2021-04-06

「買い値は最悪の経営状態を想定する」日本語学校のM&Aがもたらす外国人留学生と介護事業とのWin-Winとは?

買い手(法人):匿名

<中小企業の多角化M&A・買収事例>

 

愛知・三重でシルバーハウス(サービス付高齢者向け住宅)を運営するN社。介護事業を中心にグループ11社を経営しています。もともと介護施設のM&Aに積極的で2020年も4社を買収した同社ですが、今回は異業種となる日本語学校を初めて買収しました。

これまでは金額面で折り合わず見送ってきたが、コロナ禍により日本語学校の状況が変わったことでM&Aが成立した」と話す代表のGさんに、今回のM&Aの意図や売却先として選ばれた理由などを伺いました。

【介護施設と留学生のニーズマッチに着目】

- 貴社はこれまでも介護事業のM&Aに積極的に取り組まれながら事業拡大を進めてこられたんですよね?
はい。2020年も介護施設を4社買収するなどM&Aを積極的に進めています。現在グループは11社で、介護関連事業の6社を中心に障がい者福祉事業や教育事業を展開。従業員約400名のうち8割は介護事業に関わっています。

私はエンジニア出身なので最初はIT分野で起業しました。当時はリーマンショックで職を失った方が多く、エンジニアを育成するお仕事をしていたのですが、「ニーズの高い介護資格の講座も開いてくれないか」と依頼されたことがきっかけで介護業界に足を踏み入れました。

その後、卒業生から離職率の高い職場という話を聞くうちに、自分でも実際に中に入ってなにか変えられることがあるのではないかと、教育だけでなく介護施設の経営にも携わるようになりました。現在はシルバーハウス(サービス付高齢者向け住宅)や住宅型有料老人ホームなども運営しています。

- 高齢化の加速から、介護業界は「成長産業」と呼ばれていますが、実態はどうでしょうか?
人手不足が顕著な業界なので、とても危機感を感じています。2040年に高齢者数がピークを迎えると推計されていますが、現時点ですでに人手が足りていません。このままでは事業が行き詰まり、介護を受けられない介護難民が生まれてしまうことが予測できます。

また、介護業界において日本人の労働力を確保しようと思うと、定年退職を迎えた方や主夫・主婦層の方、斜陽産業で職を失った方などを採用する必要があります。しかし本気で介護をやりたいという思いを持った人材は少なく、介護に思い入れの無い方を採用してもレベルアップを期待しづらいのが本音です。

そこで、業界で注目されているのが外国人人材です。彼らは働くことや稼ぐことへの意識が日本人と比べものにならないほど高く、若くて元気な人材が多いので。

国も技能実習制度や「特定活動経済連携協定(EPA)」、新しい在留資格「特定技能」を認めるなど外国人人材を活用する取り組みを進めてはいます。しかし、まだまだ整備が進んでおらず、当社としても外国人人材を採用する方法を模索していました。

- そんな中、2020年11月に東京にある日本語学校のM&Aで買収されました。どういった狙いからM&Aに至ったのでしょうか?
留学生と介護事業の親和性に目を付けたからです。コンビニで働く留学生をよく見かけると思いますが、今の日本の労働力不足を支えているのは留学生なんですよね。

彼らも、学費や生活費を払うためには働かないといけないので、ニーズがマッチしているんです。当社は介護の資格学校を運営しているので、日本語学校と連携すれば留学生に介護の資格を取得してもらうこともできます

また、留学生は介護施設側の求める人材ニーズに合いそうだという見立てもありました。というのも、介護施設は食事・入浴等忙しい時間帯が決まっているので、普段は少数で運営して忙しい時間帯だけ職員数を増やすことができれば、いったんは間に合うのです。

留学生の就業可能時間は1週間あたり28時間と限られているので、働く時間を互いに調整しやすいという点でも相性が良いんですよね。そこで日本語学校のM&Aを考えていたところ、今回の案件を見つけたので手を挙げました。



(※写真はイメージです)

【コロナ禍の状況だからこそ、金額が折り合う】

- 今回の日本語学校は、もともと2020年4月に開校予定であり、新型コロナウイルス感染拡大で開校が延期となっていた新規校ですよね?もともと新規校に目を付けていたのですか?
いえ、本音としてはすでに開校して生徒もコンスタントに集まっている日本語学校を探していました。ただ、案件を探し始めた2020年の夏ごろは、まだ日本語学校の売却案件自体が珍しかったこともあって新規校に注目したのです。

ただ、固定費が少ないのは新規校ならではのメリットでした。すでに開校している日本語学校なら職員が数十名にのぼりますが、今回は少数でしたから。

- 日本語学校の買収は今回が初めてですよね?
はい。以前から日本語学校の買収は考えていて、5社ほどと面談をしたことはありました。ただ、これまでは金額面で折り合いが付かず諦めていたんです。

しかし、コロナの影響をダイレクトに受けて経営状況が悪化した日本語学校が多く、最近では売却案件数が増えてきました。また、金額が以前より下がる案件も増えてきたのです。そのため、当社も積極的にM&Aを進め、直近で別の日本語学校のM&Aも行いました。開校してから5年ほど学校ですが、2021年2月から新たに運営開始予定です。

- 今回のM&Aにおける売り手企業様も、コロナによって開校の見込みが経たず、苦境に陥って事業売却に至ったのでしょうか?
そうですね。代表の方は別の事業をされていて、並行して日本語学校を運営しようとしていたようです。ところが、2020年4月開校を目指して準備をしていたときに、コロナがピンポイントで襲ってきて

留学生の受け入れがストップしている状況で、開校のメドが立たないまま固定費を払い続けていくのは大変だということで、残念な気持ちはあるものの売却に至ったようです。

- あらためて、今回のM&A交渉を振り返ってみていかがですか?
全体的な印象としては、苦労なく非常にスムーズに進みました。理由のひとつは、開校前の学校であったため、そもそもデューデリジェンスの必要性が無かったからです。

「この規模で、どれほどの収益が出るか」といった日本語学校のビジネスの構造は事前に調べて把握していたので、それ以外に調べることはなかったですね。

また、今回の譲渡金額は1億円以上の負債もすべて引継ぎ、土地・建物すべて込みで約500万円です。これはもともとの売り主さんの希望金額であり、金銭面で特別な交渉は必要としませんでした。

- 御社のどんな点が評価されて、売却先として選ばれたとお考えですか?
日本語学校を運営するだけでなく、受け入れた学生の進学や就職もバックアップできる体制があった点でしょうか。

日本語学校を卒業して就職できるのは、出身国の大学などを卒業している方に限られるため、卒業生のほとんどが専門学校や大学に進学します。専門学校や介護施設を運営する当社なら、希望する学生に進学やその後の就職の道を用意できます

当社を含めた3社ほどが売却先の最終候補に挙がっていたようです。しかし、意思決定に加わった従業員の方が、留学生の将来を見据えたプランを持つ当社の体制に安心感を抱いてくださり、当社を強くプッシュし、売却先に選んでいただけたようです。



(※写真はイメージです)

【「留学生の受け入れ」で終わらず、進学・就職をバックアップできる体制へ】

- 売り手企業の代表様の印象はいかがでしたか?
交渉ルームでのやりとりをしていた際のイメージ通り、聡明で爽やかな方でした。私も彼も、腹の探り合いはせず、「最初からストレートに物を言い合おう」という点が通じていたので、交渉に無駄が無かったですね。

- コロナ禍でメドが立ちづらい状況だと思いますが、日本語学校の今後の開校スケジュールはどのようにイメージされていますか?
日本語学校の入学時期は4月と10月ですが、これからコロナの収束がものすごく順調にいったとしても開校は2021年10月、現実的なラインとしては2022年の4月開校になりそうです。

日本語学校は、ビジネスモデル自体はシンプルですが、コロナのような外部要因に大きく左右されるビジネスであるため、不安はあります。しかし、「卒業後の進路サポート」といった、強みであり自分たちでコントロールできる要素を磨きながら、備えるしかないですね。

“この日本語学校なら、介護の資格も取得できるし、その後の進学や就職の道筋も立てやすい”という柱があれば、留学生にとって魅力的な環境に映ると思います。留学生が卒業後も日本で長く働いて稼げる仕組みの構築を、当社の介護という武器を使って実現したいと思います。

- 今後、介護施設で日本人と外国人どちらを採用するにせよ、定着率が重要になると思います。貴社が工夫されていることはありますか?
まずは、資格学校卒業後のアフターサポートですね。資格は1か月ほどで取得できるのですが、スキル面のためにも介護に携わる人材としてのマインドセットのためにも、その後の継続的な教育こそが大切なので学校と施設が提携して月1回の研修を開いています。

こうした卒業後の研修は、学校と介護施設両方を所有していて、ある程度規模感も大きい企業でなければ実施できないので、当社ならではの強みですね。

他に、介護事業における当社の特徴としては正社員比率の高さがあります。一般的な介護施設の多くは、収益性を高めるためにパート・アルバイト中心の雇用をしているのですが、当社では長く定着してもらうために、正社員比率を増やしてじっくり教育する体制を敷いています

退職する原因のほとんどは賃金なので、経済指標で出る業種ごとの平均賃金よりも高い金額設定をしています。ボーナスも年三回出すなど、定着してもらう工夫をしています。



(※写真はイメージです)

【買い値は最悪の経営状態を想定して考える】

- コンスタントにM&Aを進められていますが、仲介会社やM&Aプラットフォームなどを利用して案件をお探しになっているのですか?
10社以上の仲介会社と関わりがありますし、M&Aプラットフォームも複数利用しています。ただ、それらは全体の半数ほどで、周りの方や銀行から案件を紹介いただくことが多い状況です。介護領域のM&A案件に限ると、世に出ている案件はほぼ把握できていると思います。

- 多数の中から、どのような視点で案件を選んでいくのですか?
規模や予算の上限は特別ありません。というのも、当社は経営の立て直しを前提として買収することがほとんどなんです。利益が出ていて高額な案件を買うのではなく、譲渡金額の小さい赤字の案件を買って立て直しをすることを得意としています。

- 多くの方は、M&Aを考えるときに、現在の経営が順調な黒字案件に目を付けるのではないかと思います。あえて立て直しに挑むのはどうしてですか?
介護事業の場合、事業が順調だとしても、それは不確定要素のバランスが偶然取れて成り立っているだけで、1つ2つピースが崩れると一気に転落する脆さを持っているんです。

たとえば、買収されて経営者の方が交代することになったら、そのタイミングで職員が一気に辞めてしまい、運営が回らなくなったケースなどもあって。だから、今の利益をもとに売買価格を判断することはナンセンスだと思っているんです。

「黒字だし、介護は成長産業だから」という理由で安易に手を出してしまうと、高値で買ったもののまったく利益が出ないということが起こるかもしれません。買い値は、最悪の経営状態に転落することを想定した上で考えるべきだと思います。

- 今後、M&Aを考えている人へアドバイスをお願いします。
成功する根拠を持たぬまま、安易に意思決定をしないようにということですかね。

M&Aの仲介業者さんは、「今経営状態が良くないのは、現社長に経営手腕が無いからです。けれど、あなたが経営すればうまくいきますよ」と言葉巧みに案件を勧めてくるかもしれません。

けれど、実態はベストを尽くしているのに結果が出ていない状況だったりする。自分が買収した場合にさらに悪化するといったケースもあります。はっきりとした根拠を持って、「自分なら絶対に立て直すことができる」と言い切れる場合に挑戦すべきだと思います。





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  • 倉本祐美加
  • ライター紹介倉本祐美加

    関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。