M&AでFAを起用する場面とは。対象の案件や業務内容を解説

M&AでFAを起用する場面とは。対象の案件や業務内容を解説

M&AにおけるFA(ファイナンシャルアドバイザー)は、経営陣の意思決定をサポートする補佐役です。高い専門性と交渉力、戦略立案力を持ち合わせており、複雑なM&Aのプロセスをサポートします。FAの必要性や業務内容について理解を深めましょう。

M&AにおけるFAとは

FAとは『Financial Adviser(ファイナンシャルアドバイザー)』の略称です。直訳すると『財務アドバイザー』ですが、M&Aでは計画立案からクロージングまで、経営者の意思決定をサポートする役割を担います。

M&Aの際に頼りになる相談先

FAの役割は、M&Aの案件成立に向けた適切なアドバイス・指導を行うことです。M&Aの仲介会社=FAと捉えられがちですが、仲介会社とFAはまったくの別物です。

  • M&Aの仲介会社:売り手と買い手の間で交渉の仲介を行う
  • FA:売り手または買い手と契約を結び、M&Aの成立に向けて助言を行う

M&Aでは、売り手と買い手がそれぞれ別のFAと契約して交渉を進めていくのが一般的です。FAの目的は、『クライアント(契約者)の利益を最大化すること』なので、仲介業務や中立的なサポートは行いません。

メガバンクや証券会社などがFA業務を担う

FA業務は、主にメガバンクや大手証券会社、外資系金融機関が担当します。大手企業を相手にする金融機関には、M&A専門の部署があるケースが多く、経験豊富なFAやアドバイザーが在籍しています。

2018年に武田薬品がアイルランドの製薬大手シャイアーを買収した折には、野村證券・JPモルガンチェース・エバコアの3社が武田薬品のFAを担当しました。

近年はオーナー企業や中小企業のM&Aも増えていますが、地方銀行や地場証券会社、信用金庫は、必ずしもFA業務に対応しているとは限りません。

FAへの報酬

FAを採用するのは、上場企業や大手企業が大半です。成功報酬のほかに、着手金や月額報酬、中間報酬が発生するケースがあり、FAのコストだけでもかなりの金額になると考えてよいでしょう。

成功報酬の目安

FAの報酬体系は、M&Aの仲介会社と類似しています。依頼先によっても異なりますが、以下のような項目によって構成されています。

 項目 内容
相談料 業務を依頼する前の初回相談料
着手金 業務を依頼する際に支払う費用
リテイナーフィー 定額の月額顧問料
中間報酬 案件の途中段階で支払う費用
成功報酬 最終契約の締結後に支払う費用

成功報酬以外の費用は、数十万円で収まるケースもあれば、数百万円に上るケースもあり、一般的な相場は存在しないといってよいでしょう。

成功報酬は『レーマン方式』で算出するのが通常です。レーマン方式とは、報酬基準額(取引で移動した資産の額)に一定の料率を掛けて算出する方法で、弁護士やアドバイザリー会社でも採用されています。

例えば、『譲渡価格が5億円以下の部分』は5%、『譲渡価格が5~10億円の部分』は4%といったように、取引価格に応じて料率が逓減するのが特徴です。累進課税の逆と考えると分かりやすいかもしれません。

FAは片手取引を行う

M&Aの仲介会社は、売り手と買い手の両方に仲介料を請求するのに対し、FAは売り手または買い手のいずれかと契約を交わす『片手取引』です。高い専門性や交渉力を要する業務であるため、報酬や費用は相対的に高額になりやすい傾向があります。

FAはクライアントの利益最大化に尽力します。条件面での妥協がなく、時には相手に対して過度な要求をする場合もあるでしょう。交渉が長引けば長引くほど、リテイナーフィーがかさむ点に注意が必要です。

FAが担当する主な案件

FAは、上場企業の案件やクロスボーダー取引などの『大型案件』で採用される傾向があります。中小企業でFAを採用するケースはそれほど多くありませんが、必要性がないわけではありません。

大規模なM&A

M&Aの取引額が高額になればなるほど、FAの真価が発揮されるといっても過言ではありません。大手の証券会社やメガバンク、外資系金融機関では、大規模なM&Aに対してのみFA業務を行っています。

とりわけ、多くの株主を抱える大手上場企業は、取引条件の妥当性や手続きの公正性に関して、株主から追及されやすいのが実情です。FAをサポート役とすることで、妥当性や公正性が担保された、自社に不利にならない交渉を進められるのです。

中小企業を対象としたFAも

基本的に、大手証券会社や外資系金融機関では、中小規模のM&Aに向けたFA業務は行っていません。

中小規模の案件でFAが必要な場合は、『専業FA』に依頼をしましょう。銀行や証券会社などで多くのM&A案件を手掛けてきた専門家による独立法人で、主に中小企業のFA業務を取り扱っています。

中小企業のM&Aは、仲介会社が取り仕切るのが大半といえます。仲介会社は売り手と買い手の両方から仲介料を得ているため、どちらか一方の肩を持つことはできません。

ただ実際には、売り手の利益が犠牲になりやすい傾向があり、『希望価格よりも売値が下回った』という声は少なくありません。その点、FAはクライアントの利益だけを考えて交渉に臨むため、納得のいくM&Aを成立しやすいといえます。

M&Aのプラットフォーム『TRANBI(トランビ)』では、売り手と買い手が直接やり取りをして交渉するのが基本ですが、必要に応じて外部の専門家やFAにサポートを依頼することが可能です。

事業承継・M&A専門家のご紹介|トランビ【M&Aプラットフォーム
事業承継・M&A専門家のご紹介|トランビ【M&Aプラットフォーム

M&A専門家一覧

クロスボーダー取引

『クロスボーダー取引』とは、売り手と買い手のいずれかが海外企業という、国をまたぐM&Aです。買い手が海外企業の『Out-In型』と、買い手が国内企業の『In-Out型』に大別されます。

地域や国をまたぐ場合、相手の商習慣はもちろん、法規制や税制についての知識が欠かせません。大企業のクロスボーダー取引では、FAだけでなく、税務や法務のアドバイザーを加えて専門家チームを結成するのが一般的です。

FAを選定する際は、世界中に幅広い情報網を有しており、かつ各国の法制に精通しているかどうかをチェックしましょう。

FAの業務の例

FAの業務は多岐にわたります。『戦略の立案』『取引条件の交渉』『M&A後の統合作業』の三つのプロセスに分けて、FAの役割と業務を見ていきましょう。

M&A戦略の立案

FAが担当する主な業務内容の一つが『戦略の立案』です。最初にクライアントの相談を受け、そもそもM&Aを実行するのが適切なのか、実行するとしたらどのようなスキームがよいのかを検討します。

M&Aは、どのスキームを選択するかによって、手続きの煩雑さや債務の負担度合い、課される税額などが変わってきます。FAに依頼することで、シナジー効果やM&A後の財務をしっかりとシミュレーションした上で進められるのです。

スキームの選定後は、M&Aの成立に向けた全体のスケジュールを策定し、候補先探しや、候補先との秘密保持契約の締結などをサポートします。

交渉のサポート

候補先にM&Aの意思があることを確認した後、クライアントに対して交渉の助言を行います。交渉自体は、売り手と買い手が行うのが基本のため、FAは交渉のサポートをする立ち位置です。

  • 譲渡価額への助言
  • 相手企業に対するプレゼンテーション内容の準備
  • 交渉戦術の立案・情報収集
  • 資金調達のアドバイス
  • スケジュールの進捗確認
  • 契約書作成のサポート
  • デュー・デリジェンス(買収調査)における専門家の採用

FAには、高度な専門性はもちろん、クライアントの利益のために粘り強く交渉を進める姿勢が求められます。報酬を得るためにクロージングを急ぐようなFAは、信頼性に欠けるといわざるを得ないでしょう。

M&A成立後の統合を実施

最終契約書が締結された後は、クライアントの『統合プロセス(PMI)』をサポートします。統合プロセスは、M&Aの成否を分ける鍵と認識されており、統合作業の良しあしによって企業の将来が変わるといっても過言ではありません。

具体的には、会社買収後の譲渡企業と譲受企業において、経営方針や業務ルール、社員の意識などを統合する作業を行います。

FAの役目は、統合プランの策定や進捗管理、マニュアルの整備などを実施し、多方面から経営者をサポートすることです。

会社買収で経営者が代わった直後は、会社全体が混乱状態にあるため、想定されるトラブルやリスクを事前に洗い出した上で、着実に統合作業を進めていかなければなりません。

まとめ

FAの役割は、契約を結んだクライアントの利益の最大化を目的に、経営陣を多方面からサポートすることです。

中小企業の場合、M&Aの仲介会社にサポートを依頼するオーナーが多い傾向がありますが、仲介会社とFAの目的・役割は似て非なるものです。M&Aの成功に向けて『誰をパートナーとするか』は重要であるといえます。