零細企業でもM&Aは可能!成功のコツと注意点を徹底解説
零細企業でもM&Aは事業承継や成長の選択肢になります。株式譲渡・事業譲渡などの手法と個人事業主の場合の違い、売り手・買い手のメリット、売却価格の決まり方やデメリット・注意点、相談から引き渡しまでの進め方、よくある質問までわかりやすく解説します。
「後継者が見つからず、このままでは廃業するしかないかもしれない」「会社の将来を考えると、単独での成長には限界を感じる」
そんな悩みを抱える零細企業の経営者の方も多いのではないでしょうか。
実はその悩みは、M&A(企業の合併・買収)で解決できる可能性があります。M&Aは大企業だけでなく、零細企業にとっても事業承継や成長戦略に有効な選択肢です。
この記事では、零細企業のM&Aについて、その目的や具体的な手法、メリット・デメリット、成功に向けた進め方まで解説します。M&Aの全体像と、判断に必要なポイントを押さえられます。
まずはこの記事で、零細企業のM&Aの全体像を掴み、次の一歩を踏み出すための準備を始めましょう。
零細企業とは?
零細企業とは、小規模企業の中でも特に規模の小さい企業を指し、法律で明確な定義はありません。
中小企業基本法では「小規模企業者」を定義しており、製造業その他では「常時使用する従業員の数が20人以下の事業者」、商業・サービス業では「5人以下の事業者」とされています。「零細企業」は法令上の区分ではなく、小規模な事業者を指す言葉として使われます。本記事では、小規模企業者に相当する事業者を中心に、規模の小さい会社や個人事業を対象として解説します。
なお、零細企業のM&Aは、取引の規模で見るとスモールM&Aにあたることが多くあります。本記事は「零細企業」という会社の規模の切り口から解説します。少額の取引ならではの探し方や進め方は、スモールM&Aの記事もあわせてご覧ください。
零細企業におけるM&Aの目的・意義
零細企業がM&Aを行う目的は多岐にわたりますが、主に「事業承継」「経営資源の有効活用」「廃業の回避」という3つの大きな意義があります。これらは、会社の存続と発展に直結する重要なテーマです。
① 後継者不在による事業承継
多くの中小企業、とくに零細企業では経営者の高齢化に伴い、後継者不足が深刻化しています。親族や社内に適切な後継者が見つからない場合、M&Aによって第三者に会社や事業を引き継いでもらうことで、長年かけて築き上げてきた技術やノウハウ、顧客との関係性を未来へ繋ぐことができます。
② 経営資源の有効活用
M&Aは他社の経営資源を取り込み、自社の弱みを補い成長を加速できる手段です。
例えば、新たな販路を持つ企業と組むことで売上を拡大したり、優れた技術を持つ企業を買収して開発力を強化したりすることが可能になります。これにより、単独では実現が難しかった事業展開も視野に入れることができます。
③ 廃業回避と従業員の雇用維持
後継者の不在や資金難で、事業の継続が困難になった場合、廃業という選択肢を取らざるを得ないケースもあります。しかし、廃業は従業員の雇用を失わせ、取引先にも影響を与えてしまいます。M&Aは、事業や雇用の継続を図る選択肢になります。ただし、実際の継続方針や雇用・処遇は、取引条件や必要な法的手続きを確認し、買い手と具体的に協議することが大切です。
これは経営者が社会的責任を果たすことにもつながります。
零細企業におけるM&Aの主な方法・種類
零細企業のM&Aで用いられる手法はいくつかありますが、ここでは代表的な「株式譲渡」「事業譲渡」「合併」「会社分割」について、それぞれの特徴を解説します。利用できる手法は、事業の形態によって異なります。個人事業主の場合は、主に事業譲渡によって事業を引き継ぎます。株式譲渡は株式会社の株式を売買する方法で、合併・会社分割は会社を対象とする制度です。合同会社などでは、持分の譲渡を検討する場合もあります。
① 株式譲渡
株式譲渡は、株式会社の既存株主が保有株式を買い手に売却する手法です。経営権の移転を目的とする場合は、取得する議決権の割合などが重要になります。
手続きが比較的シンプルで、会社を丸ごと引き継ぐため、従業員の雇用や取引先との契約も原則維持されます。一方で、簿外債務などの負債やリスクも対象会社に残ったまま買い手の傘下に入るため、事前のデューデリジェンス(企業調査)が重要です。
② 事業譲渡
事業譲渡は、会社の事業の一部または全部を選択して売買する方法です。
事業譲渡では、売り手と買い手の合意により、承継する資産・負債・契約などの範囲を定めます。承継しない債務は原則として売り手に残りますが、商号を続けて使う場合などには、買い手がその債務について責任を負う場合もあります。契約上の承継範囲だけでなく、債権者との関係や法的な責任の範囲も確認しましょう。許認可は、業法によって承継できる場合と取り直しが必要な場合があります。
資産や契約を個別に移転するため手続きが煩雑です。契約の移転には原則として相手方の承諾が、従業員の労働契約の承継には原則として本人の承諾が必要です。
③ 合併
合併は、複数の会社をひとつの会社に統合する手法です。消滅する会社の権利義務は、存続会社または新設会社に原則として包括承継されますが、許認可の扱いは業法ごとの確認が必要です。
株式会社では、原則として株主総会の特別決議による承認や債権者保護手続きなどが必要ですが、一定の要件で株主総会の承認を省略できる場合もあります。また、法的に統合しただけでシナジー効果が実現するわけではなく、業務や人事制度などの統合も検討することが大切です。
④ 会社分割
会社分割は、会社が営む事業に関して有する権利義務の一部または全部を、他の会社に承継させる組織再編の手法です。
事業譲渡と似ていますが、分割契約・分割計画に定めた範囲で権利義務を包括的に承継できる点で異なります。労働契約の承継は、対象事業への従事状況、分割契約・分割計画への記載、異議申出の有無に応じて決まり、労働者との協議や通知などの手続きも必要です。手続きが複雑なため、専門家と連携して進めましょう。
零細企業におけるM&Aのメリット
M&Aは、売り手と買い手の双方に大きなメリットをもたらす可能性があります。
ここでは、それぞれの立場から見た具体的なメリットを整理し、M&Aがどのような価値を生み出すのかを解説します。
売り手のメリット
- 廃業せずに事業を残せる
長年育ててきた事業やブランドを消滅させることなく、未来へ繋ぐことができます。 - 従業員の雇用を維持できる可能性がある
事業を続けることで、従業員の雇用を守る道が開けます。ただし、雇用や処遇の扱いは、取引条件や法令上の手続きを確認して決まります。 - 創業者利益を得られる
株式譲渡では、株式を売却する株主が代金を受け取ります。事業譲渡では、法人が売り手であればその法人、個人事業主が売り手であれば事業主本人が代金を受け取ります。実際の手取り額は、取得費、税金、手数料などによって異なります。 - 後継者問題を解決できる
後継者不在という深刻な経営課題を、外部の力によって解決できます。 - 個人保証から解放される可能性がある
会社の売却は、個人保証の解除に直結しませんが、買い手の信用力や金融機関との交渉により、保証契約の解除や縮減が実現する場合があります。
買い手のメリット
- 事業拡大にかかる時間やコストを抑えられる可能性がある
既存の設備や顧客基盤を活用することで、ゼロから事業を立ち上げる場合より、時間やコストを抑えられる可能性があります。ただし、買収の対価に加えて、専門家費用、設備の更新費用、統合費用なども含めて比べることが必要です。 - 顧客や販路を獲得できる
売り手企業が持つ顧客基盤や販売チャネルを一度に獲得し、迅速な売上向上が期待できます。 - 経験のある人材と協働できる
経験やスキルを持つ人材との協働が期待できます。ただし、買収後も人材が定着するための対応や、新しい業務・システムに関する教育が必要になる場合があります。 - 地域進出の足がかりになる
新たな地域への進出を検討している場合、その地域に根差した企業を買収することで、スムーズな市場参入が可能になります。 - 設備やノウハウを活用できる
売り手が持つ設備や独自の技術などを活用し、自社の事業を強化できます。許認可については、スキームと業法に応じて、維持・承継の条件や新たな取得の要否を確認します。
零細企業におけるM&Aのデメリット・注意点
零細企業のM&Aにはメリットがある一方で、次のようなデメリットや注意点もあります。
- 希望する価格で売れない場合がある
売却価格は画一的な相場で決まるものではありません。営業利益やEBITDA(利払い・税金・減価償却などの影響を除いた利益の指標)、純資産、将来性、技術・ブランド・顧客基盤、負債の状況などを踏まえ、交渉で決まります。零細企業では、経営者の報酬や一時的な収益・費用を確かめ、買収後に必要な人件費なども考えて、事業の収益力を見極めることが大切です。年商の大きさだけでは決まりません。 - 経営者に頼った事業は評価されにくい
取引先との関係やノウハウが経営者個人に集中していると、経営者が抜けたあとの事業の継続が懸念され、評価が下がったり、引継ぎの期間を求められたりすることがあります。 - 買い手が見つかるまでに時間がかかることがある
規模の小さい会社は、買い手の候補が限られる場合があります。早めに準備を始め、仲介会社やプラットフォームなど複数の探し方を組み合わせましょう。 - 情報が漏れると事業に影響する
従業員や取引先に不安が広がらないよう、秘密保持契約を結び、情報を共有する範囲を限ります。 - 個人保証や簿外の債務の整理が必要になる
経営者の個人保証は会社を売っても自動では外れないため、金融機関との調整が必要です。また、帳簿に載っていない債務が見つかると、価格の減額や表明保証の責任につながることがあります。
零細企業におけるM&Aの進め方
零細企業のM&Aを成功させるためには、計画的にステップを踏んで進めることが大切です。
ここでは、基本的な4つのステップに分けて、M&Aのプロセスを解説します。
STEP1:目標設定と戦略の策定
まず、「なぜM&Aを行うのか」という目的を明確にします。事業承継や成長加速、創業者利益の確保など、自社の目標を明確にし、M&Aが最適な手段かを確認します。この段階で、M&A仲介会社などの専門家に相談を始めるのも良いでしょう。
STEP2:対象企業の選定
自社の目標や戦略に合致する相手企業を探します。売り手であれば自社の強みを評価してくれる買い手を、買い手であれば自社の成長に貢献してくれる売り手を探します。M&Aプラットフォームや仲介会社を活用すれば、効率的に候補先を探せます。
国内最大級のM&Aプラットフォームである「TRANBI(トランビ)」は、事業を譲渡したい売り手と、事業を買収したい買い手を直接つなぐオンライン上のマッチングサービスです。売り手は自社の情報を匿名で登録することで、全国の潜在的な買い手候補にアプローチでき、買い手は多様な業種・規模の案件情報の中から自社の戦略に合ったものを探すことができます。プラットフォーム上で匿名のままやり取りし、条件が合えば実名交渉に進めます。売り手は無料で利用できます。買い手は、交渉を進める際に月額プランへの加入が必要ですが、成約時の手数料はかかりません。仲介会社を介さずに相手と直接やり取りできるため、自社のペースで交渉を進められます。
こうしたサービスを活用することで、これまで出会えなかった相手と出会える可能性が広がります。
STEP3:交渉と合意
候補先が見つかったら、トップ面談などを通じて具体的な交渉に入ります。
売却価格や従業員の処遇、経営方針などを協議し、双方が納得できる形で基本合意を目指します。この後、買い手によるデューデリジェンス(企業調査)が行われ、最終的な契約条件を詰めていきます。
STEP4:最終契約・クロージングと引継ぎ
最終的な条件に合意したら、株式譲渡契約や事業譲渡契約などを締結します。そのあと、必要な承認・承諾・許認可など、契約で定めた前提条件がそろっていることを確認し、株式や対象事業の移転と対価の支払いを行います。これが取引の実行である「クロージング」です。
株式譲渡では、案件に応じて譲渡の承認、株券の交付、株主名簿の書き換えなどを確認し、事業譲渡では対象となる資産・契約などの移転の手続きが必要です。取引の実行後も、登記・届出、税務申告、引継ぎなどの対応が残る場合があります。経営統合(PMI)の方針も取引の実行前から検討し、成立後に進めていきましょう。
零細企業のM&Aに関するよくある質問
会社は赤字でも売却できる?
はい、赤字でも売却できる可能性はあります。
独自の技術やノウハウ、優良な顧客基盤、価値のある許認可など、買い手に魅力的な無形資産があれば、赤字でも評価される場合があります。なお、許認可はスキームと業法によって承継の可否が異なるため、事前に確認しましょう。
売却額はいくらくらいになる?
一概には言えません。営業利益やEBITDA、純資産、将来性、経営者が交代したあとの収益力などを参考に評価し、最終的な価格は、取引の範囲や契約条件を含めた交渉で決まります。
評価額がそのまま売買価格になるわけではないため、必要に応じて専門家に企業価値評価を依頼しましょう。
売却後も経営に関われる?
買い手との交渉次第で可能です。
円滑な事業の引き継ぎのために、元経営者が一定期間、会長や顧問として会社に残り、経営を支援することがあります。
零細企業でも従業員への説明は必要?
はい、必要です。
情報漏洩のリスクがあるため、説明の時期は慎重に決めます。株式譲渡では雇用主の会社は変わりませんが、事業譲渡では労働契約を承継する前に本人の承諾が必要で、会社分割でも効力が生じる前に協議・通知などが必要です。必要な手続きから逆算して、説明の計画を立てましょう。従業員の協力を得られるかどうかは、M&Aの進めやすさにも関わります。
専門家に依頼すべきケースは?
専門家に依頼する範囲は、案件の規模や複雑さ、自社で対応できる体制によって異なります。当事者どうしで交渉を進める場合でも、契約上の責任、税金、雇用や許認可の承継など、判断を誤ると影響が大きい事項は専門家への相談をおすすめします。
売却価格の算定や交渉の進め方はM&A仲介会社やアドバイザーに、契約の法的な確認は弁護士に、税金の試算は税理士に、と必要な分野に応じて依頼しましょう。
M&A後に従業員はどうなる?
株式譲渡の場合は、雇用主である会社は変わらないため、雇用契約は原則としてそのまま続きます。事業譲渡の場合は、労働契約の承継に原則として本人の承諾が必要です。
買い手とは、雇用の継続や処遇についての方針を事前に確認します。ただし、売り手と買い手の合意だけで、従業員の労働条件を自由に変えることはできません。既存の労働契約・就業規則と、本人の合意など法令上必要な要件を踏まえて対応する必要があります。
まとめ|零細企業でも、準備しだいでM&Aは選択肢になる
本記事では、零細企業のM&Aについて、その目的から具体的な手法、メリット・デメリット、成功のポイントまでを包括的に解説しました。
後継者不足や事業の将来性に悩む零細企業にとって、M&Aは廃業を避け、事業や雇用を守る手段のひとつです。買い手にとっても、既存の経営資源を活用し、事業拡大にかかる時間やコストを抑えられる可能性があります。
M&Aを進めるときは、自社の目的を明確にし、正しい知識を持って計画的に準備することが大切です。法務や税務などの専門的な知識も必要になるため、早めに信頼できるM&A仲介会社などの専門家に相談しましょう。
この記事が、皆様の会社の未来を切り拓くための一助となれば幸いです。
