会計事務所・税理士事務所のM&A|相場の決まり方・税理士法の注意点・事例
税理士事務所のM&Aは、税理士法のルールを前提に進めます。税理士業務を引き継げる相手、税理士法人の持分と社員の資格、顧問契約の承継、守秘義務への配慮に加え、価格の決まり方、実際の合併の事例、手続きの流れ、メリット・デメリットまで解説します。
- 09 M&A・事業承継の流れ・手順
- STEP1:M&Aの検討・準備
- STEP2:専門家への相談
- STEP3:譲渡先の選定(マッチング)
- STEP4:トップ面談・基本合意の締結
- STEP5:デューデリジェンス(買収監査)の実施
- STEP6:最終契約の締結とクロージング
- STEP7:PMI(経営統合プロセス)
- 12 会計事務所・税理士事務所M&Aの仲介会社・支援機関の選び方
- 信頼できるパートナー選びの重要性
- 仲介会社・支援機関を選ぶ際の比較ポイント
- おすすめのM&A仲介会社・支援サービス
- 自社の規模とニーズで選ぶべきパートナーは変わる
- 幅広いネットワークと実績を誇る「大手M&A仲介会社」
- 業界特有の事情に精通した「専門特化型ブティック」
- コストを抑えて相手を探せる「M&Aマッチングプラットフォーム」
- 中立的な立場で相談できる「公的支援機関」
「後継者が見つからず、事務所の将来に不安を感じる」「事業をさらに拡大したいが、何から始めれば良いかわからない」といった、会計事務所の経営者の方が抱える特有の悩みは、決して少なくありません。そのような課題を解決する有効な手段のひとつが、M&A(企業の合併・買収)です。
本記事では、会計事務所や税理士事務所のM&Aについて、その背景やメリット・デメリット、価格の決まり方、税理士法で押さえたいルール、実際の合併の事例、手続きの流れまで解説します。
M&Aの全体像と、検討を進めるうえで押さえておきたいポイントを整理しています。自社の状況に合った次の一歩を考える参考にしてください。
会計事務所・税理士事務所とは
会計事務所や税理士事務所は、企業や個人に会計や税務の専門サービスを提供する事業所です。これらは企業の健全な経済活動を根幹から支える、社会的に大切な役割を担っています。
「会計事務所」は、会計・税務のサービスを提供する事務所の名称として広く使われており、税理士事務所や税理士法人がこの名称を使うこともあります。名称だけで、提供できる業務や法的な形態が決まるわけではありません。税務代理・税務書類の作成・税務相談は、法令上の例外を除き、税理士・税理士法人でなければ行えません(税理士法52条)。
M&Aを検討する際は、相手が個人の税理士事務所なのか、税理士法人なのか、記帳代行などを行う株式会社なのかを確認することが大切です。
会計事務所・税理士事務所のM&Aと事業承継の基礎知識
会計事務所や税理士事務所の業界においても、M&Aは事業の存続と成長のための重要な経営戦略と位置づけられています。
ここでは、業界特有のM&Aの動向や、事業承継との関係性について基本的な知識を解説します。
会計事務所業界におけるM&Aの現状
M&Aとは、事務所の経営権を第三者に譲渡・移転することを指します。会計事務所の業界でM&Aが検討される主な背景は、経営者の高齢化と後継者不足です。親族や所内に適任者が見つからず、第三者への承継(M&A)を選ぶ事務所もあります。さらに、人材確保の難しさや顧客ニーズの多様化に対応するため、規模拡大や専門性強化を目的としたM&Aも行われています。
事業承継とM&Aの違い
事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐこと全般を指す言葉です。承継先によって「親族内承継」「従業員承継」「第三者承継(M&A)」の3つに大別されます。つまり、M&Aは事業承継を実現するための有力な手法のひとつです。かつては親族内承継が主流でしたが、近年は、後継者がいない場合の選択肢として、第三者に事業を引き継ぐM&Aも検討されています。
M&Aは、信頼できる相手に事業を託すことで、廃業を避け、雇用と顧客サービスを守れる有効な手段です。
会計事務所・税理士事務所M&Aの市場動向
税理士法人同士の合併など、事務所の統合の動きも見られます。背景には、経営者の高齢化にともなう後継者不足があり、中小規模の事務所がM&Aを選択肢にするケースがあります。一方で、事業規模の拡大、対応エリアの拡充、専門分野の強化を目的にM&Aを活用する大手・中堅の事務所もあります。国際税務やDX支援、事業承継支援などの専門性は、統合の相手を選ぶうえでも評価されやすい要素です。
会計事務所・税理士事務所におけるM&Aのメリット
買い手側のメリット
買い手にとって、M&Aは事業の成長を早める手段になります。
- 優良な顧客基盤の獲得
売り手が長年かけて築いた顧客基盤を引き継げる可能性があります。ただし、顧問契約は委任契約なので、事業譲渡では、顧問先の同意を得て契約上の地位を移す方法や、新たに顧問契約を結ぶ方法などで、個別に承継の手続きを行います。 - 専門人材の確保
採用・育成が難しい、経験のある税理士や専門知識を持つスタッフと協働できます。事業譲渡では、職員の転籍には本人の同意が必要です。 - 事業エリア・専門分野の拡大
自社だけでは進出が難しかった地域への展開や、新たな専門分野のサービスの提供につながる可能性があります。ただし、個人の税理士は税理士事務所を2つ以上設けられず、税理士法人は各事務所に社員税理士を常駐させる必要があるため、承継後の拠点と人員の配置を事前に確認しましょう。 - 競争力と信用の向上
事務所の規模が拡大することで、ブランド力が向上し、社会的な信用や競争優位性を高めることができます。
売り手側のメリット
売り手である経営者にとって、M&Aは長年の経営課題を解決し、引退後の見通しを立てる手段になります。
- 後継者問題の解決
親族や所内に後継者がいないという課題に、第三者への承継で対応できます。 - 事業と雇用の継続
廃業を避け、信頼できる相手に事業を託すことで、従業員の雇用と大切なクライアントへのサービス提供を守ることができます。 - 創業者利益の獲得
持分の譲渡では譲渡した社員が、個人事務所の事業譲渡では事業主(所長)が、対価を受け取ります。一方、税理士法人などが事業を譲渡した場合、対価は法人に帰属し、そのまま所長個人の資金として使えるわけではありません。受け取る人と、その後の資金の扱いによって、税金や手取り額は異なります。 - 経営責任からの解放
日々のプレッシャーから解放され、事務所が継続する安心感を得られることは大きなメリットです。
会計事務所・税理士事務所におけるM&Aのデメリット
買い手側のデメリット
買い手側の課題のひとつは、M&A後の統合プロセス(PMI)の難しさです。
- 組織文化の衝突
長年培われた事務所の文化や価値観、業務の進め方が大きく異なる場合、従業員間に軋轢が生じ、組織全体の生産性が低下するリスクがあります。 - 顧客・人材の離反
経営者の交代に対するクライアントの不安から顧問契約が解除されたり、キーパーソンとなる人材が退職してしまったりする可能性があります。 - 偶発債務のリスク
持分の譲渡では、未払い残業代や過去の業務に起因する損害賠償のリスクなどは、対象の税理士法人に残ります。合併では、消滅する法人の債務などが存続する法人に包括的に承継されます。事業譲渡では承継の対象を個別に決めますが、債務の移転には債権者の同意なども必要です。過去の申告・助言業務に関する紛争や、税理士職業賠償責任保険の補償範囲も確認しておきましょう。
売り手側のデメリット
売り手側にとっては、必ずしも自身の希望通りの条件で売却できるとは限らない点がデメリットとして挙げられます。
- 希望条件との乖離
事務所の規模や収益性によっては、買い手が見つかりにくかったり、想定よりも低い譲渡価格を提示されたりする可能性があります。 - 情報漏洩のリスク
M&Aの交渉情報が漏れると、従業員や顧客に不安を与え、組織が混乱するおそれがあります。 - 経営への関与や裁量の変化
承継の方法や契約の条件によっては、これまでのように経営方針を決められなくなる場合があります。一方、一定期間は社員・顧問などとして関わる形もあります。承継後の役割、権限、報酬、関わる期間を、事前に明確にしておくことが大切です。
会計事務所・税理士事務所M&Aの相場と価格算出方法
会計事務所のM&Aでは、売却価格が大きな関心事です。決まった相場表があるわけではなく、評価の手法を参考にしながら、当事者の交渉で価格が決まります。
M&Aの価格(相場)を決める要素
M&Aの価格は単一の計算式では決まらず、複数の要素を総合評価して決定されます。
主な評価要素は、顧問料の安定性、顧問先の数と継続性、所長への依存度、スタッフの経験と専門性、独自のノウハウ、地域の市場性です。最終的な価格は、これらを踏まえて交渉で決まります。
代表的な価格算出方法(バリュエーション)
企業価値評価は、以下の3つの方法を状況に応じて組み合わせて行います。
- マーケットアプローチ
会計事務所では、年間の顧問料収入を基準に、一定の倍率を掛けて目安をつける方法が使われることがあります。倍率は、顧問先の継続性、所長への依存度、地域性などによって変わるため、個別の事情を確認する必要があります。 - インカムアプローチ
将来の利益をもとに評価します。所長の報酬を調整したうえでの実質的な利益や、有資格者の構成、所長が抜けたあとの収益力などによって評価が変わります。 - コストアプローチ
事務所が保有する純資産を基に評価します。
実務では複数の手法を併用し、算出した結果をもとに譲渡価格を交渉します。実際にどのくらいの価格で売りに出されているかは、TRANBIの会計士・税理士・弁護士・社労士事務所のM&A案件一覧で、地域や価格帯ごとに確認できます。掲載されている金額は売却希望価格で、実際の成約価格とは異なる点に注意しましょう。
会計事務所・税理士事務所M&Aのスキーム
会計事務所のM&Aで用いられる手法(スキーム)には、いくつかの種類があります。事務所の形態(個人事務所・税理士法人・株式会社)と、税理士法のルールによって、使える手法が変わります。
株式譲渡
株式譲渡は、株主が株式を売却して経営権を移転する方法です。
株式会社形態の会計事務所(記帳代行や経営コンサルティングなど)で用いられます。ただし、株式会社は税理士業務を行えないため、税理士業務は税理士・税理士法人が担う必要があります。
税理士法人には株式がないため、株式譲渡は行えません。社員の加入・退社や持分の譲渡によって経営体制を引き継ぎますが、税理士法人の社員は税理士に限られます(税理士法48条の4)。持分の譲渡には、ほかの社員の承諾も必要です。
事業譲渡
事業譲渡は、特定の事業や資産を選んで売買する方法です。
個人事務所の場合や、法人の一部の事業だけを切り出して譲渡したい場合に使われます。税理士業務を引き継ぐ相手は、税理士・税理士法人に限られます。顧問契約は、顧問先の同意を得て契約上の地位を移すか、新たに結ぶなどの方法で個別に引き継ぐため、手続きが煩雑になる傾向があります。
合併
合併は、複数の法人をひとつに統合する方法です。税理士法人は、総社員の同意があれば、ほかの税理士法人と合併できます(税理士法48条の19)。
組織を完全に一体化させることで、相乗効果が期待できます。合併は登記によって効力が生じ、債権者保護の手続きも必要になるため、ほかのスキームに比べて準備に時間がかかります。
税理士事務所のM&Aで押さえたい税理士法のルール
税理士事務所のM&Aは、一般の会社のM&Aとは違い、税理士法のルールを前提に進めます。案件を探す前に、次の4点を押さえておきましょう。
- 税理士業務は、税理士・税理士法人しか行えない
税務代理・税務書類の作成・税務相談は、税理士・税理士法人でなければ行えません(税理士法52条)。税理士でない個人や株式会社が事務所を引き継いでも、税理士業務そのものは行えないため、買い手の資格を最初に確認します。 - 税理士法人の社員は、税理士に限られる
税理士法人の社員は税理士でなければなりません(税理士法48条の4)。ここでいう「社員」は、一般の従業員ではなく、税理士法人の出資者・構成員のことです。税理士資格のない事務スタッフを雇えないという意味ではありません。持分の譲渡や社員の加入で経営を引き継ぐ場合は、引き継ぐ人が税理士であることが前提です。 - 顧問契約は、顧問先の同意が前提
顧問契約は委任契約なので、事業譲渡では、顧問先の同意を得て契約上の地位を移す方法や、新たに顧問契約を結ぶ方法などで、個別に承継の手続きを行います。合併では、存続する法人に契約が引き継がれますが、顧問先への丁寧な説明が欠かせません。 - 守秘義務がある
税理士には、業務で知り得た秘密を正当な理由なく漏らしてはならない義務があります(税理士法38条)。交渉の初期は、顧問先を特定できない集計情報などを使い、開示する情報を必要最小限に絞ります。名前を伏せても、業種・所在地・取引内容などから特定できる場合があるため、資料全体を確認しましょう。顧問先の秘密にあたる情報を開示する場合は、顧問先本人の許諾など、開示を認める正当な理由があるかを確認します。買い手や仲介会社と秘密保持契約を結んだだけで、税理士の守秘義務への対応が終わるわけではありません。
M&A・事業承継の流れ・手順
M&Aにかかる期間は、相手探しや、顧問先・職員の承継の手続きなどによって異なり、1年以上かかる場合もあります。希望する引退時期から逆算して、余裕を持って準備しましょう。
STEP1:M&Aの検討・準備
まず、自社の財務状況や強み・弱み、後継者の有無などを客観的に分析し、M&Aの目的(後継者問題の解決、事業拡大など)を明確にします。
この段階で、譲渡価格や従業員の処遇など、譲れない条件を整理しておくことが重要です。
STEP2:専門家への相談
M&Aには専門知識が必要なため、信頼できるM&A仲介会社やアドバイザーに相談します。
秘密保持契約を締結した上で、自社の希望を伝え、本格的な準備を開始します。
STEP3:譲渡先の選定(マッチング)
仲介会社に依頼する場合は、仲介会社が希望条件に合う候補先を匿名で探します。M&Aプラットフォームで、自ら候補を探す方法もあります。
売り手の名称を伏せた概要資料(ノンネームシート)などで、候補先の関心や条件を確かめます。そのあと、秘密保持契約や売り手の意向を確認しながら、実名や詳しい情報を段階的に開示していきます。
STEP4:トップ面談・基本合意の締結
経営者同士で面談し、理念や将来像を共有します。
双方の意思が一致したら、価格やスケジュールなどの条件を定めた基本合意書を締結します。
STEP5:デューデリジェンス(買収監査)の実施
基本合意後、買い手側が売り手側の財務・税務・法務・労務などの状況を詳細に調査します。これをデューデリジェンス(買収監査)と呼び、事前に開示されていないリスクがないかを確認する重要なプロセスです。顧問先の情報を開示するときは、税理士の守秘義務を踏まえ、開示する情報を必要最小限に絞り、顧問先の秘密にあたる情報は顧問先の許諾などを確認したうえで扱います。
STEP6:最終契約の締結とクロージング
調査結果を踏まえて最終条件を交渉し、合意に達したら最終契約を締結します。
最終契約で定めた条件がそろったら、採用したスキームに応じて、持分の譲渡、社員の加入・退社、事業の移転、対価の決済、合併の登記などを行います(クロージング)。税理士の登録や税理士法人に関する届出・登記も、必要な時期を確認して進めます。
STEP7:PMI(経営統合プロセス)
契約締結はゴールではなく、文化や業務を統合し、シナジーを高めるPMIが重要です。
会計事務所・税理士事務所のM&Aの事例
税理士法人の合併は、法人が公表していることがあります。ここでは、公表されている合併の事例と、個人の税理士事務所を事業譲渡で引き継ぐ場合の一般的な進み方を紹介します。
事例1:税理士法人同士の合併(青山合同税理士法人と税理士法人税務総合事務所)
青山合同税理士法人は、2025年1月1日付けで税理士法人税務総合事務所と合併しました。両法人はかねてから協力提携関係にあり、合併によって経営体制を強化し、拡大・複雑化するクライアントのニーズに応えることを目的としています。合併後は、法人クライアント約1,200社、税理士24名を含む約120名の組織になったと公表しています。
消滅した税理士法人税務総合事務所は、顧問先との契約を同じ条件で青山合同税理士法人へ引き継ぐと案内しています。合併では権利義務が包括的に引き継がれるため、顧問先ごとに契約を結び直す事業譲渡に比べて、顧問先の手続きの負担を抑えやすい形です。
参考:税理士法人税務総合事務所との合併に関するお知らせ|青山合同税理士法人
事例2:個人の税理士事務所を事業譲渡で引き継ぐ場合の進み方
個人の税理士事務所の事業譲渡は、当事者同士の取引のため、詳細が公表されないことが多くあります。ここでは、税理士法のルールに沿った一般的な進み方を紹介します。
- 譲渡する所長
守秘義務を踏まえ、顧問先を特定できない資料で相手を探します。合意後は、顧問先への説明と同意の取得、職員への説明と転籍の承諾、引継ぎ期間中の同行訪問などを計画します。 - 引き継ぐ側
税理士または税理士法人であることが前提です。顧問契約は、顧問先の同意を得て地位を移すか、新たに結ぶなどの方法で引き継ぎ、職員とは本人の承諾を得て労働契約の承継などの手続きを行います。事務所の移転や名称の変更などにともなう届出も確認します。 - 両者に共通すること
顧問先が離れないよう、引継ぎの期間と所長の関わり方(顧問として残るかなど)を、契約で具体的に決めておきます。
会計事務所・税理士事務所M&Aのポイント・注意点
会計事務所のM&Aを成功に導くためには、いくつか重要なポイントと注意点が存在します。
これらを事前に理解し、対策を講じておくことが大切です。
成功確率を高めるためのポイント
まず、M&Aの目的を明確にし、一貫した方針で交渉に臨むことが重要です。
また、自社の強みや魅力を客観的に評価し、適正な企業価値を算出しておくことも欠かせません。
特に大切なことが、従業員やクライアントの離反を防ぐことです。
M&A後のビジョンを丁寧に説明し、不安を取り除くためのコミュニケーションを尽くす必要があります。信頼できるM&Aの専門家をパートナーに選ぶことも、円滑に進めるうえで大切です。
M&Aプロセスにおける注意点
M&Aのプロセスでは、情報管理を徹底しなければなりません。
交渉に関する情報が外部に漏洩すると、従業員や取引先に動揺が広がり、事業価値を損なう原因となります。
また、焦って相手を決めないことが大切です。複数の候補先と面談し、経営理念や文化が合う、心から信頼できる相手かどうかを慎重に見極めることが大切です。契約条件は専門家の助言を受けつつ細部まで確認し、将来のトラブルを防ぎます。
会計事務所・税理士事務所M&Aの仲介会社・支援機関の選び方
M&Aを円滑に進めるには、信頼できる仲介会社の選定が重要です。自社に合うパートナーを見つけるための要点を解説します。
信頼できるパートナー選びの重要性
M&Aは法務・税務・会計などの専門知識が必要で、交渉力も求められます。知識や経験の不足は、不利な条件での契約や、思わぬトラブルにつながりかねません。
実績のある仲介会社は、幅広いネットワークで相手を探し、専門知識をもとに交渉を支援します。パートナー選びは、M&Aの進み方を大きく左右します。
仲介会社・支援機関を選ぶ際の比較ポイント
仲介会社を選ぶ際は、次の点を比較検討します。
- 実績と専門性
会計・税理士業界のM&A実績があり、業界事情に精通しているか。 - 料金体系
着手金・中間金・成功報酬などの発生タイミングと料率が明確か。 - サポート体制
相談から契約、PMIまで一貫して対応できるか。 - 担当者との相性
親身に対応し、信頼関係を築けるか。
複数の会社と面談し、これらの点を総合的に判断して、信頼できるパートナーを選ぶことが大切です。
おすすめのM&A仲介会社・支援サービス
M&Aの進み方は、自社に合うパートナーを見つけられるかどうかに大きく左右されます。M&A支援サービスは特徴や得意分野が異なるため、規模・目的・予算に応じて慎重に選ぶ必要があります。
ここでは、代表的な相談先の種類と、それぞれのメリット・デメリットを具体的に解説します。
自社の規模とニーズで選ぶべきパートナーは変わる
M&Aの相談先は、大きく分けて「大手M&A仲介会社」「専門特化型ブティック」「M&Aマッチングプラットフォーム」「公的支援機関」の4つに分類できます。例えば、比較的大規模で複雑な案件であれば実績豊富な大手仲介会社が適しているかもしれませんし、業界特有の慣習を深く理解してほしい場合は専門特化型が心強いでしょう。
各サービスの特徴を理解し、自社に合う支援タイプを選びましょう。
幅広いネットワークと実績を誇る「大手M&A仲介会社」
大手M&A仲介会社は、全国対応のネットワークと多業種の豊富な実績が強みです。多くの買い手候補の中から、条件に合う相手先を探せる可能性があります。法務・税務などの専門家も社内に抱え、ワンストップで包括的なサポートを受けられる点も魅力です。
- こんな事務所におすすめ
比較的大規模な事務所、複雑なスキームが想定される案件、全国から幅広く候補先を探したい場合。 - 代表的な企業
「M&Aキャピタルパートナーズ」「日本M&Aセンター」など。
業界特有の事情に精通した「専門特化型ブティック」
会計・税理士事務所の承継の支援に実績がある専門会社であれば、顧問契約の承継、税理士法上の制約、業界特有の評価のポイントなどを踏まえた支援が期待できます。名称だけで判断せず、同業の支援実績や具体的な業務の範囲を確認しましょう。
- おすすめの事務所
専門知識を重視し、担当者と密に進めたい事務所。 - 代表企業
同業の支援実績を、面談や公開情報で確認しましょう。
コストを抑えて相手を探せる「M&Aマッチングプラットフォーム」
オンライン上で、売り手と買い手が直接コミュニケーションを取り、マッチングを進めるサービスです。
仲介を挟まずに相手と直接やり取りできるため、費用を抑えやすい点が利点です。TRANBIでは、売り手は無料で利用でき、買い手は交渉を進める際に月額プランへの加入が必要ですが、成約時の手数料はかかりません。
- こんな事務所におすすめ
比較的小規模な案件、M&Aの費用をできるだけ抑えたい、ある程度の知識があり主体的に交渉を進めたい場合。 - 代表的なプラットフォーム
国内最大級の登録者数を誇る「TRANBI(トランビ)」など。
中立的な立場で相談できる「公的支援機関」
国が各都道府県に設置している「事業承継・引継ぎ支援センター」では、無料の相談に加え、課題の整理、承継計画の検討、候補先とのマッチング、必要に応じた民間の専門家との連携などの支援を受けられます。公的機関のため、中立的な立場から相談できる点が特徴です。具体的な支援の範囲や、外部の専門家を利用する場合の費用は、相談先に確認しましょう。
- こんな事務所におすすめ
M&Aを検討し始めたばかりで何から手をつければ良いか分からない、まずは中立的な意見を聞いてみたい場合。
会計事務所M&Aに関するよくある質問(Q&A)
M&Aを検討するにあたり、多くの経営者様が抱える疑問や不安にお答えします。
Q1. 小さな個人事務所でも、M&Aは可能なのでしょうか?
はい、もちろん可能です。
むしろ、地域に根ざした優良な顧客基盤を持つ小規模事務所は、買い手にとって魅力になりえます。後継者問題は事務所の規模にかかわらず生じるため、小規模な事務所でもM&Aは選択肢になります。重要なのは規模の大小ではなく、自社の強み(顧客層の安定性、特定の専門性など)を正しく評価し、アピールすることです。
Q2. M&Aを考え始めるべき、タイミングやきっかけはありますか?
経営者が引退を意識し始め、親族や所内に適当な後継者が見当たらないことが、よくあるきっかけです。その他にも、「自身の健康への不安」や「単独での事業拡大に限界を感じた」といった理由で検討を始める方もいらっしゃいます。円滑なM&Aには1年以上かかることもあるため、引退を希望する時期から逆算して、数年前から準備を始めるのが理想的です。
Q3. 事務所の売却価格は、どのようにして決まるのですか?
ひとつの決まった計算式があるわけではなく、複数の評価方法を組み合わせて総合的に算出されます。
収入や利益に倍率を掛ける方法を使う場合も、その倍率が何の価値を表すのかを確認し、純資産などを二重に計上しないことが大切です。所長の報酬を調整して収益力を見るときは、所長の退任後に必要になる税理士や管理者の人件費も織り込みます。最終的な価格は、顧問先の継続性や承継後の収益力などを踏まえ、当事者間の交渉で決まります。実際の売却希望価格は、TRANBIの会計士・税理士・弁護士・社労士事務所のM&A案件一覧で確認できます(成約価格とは異なります)。
Q4. 少しでも高く売却するために、事前に準備できることはありますか?
はい、いくつかポイントがあります。
まず、誰が見ても業務内容が分かるように業務マニュアルを整備し、「所長がいなくても事務所が回る」状態を作ることが重要です。また、顧問契約書を整理・締結し直し、安定した収益基盤を明確にすることも価値向上に繋がります。
日頃から利益率の改善や、特定の顧客への売上依存度を下げるといった経営努力も、評価を高める上で有効です。
Q5. 従業員や顧問先に、M&Aの話はいつ伝えるべきですか?
従業員や顧問先への説明の時期は、M&Aで慎重な判断が必要な事項のひとつです。
最適なタイミングはM&Aのスキームによって大きく異なります。情報漏洩を防ぐため、説明の時期は、必要な手続きから逆算して決めます。特に「事業譲渡」スキームを用いる場合、従業員の雇用契約や顧客との取引契約は個別に承継手続きが必要となり、事前に同意を得なければなりません。事前説明を怠ると従業員や顧客の離反を招き、M&Aが破談するおそれがあります。どのスキームを選択するにせよ、専門家のアドバイスのもと、買い手と十分に協議し、発表のタイミングや伝え方を慎重に計画することが大切です。
Q6. M&A後、従業員の雇用や待遇は守られるのでしょうか?
事業譲渡で労働契約を引き継ぐには、原則として職員本人の個別の承諾が必要です。労働条件を変えて引き継ぐ場合は、その変更についても本人の同意を得る必要があります。合併では、労働契約は原則として今の内容のまま承継されます。
いずれの場合も、売り手と買い手の合意だけで待遇を自由に変えられるわけではありません。雇用の維持や処遇の方針を契約で定めるとともに、職員への説明と必要な手続きを行いましょう。
Q7. 売却後、所長はすぐに引退できるのでしょうか?
ケースバイケースですが、円滑な引き継ぎのために、一定期間、顧問などの形で事務所に残り、引き継ぐ側をサポートすることがよくあります。
特に、顧客との関係性が所長個人に依存している場合は、この引き継ぎ期間がM&Aの成否を分ける重要な要素となります。役割や報酬、期間といった条件は、交渉の段階で明確に定めておく必要があります。
まとめ|税理士法のルールを押さえて、会計事務所・税理士事務所のM&Aを進める
本記事では、会計事務所および税理士事務所のM&Aについて、基礎知識からメリット・デメリット、価格の決まり方、税理士法のルール、実際の合併の事例、手続きの流れ、相談先の選び方まで解説しました。後継者不足や競争の激化といった課題を抱える事務所にとって、M&Aは事業の存続と成長を考えるうえでの選択肢のひとつです。
成功の鍵は、M&Aの目的を明確にし、信頼できる専門家のサポートを受けながら、計画的に手続きを進めることにあります。
まずは自社の現状を正確に把握し、M&Aがどのような未来をもたらす可能性があるのかを検討することから始めてみてはいかがでしょうか。本記事が、次の一歩を踏み出す参考になれば幸いです。
