2020-12-15

ラーメンチェーン店社長が、宮古島で高級レンタカー事業を始めた理由

買い手(法人):(株)ミリオンスマイル

<中小企業の多角化M&A・買収事例>

 

コロナ禍にある2020年、外出自粛ムードは観光地に経済的な大打撃を与え、人気観光地の沖縄も例外ではありません。しかし先島諸島(さきしましょとう)の一つ、宮古島における高級外国車のレンタカー事業が、2か月弱の交渉期間を経て成約。2,000万円で事業承継したのが、複数のラーメン店を経営する株式会社ミリオンスマイル社長の加邊文彦さん。コロナ禍になぜ観光関連の案件の買収を考えたのか?引き継ぎ直後の予期せぬ失敗談も含めて、M&Aの概要、今後の展開を語っていただきました。



(綺麗な青空に映えるレンタカー)

 

【宮古島はコロナ禍でも“コストパフォーマンス”が高い】

- TRANBIで案件を見つけた時、会社はどんな状況でしたか?
我々はラーメン6店舗を含めた飲食店を経営しており、創業して17年の会社です。今年の2月末頃にコロナの影響で今後、本業のラーメン店の営業が難しくなるかもしれないと判断し、別事業で収益を得る為の準備を、今年の春先ぐらいからしていました。

結果的には、短時間かつパーソナルな空間で飲食可能なラーメン事業はそれほど収益が落ち込みませんでしたが、今後いつどこでどんな事態に陥るかわかりません。だからこれを機に事業の多角化を目指そうと、TRANBIなどM&Aマッチングサイトで、毎日色々な案件を見ていました。そんな時にこの案件に出会いました。

- ラーメン店とレンタカー業では、あまり共通点がなさそうです。
共通点が多すぎれば多角化とはならないでしょうし、あまり専門的すぎる業種だと参入は容易ではない思います。しかし、レンタカー事業ならば、お客様と直に接するサービス業という点で飲食業と共通項があります。“先島諸島の〜”という枕詞がついた案件を見て、もともと大好きな宮古島や石垣島でいつか事業をしたいという夢があったので、すぐに問い合わせを入れました。

- 実際には宮古島での事業だったわけですね?
同じ先島諸島でも、石垣島だと空港から中心地まで少し距離があるのですが、宮古島は市街地の近くに空港があります。例えば、私の自宅がある埼玉からなら、羽田から直行便に乗れば4時間ちょっとでレンタカー店に着き、車を借りてすぐキレイな海まで行けます。

海外のリゾート地に行くことが容易ではなくなった2020年現在、宮古島の価値は更に高まるでしょうし、短時間かつ最高のリゾート気分が味わえるという意味で宮古島は“コストパフォーマンス”が高いといえます。

加えて、その時点では、沖縄本島の那覇と違い、コロナの影響がそこまで大きくなかったということも後押しとなりました。



(綺麗な青空に映えるレンタカー)

 

【2,000万円でM&A即決、代わりにアフターサポートの充実を】

- 車両のラインナップはBMW、ベンツ、ハマーなどのラグジュアリーな外国車、国産車でもミニバンクラス。土地に不慣れな観光客の方にとっては、安価で運転しやすい軽自動車や大衆車の方が人気がありそうですが?
私も以前は旅先のレンタカーは軽自動車でした(笑)。だけど、海の見えるリゾートをちょっと良い車に乗って颯爽とドライブしたい、せっかくリゾートに来たなら写真映えするオープンカーに乗りたいというニーズが一定数あることがわかりました。富裕層、若者・・・そんなに多くはないけれど必ず需要がある

しかも、オープンカー専門レンタカー店の競合が宮古島には少ないので、ビジネスチャンスになると考えたわけです。それに宮古島の美しい青空と海のもとで、オープンカーを運転するのは、とっても気持ち良いんです!この素晴らしい体験ができるサービスがあるとは知らない方が多い。もっと知っていただけたら、需要は伸びるはずだと確信しました。



(宮古島の綺麗な青空)

 

- 案件を見てから、すぐに売り手さんにコンタクトを取られたんですか?
はい、すぐに買い申し込みの連絡をしました。そして、実名交渉に入り、電話で問い合わせをしたところ、『問い合わせは結構来ています』と。でも、『すぐに宮古島まで見に行きます!』と言って、電話した翌週に宮古島まで下見に行ったところ、熱意を感じていただけたのか、その後はとてもスムーズに話が進みました

M&Aの交渉に関しては何も問題なく、とても気持ちがいいお取引でした。何か別の機会があれば、一緒にお仕事をしたいと思ったくらいです。

- 売却額の合意で難航するといったことはありませんでしたか?
もちろん、先方は少しでも高く、私は少しでも安く買いたいと思うわけです。8台の中古車の価値を約1,000万と評価し、実際には2,000万円という提示を受けました。それまでの売上や収支を確認し、年間収支をシミュレーションしたうえで即決。有利子負債はなかったことも大きかったです。

即決するうえで、引き継ぎや不明点が出てきた際により丁寧にサポートしてほしいという思いを伝えました。車の価値についても、購入元といった最低限の履歴情報は確認しました。参考までに、財務諸表も見せてもらいました。



(レンタカー会社受け付けの様子)

 

【宮古島で働く現地のスタッフを意外な手段で手配】

- さらに、予約システムなどオペレーションのノウハウも含めて譲渡をうけたと聞きました。現地で働くスタッフの手配などについて教えてください。
もともと、現地スタッフが辞めてしまうということで、売り手さんは譲渡を決意された案件です。

M&Aは異なる会社が一緒になる以上、企業間の文化や風土の融合が重要ですが、実際にはきわめて難しい。今回の件に限らず、M&Aをするなら、できる限り譲渡前のスタッフがいない形の方が、自社の強みを活かして事業を進める上では好都合ではないかと考えていました。

一方で、私は東京を離れるわけにいきません。現場運営を誰に任せるのか?という問題が残りました。

そこで会社内のコミュニケーションツールに『宮古島で新事業をやりたい。現地で業務をやってくれる人を知らないか?』と投稿したところ、飲食店の社員スタッフから家族で宮古島に移住したいという前向きな返信が届きました。その理由を聞いてみると、「子育てを向こうでやりたい」、「仮に移住が決まれば奥さんも会社を退職する」という気持ちだったので、これは本気度が高いと考えました。そこで現地で事業を確認してもらうために、彼と一緒に再び宮古島に飛びました。

- スタッフの方の反応はいかがでしたか?
ありがたいことに、移住、転職を決意してくれました。また、彼から『レンタカーだけで収益は大丈夫ですか?飲食業のノウハウを活かして、移動販売もやっていいのでは?』と提案されました。しかも偶然にも、彼との滞在中にレンタカー店のスタッフさんの知人から、移動販売車を譲っていただけることになったのです。

ただ、そこまで一気に手を広げると彼の負担が大きくなるので、レンタカー業務が落ち着いたら始められるといいなと思います。



(偶然譲り受けた移動販売車)

 

【レンタカー予約は順調!最中におきた車両故障で謝罪の事態に】

- この10月からご自身たちだけで運営をしていますね。
レンタカー事業には順調に予約が入っていますが、車自体のトラブルが立て続けに発生してしまいました。オープンカーでの体験を楽しみに予約してくださっているお客様のことを考えると、断り続けるわけにもいかず、急遽2台を増車することにしました。

ただ、一部のお客様には代替が間に合わず、ご迷惑をおかけして謝罪せざるをえない場面もありました

たまたまトラブルが重なったのですが、内容はオープンカーの頻繁な屋根の開け閉めで電気系統の故障が起こったり、トランクの扉が開かなくなってしまったりというもの。

車両が故障した場合、代車が必要となりますが、弊社のレンタカー事業では車両が全8台しかありません。ご迷惑をおかけしたお客様から自社サイトにかなり厳しいご意見をいただいたこともあります。特別な体験を求めて、わざわざオープンカーのご予約を入れてくださったお客様ですから、もっともなことだと思います。

- それは大変なご経験でしたね。今回はスタッフの引き継ぎはないものの、事業オペレーションの引き継ぎはされていて、異なる企業文化の事業を引き継ぐ難しさはありましたか?
そうですね、現場では多少の戸惑いはありました。

我々の会社はミリオンスマイルという名前の通り、ご縁のある多くの人を笑顔にしたいという企業理念を掲げています。レンタカー事業の運営に当たってもいつまでも引き継いでいただいたやり方のままではなく、徐々に会社の理念=自分たちのカラーを出したいと思っています。

- 本業に活かせるシナジー効果はありますか?
もちろんです。本業の飲食業もレンタカー事業も同じサービス業ではありますが、お客様への対応に違いがあります。

例えば、レンタカー事業ではお客様からお叱りのコメントがネット上に寄せられた場合、ラーメン店のお客様と異なり、すでにお客様の連絡先を把握できているため直接ご連絡を入れることができます。私自身がそういったお客様の声に耳を傾け、一人一人のお客様に徹底的に向き合うことの大切さを、ラーメン店の全スタッフにも伝えるようにしています。

本来ならば、旅行という特別な時間の中で、お客様のニーズに従って、きめ細かいサービスもおこなっていきたい。

しかし、今は引き継いだばかりです。トラブルが起きないよう、ご不満を与えないよう、マイナスを作らないようにすることで精一杯です……。一日も早くプラスの付加価値をご提供できるくらいの余裕を持ちたいものです。



(宮古島での夕焼け)

 

【スモールビジネスで収益を上げる】

- 事業を拡大していく予定は?
貸出できる車をたくさん保有していた方がオンシーズンには間違いなく大きな売上が作れます。

が、同時に保険、車検、修理代が膨らみ、オフシーズンには固定費が大きな負担となります。そのため、私は現在の小規模事業の方が、経営面でのリスクを抑えられると考えています。

ラーメン屋でもそうですが、席数が多ければ多いほどお客様が来店されれば売上は大きいものの、空席が発生するリスクとのバランスを常に考えなければいけません。スモールビジネスの中でいかに収益を上げるかが、今後の大きな課題になると考えています。

- 現在、実際の収益はどれぐらいでしょうか?
自分たちで始めたのは10月ですので、まだなんとも言えません。ただ、コロナの影響があるにも関わらず、予想よりも数字がいい状況です。

レンタカー事業はほとんど事前予約がなされますので、ある程度数字を読むことができます。先ほどお伝えしたように、このビジネスは”刺さる人には刺さる”一定の需要があるからです。

今後を考えた場合、オープンカーや高級車に特化したレンタカー事業のノウハウは、他の地域でも展開を考えることができます

コロナ禍で各地のレンタカー会社が苦戦しているという記事を見ましたが、他の会社ではやらない特色を出すことがキーとなりそうです。経営が軌道に乗れば、他の島、地域でも展開できたらと思っています。

- M&Aをして良かったと思う点は?
宮古島という遠隔地に事業を持つこと、新たな事業に挑戦することで、間違いなく視野が広がりました。

いつか社員旅行で宮古島に行き、オープンカーでドライブしようという社員共通の目標もできました。私自身も、この期間、何度も宮古島に足を運び、その美しい空と海に心から癒されています。オープンカーでドライブすることで、旅の時間が俄然楽しくなる。その楽しみをもっと多くの方に知ってほしいと思います。

- ありがとうございました!



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太宰府天満宮など、歴史的文化財・伝統建築の修復保全を手掛ける建築会社の事業承継
  • 東野りか
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    ライター紹介東野りか


    ファッション誌、生活誌の編集者を経て独立。インタビューと旅の取材・執筆がもっとも得意な分野。酒と旅と音楽と映画をこよなく愛する。