介護業界のM&A事例と動向。介護事業の買収で気を付けることは?

介護業界のM&A事例と動向。介護事業の買収で気を付けることは?

介護事業のM&Aは年々需要が高まっており、異業種から参入する企業も多い分野です。介護業界のM&Aについて、業界の動向やメリット・注意点などを見ていきましょう。実際に介護業界のM&Aを実施した事例も紹介します。

介護業界の現状を知ろう

介護事業のM&Aを実施するにあたり、介護業界の現状を知ることは欠かせません。まずは収益をどのように得ているのかや、業界の今後の方向性についてチェックしましょう。

経営は介護報酬に依存しやすい

一口に介護事業といっても、その中にはさまざまな種類があります。大きく下記の2種類に分類されているのが特徴です。どちらの事業を行うかによって、満たすべき条件が異なります。

  • 通所型事業:自宅に暮らし施設に通う利用者を支援する
  • 住居型事業:居住できる施設で暮らしている利用者を支援する

サービス業や小売業・製造業などさまざまな業種と介護業界の違いは、報酬をどのように得るかです。介護事業者が得る報酬の7~9割は自治体からの『介護報酬』で、1~3割が利用者の自己負担で支払われます。

介護報酬に依存しやすい業態にもかかわらず、介護報酬が3年ごとに改定される決まりである点も押さえておきましょう。

人員不足が顕著、ロボット導入も視野

人員が全体的に不足しているのは、介護業界全体に共通している傾向です。厚生労働省の『一般職業紹介状況(令和3年10月)』によると、介護サービス職の有効求人倍率は『3.64』という調査結果が出ています。

有効求人倍率が1を超えると、求職者よりも求人数の方が多いことを示します。職業全体の有効求人倍率は1.06です。ほかの職業と比べ、仕事の量に対して人員が不足していると考えてよいでしょう。

また将来的には『介護ロボット』の導入が増加していくと予想されます。介護ロボットが普及すれば、人員不足による介護者の負担軽減につながるでしょう。

介護ロボットの導入を促進するため、導入費用を支援する補助金を設けている自治体もあります。

参考:一般職業紹介状況(令和3年10月分) 参考統計表7-1|厚生労働省

介護業界のM&A動向

将来的には介護ロボットの普及も予想される介護事業は、M&Aにおける人気案件です。新規開業のハードルが高いからこそ、買収によって介護事業を展開しようと考える買い手が多いのだと考えられます。

介護事業は人気案件

高齢者の人口は増加し続けています。介護業界はますます大きなマーケットになっていくでしょう。そのため介護とは関わりのなかった企業も、介護事業に魅力を感じ参入を続けています。

M&Aの件数も増加中です。リーマン・ショックや東日本大震災の影響を受けた2010年前後は件数が落ち込んでいたものの、近年は右肩上がりで推移しているそうです。

参考:M&A 動向に見る介護ビジネスの将来性 P.2|大和総研

介護関連の案件の探し方

M&Aで介護事業を獲得するなら、M&A会社の中でも介護業界に特化している会社を選ぶとよいでしょう。成約率が高いプラットフォームを選ぶのもポイントです。

介護業界専門のM&A会社であれば、介護事業の売り手の情報がたくさん入ります。登録しておけば比較的短い期間で成約に結び付くかもしれません。

介護事業のM&Aを実施するなら『TRANBI』の利用もおすすめです。業種を介護に絞って検索すると、2021年12月時点でおよそ100件の売り手が見つかります。

買い手は下記の通り、月額料金のみで利用できるためリーズナブルです。

  • ベーシック(売却希望価格500万円以内):4378円(税込)/月
  • ビジネス(売却希望価格3000万円以内):1万780円(税込)/月
  • エンタープライズ(売却希望価格無制限):2万1780円(税込)/月
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有料老人ホームの新規開業はハードルが高い

介護事業のM&Aが人気なのは、新規開業のハードルの高さも関係しています。新しく介護付き老人ホームを開業する場合、都道府県から『特定施設入居者生活介護』の指定を受けなければいけません。

指定を受けるには、設備・居室面積・職員配置など多数の条件を満たすことが必要です。加えて『総量規制』が設けられたことも、新規開業を難しくしています。

全体で設立できる上限数が決まっているため、参入したいからといって必ずしも指定を得られるわけではありません。

どのような介護施設が全国にどれくらいあるかを知りたいはこちらも参考にしてみてください。

同業種で介護事業のM&Aを行うメリット

同じ介護事業を展開する企業が介護事業のM&Aを行うと、規模の拡大に役立てられます。不足しがちなスタッフの獲得や、エリア拡大を行いやすい方法です。

スタッフの確保

人材確保は介護業界の抱える大きな課題といえます。そのため人材確保を目的としたM&Aを実施する企業もあるほどです。

仮に買収した介護事業が人員不足であっても、買い手がもともと雇用しているスタッフを加えれば、効率的な運営につなげられます。運営する施設が増えれば、スタッフのキャリアステップを描きやすくなるでしょう。

一般のスタッフとして勤務しながらリーダーを目指し、M&Aで買収した施設のリーダーとして異動するといったことも可能です。人材育成に積極的な企業という評判を確立することで、新たな人材確保がしやすくなるという効果も期待できます。

事業エリアの拡大

新たな拠点を獲得し、事業エリアを拡大するためのM&Aも増加しています。拠点を増やして、対応できるエリアを広げるためのM&Aです。

その際、利用者にとって利便性の高い施設を作るために、好立地で立ち寄りやすい施設や小規模な介護事業を買収するというケースもあります。さまざまな形態の施設を獲得し、利用者それぞれのニーズに合う施設を運営することを目的としたM&Aです。

他業種で介護事業のM&Aを行うメリット

介護業界に関わりがなかった企業が、M&Aにより参入するケースも増えています。他業種がM&Aで介護事業を獲得すると、どのようなメリットがあるのでしょうか?

許認可に悩まずスムーズに新規参入

前述の通り、新たに有料老人ホームを作るのはハードルが高いのが現実です。その理由として、許認可の取得や行政との折衝が挙げられます。準備を進めていてもなかなか先に進めないケースもあるでしょう。

新規参入のハードルを下げるには、『株式譲渡』によるM&Aが向いています。会社を丸ごと引き継ぐ株式譲渡であれば、許認可も含めて獲得できるからです。

介護施設にはそこで暮らす利用者もいます。M&Aによりスタッフの退職が相次ぐといった事態に陥ると、現場を混乱させてしまうでしょう。多くの利用者やスタッフのためにも、スムーズな引き継ぎに対する配慮が必要です。

ノウハウの獲得が可能

M&Aを実施すれば、介護のノウハウをまったく持っていなくても新規参入できます。既に運営している介護事業を買収すれば、事業に必要なノウハウも一緒に獲得できるからです。

一から運営に必要な体制を構築しようとすると、経営を軌道に乗せるまでに時間がかかります。M&Aによって、事業の収益化までの道のりをショートカットすることが可能です。

介護業界のM&Aで注意すべきポイント

同業種の事業拡大や他業種の新規参入にもメリットのある、介護事業のM&Aには注意点もあります。具体的には、人材流出やスキームの選択に関するものです。ポイントを押さえれば、M&Aにより目的をかなえやすくなるでしょう。

介護事業の人材流出は大問題

介護事業はスタッフがいなければ成り立ちません。そのためM&Aをきっかけとした人材流出は避けたいものです。

経営者が替わることに対してスタッフが感じる不安を和らげられるよう、今後の施設運営について説明する機会を設けるとよいでしょう。スタッフの雇用が守られる点や、キャリアにプラスになる可能性も分かりやすく伝えます。

適切なタイミングでの情報開示もポイントです。特に情報漏えいには注意しましょう。正確な情報が周知されていない中でうわさが飛び交うと、不安感をあおってしまいます。

特に事業譲渡でM&Aを実施する場合には、スタッフとの雇用契約を個別に結び直す必要があるため要注意です。

事業譲渡では許認可を引き継げない

活用するスキームにも気を付けましょう。許認可を引き継ぎたければ、利用できるのは株式譲渡です。事業の一部や全部を個別に引き継ぐ事業譲渡でM&Aを実施すると、買い手は許認可を取得し直さなければいけません

新たに許認可を取得するには手間も時間もかかります。スケジュールの大幅な変更も必要です。

一方株式譲渡でM&Aを実施すれば、次に新しい施設を設立するとき、過去に売り手が行った許認可の申請資料を利用可能です。自治体の姿勢も協力的なものになりやすいため、全て自社で手続きを進めるよりも申請の労力を削減できます。

介護事業が関連するM&Aの3事例

介護事業に関連するM&Aの事例も見ていきましょう。M&AプラットフォームのTRANBIを通し行われた取引の事例を確認すれば、自社で実施するM&Aに生かせるポイントが見つかるかもしれません。

医療法人が介護事業を買う

訪問診療を中心に運営してきた医療法人では、常々患者の第二の家になるような場所の必要性を感じ、有料老人ホームを自前で持つ計画を立ててきました。

しかし好条件の介護事業がなかなか見つからなかったそうです。手詰まりの中、条件がぴったり合う案件に出会えたのがTRANBIでした。

距離感がちょうどよく、事業内容も想定していたものとぴったりで申し分ありません。当初の予算は5億~6億円を想定していたため、金額的にも申し分ない規模だったそうです。

交渉は順調に進みましたが、売り手の建物の一部が賃貸に出されていることが発覚します。医療法人には不動産賃貸が認められていません。そこで、買い手の代表が個人で不動産事業を買い取ることにより解決したそうです。


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神奈川県横浜市内で訪問診療を展開する医療法人「はまかぜ会」が、車で10分の距離にあるサービス付き高齢者住宅を買収したのは2020年10月のこと。

介護事業を営む会社がグループホームを買う

「困っている人を助けたい」という思いから介護事業に取り組み、盤石なグループを築き上げ障がい者支援を行っていたグループホームを、M&Aで獲得した事例です。

予算に対し割高だったそうですが、グループ内のノウハウが十分ではない分野のため、買収後のアドバイスを条件に契約に至りました。コネクションの形成という面でも魅力的だったようです。

またスピード感とリスク回避の観点から事業譲渡を希望しており、それが実現できる案件であるのもポイントでした。しかし、売り手がアドバイザーを務めている法人が同じエリア内にあると判明します。

そこで競業避止義務に基づき、アドバイザー契約の解除を依頼したそうです。


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神奈川県と東京都で約250か所の介護事業所を運営する、株式会社日本アメニティライフ協会。「照一隅」=「陽の当たらないところに光を当てる」という考えのもと、利用者のニーズに沿った施設を次々と展開してきました。

介護事業との融合を目指し日本語学校を買う

もともとはIT分野で起業した代表でしたが、介護資格の講座開催を依頼されたことをきっかけに、自身でも「何か変えられることがあるのではないか」と介護施設を経営していました。

そのようなときに注目したのが、介護施設と留学生の親和性の高さだったそうです。働いてお金を稼ぎたい留学生と、忙しい時間帯に集中して人手が欲しい介護施設は相性がよいと考え、案件を探し始めました。

条件の合う日本語学校の案件を見つけられたのは、留学生が減少したコロナ禍だからこそです。1億円以上の負債を引き受け、土地や建物も含め約500万円で買収しました。

その後、卒業後の留学生の進学先や就職先をバックアップできる体制作りに取り組んでいます。


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「買い値は最悪の経営状態を想定する」日本語学校のM&Aがもたらす外国人留学生と介護事業とのWin-Winとは?

愛知・三重でシルバーハウス(サービス付高齢者向け住宅)を運営するN社。介護事業を中心にグループ11社を経営しています。もともと介護施設のM&Aに積極的で2020年も4社を買収した同社ですが、今回は異業種となる日本語学校を初めて買収しました。

まとめ

介護事業のM&Aは人気案件です。高齢者が増加する中、市場が拡大している分野として、他業種からも注目されています。

株式譲渡を実施すれば、新規参入する場合でも許認可を引き継ぎ事業の円滑なスタートが可能です。同業種であれば人材確保やエリアの拡大に役立てられます。

紹介した事例も参考にしながら、自社と介護事業の組み合わせでどのようなシナジーを期待できるか考えると、M&Aの計画を立てる上で役立つかもしれません。