2020-08-25

商標の使用NG?!老舗和菓子店をM&Aで、次の100年へ

買い手(法人):(株)纏屋

<多角化・新規事業創出を目的とした中小企業の買収事例>

 

現在和菓子の小売店やメーカーは、生き残りをかけて熾烈な戦いを続けています。特に地方の和菓子屋の経営はかなり厳しい状況……。福岡県直方市「四宮の成金饅頭」もその一つです。和菓子の背景やルーツは継承して、店舗も味も変えて新たな経営を始めるのが株式会社纏屋(まとや)の浅野雅晴さん。母体の会社(浅野藝術株式会社)は建築設計という浅野さんは、今回がM&Aに関して初めての交渉申し込みだったにも関わらず、見事成約を実現させました!ただ、交渉中に大きなトラブルにも遭遇することになりました。そんな老舗和菓子屋のM&Aを成功させた経緯や将来の展望を伺いました。


(右:今回の買い手である浅野さん)

【残すべきもの、変えるべきものを明確にプレゼンしたことが、売り手さんの心に響く】

- 成金饅頭とはどういったものですか?
直方市独自の和菓子で、ウズラマメ(インゲンの一種)から作った白餡がポイント。どちらかというとどら焼きに近いです。四宮ブランドの成金饅頭は、100年を超える歴史があります。一時期は福岡県内各地に直営店があり50代以上のシニア層の認知度が高いのですが、最近は2店舗のみに縮小された状況にありました。

若い世代の和菓子離れによる減益、売り手さんの会社で別事業に注力したいという意向もあって事業譲渡を決意されたようですね。

- M&Aを行おうと思った理由を聞かせてください。
もともと私の本業は建築設計業ですが、衣食住を事業で体現したいという思いを持っており、関連する物販や卸業も行っています。

私自身、全国のメーカーの方とお仕事をする機会が多く、出張のなかで各地域での“食”に触れることが大好きです。回数を重ねるに従い、だんだんと地域ごとに何が受け入れられて、何が受け入れられないか、特性が肌でわかるようになってきます。

その中で、自分の経験を活かし、いずれ異業種である食部門も独自に立ち上げたいと考えていました。でも、ゼロから事業を立ち上げるにはリスクが大きい。そこで経営者の友人からTRANBIを利用したM&Aの選択をすすめられたのです。

直方市は、私の出身地の北九州市と会社がある福岡市の中間にある、人口6万人の土地です。住みやすくて良い場所ですが、新しいことが生まれにくいし、廃れゆく文化も少なくない。今回の案件である和菓子屋も地元で100年続く銘菓ですが、このままだとなくなってしまうという状況でした。

TRANBIでこの案件が検索で出たとき、第一印象でピン!ときました(笑)。郷土が近いこともあり、もったいない、なんとかして救えないかという気持ちが高まり、申し込むことにしました。

- TRANBIではかなりの人気案件です。浅野さんが最終締結に至った要因は何でしょう?
売り手さんは、四宮の成金饅頭を残し、従業員の雇用の継続を守ってくれれば自由にやっていいという意向でした

でもなんでもかんでも勝手にやっていいというわけではありません。売り手さんとお店、土地へのリスペクトを忘れず、次の100年も続く饅頭にするために、残すべきもの(饅頭の歴史、店舗の場所、従業員の同待遇での継続雇用)と、変えるべきもの(顧客のターゲット層、パッケージや店舗デザイン)を具体的にシートに書き込んだ資料を作ってプレゼンしました

ほかに食品関連の企業様が競合でいらしたようですが、うちの建設・設計としての本業の成果も評価していただき、何度もコミュニケーションを重ねた結果選ばれたようです。

事業譲渡という形でしたので、売り手さんから従業員の方に事前に話をしてもらった後に個別契約し、引き継ぎはスムーズでした。M&A初体験としては、タイミング的にも条件的にも売り手さんとの相性も良かったと思います。でも、途中で大問題が起こったのです……。


(「まとや」として生まれ変わったお店の入り口)

【まさかの事態!「四宮の成金饅頭」名称の使用禁止】

- 饅頭の名前の使用禁止ですね。何故そのようなことに?
私は関与していないのですが、「四宮の成金饅頭」の創業家から売り手さんに饅頭の名称の使用禁止を言い渡されたそうです。売り手さんが使用するのはOKでも、譲渡先の会社が使うのはNGだと。もし使用禁止となれば、事業そのものの展開を変更しないといけないし、最悪事業を継承しないという決断も選択肢に入れないといけません。

もともと半年ぐらいで締結するつもりでしたが、時間が欲しいと売り手さんに頼みました。課題をクリアにするために、M&Aの最終締結までに1年もかかってしまったのです。

- 老舗の和菓子事業を継承するのに、名前が使えないのは致命傷です。
創業者と売り手さんの度重なるお話し合いで、なんとか「菓舗四宮」の名称使用は過去を語る際にのみ許可されることとなりました。今後は「まとや」という新しいブランド名に変わるけれど、「四宮」の歴史は引き継ぐことができた。こういう重要事項を売り手さんが譲渡条件にきっちり記載しておく、そして買い手側も確認することは必須だと勉強になりました。


(スタッフの方々が働く店内の様子)

【成金饅頭1本に絞って味を変える。大胆な決意に踏み切った理由】

- びっくりしたのが、成金饅頭の味を変えたことです。
和菓子は何といっても味が“命”。これまでの成金饅頭の味だと、年配層のウケはいいのですが、40代以前の若い世代には残念ながら響かない。洋菓子を好みがちな若い世代にも購入していただかないと、サスティナブルな和菓子製造を目指せません。

職人さんとよく話し合い、何度も何度も試食を重ねました。ウズラマメを使用して豆の食感を残すことはそのままに、原材料の仕入先を変え、饅頭の皮の食感を柔らかくし、甘さ控えめにする、餡の香り、そして手に持ったときの感触にもこだわりました

- 長年製造を担当した職人さんたちを説得するのは難しそうです。
もちろんそう簡単にはいきません。最初は「こんなの美味しくなるはずないよ」と言われましたし。でも、お店を引き継いだ時に「守るだけでは何も変わらない。饅頭を残すため若い世代に受け入れてもらえるようこう変えていきたい」と自分の思いを話し、味を変える必要性について時間をかけて説得。

最初は難色を示していた職人さんたちも、お客様やご家族が新しい饅頭を食べて美味しかったという声を聞いて、だんだん認識が変わっていったようです。

また、元々の店舗を構えていた場所は以前カラオケ店だったそうで、一見何屋なのかわかりにくい店構えで、お店自体にも洋菓子も置くなど商品数が多すぎる印象を受けました。

そこで建設・設計とのシナジーを活かす形で全面的に改装を行い、ショーウインドウを2台だけ置き、成金饅頭のみを陳列することに。ミニマム、シンプルな内装にして、入口に大きな和菓子屋ののれんをかまえ、成金饅頭のお店だということをわかりやすく押し出しました。また、“おもたせ”にしても喜ばれるように、パッケージも刷新したのです。


(リニューアルした「まとや」の成金饅頭)

【コロナの影響をプラスに変える。グランドオープンまでを準備期間に】

- ガラッと変わったお店と饅頭の味に地元の人はどんな反応を?
衰退していくしかなかったシャッター商店街に「新しい風が吹いたね」という声を結構いただいています。シニア層以外にも、40代以前の若い世代、一見さんのお客様も増えました。

実はコロナ禍の影響で、プレオープンは6月ですが、グランドオープンは9月の予定なんです。最初はショックでしたが、土地勘のない場所だから、時間をかけて情報取集をしながら準備時間にあてるべきとプラスに発想を変えました

もともと成金饅頭は、福を呼ぶ縁起物。コロナ禍を乗り越えたストーリーがのちのち語れるといいなと(笑)。グランドオープンする頃には、一般の消費者さんはもちろん、地域外のB to B展開も見据え、全国各地に知られるような戦略展開を始めていきたいと画策しています。


(シンプルで気品のある「まとや」の商品パッケージ)

【“見合った”譲渡金額、勝算は十分ある】

- 譲渡金額は数十万ほどですね。
私自身はリーズナブル、つまり“見合っている”額だと思います。もともと赤字経営だったこと、商圏的にお客様が少ないこと、従業員を同じ条件で引き受け、店舗のリノベーションなど莫大な投資額がかかることを考えるとデメリットも大きいからです。

しかし、我々が新しく産み出した味やB to Bをはじめとした今後の事業展開を踏まえると、勝算は十分にあると思っています。

- 最後に一言お願いいします。
成金饅頭の経営が軌道に乗るにはまだまだ時間がかかるかもしれません。でも、次の100年に残る和菓子のために頑張ります。

- ありがとうございました!


今回の記事に関する感想・ご意見をお待ちしています(→アンケートはこちら)



▶ お菓子・スイーツ関連の案件をご覧になりたい方はコチラ
▶ 中小企業の買収・M&A事例に関連する記事はコチラ:
「コロナ禍で果敢に地域密着型の居酒屋を買収! 建設業が飲食業を異業種M&Aした理由とは?」
  • 東野りか
  •  

    ライター紹介東野りか


    ファッション誌、生活誌の編集者を経て独立。インタビューと旅の取材・執筆がもっとも得意な分野。酒と旅と音楽と映画をこよなく愛する。