M&Aにおけるエグゼキューション業務とは。成功に向けて重要な過程

M&Aにおけるエグゼキューション業務とは。成功に向けて重要な過程

M&Aのプロセスでは、エグゼキューションと呼ばれるフェーズがあります。どの段階の業務のことを指すのか理解しておけば、思い描いているM&Aの実現に一歩近づけるでしょう。エグゼキューションの意味や具体的な業務について解説します。

M&Aの業務と流れを理解しよう

M&Aの業務は、オリジネーション・エグゼキューション・PMIの順に進められます。まずは、それぞれの大まかな業務内容を理解しましょう。

エグゼキューション

『エグゼキューション(execution)』とは、計画や命令を実行・遂行することです。M&Aにおいてエグゼキューションという場合は、M&Aのプロセスの実行・管理を意味します。

売り手と買い手がマッチングした後の交渉からクロージングまでの業務が、エグゼキューションで行われる業務です。案件を成功に導くまでフォローする、後半部分のプロセスを担います。

エグゼキューションでは、M&Aプランを実行可能な状態にまで落とし込まなければならないため、多大な業務量と高度な専門性が必要です。プロによる大規模なチームが組まれる場合もあります。

オリジネーション

エグゼキューションに至るまでの活動領域が『オリジネーション』です。始まりや出発することを意味する『originate』に由来し、売り手と買い手のマッチング業務全般を指し、M&Aの前半部分で行われる業務が該当します。

オリジネーションで行われる主な業務は、顧客の分析や相手企業の選定、売り手と買い手の仲介です。具体的な案件組成の段階ともいえます。

M&Aのプロセス全体を通した目標設定や戦略策定も、オリジネーションの初期段階で行われる業務です。

PMI

『PMI』とは、オリジネーション・エグゼキューションと進み、クロージング後に行われる経営の統合プロセスを指します。『Post Merger Integration』の略語です。

不安定になりがちなM&A後の経営を早く軌道に乗せるためには、PMIの適切な実施が欠かせません。PMIをきちんと行うことで、M&A後に発生しやすい従業員同士のトラブルやシステムの不具合を予防できます。

事前に想定していたシナジー効果を実現しやすくすることも、PMIを実施する目的の一つです。PMIに力を注げるかどうかが、M&Aの成否に大きく関わってきます。

交渉、基本合意書締結までの流れ

エグゼキューションの前半部分では、スキームの検討から基本合意書締結までの業務が行われます。特に重要な業務の内容を覚えておきましょう。

適切なM&Aの手法を考える

オリジネーションで交渉相手が決定したら、適切なM&Aの手法を検討しなければなりません。エグゼキューションで行われる最初の業務です。

M&Aの手法にはさまざまな種類があり、自社の戦略に応じて最適なものを選ぶ必要があります。具体的には、『コストの大きさ』『リスクの有無や程度』『手続きにかかる手間』などを重視して決定することになるでしょう。

中小企業の場合は、M&Aの手法として株式譲渡や事業譲渡を選ぶのが一般的です。ほかには、合併・会社分割・TOBなどの手法があります。

企業価値評価や条件交渉を行う

適切なM&Aスキームが決まった後は、『バリュエーション』と呼ばれる企業価値評価を行います。バリュエーションとは、売り手と価値を金額に換算して評価する手法です。

バリュエーションを実施することで、M&Aを実行すべきかどうかの判断を行いやすくなります。対象会社への投資金額の根拠を第三者目線による客観的な視点で説明できるため、自社のステークホルダーから訴訟を起こされるリスクを回避できる点もポイントです。

実際、十分なバリュエーションを行わずにM&Aを進めた結果、被買収会社の『粉飾決算』が発覚し、自社の株主から損害賠償責任を請求された事例もあります。

上場企業と異なり、未上場会社の株式には市場価値が存在しません。株主への説明責任を果たすためにも、専門家を取引価額の算定に加え、客観的な評価を下す必要があるのです。

バリュエーション後に行われる業務が、相手企業との交渉です。買収価格や大まかな条件など、重要事項から妥協点を模索していく流れになります。

M&A手法や条件などを基本合意書に記載

売り手と買い手の交渉がまとまったら、双方の間で基本合意書を作成するのが一般的です。M&A手法や条件など、おおむね合意に至っていることを記載します。

『価格に関する条件』『秘密保持契約』『デューデリジェンス資料開示への協力』『独占交渉権の有無』などが、基本合意書に盛り込まれる主な内容です。

M&Aのプロセスにおいて、基本合意書は必ず作成すべきものではありません。しかし、基本合意書を作成しておけば、クロージングまでの業務をよりスムーズに進められます

デューデリジェンス、最終契約へ進める

基本合意書作成後、クロージングまでに行われる業務の流れや内容を解説します。デューデリジェンスや最終契約書について理解を深めておきましょう。

対象企業の価値や問題点などを調査、把握

基本合意書の締結後は、『デューデリジェンス』のフェーズに進みます。デューデリジェンスとは、買い手が売り手についてさまざまな視点から精査することです。

法務・財務・税務・人事など、デューデリジェンスには目的別にいくつかの種類があります。対象企業の価値や問題点をどこまで調査するのか、予算を考慮しながら選択しなければなりません。

デューデリジェンスの結果は、基本合意書で記載された買収価格に影響を与える場合があります。最終契約書の締結前に、変更後の価格や条件に関して交渉しておく必要があります。

最終契約書の締結、クロージングへ

デューデリジェンスが終了し、最終交渉も合意に至れば、双方間で『最終契約書』を締結します。最終契約書に盛り込まれる主な項目は、M&A手法・価格・秘密保持・表明保証などです。

最終契約書は、法律のプロに内容をきちんと確認してもらう必要があります。小さな論点まで精査してもらえば、クロージング後の双方におけるリスクを最小化することが可能です。

最終契約書の締結後は、企業や事業を移転させる『クロージング』が行われます。クロージングに要する期間は約1カ月~1年です。

まとめ

M&Aのエグゼキューションとは、相手企業との交渉からクロージングまでの活動領域を意味する言葉です。オリジネーション後の段階を指し、エグゼキューション後にはPMIのフェーズに移行します。

エグゼキューションの主な業務内容は、交渉・バリュエーション・基本合意書締結・デューデリジェンス・最終契約書締結・クロージングです。エグゼキューションを効率的に進め、M&Aを成功に導きましょう。