴います。他の企業と組み合わせることで企業文化の衝突が生じることがあり、それが結果としてM&Aの成功を妨げる可能性があるのです。そのため、M&Aを検討する際には、リスクとリターンを評価し、適切な戦略を構築することが重要となります。

以上が、業界の再編・変革に対応するためにM&Aを検討する主な理由です。これらの要素は、企業がM&Aを進める上での重要な動機となります。

経済状況の影響

経済状況は、企業がM&Aを検討するタイミングに大きく影響します。たとえば、好景気の時期には、企業は自社の成長戦略の一環としてM&Aを行うことが一般的です。これは、市場が拡大し、新たなビジネスチャンスが生まれ、買収に必要な資金を調達しやすいためです。

逆に、経済が低迷している時期でも、企業はコスト削減や競争力強化のためにM&Aを検討するケースもあります。不況の時期には企業の価値が低下しやすいため、買収対象となる企業が増える傾向があるのです。

そのため、このような時期には、買収によるシナジーやコスト削減の機会が増えることから、M&Aのチャンスの時期ともいえるでしょう。

しかし、経済状況による影響を考慮する際には、企業の財務状況や業績、資本市場の状況など、多くの要素も考慮しなければなりません。また、業界の特性や市場環境によっても、経済状況がM&Aに与える影響は異なります。そのため、M&Aを成功させるためには、これらの要素をすべて考慮した上で、適切な戦略を策定することが求められます。

買い手(譲受)企業がM&Aを検討するタイミング

企業がM&Aを検討するタイミングは、市場環境や自社のビジネス目標に大きく依存します。市場の新規参入や、競争優位性の強化、あるいは特定の技術や資源を取得する目的がある場合、M&Aは有効な戦略となるでしょう。

また、事業のリスクを分散したい、より多くの顧客にリーチしたい、オペレーションの効率化を図りたい、といった場合もM&Aを検討する良いタイミングとなります。

独立・起業

ビジネスの世界において、独立や起業は大きなチャンスであり、同時に大きな挑戦でもあります。自分自身でビジネスをゼロから立ち上げることは多大な時間と労力が必要です。しかし、その道のりはM&Aを通じて大幅に短縮できます。

オンラインショップの運営やアフィリエイトサイトの運営など、すでに成熟したビジネスを購入することで、事業の運営をすぐに始めることができます。これにより、新規事業立ち上げに伴うリスクを回避しつつ、即時に収益を得られる可能性があります。

また、飲食店やエステサロン、学習塾など、物理的な施設を必要とするビジネスもM&Aの対象です。これらのビジネスは、設備投資や顧客基盤の確立、地域との関係構築などが必要ですが、M&Aを通じてこれらを短期間で手に入れることができます。

一方で、M&Aには注意が必要です。ビジネスの価値を適切に評価し、それに見合った価格を見極めることが重要です。また、事業を引き継いだ後の運営計画や戦略をしっかりと練ることも不可欠です。これは、独自のビジネスを立ち上げる場合とは異なるスキルセットを必要とします。

これらの観点を考慮すると、M&Aは、新たなビジネスチャンスを迅速に掴むための有効な戦略といえるでしょう。市場のリサーチや専門的な助言を活用し、ビジネスを取得するための戦略をしっかりと練ることがM&Aの成功への鍵となります。

事業拡大・多角化

事業の拡大や多角化を進める一つの手段として、赤字企業の買収が考えられます。赤字企業の買収にはリスクを伴いますが、適切に実行された場合、高いリターンをもたらす可能性があります。重要なのは赤字の原因を明らかにし、企業価値を正確に評価することです。

たとえば、実際に事業未経験の個人が赤字のそば屋を買収した事例があります。ここでの決め手は、銀座という好立地と、プロ意識の高い従業員を引き継げる点でした。他にも、赤字の清掃事業者を買収し事業承継に成功した事例もあります。この事例では、大企業との取引実績が買収の決め手となりました。

買収のメリットとしては、赤字企業の価格が抑えられる点や、経済的な節税効果が期待できる点です。しかし、リスクを無視して買収を進めれば、大きな損失につながりかねません。

そのため、M&Aの専門家やアドバイザーのサポートを受け、デューデリジェンスを徹底的に行うことが重要です。また、赤字企業を買収する際は、企業が持っている独自の技術やノウハウ、取引実績など、目に見えない資産の価値も評価に含めるべきです。

赤字企業の買収は、事業拡大や多角化のための選択肢となり得ます。しかし、その過程で深い洞察力と評価能力、そして賢い判断が必要となります。その結果、新たな価値を創造し、事業を成功に導くことができるでしょう。

シナジー効果

企業がM&Aを通じてシナジー効果を追求する際には、自社の強みと弱みを把握し、必要な経営資源を特定することが重要です。SWOT分析はその道具の一つで、具体的には自社の強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)を分析する手法です。

さらにアンゾフの成長マトリクスは、自社製品と市場の関係から成長戦略を考えるフレームワークとして役立ちます。市場浸透、新製品開発、新市場開拓、多角化という四つの戦略があり、それぞれが異なるシナジー効果をもたらす可能性を検証する手法です。

たとえば、市場浸透戦略では自社の製品を既存市場でさらに売り込むことにより、市場シェアの拡大を目指すことができます。一方、新製品開発戦略では新しい製品を開発し、既存の顧客層に売り込むことで売り上げ増加を狙います。

新市場開拓戦略では既存製品を新規市場に投入し、新たな顧客を獲得します。そして最後に、多角化戦略では新規市場で新規製品を開発・販売し、幅広い収益源を確保します。 どの戦略を選択するかは自社の現状と目指す方向性によるため、それぞれの戦略の特性とリスクを理解した上で選択することが重要です。これらの分析を通じて、M&Aが企業の成長戦略の一部としてどのように位置づけられるべきかを戦略的に検討するのです。

M&Aの規模は多種多様

M&Aの規模

M&Aは、会社組織や事業の拡大、縮小、再編における重要な手法です。この章では、その規模と種類、それぞれの特徴について解説します。なお、「規模」とは、M&Aの対象となる事業体のサイズを指すもので、個人事業から中小企業、大企業に至るまで幅広く存在します。

個人事業主のM&A

個人事業主に焦点を当てると、低予算でも買収可能な案件が多く存在します。その理由を考えてみましょう。答えは日本の企業の大半が小規模であることにあります。

事実、中小企業庁が公表するデータによれば、いずれの業種においても日本の企業の大半は中小企業です。その中には、個人事業や小規模法人も含まれており、その規模の小ささから100万円程度の低予算でも買収可能な案件が見つかる可能性があります。

しかしながら、個人事業の規模が小さいことから業種はある程度限定されます。100万円で買える企業として代表的な業種としては、Webサイト制作、飲食店経営、美容室、民宿運営、場所貸し(コワーキングスペースやレンタルスペースなど)などが挙げられます。

これらの業種は規模が小さくても収益を出せる可能性があり、初期投資が少なくて済むため、個人事業主にとって手が出しやすい/span>と言えるでしょう。

小規模M&A

小規模M&Aでも、対価よりも高い価値を持つ会社や事業を買収するチャンスが存在します。

十分な利益を出せているにもかかわらず、後継者がいないために売りに出される企業があるためです。これは中小企業庁の調査結果でも明らかにされており、経営者が引退を考え始める60代になっても後継者がいない割合は、2020年の時点で50%近くに達しています。

このような状況から見ると、これらの企業は潜在的に高い価値を持ちながらも、後継者不在という一因で売却されている可能性が高いのです。ここには、小規模ながらも十分な利益を生み出している企業が含まれており、それらを低価格で引き継げる可能性があるため、M&Aの大きなチャンスと考えることができます。

しかし、注意が必要なのは、売り値が安い理由が単に業績不振だけでないか、という点です。一見、利益が見込めるように思える企業でも、経営に問題がある場合や、債務超過に陥っているケースがあります。そのため、M&Aを検討する際には、企業の財務状況や事業の見通しを十分に把握しなければなりません。

中小企業のM&A

中小企業のM&Aもまた様々な形態が存在します。

個々の事例によりますが、事業譲渡の形でのM&Aが多くを占めます。事業譲渡とは、企業の一部または全部を他の企業に譲渡することで、債務を引き継ぐことなく、負債がない状態で事業を引き継ぐことが可能です。

これにより、新規事業開始の際に必要となる初期投資を抑えることができ、リスクの軽減にもつながります。

また、商品やサービス、設備、従業員など、事業運営に必要な要素をそのまま引き継げるメリットがあります。これは、新規事業をゼロから立ち上げるよりも時間とコストを大幅に削減できるため、効率的な

事業展開が可能となる大きな利点と言えるでしょう。

大企業のM&A

市場の競争力強化や新たな事業領域への進出など、戦略的な目的を持って行われることが一般的です。

市場シェアの拡大

大企業は、市場シェアの拡大を図るためにM&Aを行います。競合他社や関連業界の企業を買収することで、自社の市場地位を強化し、顧客基盤や販売チャネルを拡大することが可能となります。例えば、自動車メーカーが他社の自動車部品メーカーを買収することで、製品供給の安定性を高めることができます。

技術力・知識の獲得

大企業は、技術力や知識を持つ企業を買収することで、自社の競争力を向上させることがあります。特許技術や研究開発能力の高い企業を買収することで、新たな技術やノウハウを取り入れることができます。これにより、製品やサービスの品質向上や革新的な商品の開発が可能となります。

グローバル展開

大企業は、海外市場への進出を目指す際にM&Aを活用することがあります。海外企業の買収によって、現地の顧客ベースや販売ネットワークを獲得し、海外展開を加速させることができます。また、現地企業のブランド力や地域特有のノウハウを取り入れることで、市場進出の成功確率を高めることができます。

事業多角化

大企業は、既存事業の強化や新たな事業領域への進出を目指してM&Aを行います。異業種の企業を買収することで、新たな事業分野に参入し、収益の多角化を図ることができます。例えば、食品メーカーが飲料メーカーを買収することで、事業ポートフォリオを拡大し、市場のニーズに幅広く対応することが可能となります。

大企業のM&Aは、市場や競合状況の変化に柔軟に対応する手段として重要な役割を果たしています。戦略的なM&Aの実施により、企業の成長や競争力の向上を図ることができますが、同時に買収価格や統合の難しさなど、様々な課題も存在します。そのため、十分な検討とリスク管理が不可欠です。

M&Aの多様性の理解と戦略的活用がポイント

最後に、これらの規模の違いから見えてくるM&Aの多様性を理解することは、企業経営における重要な視点となります。個人事業から中小企業、大企業まで、その規模ごとに異なる特性やチャンス、リスクが存在します。

これらを適切に理解し、適切に対応することで、より効果的な経営戦略を立てることが可能となります。

さらに、M&Aを活用することで、新たな市場への参入や事業の多角化、経営資源の最適化など、企業経営における様々な課題解決の一助とすることが可能です。

しかし、それはあくまで適切にM&Aが行われた場合に限られます。企業の財務状況、ビジネスモデル、業界環境などを総合的に考慮し、リスクとリターンを見極めた上でのM&Aが求められます。

そのため、個人事業主、中小企業、大企業、いずれもM&Aを考える際には、自身のビジネス目標と、買収対象の事業が持つ価値を正確に評価することが大切です。さらに、その評価に基づいて適切な買収価格を設定し、買収後の経営計画を策定することも重要な要素となります。

以上のように、M&Aの規模は多種多様であり、それぞれに異なる特徴とメリット、デメリットが存在します。その中から自身の経営戦略に最適な形を選び、有効に活用することで、事業の発展と成功につなげることが可能です。

これからの経営環境の中で、様々なM&Aの形態を理解し、戦略的に活用することは企業にとって重要な経営資源となり得ます。それはM&Aや企業の規模を問わず、すべての事業体にとっての重要なポイントです。

M&Aの相場

M&Aの相場

企業の成長や事業展開を加速させる手段の一つとして、企業の合併や買収(M&A)があります。M&Aは新規事業の立ち上げに比べ、既存のビジネスリソースや顧客基盤を素早く獲得できるため、効率的な成長戦略となり得ます。

ただし、M&Aを行う際には買収価格という大きな経済的負担が発生します。今回は、このM&Aの相場について詳しく見ていきましょう。

M&A価格の決定要素

M&Aの相場は一概には決められません。なぜなら、M&A価格は買収対象企業のビジネス規模、財務状態、業界内の競争状況など多くの要素によって変動するからです。その中でも特に重要な決定要素として、企業価値、付加価値、取得する株式の数や特徴があります。

企業価値は、企業の過去と現在の業績に基づいて算出されます。売上、利益、資産、負債などの財務指標が大きな役割を果たします。

一方で、将来の収益性や成長性も非常に重要です。これは将来のキャッシュフローや収益を予測し、現在価値に換算するディスカウントキャッシュフロー法(DCF法)などで評価されます。

付加価値は、企業が持つ特有の価値を指します。顧客リストや従業員の技術、ブランド力、特許、立地、市場シェアなどがその例です。これらの要素は、M&Aの目的によってその評価が変わることがあります。

たとえば、新たな地域で事業を展開したい企業にとっては、その地域で強固な顧客基盤を持つ企業の価値は高く評価できるでしょう。

株式の数や特徴も、M&A価格に影響を与える要素です。特に、対象企業の過半数の株式を取得し、経営権を得る場合には、通常、支配権プレミアムと呼ばれる価格の上乗せが行われます。

また、公開市場で自由に売買できない非流動性の株式は、その流動性の低さに対する割引、非流動性ディスカウントが適用されることがあります。

M&Aの価格評価指標

M&Aの相場を把握するためには、EV/EBITDA倍率という指標が有効です。これは、企業の価値(企業価値)とその収益力(EBITDA)の比率を示すもので、M&Aの買収価格が回収可能な期間を示しています。

たとえば、EV/EBITDA倍率が5であれば、5年分の利益でM&Aのコストを回収できる見込みがあるということです。倍率が低ければ低いほど、投資回収期間が短く、リスクも少なくなります。

ただし、EV/EBITDA倍率はあくまで一つの評価指標であり、全ての事情を反映しているわけではありません。他の財務指標と併せて使用することで、より正確に企業価値を把握できます。

M&Aに伴う追加費用

M&Aの費用は買収価格だけではありません。M&Aを進める過程で、仲介会社への報酬や専門家への報酬といった追加費用が発生します。

仲介会社への報酬は、M&A取引金額に一定の料率を乗じた額が一般的です。しかし、一部のM&Aマッチングプラットフォームでは、定額の費用で多くの企業情報を提供しており、手軽にM&Aの候補を探すことが可能です。

また、M&Aを実施する前には、対象企業の財務状況や法務状況などを詳しく調査する必要があり、専門家に依頼することが一般的です。これにも一定の費用が発生しますが、企業価値を正確に把握し、適切なM&A価格を決定するためには欠かせない作業です。

以上、M&Aの相場を理解するための基本的な知識と考え方を解説しました。買収対象企業の評価は複雑で、各種の要素が絡み合っています。M&Aの成功には正確な企業価値の評価が必要不可欠であり、評価の精度を上げるためには、豊富な知識と経験が求められます。

なお、M&Aは高額な取引となることから、必ずしも安い方が良いとは限りません。その価格が対象企業の真の価値に見合っているか、また、その企業を取得することでどれだけの収益が期待できるかという観点から、価格を総合的に判断することが重要です。

M&Aの成功は、適切な価格設定から始まります。対象企業の真の価値を見極め、適正な価格を支払うことで、より大きなビジネスチャンスを掴むことができます。しかし、その過程は決して簡単なものではありません。M&Aの成功には専門知識や経験、そして適切なアドバイスが欠かせません。

一方で、M&Aの相場について知識を持つことは、事業の成長を考える上で非常に重要な要素となります。事業拡大や新規事業の立ち上げなど、様々な選択肢の中から最適な戦略を選ぶ際の一つの基準となるでしょう。そのためにも、M&Aの知識を深め、適切な判断ができるようになることが求められます。

M&Aは大きなリスクを伴いますが、それだけの大きな成果をもたらす可能性を秘めています。その機会を最大限に活かすためには、M&Aの相場を理解し、その上で最適な判断を下すことが不可欠です。

M&Aのメリット

M&Aのメリット

M&Aは企業にとって大きなメリットをもたらす戦略的手段であり、財務強化、市場進出、技術獲得など、多岐にわたる利点があります。しかし、その成功は適切なパートナー選び、価格設定、そして統合戦略に大きく依存します。

売り手企業と買い手企業が享受できるM&Aの具体的なメリットと注意点について詳しく解説していきます。

売り手(譲渡)企業のメリット

売り手企業にとって、M&Aは一定の業績を維持し、さらには成長を続けるための重要な手段です。M&Aには後継者問題の解決、資金調達、企業価値の最大化、そして廃業コストの削減など、多くのメリットがあります。下記では、これらのメリットについて詳しく解説します。

後継者問題の解決と従業員の雇用の確保

中小企業、特に家族経営のビジネスでは後継者問題は常に深刻な課題となります。

後継者が見つからない、または後継者がいても経営に適した能力や意欲がない場合、企業の存続が危ぶまれることもあります。このような状況下でM&Aはひとつの有効な解決策です。

他の企業との統合や売却により、企業の価値は次世代へと引き継がれ、新たな経営者による活性化が期待できるのです。また、M&Aによって事業が消滅することは少なく、大抵の場合は事業が継続されます。これにより従業員の雇用が確保され、事業の安定と経済の健全性に寄与することができます。

資金調達

企業が新たな成長ステージに進出するためには、大きな資金が必要となる場合があります。

新たな設備投資、研究開発、市場開拓などは、資金があることでそれらの可能性が広がります。しかし、銀行融資や株式公開などの通常の資金調達方法は必ずしも容易ではありません。

一方で、M&Aは売却によって一度に大きな資金を得ることができ、企業の資金調達という難問を解決することができます。売却によって得た資金は、次の事業機会への投資や負債の返済、さらには株主への利益還元に使用することが可能です。

企業価値の最大化

M&Aは、企業価値を最大化するための有効な手段です。

特に、複数の事業や多様な商品を展開している企業においては、不採算事業や製品ブランドを譲渡することで、経営資源を主力事業や製品に集中させることが可能になります。この「選択と集中」の経営方針は、経営の効率化や業績向上に直結し、結果的に企業全体の価値を高めます。

具体的には、不採算事業に投じていた人材や費用を主力事業に集中させることで、その事業の拡大や強化が可能です。これにより、売り手企業は自社の強みを最大限に活かしながら、新たな経済的なシナジーを創出し、結果的に企業価値の最大化に繋がるのです。

廃業コストの回避

企業が事業を停止する際には、さまざまな廃業コストが発生します。

これには、設備の撤去や処分、契約の解除、従業員の解雇などが含まれます。特に、大規模な工事を伴う設備の撤去には、多くの時間と費用が必要です。また、従業員の解雇を伴う場合には企業の社会的な責任の観点で、何らかの補償金を支払う場合もあるでしょう。

これに対してM&Aでは、売却することによるこれらの廃業コストを避けることが可能です。つまり、買い手企業が事業を引き継ぐことにより、設備の撤去や従業員の解雇といった廃業時の負担も軽減されるのです。

売り手企業のメリットのポイント

売り手企業はM&Aによって多くのメリットを享受することができます。

しかしながらM&Aを成功させるには、最適な売却先の選択、適切な価格設定、そして売却後の従業員の待遇など、さまざまな要素を考慮しなければなりません。それぞれの要素は重要な意味を持っています。

たとえば、売却先の選択では、事業の相性や文化、ビジョンの一致が重要です。価格設定では、企業価値を正確に評価し、妥当な価格で取引を行うことが求められます。従業員の待遇については、組織の継続性と従業員の士気を保つために、適切な待遇を確保することが重視されます。

買い手(譲受)企業のメリット

M&Aは買い手企業にとっても重要な戦略であり、新規事業参入、規模の経済性、技術力向上、そして事業の多角化など、多くのメリットがあります。下記では、これらのメリットについて詳しく解説します。

新規事業参入

M&Aは新規事業への参入にとって効果的な手段です。

新規事業をゼロから立ち上げることは、多大なコストや時間、さらには高いリスクを伴います。しかし、M&Aにより既存の企業や事業を買収することで、即時に新規事業を始めることができます。また、買収することで既存の顧客ベース、ブランド、販売チャネル、技術などを利用することが可能です。これらは新規事業の成功にとって重要な要素であり、M&Aによってこれらを短期間で手に入れることができます。

取引先・店舗網の拡大による規模の経済性

M&Aは取引先や店舗網の拡大による企業のスケールアップを可能にします。

企業が拡大することで「規模の経済性」が生じ、単位あたりのコストを下げることが期待できるのです。これは大量生産による製造コストの低下、広範な分布ネットワークによる販売効率の向上、一括購入による原材料コストの削減など、さまざまな恩恵が考えられるでしょう。

この規模の経済性は企業の競争力を向上させ、利益率を高める効果があります。

技術力向上(既存事業の強化)

M&Aを通じて、買い手企業は他社の技術力を取り込むことができます。

特に、テクノロジー関連の企業では、新しい技術を獲得することが絶えず求められています。新しい技術を自社で開発することは時間と費用がかかりますが、M&Aを通じて他社の技術を取得することで、既存事業の強化や新たな価値提供が可能です。

また、これは新たな市場への早期進出や、競争優位性の確保にもつながります。

事業の多角化

M&Aは企業の事業を多角化するのに有効な手段です。

企業が1つの事業に依存すると、その市場の変動に大きな影響を受けるリスクがあります。しかし、事業の多角化を行うことで、市場の変動に対するリスクを分散し、企業全体の安定性を高めることができます。M&Aを通じて異なる市場や事業領域に進出することで、この多角化を短期間で実現することができます。

買い手企業のメリットのポイント

M&Aは買い手企業にとって多くのメリットを提供しますが、それはリスクなしに得られるものではありません。

適切な売り手企業の選定、適正な価格での取得、そして統合後の経営管理など、M&A成功のためには注意すべきポイントが多々あります。これらは全て計画的にアプローチすることが重要であり、そのためには詳細なデューデリジェンスや専門知識が欠かせません。

また、統合後の組織文化の調和や従業員のモチベーション維持など、人間関係の管理も重要な要素です。これらの課題をクリアすることで、M&Aは企業の成長と発展に大いに寄与する手段となり得ます。

M&Aのデメリット

M&Aのデメリット

M&Aは企業にとって多くのメリットをもたらす一方で、綿密な調査分析や戦略により成功の確率を上げられるとはいえ、必ずしも成功を保証するものではありません。

M&Aのプロセスは複雑で、現実的に多くのリスクを伴います。また、経営資源の一時的な集中化や組織文化の衝突など、想定外の課題が発生することもあります。この章では、売り手企業と買い手企業の観点から、M&Aにおける主なデメリットについて解説します。

売り手(譲渡)企業のデメリット

売り手企業にとって、M&Aは企業の成果を換金する大きなチャンスですが、それは一部のリスクを伴います。

具体的には、企業のアイデンティティや統制の喪失、従業員の士気の低下、企業イメージやブランド価値への影響などのリスクが顕在化する可能性があります。これらの問題に対応するためには、事前の十分な準備と明確なビジョンが必要です。

企業のアイデンティティと統制の喪失

企業がM&Aにより買収されると、そのアイデンティティや統制を失う場合があります。

これは、企業の経営方針、企業文化、経営者自身の地位や役割が変化する可能性があるためです。たとえば、従来の価値観や経営方針が買収先企業によって変えられ、企業の成長と戦略を担ってきた既存の経営陣が影響力を失うこともあります。

これらの変化は、企業のアイデンティティに影響を及ぼす要因となり、結果として従業員の士気や生産性、更には企業全体のパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があります。

従業員の士気の低下

M&Aは従業員のメンタル面に深い影響を及ぼす可能性があります。組織の統合やリストラなどの結果、従業員間で不確実性や不安感が高まることがあるためです。

これは、職務の変更、上司やチームメンバーの変更、あるいは雇用の安全性への懸念などが大きな要因です。これらの要素は、従業員の士気や生産性にネガティブな影響を及ぼし、結果として企業のパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性があります。

企業イメージやブランド価値への影響

企業のイメージやブランド価値は、その企業の成功において重要な役割を果たします。

しかし、M&Aはこれらに影響を及ぼすかもしれません。不適切に行われたM&Aは、企業の評判や信用性を損なう可能性があり、これは顧客の信頼を失う結果を招くことがあるのです。

また、企業のアイデンティティや価値観がM&Aを通じて変化すると、既存の顧客との関係にも影響を及ぼす場合があります。特に、ブランド忠誠度が高く顧客との強いつながりを持つ企業にとっては、この変化は顧客との信頼関係に影響を及ぼし、結果的に売上げや利益に影響を及ぼす可能性があります。

デューデリジェンスの欠陥や不十分な評価による不利益

M&Aのプロセスは非常に複雑で、全ての要素が適切に評価・調査されていることが求められます。この評価・調査の過程をデューデリジェンスと呼びますが、その質が不十分または欠陥がある場合、売り手企業は重大な不利益を被る可能性があります。

特に、契約条件の見落としや買収価格の不適切な評価は、後々に大きな経済的損失を引き起こすかもしれません。そのリスクを回避するためには、デューデリジェンスを通じて詳細な準備を行い、必要に応じて専門的な知識を持つ外部のアドバイザーを活用することが重要となります。

売り手企業のデメリットのポイント

売り手企業がM&Aを考える際には、これらのデメリットを慎重に評価し、可能な限りリスクを軽減する対策を計画することが重要です。

企業のアイデンティティや従業員の士気を守ること、企業価値を最大化し、適切な価格での売却を図ることが求められます。これには、事前の詳細な準備と明確なビジョン、そして適切で専門的な支援が必要となります。

買い手(譲受)企業がデメリット

一方、買い手企業もまた、M&Aによる利益と並行していくつかの課題に直面します。

高額な買収コスト、企業文化の衝突、事業の過度の多角化、そして事業価値の評価の困難さなど、注意すべき点は数多く存在します。適切な対象の選定、事前のリスク評価、そして統合後の経営について慎重に計画することが、これらのリスクを軽減する鍵となります。

高額な買収コスト

通常、M&Aは大きな資本投資を必要とします。買収価格は当然のことながら高額であり、それが企業の財務に影響を及ぼすことは明らかです。

しかし、実際のコストはそれだけではありません。法的な手続き費用、経営コンサルティング費用、デューデリジェンス(財務や法的な調査)費用など、隠れたコストも少なくないのです。

さらに、買収後の統合プロセスにおいては、システム統合や再構築のためのITコスト、人事・組織調整のためのコスト、ブランドやマーケティング戦略の整合性を図るためのコストなど、予想外の追加費用が発生することもあります。これらは全て企業の財務に大きな負担を与え、その他の重要な投資や事業活動に影響を及ぼす可能性があります。

企業文化の衝突

異なる企業間でのM&Aでは、企業文化の衝突が問題になる場合があります。

企業文化とは、企業の価値観、行動規範、経営スタイルなどを包括する概念であり、これが一致しない場合、組織内に混乱を生じさせ、結果として生産性を低下させることがあるのです。

従業員間の摩擦は、モラルの低下を引き起こし、退職率の上昇や業績の低下といった具体的な悪影響をもたらします。これを克服するためには、事前の十分な調査と、統合後の明確なコミュニケーション戦略、そして異なる企業文化を尊重し受け入れる姿勢が必要となります。

事業の過度の多角化

多角化はビジネスリスクを分散する一方で、過度な多角化は経営資源の分散や組織の複雑性を招き、管理能力を超える可能性があります。

特に、本業とは異なる新規事業に参入する場合、その事業領域についての深い理解やノウハウが不足していると、経営効率が損なわれるかもしれません。また、各事業間でのシナジーが見込めない場合、企業全体の競争力を弱める結果となり得ます。

過度の多角化は、組織の複雑性を増し、意思決定プロセスを遅延させ、結果的にパフォーマンスの低下や組織の非効率性を引き起こすことがあるのです。

事業価値の評価の困難さ

事業価値の正確な評価は、買収価格を決定する上で重要ですが、これは困難なタスクであり、多くの不確実性を伴います。

M&Aでは、将来の収益性や成長性、市場環境の変化、競合他社の動向、規制リスクなど、多くの要素を考慮することが求められるのです。適切な評価を行わないと、過大評価や過小評価につながり、それぞれ過度の費用負担や機会損失を引き起こすかもしれません。

評価誤差は後の統合プロセスで大きな問題を引き起こし、買収の目的を達成することを阻む可能性もあります。

事業価値の評価の困難さ買い手

買い手企業がM&Aを検討する際には、これらのデメリットを重視し、事前の十分な準備と評価が必要です。

財務的な負担、企業文化の融合、事業の多角化の度合い、そして事業価値の評価など、様々な視点から慎重な判断が求められるのです。買収後の統合をスムーズに行うための戦略的な計画を立てることが、これらのリスクを軽減し成功へ導く鍵となるでしょう。

M&Aの種類・手法(スキーム)

この章では、企業が成長戦略として活用する手段の1つであるM&Aの主要な種類と手法(スキーム)について詳しく解説します。M&Aには買収、合併、分割といったさまざまな形態があり、それぞれを実現するための手法があります。

買収

企業の買収とは、1つの企業が別の企業の経営権を取得する行為を指します。

これは、新たな市場への進出や技術の獲得など、企業の成長や競争力強化を目指す上で有効な戦略です。具体的な買収のスキームとしては、株式取得と事業譲渡があります。

株式取得

株式取得は、買収の一手法としてよく用いられます。

これは1つの企業が別の企業の株式の一部または全てを取得し、その経営権を握ることを意味します。この手法は、新たな市場への進出や技術の獲得、業界内での競争力の強化などを実現するために活用される方法です。

たとえば、新たな市場へ進出する際には、現地での営業ネットワークや知名度を持つ企業を買収することで、新規進出のリスクを軽減することが可能です。

また、技術の獲得を目指す場合には、独自の技術を保有する企業を買収することで、研究開発期間の短縮や技術の専有が期待できます。

事業譲渡

事業譲渡とは、一企業が自身の事業の一部または全部を他の企業に譲渡することを指します。

買収を検討する企業、つまり買い手企業の視点から見ると、これは既存の事業とシナジーを発揮できる新たな事業を迅速に獲得するための有効な手段となり得ます。

譲渡される事業は、元の所有者にとっては関連性の低い事業や収益性の低い事業であるかもしれません。ただし、買い手企業にとってはその事業を効率的に運営する方法や自社の他の事業と組み合わせて価値を高める方法を持っている場合、大きなチャンスとなります。

そのため、事業譲渡は買収を希望する企業にとって重要な選択肢となります。

合併

合併とは、2つ以上の企業が1つの企業に統合されることを指します。

これには新規合併と吸収合併という2つの主要なスキームが存在します。どちらのスキームも、企業の規模を拡大し、経済的規模のメリットを生み出すために利用されます。

新設合併

新設合併とは、複数の企業が自身の事業を1つの新しい会社に統合する形態を指します。この手法では、参加する全ての企業が解散し、新たに設立される法人に事業を譲渡します。そのため、組織の変革を行いたいときや新しいビジョンを共有するために有効な手法です。

その一方で、新たな会社の設立には、時間とコストがかかるため、計画的に進めることが必要です。また、参加企業が解散するため、株主や従業員の合意形成も重要なポイントとなります。

新設合併は一見複雑に思えますが、それぞれの参加企業が自身の強みを活かし、新たな価値を創造するためのプラットフォームを提供することが可能です。

吸収合併

吸収合併は、ある会社(被吸収会社)が他の会社(吸収会社)に事業を譲渡し、被吸収会社は解散する一方で、吸収会社はそのまま存続するという形態を指します。

吸収合併は、吸収会社が存続するため、新たな会社を設立する手間やコストを省くことが可能で、企業間の統合を迅速に進めることができます。さらに、吸収会社は被吸収会社の資産や人材、ノウハウを獲得し、自社の競争力を向上させることが可能です。

しかし、吸収合併では吸収会社の文化や価値観が優先されることが多く、被吸収会社の従業員のモチベーション低下や退職、そして知識・技術の流出リスクを抱えます。

そのため、合併後の人材マネジメントや文化統合は特に重要な課題となります。

分割

分割とは、企業が自社の一部または全体を別の企業に移管することを指します。

これは企業が新しい事業機会を追求したり、リスクを管理したりするために行われることが多いスキームです。分割は主に新設分割と吸収分割の2種類があります。

新設分割では新たに会社を設立して分割する手法です。一方、吸収分割では既存の会社が分割部分を吸収します。以下では、新設分割と吸収分割の概要、目的、メリットについて説明します。

新設分割

新設分割とは、企業が自社の一部または全体を別の新たに設立された会社に移管することを指します。これは、企業が新たな事業機会を探求する際や、特定の事業部門を独立させて経営資源を効率的に配置するために行われることが多いです。

新設分割の主な目的は、企業の戦略的なリストラクチャリングを実現することです。たとえば、成長性の高い事業を独立させて経営資源を集中的に投入することで、全体の競争力を強化することができます。また、事業の特性や規模によっては、新たに設立した会社のほうが適切な経営を行うことができる場合もあります。

新設分割のメリットとしては、まず、経営資源の効率的な配置です。新たに設立した会社では、それぞれの事業の特性に合わせて経営資源を配置することができます。また、新たに設立した会社が独自の戦略を立案し、自己の成長を追求することも可能です。

吸収分割

吸収分割とは、企業が自社の一部または全体を既存の他社に移管することを指します。これは、企業が特定の事業を他社に委ねて、経営資源を他の重点的な事業に集中するために行われることが多いです。

吸収分割の主な目的は、事業の再編や経営資源の再配置を実現することです。特に、企業の規模や事業領域が広大な場合、一部の事業を他社に委ねることで、経営の効率化やリスクの分散を図ることが可能となります。また、他社がその分野での専門知識や経験を持っている場合、より効果的な事業運営が期待できます。

吸収分割の主なメリットは、特定の事業の専門化や企業全体の経営効率の向上です。既存の他社が分割部分を吸収することで、その事業は更なる専門性を身につけ、より競争力のある事業体となる可能性があります。

また、分割によって企業全体の経営資源が集中し、一層の競争力強化を達成することができます。

買収・合併・分割の注意点

買収、合併、分割といった企業の成長戦略に欠かせない手法ですが、それらの実行には様々な注意が必要です。これらは大きな投資を伴うため、その成果を十分に発揮させるためには事前の評価と準備が不可欠となります。以下では、それらの注意点を具体的に見ていきましょう。

企業文化の違い

企業が統合や分割を行う際、特に注意すべき点として企業文化の違いが挙げられます。企業文化は組織の価値観や行動原則を形成し、それが経営成績に大きな影響を及ぼすためです。異なる企業文化を持つ組織が統合する場合、それぞれの価値観の違いから組織間の摩擦が生じる可能性があります。このような問題を適切に管理しないと、業績悪化や人材流出といった問題を引き起こす可能性があります。

デューデリジェンス

買収や合併の対象となる企業、または分割により独立させる予定の事業部門の真の価値を理解するためには、適切なデューデリジェンスが欠かせません。デューデリジェンスは、企業の財務状況、法律問題、業務状況、企業文化などを詳細に分析することで、その企業の真の価値を評価します。また、法律や規制、税務などに対する深い理解も重要となります。

適切な価格設定と戦略的視点

買収や事業譲渡を行う際には、適切な価格設定と戦略的視点が必要です。これには、対象企業や事業部門のビジネスモデル、財務状況、将来性などを詳細に分析することが含まれます。適切な価格設定を行うためには、譲渡対象の事業価値を正確に評価し、市場状況や将来予測を考慮に入れることが重要です。これらの評価は、企業が最大のメリットを得られるように、またリスクを最小限に抑えるために不可欠です。

組織統合とプロジェクト管理

最後に、買収や合併における組織統合、分割における事業部門の独立には大量の時間とリソースが必要となります。それぞれのプロセスは複雑であり、計画と実行の両段階で厳格なプロジェクト管理が求められます。スムーズな統合を図るためには、事前に十分な計画を立て、適切なコミュニケーションを図ることが重要です。それにより、業務体系の変更や人材の配置についての課題にも適切に対応することが可能となります。

以上のような観点から、買収・合併・分割の過程は企業が新たな事業展開を行い、成長を実現するための重要なステップであり、その遂行には戦略的な判断と複雑な準備が必要です。適切に実施すれば、これらの手法は企業にとって非常に価値のある手段となり得ます。したがって、各手法の特性を理解し、適切な戦略を練ることが重要です。

項目 手法 概要 利点 リスク 対策・注意点
1 買収 ある企業が他の企業を買い取り、その企業の所有権を得る 新規市場への進出、新技術の獲得、コスト削減 価格の設定、経営統合の難しさ、文化的な違い 取得企業のビジネスモデル、財務状況、将来性の詳細な分析、適切な価格設定
2 合併 二つの企業が合体し、新たな企業を創設するプロセス 競争力を増す、市場シェアを増やす、新たな技術や資産の獲得 文化的な違い、統合の難しさ、反トラスト法の問題 合併前の計画と準備、適切な価値評価、法律への配慮
3 分割 企業がその一部を別の企業体として分離・独立させる 集中的な経営、負債の切り離し、事業体の明確化 分割費用、事業体間の連携の損失、顧客や取引先からの混乱 分割計画の詳細な策定、財務および法務面での正確な評価、内外へのコミュニケーション

M&Aの流れ・手順

M&A(合併・買収)は企業間の戦略的な取引であり、一般的に以下の手順で進行されます。

M&A戦略の策定

M&Aを検討する企業は、まず自社の戦略目標に基づきM&A戦略を策定します。これには成長戦略や市場進出戦略などが含まれます。M&Aの目的や優先順位を明確にし、実現可能性を評価します。

プロジェクトチームの結成

M&Aを推進するために、プロジェクトチームが組織されます。経営陣、法務、財務、事業開発などの関係者が参加し、戦略の実行に向けた具体的な計画を策定します。

目標会社の特定

M&Aの目的に基づき、市場調査や業界分析を行い、目標となる会社を特定します。市場シェア、技術力、顧客ベースなどの要素を考慮し、戦略的なマッチングを追求します。

交渉と評価

目標会社を特定したら、交渉を開始します。買収価格や条件、株式の譲渡方法などについて協議します。同時に、目標会社の財務状況や評価額を評価します。財務専門家やアドバイザーの支援を受けながら、公正な評価を行うことが重要です。

デューデリジェンス

交渉が進展したら、買収対象会社のデューデリジェンスが行われます。これは買い手企業が対象会社の財務、法務、人事、営業などの側面を詳細に評価するプロセスです。リスクやメリットを把握し、将来のパフォーマンスやシナジーの可能性を判断します。

合意文書の締結

デューデリジェンスの結果を踏まえて、買収条件や契約の詳細を明確にするため、買い手企業と売り手企業で合意文書を締結します。主な合意文書としては、基本合意書(LOI)や契約締結書(SPA)があります。これらの文書には取引条件や価格、株式の譲渡手続きなどが明記され、双方の合意を確認する重要なステップとなります。

承認と規制対応

M&A取引は、関連する規制当局や株主の承認を必要とする場合があります。適用される法律や規制に基づき、必要な手続きを行わなければなりません。これには独占禁止法や証券取引法、企業法などの法的な要件が含まれます。また、株主総会や株主投票などの手続きも行われる場合があります。

クロージング

合意文書の締結と必要な承認が完了したら、M&Aのクロージングが行われます。この段階で買い手企業は資金の調達を完了し、対象会社の株式や事業を正式に取得します。買い手企業は取得手続きや必要な登記手続きを行い、取引を完了します。

アフターM&A

M&Aの完了後、買い手企業は対象会社を統合し、事業を運営していく過程に入ります。組織の文化統合、業務の合理化、人材の配置など、アフターM&Aのフェーズでは買い手企業が成功を収めるための戦略的な取り組みが必要です。また、取引の成果を評価し、必要に応じて調整や改善を行うことも重要です。

顧客・取引先の合意

M&Aの取引は顧客や取引先にも影響を与える可能性があります。買い手企業は取引の進行や統合計画について、主要な顧客や取引先との間で合意を形成する必要があります。この過程では、意思疎通や信頼関係の構築が重要です。

従業員の関与とコミュニケーション

M&Aは従業員にも大きな影響を及ぼします。買い手企業は従業員の関与を確保し、変化に対する不安を軽減するために、適切なコミュニケーションプランを策定します。従業員への情報提供や質問への対応、必要なトレーニングや移行プロセスのサポートなどが含まれます。

企業文化の統合

M&Aの成功には、効果的な企業文化の統合が不可欠です。買い手企業は組織の文化や業務プロセスの統一、システムの統合、重複部門の再編成などを実施します。これによりシナジー効果が最大化され、合併後の新たな価値が生み出されます。

成果の評価と修正

M&Aの取引の結果や成果を定期的に評価し、必要な修正や改善を行います。目標達成やシナジーの実現度、経済的な成果などを分析し、戦略の適切性や実行力を評価します。必要に応じて戦略の修正や取引後の調整が行われることで、取引の成功を持続的に確保します。

上記の手順は一般的なM&Aの流れを説明していますが、実際の取引には様々な要素や個別の条件が存在することに注意してください。M&Aは複雑なプロセスであり、専門知識や専門家の助言を受けながら進めることが重要です。

M&Aの成功事例

M&Aは企業にとって重要な戦略的ツールであり、適切に実行された場合には大きなビジネスチャンスを獲得することができます。しかし、その成功には十分な準備、明確な戦略、適切な実行が不可欠です。ここでは、これらの要素がうまく組み合わさったM&Aの成功事例を紹介します。

売り手(譲渡)の成功事例

H.I.Sによるハウステンボスの全株式譲渡は、注目すべきM&Aの成功事例です。日本の大手旅行代理店である株式会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)は、新型コロナウイルスの影響で業績が悪化し、経営の立て直しを迫られていました。その中で、H.I.Sは佐世保市に位置する大型テーマパーク『ハウステンボス』の全株式を香港のパシフィック・アライアンス・グループ(PAG)に売却することを決断しました。

H.I.Sが譲渡した株式はハウステンボスの株式の66.7%に相当します。残りの33.3%もPAGが九州電力やJR九州などの地元企業から買い取りました。このM&Aの背景には、ハウステンボスの業績悪化と、コロナ禍による観光業の低迷がありました。H.I.Sは事業再編と経営資源の集中化を図るため、PAGとの交渉を進めました。

PAGはハウステンボスの魅力と潜在力に着目し、観光産業への投資を積極的に行っています。このM&Aにより、PAGはハウステンボスをさらなる成長へと導くことを目指しています。また、地元企業の参画もあり、地域振興と連携を図る意義もあります。

次にオリンパスによる科学関連事業の譲渡も成功事例として挙げられます。オリンパス株式会社は、2022年8月に子会社の株式会社エビデントをベインキャピタルに譲渡することを発表しました。エビデントは科学関連事業を手がける会社であり、オリンパスの経営資源の集中化と事業再編が目的でした。

ベインキャピタルは米国に本社を置く投資ファンドであり、日本市場での投資活動を拡大しています。譲渡額は約4,276億円であり、2023年4月に譲渡手続きが行われました。オリンパスは事業売却後、医療分野を経営の柱とし、内視鏡事業や治療機器事業への経営資源の集中投下を計画しています。この戦略により、オリンパスは自社の強みである医療技術とブランド力を最大限に活用し、競争力を高めることを目指しています。

中小企業のM&A成功事例としては、澤村製作所の事業売却が挙げられます。澤村製作所は茨城県にある創業50年の会社であり、プラスチック射出成型を専門としていました。しかし、代表者が高齢化し、事業承継の課題が浮上しました。

澤村製作所の強みは、高度な技術を持つ従業員と24時間体制で稼働する工場です。市場へ高品質な製品を安定的に供給でき、顧客から高い評価を得ていました。このような事業基盤を持つ澤村製作所に対して、株式会社カネバンというアニメ向けグッズの製造・販売を手がける会社が興味を持ちました。

カネバンは自社で受けきれない仕事が増えていたため、技術力の高い製造会社を探していたのです。澤村製作所は同業種であり、相互のニーズが一致しました。譲渡交渉はスムーズに進み、カネバンから派遣された工場長の指導の下で、澤村製作所は順調に売上を伸ばしています。

これらの事例は、売り手(譲渡)側の成功事例を示しています。大手企業のハウステンボスやオリンパスのような事業再編や経営資源の集中化を目指すケースや、中小企業の澤村製作所のような事業承継課題を解決するケースがあります。M&Aは企業の成長戦略や経営課題解決の手段として重要な役割を果たしており、成功事例から学ぶことは多いです。

買い手(譲受)の成功事例

買い手(譲受)の成功事例として、SBIホールディングスが2022年9月にアルヒ株式会社の取得を発表した事例から見ていきましょう。アルヒは「フラット35」のような住宅ローン製品を主力とする国内の大手住宅ローン専門金融機関です。SBIホールディングスの完全子会社であるSBIノンバンクホールディングスによるTOB(株式公開買い付け)を経て、51.0%までの株式が取得されました。これにより、アルヒはSBIホールディングスの連結子会社となり、二つの企業は今後、共同で住宅ローン商品の開発などを進める計画が立てられています。

また、2021年5月にはGMOインターネットグループが、飲食店予約管理サービスを提供するOMAKASEを株式交付により子会社化しました。これは、新たに2021年3月に設けられた「株式交付制度」を活用した初期の事例となります。GMOはこの取得により、自社が展開するインターネットインフラ事業とOMAKASEとの間にシナジー効果を生み出すことを目指しています。

次に、凸版印刷が2021年6月にデジタルピッキングシステム事業を手がけるアイオイ・システムを子会社化することを決定した事例を見てみましょう。アイオイ・システムは、製造・物流作業におけるピッキング効率の向上をサポートする、この分野での国内大手企業です。凸版印刷は物流業界におけるDX市場への積極的な参入を表明しており、サプライチェーンのデジタル化を目指しています。

買収は中小企業においても自社の成長と拡大に対する有効な手段として利用されています。電気通信工事業を手掛けるトライマークは、弱電分野を主力としていたものの、自社の事業を拡大するために電気工事(強電)事業を買収しました。その後、買収した事業の顧客層と地理的近さ、技術力を活用して、弱電事業と強電事業のシナジー効果を実現しました。この取得により、トライマークは自社のサービス範囲を広げ、新たな収益源を開拓することが可能となったのです。

また、ヘルスケア業界では、ITソリューション企業のサイボウズが、医療情報管理システムを手掛けるミツイワ情報システムを買収しました。これによりサイボウズは、医療業界での市場拡大を見据えて、そのシステムの提供範囲を大幅に拡張することができました。これは、新たな市場への進出を目指す企業にとって、買収がどのように役立つかを示す好例です。

同様に、農業業界でも買収が進んでいます。アグリテック事業を展開する農業法人「アグリノート」は、農業用無人ヘリの開発・製造を行っているテラドローンを買収しました。この結果、アグリノートは自社のAI技術とテラドローンの無人ヘリ技術を組み合わせることで、より精度の高い農業支援を可能としました。

これらの事例から分かるように、日本におけるM&Aは多様な業種で行われており、各企業の事業拡大や新たな事業領域への参入を実現しています。また、買収による新たな市場の開拓、シナジーの創出、技術力の強化など、様々な戦略が実行されています。これらの動きは今後も続き、日本企業の成長と発展に大きく寄与すると考えられます。

M&Aの失敗事例とトラブル回避のポイント

M&Aは企業の成長戦略の1つであり、これを適切に進めることで大きな成果を上げることができます。しかし、適切な準備や手続きを怠った場合、大きな損失をもたらすリスクもあります。ここでは、その失敗事例とトラブルを回避するためのポイントを説明します。

売り手(譲渡)の失敗事例とトラブル回避

売り手としてM&Aを進める際の失敗例は多岐にわたります。最も一般的な失敗例として挙げられるのが、自社の事業価値を適切に評価しないことです。自社の事業価値を過小評価してしまうと、適正価格よりも低い価格で企業を譲渡してしまう可能性があります。この結果、企業が持つ真の価値に見合わない金額で取引されることで、財務的な損失を被ることになります。

また、売却のタイミングを誤ると、経済的困難から廃業する可能性もあります。具体例として、A社のケースを紹介しましょう。設備工事業を営むA社のM&Aの成立前に資金が尽きてしまった事例です。A社社長は後継者候補がいないことに頭を悩ませていましたが、事業承継について具体的な行動を起こすのが遅すぎました。結果として、資金繰りが悪化する中でA社が売却先を探す時間的な猶予は残されておらず、最終的に廃業という結末を迎えました。

事業価値の評価には専門的な知識が必要で、マーケット・アプローチやインカム・アプローチ、コスト・アプローチなど、様々な評価方法があります。それぞれの評価方法が持つ長所と短所を理解し、事業の性質に最も適した評価方法を選ぶことが必要です。

さらに、自社を売却する相手の選定にも注意が必要です。自社のビジョンや価値観と合致しない企業に譲渡すると、統合後の運営に困難を伴うことが多く見受けられます。

デューデリジェンスの重要性も理解する必要があります。情報の漏洩は、特に重大な影響を及ぼす可能性があります。製造業を経営するB社の事例について紹介しましょう。B社社長はM&Aの機密情報を誤って公開し、その結果として、M&Aが不成立となり、最終的にはB社は規模を縮小し廃業せざるを得なくなりました。これは秘密保持の不遵守によって信頼関係が崩壊したことが原因といえるでしょう。

最後に、売却後のPMI(Post Merger Integration)も重視すべきポイントです。M&Aが完了しても、その後の統合プロセスがスムーズに進まない場合、結果的には失敗と見なされることがあります。買収後の3~6カ月は特に重要とされており、この期間に組織体制や業務プロセスの統合を進めるための準備をしなければなりません。売り手としては、買い手がうまく統合を進められるように、十分な情報を提供し、可能な範囲でサポートすることが大切です。

これらの具体的な事例から学ぶことで、売り手側はより適切な評価方法やタイミング、選定方法を理解し、M&Aの失敗を防ぐことが可能となります。

買い手(譲受)の失敗事例とトラブル回避

M&Aを通じて企業を譲受する際の失敗例も多く存在します。その中でも特に多い失敗事例は、適切なデューデリジェンスが行われていないケースです。例えば、株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)が2014年にiemo株式会社と株式会社ペロリを買収し、キュレーションメディア事業に参入した際、買収した運営サイトの一部に不適切な記事が存在していたことが発覚しました。企業価値評価やデューデリジェンスを徹底しなかったことが、この問題の原因となり、企業イメージの低下や巨額の減損損失を招きました。

社会情勢も重要な要素です。価格は企業の事業価値に基づいて決定されますが、社会情勢によって大きな変動が起こる場合があります。例えば、2011年にキリンホールディングス(以下、キリン)がブラジルの大手飲料メーカー、スキンカリオール社を買収した際、買収後にブラジル経済が急激に悪化しました。キリンは1,100億円もの減損が発生し、約470億円の損失を計上、最終的には買収した子会社をオランダの企業に売却する結果となりました。

この事例は、現地での市場調査の不十分さが指摘されていますが、ブラジル経済の失速も大きな原因と考えられます。

そのほか、買収後の統合プロセス(PMI)の失敗も、M&Aの失敗事例の一つです。買収後に発揮されるべきシナジー効果を達成するためには、中長期的な視点で計画と実行が必要です。具体的には、買収先の業績を改善するための戦略を立て、その実現のために必要なリソースを適切に投入することが重要です。また、買収先の社員に対するコミュニケーションも重要な要素であり、そのためには買収後のビジョンや戦略を共有し、社員が安心して働ける環境を整備することが求められます。

最後に、長期的視点を持つことの重要性についてです。M&Aの成功は即時の成果だけで決まるものではありません。買収後に発揮されるべきシナジー効果を達成するためには、中長期的な視点で計画と実行が必要です。長期的な視野を持ち、将来的な戦略やビジョンを明確にすることで、統合後も持続的な成長を実現することが可能となります。具体的には、買収先の業績を改善するための戦略を立て、その実現のために必要なリソースを適切に投入することが重要です。

以上のような注意点を踏まえつつ、買収(M&A)は企業の成長戦略の一つとして大きな効果を発揮する手段と言えます。それぞれの企業が自身の状況と目標に合わせて、適切なM&A戦略を計画・実行していくことが求められます。

M&A市場の動向

近年のM&A市場は活発な動きを見せています。グローバル経済の発展とともに、企業は成長戦略の一部としてM&Aを積極的に行っています。特に、技術進化の加速やデジタル化の推進、新たな市場への進出を目指す動きが見られます。

M&Aの主要な動機として、デジタルトランスフォーメーションが挙げられます。新たなテクノロジーへの適応やデジタル領域での競争力強化を図るため、企業はテクノロジー関連企業の買収を通じて自社のビジネスモデルを進化させる傾向があります。人工知能、クラウド技術、データ解析など、革新的な技術を持つスタートアップ企業は特にM&Aのターゲットとなりやすい傾向があります。

また、新興市場への進出も大きな動機です。成熟市場では飽和状態に近づいていることから、新たな成長機会を模索する企業が増えています。特にアジアやアフリカなどの新興市場では、人口の増加と中産階級の成長に伴い、様々なビジネスチャンスが存在します。このような地域への進出は、M&Aを通じて現地のノウハウを獲得することでスムーズに行えます。

さらに、持続可能な成長を目指す企業の間で、ESG(Environmental, Social, Governance)要因を重視したM&Aも増えています。気候変動問題への対策や社会貢献、企業のガバナンス強化など、企業の社会的責任を果たすことが求められる現代において、これらの要素を兼ね備えた企業は買収対象として注目されやすいのです。

しかし、これらの機会と並行して、新たなリスクも増えています。規制強化や政治的な不安定性、買収対象企業の評価額の高騰などがその一例です。これらのリスクに対応するため、企業はより洗練されたデューデリジェンスや評価手法を用いてM&Aを行っています。 結論として、M&A市場は、新たなテクノロジーや市場、社会的要求への対応という企業の課題を解決するための重要な手段です。その一方で、増大するリスクに対する対策も不可欠であり、そのバランスが今後の市場動向を左右することでしょう。

業界別のM&事情と特徴

各業界は独特の環境と課題を抱えており、その中でM&Aは企業の成長戦略や問題解決の一つの手段として活用されています。以下では、様々な業界でのM&Aの具体的な事例と、それぞれがどのような目的や効果を期待して行われるのかを見ていきましょう。

アパレル

アパレル業界は、日本での市場規模がピーク時の約15兆円から約10兆円へ縮小しています。そして、供給量は倍増しているにも関わらず単価が低下するという厳しい状況下にあります。大手SPA企業のユニクロなどが業界で順調に業績を伸ばしており、その一方で小規模企業にとっては、M&Aを利用した売却などが生き残り策となっています。

近年では、新型コロナの影響で従来のファッションの価値観が変化し、カジュアル化が一気に加速しました。また、消費者のライフスタイルや価値観の変化に伴い、低価格だけではなく、質の高いオリジナル商品やブランドイメージを含む「コト売り」が重要となっています。

このような状況下で、M&Aは業界再編の一つの手段となり、小規模企業の顧客や販路を取り込み、新たな価値を提供するために利用されています。

また、顧客体験の向上や囲い込みにはデジタル化が重要となり、アプリやECサイトの導入による新たな接点の創出が求められます。公式アプリを活用することで、企業の存続や成長を支え、消費者のニーズに応えた製品やサービスを提供するプラットフォームになり得るのです。

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業界別のM&A事情と特徴
業種別M&A
アパレル業界でM&Aが進んでいる理由と事例をチェック

アパレル業界でM&Aが増加しているのはなぜでしょうか?具体的なM&A事例と併せ、アパレル業界の現状をチェックしましょう。またM&Aを実施する際に役立つ案件の探し方や、買収する前に確認すべきポイントも紹介します。

農業

統計によると、国内の農業経営体は数が減り続けています。しかしその一方で、農業法人や規模の大きい農業経営体は増加傾向にあり、農業経営全体は規模拡大を進めています。このような傾向の背景には、経営規模の拡大によるコスト削減や安定化があると考えられます。

農業におけるM&Aは、農地や設備、販路などを引き継ぐ手段として注目されています。特に、新規に農業を始める者にとっては、必要な物件やノウハウを一括で得られる点が大きなメリットとなるでしょう。既存の農業経営体も、同地域の経営体とのM&Aを通じて規模を拡大することで、経営の安定化やコスト削減を図ることが可能です。

さらに、飲食店や食品加工業者などが農業に関連する事業を持つ法人を買収することで、コスト削減や安定供給のみならず、ブランド化などのシナジー効果を享受できます。これらが経営の安定化に寄与するとともに、消費者の多様なニーズに対応した製品開発や販売が可能になり、市場の拡大につながります。

農業関連のM&Aについて詳しく解説している以下記事もご覧ください。

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業種別M&A
農業M&Aのポイントは?主なスキームや案件の探し方をチェック

農業M&Aは後継者が不在の農業経営体にとって、農地や販路といった資産を引き継ぐのに有効な方法です。手続きを進める際には、具体的にどのようなスキームを用いるのでしょうか?案件の探し方やM&Aを実施するメリットを併せて紹介します。

学校法人

学校法人の経営は、社会全体の少子化と人口減少、そしてコロナ禍による影響などから、深刻な財政状況に直面しています。それにより、100を超える学校法人の経営基盤が不安定な状況となっており、改善を目指すだけでなく再生を目指すための統合などの動きが活発化しています。

少子化の進行により、生徒の確保が一層難しくなっている状況の中で、学校法人同士のM&Aが一つの解決策として考えられています。例えば、東京歯科大学と慶應義塾大学が歯学部の統合や法人の合併を検討しているように、M&Aを通じて教育の質を高め、財政状況を改善する方向へと動いています。

一方で、新規に学校法人を設立するには多大な時間と資金、そしてノウハウが必要であり、また開設後の人材確保も大きな課題となります。そのため、既存の学校法人のM&Aによってこれらのハードルを一気に越え、即座に運営を開始できるメリットがあります。

学校法人関連のM&Aについて詳しく解説している以下記事もご覧ください。

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業種別M&A
学校法人のM&Aは特殊。事業会社の買収との違い、流れ

対象が学校法人であってもM&Aは可能です。しかし事業会社のM&Aとは、用いるスキームや手続きが異なります。学校法人が抱える課題や、M&Aによって得られるメリットなどを、学校法人を取り巻く状況とともに見ていきましょう。

ホテル

ホテル業界は、コロナ禍の影響により大きな打撃を受け、固定費が大きいという業態の特性から経営環境は厳しさを増しています。さらに、利用者のニーズの変化に伴い、従来のビジネスモデルの根本的な見直しが求められています。

業界内では、経費削減策や新たな需要を見込んだサービスの開発が進められていますが、業績はまだ完全には回復していません。そこで、ホテル業界では収益性向上やビジネスモデル転換を目指すためのM&Aが活発化する可能性があります。

国内宿泊旅行市場はコロナ禍前の2019年には17兆円を超えており、国や地方自治体の観光振興策により、観光需要の回復が期待されています。このような背景から、再び需要が高まることを見越し、収益性の向上を目指したM&Aによる業界再編の動きが予想されています。

ホテルのM&Aにおいては、ただ買収するだけでなく、買収したホテルの事業再生プランを策定することが重要です。既存の宿泊施設や事業との相乗効果を追求し、運営システムの効率化や立地を活かしたサービス開発など、多角的な戦略を立てることで、業績の回復と収益向上が期待できます。

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業界別のM&A事情と特徴
業種別M&A
ホテルM&Aを成功させるには。動向や相場を把握して戦略策定を

今後の需要回復に期待が集まるホテル業界でM&Aを成功させるには、ターゲットの策定や事業再生の方向性がポイントです。特にどのような点に注意すればよいのでしょうか?戦略や営業許可はもちろん、把握すべき経営資源についても確認します。

クリニック

医療業界では、高齢化に伴う医療需要の増加と医師の不足、そして医療技術の急速な進展が課題となっています。また、地域間の医療格差の解消や、より高度な医療サービスの提供が求められています。

これらの課題に対応するため、他のクリニックや医療関連企業を買収するM&Aが行われています。これにより、患者の医療ニーズに応じた多様なサービスを提供できるようになり、クリニックの競争力を向上させることができます。

また、M&Aにより医療機器や技術の共有が可能となり、より高品質な医療サービスを提供することが可能になります。

クリニック関連のM&Aについて詳しく解説している以下記事もご覧ください。

業界別のM&A事情と特徴
業種別M&A
事業会社によるクリニックのM&Aは可能?スキーム、引き継ぎ方

医療業界では、クリニックのM&Aが増えています。医療法人同士のM&Aが大部分を占める中、営利目的の事業会社がクリニックを買収することは可能なのでしょうか?医療業界のM&Aスキームや、引き継ぎの際の注意点などを解説します。

美容室

美容室業界は、美に対する人々の関心の高まりとともに、競争が激化しています。店舗数の増加、人材の確保の難しさ、そして新型コロナウイルスの影響などから売上の低下が見られる一方で、生き残りをかけた多角化経営の取り組みが増えています。

業界全体としては、美容師の人材確保が課題となる一方、時給換算での平均賃金は1,145円と低い状況が続いています。これは一般的な会社員と比較して低く、美容師から他業種への転職や独立への流出を招いています。その結果、自身の店を持つことによってしか十分な収入を得られないという業界構造が生まれ、これがさらなる店舗数の増加と過当競争を招いています。

このような状況下で美容室業界におけるM&Aの可能性を考えてみましょう。M&Aによって美容室を買収することで、必要な店舗や設備、人材、そして顧客などを一度に得られます。これは新たに美容室を開業する際の時間とコストを大幅に節約することができる大きなメリットです。

また、美容師との雇用契約を引き継ぐことで、最初から顧客のついている美容師を確保できる可能性があります。さらに、引き継いだ顧客の情報を活用して、ECサイトやアプリを構築し、直接商品や施術を紹介することも可能です。これにより、美容室の売上を伸ばすチャンスが生まれます。

美容室関連のM&Aについて詳しく解説している以下記事もご覧ください。

業界別のM&A事情と特徴
業種別M&A
美容室をM&Aするには?スキーム、譲渡対価の目安、DDなど

美容室のM&Aは、どのような方法で実施するのでしょうか?美容室の買収で得られるものやリスクのほか、よく見られる売却理由・買収価格の目安などを紹介します。併せてM&A後の経営に役立つよう、業界全体の動向もチェックしましょう。

飲食店

新型コロナウイルス感染症の影響で打撃を受けた飲食業界は、大きな変化を迫られています。特に、宴会やインバウンド需要を見込んだ業態の飲食店や、東京五輪の開催による観光客増加を予想してM&Aを行った事業者は売上激減という苦境に立たされました。しかし、一方で規模の小さな飲食店は協力金により生き延び、飲食店の業界構造を大きく変えることはなかったといえます。

現在、アフターコロナを見据えてM&Aが活発化しています。事態が落ち着いた後、新たに外食を楽しみたいと考える消費者が増えることを予見し、M&Aを活用して新たな飲食店を獲得する事業者が増えているのです。合わせてSNSを使った集客やオリジナルグッズの販売など、顧客との繋がりを強化する施策もポイントです。

M&Aでは、自ら開業するよりも、リスクを抑えて飲食店を始めることができます。また、M&Aにより、既に確立された飲食店のブランド力を活用できるというメリットもあります。

M&Aによる飲食店の買収は、新規開業に比べてエリアやターゲットの選定ミスのリスクを大幅に減らせます。買収する飲食店にはすでに一定の顧客基盤があり、その地域でのブランドや評判も引き継ぐことができるからです。そのため、M&Aを活用すれば、厳しい業界環境下でも競争力を維持し、新たな成長機会を探求することが可能となります。

飲食店関連のM&Aについて詳しく解説している以下記事もご覧ください。

業界別のM&A事情と特徴
業種別M&A
飲食店のM&Aは個人でも実現しやすい?相場、引き継ぎの流れなど

昨今では飲食店においてもM&Aが活発化しています。今なぜ飲食店が人気なのか見ていきましょう。また今後を見据えて飲食店を買収する場合、どのような案件があるのでしょうか?実際に成立したM&Aの事例や、M&A実現までの流れも紹介します。

介護

介護業界は経営環境の厳しさと人員不足の問題に直面しています。こうした課題への対策として、M&Aが活発に行われています。その一つの理由は、人材確保にあります。介護事業者が他社を買収すれば、人材を効率的に確保し、介護業界全体の有効求人倍率3.64という現状に対応することができます。

また、M&Aによる組織拡大はスタッフのキャリアパス形成にも寄与します。スタッフは異なる施設でのリーダーを目指し、一般的な職場以上の成長のチャンスを得ることができます。これにより企業は人材を確保しやすくなると同時に、人材育成に注力する評判を確立することができます。

さらに、M&Aは事業領域の拡大にも寄与します。事業所を増やすことで、対応可能なエリアが広がり、サービス提供の範囲を拡げることができます。これは通所型・住居型それぞれの事業において有効で、より多くの需要に対応することが可能になります。

介護関連のM&Aについて詳しく解説している以下記事もご覧ください。

業界別のM&A事情と特徴
業種別M&A
介護業界のM&A事例と動向。介護事業の買収で気を付けることは?

介護事業のM&Aは年々需要が高まっており、異業種から参入する企業も多い分野です。介護業界のM&Aについて、業界の動向やメリット・注意点などを見ていきましょう。実際に介護業界のM&Aを実施した事例も紹介します。

M&A成功のポイントと失敗の理由

M&Aは戦略的な意思決定と適切な手続きが必要となる複雑なビジネス手法です。成功と失敗には特定の要素が存在しますが、これらは企業の財務状況、戦略、適切な対応力などに強く影響されます。その主要な要素と常に考慮すべきポイントを詳しく解説します。

売り手(譲渡)が成功するためのポイント

売り手がM&Aを成功させるためには、事業価値の適切な理解と評価、明確な戦略とビジョン、そして適切な法的支援が必要です。

まず、企業価値の適切な理解は、交渉の場において有利な地位を得るための重要なステップです。適切な事業評価を行うことで、買い手に対する信頼性を高め、価値を適切に反映させることができます。

次に、明確な戦略とビジョンを持つことは、買い手が長期的な価値を見いだすために不可欠です。これは、企業の現在の事業環境だけでなく、将来の成長機会や可能性についても明らかにする必要があります。

また、適切な法的支援を受けることは、契約上の課題やリスクを管理し、スムーズな取引を確保するために不可欠です。法律家やアドバイザーからのアドバイスは、複雑な契約内容を理解し、適切な交渉を進めることを強力に支援します。

買い手(譲受)が成功するためのポイント

買い手として成功するためには、適切なデューデリジェンス、戦略的な視点、そして細心の注意が必要です。

最初に、デューデリジェンスは、企業の適切な評価とリスク管理のための重要なステップです。デューデリジェンスを通じて、買い手は企業の財務状況、事業状況、法的問題などを詳細に理解することができます。これにより、取引後に予期せぬ問題が発生するリスクを軽減し、適切な価格設定を行うことが可能になるのです。

さらに、戦略的な視点は、買収企業が自社のビジネスモデルや成長戦略にどの程度適合するかを評価するために必要です。これは、市場のトレンド、競合状況、そして将来的な成長機会も考慮しなければなりません。

最後に、細心の注意は、買収過程全体を通じて重要な役割を果たします。契約内容の理解、適切な資金調達の確保、統合後の計画など、多くの重要な要素が買収の成功に影響するのです。

売り手(譲渡)が失敗するよくある理由

売り手がM&Aで失敗する理由は様々ですが、企業価値の過大評価、準備不足、そして統合後の計画の欠如が主な要因となります。

企業価値の過大評価は、期待される価格と現実のギャップを生む可能性があり、これが交渉の難航や取引の失敗につながることがあります。事業評価は緻密な分析と市場の理解に基づいて行わなければなりません。

さらに、準備の不足は、買い手にとって不透明な状況を生み出し、信頼性の損失につながる可能性があります。このため、企業の財務情報、法的な問題、事業の状況などを明らかにする適切な準備期間が必要です。

また、統合後の計画の欠如は、売り手にとって大きなリスクをもたらす可能性があります。これは、特に買い手との取引における統合後の役割や責任について明確な理解がない場合に顕著です。

買い手(譲受)が失敗するよくある理由

買い手がM&Aで失敗する理由も多岐にわたりますが、不適切なデューデリジェンス、買収の適合性の誤判断、そして統合後の課題の過小評価が主な要因となります。

まず、不適切なデューデリジェンスは、企業の実際の価値やリスクを過大評価または過小評価し、不適切な価格設定や取引後の問題を引き起こす可能性があります。デューデリジェンスは、買収対象の全ての側面をカバーする必要があり、そのためには財務状況、法的問題、事業の状況など、多くの要素を詳細に調査する必要があります。

次に、買収の適合性の誤判断は、統合後の課題やパフォーマンスの低下につながる可能性があります。買収企業が自社のビジネスモデルや戦略に適合しない場合、これは長期的な価値を損なうかもしれません。このため、買収前には買収対象が自社のビジネスにどの程度適合するかを詳細に評価する必要があります。

最後に、統合後の課題の過小評価は、取引後のパフォーマンスや統合の成功に大きな影響を及ぼす可能性があります。これは、企業文化の違い、システムの統合、人材の管理など、多くの要素に関連しています。適切な統合計画とその実施は、成功するM&Aにとって重要な要素です。

初めてのM&Aでよくある質問

①個人でも会社の購入は可能ですか?

はい、個々の人が会社を購入することも可能です。しかし、購入する会社の規模や業態により、資金調達や管理スキルなどが求められます。

②中小企業でもM&Aは行えますか?

もちろん、中小企業でもM&Aは行えます。実際、事業拡大や後継者不在の解決策としてM&Aを行う中小企業も増えています。

③M&Aを検討すべき状況はどんな時ですか?

事業の拡大や新たな市場への参入、資本調達、後継者不在など、多岐にわたる状況でM&Aを検討することがあります。

④売却可能な企業の特徴は何ですか?

企業の業績や規模は一部ですが、特許や技術力、顧客ベース、ブランド力など独自の価値も売却可能性に影響を与えます。

⑤赤字でも会社の譲渡は可能ですか?

赤字企業でも譲渡は可能です。たとえば、特許や技術、人材など、購入者が価値を見出す要素があれば譲渡は可能となります。

⑥M&Aのメリットとデメリットは何ですか?

M&Aのメリットには事業の拡大や資本調達などがありますが、デメリットとしては統合の困難さや企業文化の違い、費用負担などが挙げられます。

⑦M&Aの過程に要する時間はどれくらいですか?

M&Aにかかる時間は、事前の準備、交渉、デューデリジェンス、契約締結、統合などを含め、数か月から数年に及ぶこともあります。

⑧M&Aのプロセスはどのようなものですか?

M&Aのプロセスには大きく分けて、準備、交渉、デューデリジェンス、契約締結、統合の5つのフェーズがあります。

⑨M&Aに要するコストはどれくらいですか?

M&Aにかかるコストは企業規模や複雑さ、専門家への支払い、取引額などにより大きく変動します。一部の費用には、財務アドバイザーや弁護士への報酬、デューデリジェンスにかかる費用、そして可能性としては規制当局への申請費用が含まれます。

⑩企業価格の算出方法はどうすれば良いのですか?

企業価格の算出には、財務データを基にしたDCF法や倍率法などの数々の手法が存在します。業界の特性や企業の独自性も考慮する必要があります。

⑪事業譲渡により担保や個人保証は解除できますか?

それは契約内容次第です。買い手側の許諾、金融機関側の許諾があれば解除が可能となります。

⑫従業員の雇用や取引先との関係は継続されますか?

通常、株式譲渡の場合は、従業員の雇用や取引先との関係は継続されますが、これも具体的な条件は契約によるところが大きいです。事業譲渡の場合は、別途新たに契約を締結する必要があります。

⑬個人事業主や有限会社でも自社を譲渡できますか?

はい、形態を問わず、自社の事業は譲渡可能です。ただし、事業の規模や状況により、譲渡の方法や条件が変わる場合もあります。

⑭M&Aを成功させるには何に注意すべきですか?

M&Aを成功させるためには、明確な目標設定、適切な企業評価、徹底的なデューデリジェンス、良好なコミュニケーション、そして適切な統合計画とその実施が重要となります。

⑮海外の会社でも日本の会社を購入できますか?

はい、海外の会社でも日本の会社の購入は可能です。ただし、外資規制や税務、法律の違いなどについて理解し、適切な準備が必要となります。

⑯初めてでもM&Aはできますか?

もちろんです。初めてでもM&Aを行うことは可能です。ただし、成功するためには十分な準備と理解が必要です。専門家の意見を参考にしたり、M&Aに関する情報を収集することを推奨します。

⑰どのようにメッセージやコミュニケーションを取ればいいですか?

明確で良好なコミュニケーションはM&Aの成功において重要な要素です。関係者全員が情報を理解し、適切に行動できるようにすることが重要です。

⑱売り手から返事が来ないのですがどうすればいいですか?

売り手からの返事がない場合、ある程度の期間を置いてから再度連絡を取ることを推奨します。しかし、返事がない場合は売り手が買収に興味を持っていない可能性もあります。その場合、他の潜在的な取引先を探すことを検討してもよいでしょう。

⑲忙しいのですが手間をかけずに会社や事業を運営することはできますか?

M&Aは必然的に時間と労力を必要とします。ただし、適切な計画と準備、そして良いチームのサポートにより、手間を最小限に抑えることが可能です。

⑳失敗しない方法はありますか?失敗の事例を教えてください。

M&Aは多くの要素によって影響を受けるため、すべてのリスクを排除することは困難です。しかし、事前のデューデリジェンス、適切な価値評価、良好なコミュニケーション、統合後の計画などを通じてリスクを最小限にすることが可能です。一方で、過去の失敗事例を学ぶことは非常に重要です。たとえば、価値評価が不適切だった、事前のデューデリジェンスが不十分だった、または統合後の計画が不適切だったという事例があります。これらの事例から学習することが重要です。

M&Aするなら覚えておきたい用語解説

M&A(合併・買収)の世界には専門的な用語が数多く存在します。以下では、M&Aを理解し、適切な判断を下すために知っておくべき基本的な用語を解説します。

①M&A

M&Aは、合併(Mergers)と買収(Acquisitions)を指します。合併は二つ以上の企業が一つの企業になることを、買収は一つの企業が他の企業の株式や資産を取得して支配権を持つことを指します。

②デューデリジェンス

デューデリジェンスは、買収先の詳細な調査を指します。これには、財務状況、法的問題、業務プロセス、人材などの調査が含まれます。

③シナジー

シナジーは、M&Aによって生じる付加的な価値を指します。これは財務的シナジー、運営的シナジー、戦略的シナジーなどの形で現れます。

④アーンアウト

アーンアウトは、買収価格の一部が将来の業績により決まる契約を指します。これは売り手と買い手の間の評価ギャップを埋めるために用いられます。

⑤友好的買収

友好的買収は、買収対象企業の経営陣が買収提案に同意した状態で進行する買収を指します。

⑥敵対的買収

敵対的買収は、買収対象企業の経営陣が買収提案に反対しながらも、買収企業が株主から直接株式を買い付ける形で進行する買収を指します。

⑦レバレッジド・バイアウト

レバレッジド・バイアウトは、借入金を主な資金源として企業を買収する手法を指します。買収後には買収対象企業のキャッシュフローが借入金の返済に用いられます。

⑧PO

POは、株式を一般投資家に公開することを指します。IPO(Initial Public Offering)は企業が初めて株式を公開することを指し、新規株式公開とも訳されます。

⑨MBO

MBO(マネージメントバイアウト)は、企業の経営陣が自社の株式を購入して、企業の所有権を取得する手法を指します。これにより経営陣は経営方針により自由度を持つことができます。

⑩キャピタルゲイン

キャピタルゲインは、株式や不動産などの資産を売却した際に得られる利益のことを指します。一方、資産の売却で損失を被った場合、それはキャピタルロスと呼ばれます。

⑪フェアネスオピニオン(Fairness Opinion)

フェアネスオピニオンは、M&A取引における取引価格が公正であるかを評価する専門家の意見を指します。これは株主に対する情報開示や取締役の責任免除に役立つことがあります。

これらの用語は、M&Aにおける議論や契約書の理解に不可欠です。ただし、これらはあくまで一部の用語であり、具体的な取引によってはさらに多くの専門用語が登場する可能性があります。そのため、専門的な助けを得ることを検討するとともに、自己教育にも努めることが重要です。

M&Aで登場するプレイヤー解説

M&Aの過程では多くのプレイヤーが関与します。彼らはそれぞれ異なる役割を果たし、M&Aの成功に寄与します。以下に主要なプレイヤーとその役割を紹介します。

①ターゲット企業(売り手)

ターゲット企業はM&Aの対象となる企業で、所有権の一部または全部が譲渡されます。経営陣や株主は企業価値を最大化し、最適な買収者を見つける役割を果たします。

②買収企業(買い手)

買収企業はターゲット企業を買収する側の企業で、資金と戦略的視点を提供します。ターゲット企業の選定から価格交渉、統合までの全てのプロセスを主導します。

③顧問業者

顧問業者はM&Aプロセスの各段階で専門的なアドバイスを提供します。これらは投資銀行、弁護士、会計士、コンサルタントなどが含まれ、財務アドバイザーは価格設定や資金調達を、法務アドバイザーは契約書の作成や法規制の確認を担当します。

④株主

株主は企業の所有者で、M&Aの承認権限を持っています。特に大量保有者は投票権を行使し、M&Aの成功に大きな影響を及ぼすことがあります。

⑤金融機関

金融機関は買収資金の提供者であり、特にレバレッジド・バイアウトのような借入れ主導の買収では重要な役割を果たします。

⑥規制当局

規制当局はM&Aが適切に行われ、競争法等の法律を遵守しているかを確認します。特定の業界や市場での地位により、買収が反競争的と判断された場合には介入することがあります。

⑦監査法人

監査法人は、財務情報の信頼性を保証するため、財務報告書を審査します。M&Aトランザクションにおいては、監査法人は財務デューデリジェンスを行い、ターゲット企業の財務状況について詳細な情報を提供します。

⑧デューデリジェンス業者

デューデリジェンス業者は、買収対象企業の事業や財務状況、法的問題などについて調査を行います。その結果は、買収企業の意思決定に大きな影響を与え、買収価格の交渉や契約条件の設定に利用されます。

⑨仲介業者

仲介業者は売り手と買い手の間に立ち、両者をつなげる役割を果たします。多くの場合、適切なパートナーを見つけ、交渉を進め、取引を完結するまでの全てのプロセスをサポートします。

⑩投資家

M&Aにはプライベートエクイティファンドやベンチャーキャピタルなどの専門的な投資家が関与することがあります。これらのプレイヤーは、資金を提供し、M&A取引を通じて企業価値を向上させることを目指します。

⑪従業員

従業員はM&Aの影響を直接受ける重要なステークホルダーです。彼らのスキル、経験、知識は企業の価値を形成し、M&Aの成功に大きく寄与します。

以上が主要なM&Aプレイヤーの解説です。各プレイヤーの役割と目的を理解し、彼らがどのように相互に影響を与えるかを把握することは、M&Aの成功を最大化するために重要です。

まとめ

M&Aは企業戦略の一つとして多くの可能性を持つ一方、その適切な実施と管理は困難を伴うこともあります。売り手と買い手の両方にとってのメリットとデメリットを理解し、適切なタイミングと手法を選択することは極めて重要です。

M&Aの規模と相場、そしてその流れと手順にも注目することが重要です。成功事例から学び、失敗事例を回避することで、M&Aの可能性を最大限に引き出すことができます。また、業界の動向や専門家の解説を参考にすることも有益です。

TRANBIでは、事業の買収・売却案件を多数掲載しておりますし、M&A成功に向けた事例紹介、成功者インタビュー、M&A情報など、さまざまなコンテンツを配信しております。

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