優先交渉権と独占交渉権の違いとは。基本合意書における注意点

優先交渉権と独占交渉権の違いとは。基本合意書における注意点

M&Aを行う際に、優先交渉権を設ける場合があります。設定することにより、買い手と売り手にどのような影響を与えるのでしょうか?得られるメリットを見ていきましょう。また優先交渉権を得るタイミングについても紹介します。

優先交渉権の内容とは

優先交渉権を持つ買い手との交渉は、持っていない買い手との交渉よりも優先されます。ただしM&Aの全期間を通して優先的に交渉できるわけではなく、期限を設けるのが一般的です。

特定の他者に優先してM&Aの交渉ができる

M&Aでは、売りに出ている1社に対し、複数の買い手が現れるケースもあります。優先交渉権を持っている買い手は、売り手と優先的な交渉が可能です。

たとえ他の買い手が現れたとしても、優先交渉権を持つ買い手が同等以上の条件を提示した場合、売り手は優先交渉権を持つ買い手と交渉しなければいけません。

ただし売り手は、複数の買い手候補に対して優先交渉権を設定できます。複数の買い手候補に優先交渉権が付与された場合、その買い手候補間には優劣がなく同等の存在です。

数カ月程度の期限を設定する

優先交渉権を設ける期限に法的な制限はありません。そのため買い手と売り手の間で合意すれば、1年というような長期間の期限でも設定が可能です。

ただし長すぎる期限は売り手にとって不利になるため、一般的には『2~3カ月』の期限を設けます。デュー・デリジェンスから最終契約までにかかるであろう時間を考慮し、個々のケースに合わせた期限を決めるとよいでしょう。

独占交渉権が付与される場合も

取引内容や当事者の意向によっては、優先交渉権ではなく独占交渉権が設定される場合もあります。独占交渉権とは、どのような特徴のある条件なのでしょうか?

独占交渉権は1社のみに付与される

複数の買い手との間に付与される可能性のある優先交渉権に対し、独占交渉権は1社にしか与えられません。そのため独占交渉権を設けた買い手以外との交渉は禁止されます。

非上場企業のM&Aでは、価格を含むさまざまな条件を当事者間の交渉により決定する『相対取引』が行われます。この交渉を進めるにあたり、独占交渉権を設定するケースが多いでしょう。

優先交渉権と独占交渉権はどちらがよいのか

優先交渉権と独占交渉権のどちらかを設ける場合、買い手にとって有利なのは独占交渉権です。交渉の途中で、より好条件を提示する他者に売り手を横取りされる心配がないため、安心して交渉や必要な手続きに取り組めます。

一方で売り手にとっては、独占交渉権はリスクが大きいでしょう。より条件のよい買い手が現れても、すぐに交渉できずチャンスを逃す可能性があります。そのため買い手候補の条件を比較しつつ進められる、優先交渉権を選ぶ売り手が多いでしょう。

ただし売り手が必ずしも優先交渉権を選ぶとは限りません。売り手の考え方やタイミング次第で、どちらを選ぶかは異なります。

優先交渉権や独占交渉権が必要な理由

国内のM&A市場は売り手に有利な状況です。そのため売り手1社に対して複数の買い手候補が現れるケースは珍しくありません。そのような場合に、できるだけスムーズかつ有利に取引を進めるために、優先交渉権や独占交渉権が用いられます。

滞りなく取引を進めるため

売り手有利のM&A市場では、売り手がより好条件の買い手を求め、いつまでも交渉し続ける事態が考えられます。これではM&Aがなかなか成立せず、時間と手間ばかりがかかってしまうでしょう。

また交渉が進み最終合意しかけていたところに、他の買い手候補が現れ、売り手を横取りされる可能性もあります。優先交渉権や独占交渉権を設けると、交渉の長期化や他者による横取りの予防が可能です。

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交渉を有利に進めるため

複数の買い手候補がいる場合、M&A価格に価格競争が発生します。他者との競争により、M&Aに必要な費用が当初の想定より膨らむ可能性もあるでしょう。

優先交渉権を設けていれば、他の買い手候補より早く売り手と交渉できます。また独占交渉権が付与されていれば、売り手は他者と交渉できないため、価格競争は発生しません。

予算内に収まる費用で有利にM&Aを進めやすくなります。

デュー・デリジェンスの費用を無駄にしないため

売り手と交渉中に他の買い手候補が現れると、それまでに費やした時間や手間が無駄になってしまいます。特にデュー・デリジェンス実施後に他者に横取りされた場合、損失は大きく膨らみがちです。

専門家へ依頼する調査のため、数十万~数百万円かかるケースもあるでしょう。売り手が自由に他者と交渉できる状況では、デュー・デリジェンス後に調査費用が全て無駄になる可能性もあります。

そのため、優先交渉権や独占交渉権の設定が重要です。

売り手にはメリットがあるのか

買い手にとって有利な優先交渉権や独占交渉権は、売り手にとってはあまりメリットになりません。そのため適切な期限の設定が重要です。買い手候補の中には、他者との交渉ができない点を利用し、大幅な値下げ交渉を実施するケースもある点を把握しておきましょう。

買い手に安心感を与えられる

優先交渉権や独占交渉権を設けると、売り手は買い手に安心感を与えられます。ただし、その他には特段のメリットはありません。

期限内は特定の買い手以外との交渉が自由にできないため、チャンスを逃す恐れもあります。そのためデュー・デリジェンスから最終合意に必要な期間を適切に把握し、期限を設けることが重要です。

また売り手はできるだけ好条件の買い手に売りたいと考えているため、買い手の提示する条件を比較した上で、最も希望に近い候補に優先交渉権や独占交渉権を付与するケースもあります。

買い手からの強気な値下げ交渉のリスクも

売り手にとって、独占交渉権の設定にはリスクがあります。例えば大幅な値下げのリスクです。

最初に開示した条件では高値を提示していた買い手が、デュー・デリジェンスの結果を理由に、大幅な価格交渉を行うケースがあります。このような場合、買い手は独占交渉権を取得するために、意図的に最初に高値を提示しているかもしれません。

このようなリスクは優先交渉権の設定でも起こり得ます。

優先交渉権はいつ、どのように得られるのか

優先交渉権を得るには『意向表明書』で希望するか、『基本合意書』へ盛り込むのが一般的です。それぞれのケースでどのように設定されるのか見ていきましょう。

意向表明書で希望を出す

意向表明書によって優先交渉権の希望を提示するのは、入札形式のM&Aです。買い手は意向表明書の提出によって、買収の意思と条件を提示します。この条件の中に、優先交渉権の付与について記載するケースが多いでしょう。

入札形式では、複数の買い手候補と同時並行で交渉を進めます。しかし全ての買い手候補と交渉をしていると、時間と手間がかかりすぎるため、意向表明書が活用されるという仕組みです。

売り手は意向表明書に記載された条件を比較し、交渉する買い手候補を絞り込みます。そしてより好条件の買い手候補に対して、優先交渉権を付与するのが一般的です。

基本合意書締結時に盛り込む

買い手と売り手の意思決定者同士の面談が行われ、その時点の条件に合意すると、合意内容を確認する目的で基本合意書を締結します。この基本合意書の中に、優先交渉権を盛り込むのも一般的な方法です。

この際、売り手に対して、他者との交渉や情報提供を禁止する『ノー・トーク条項』や、自発的な買い手候補探しを禁止する『ノー・ショップ条項』を盛り込むケースもあります。

義務違反に備えるには

優先交渉権を設定したにもかかわらず、優先交渉権を持たない買い手と先に交渉するという義務違反が生じる可能性に、どのように備えればよいのでしょうか?法的拘束力を持たせる方法や、実際に裁判で争われた事例を紹介します。

法的拘束力を持たせる

基本合意書に盛り込んだだけでは、優先交渉権にも独占交渉権にも法的拘束力はありません。基本合意書そのものは単に条件を確認する意味合いで取り交わす書類であり、法的拘束力はないからです。

そのため売り手が他者と秘密裏に交渉していても、法的な責任を追及できません。このような状態を避けるには、優先交渉権や独占交渉権に対して法的拘束力を持たせる条項を追記しましょう。

義務違反に対して損害賠償請求が可能といった罰則が設けられていれば、義務違反の抑止力になります。

譲渡対価などには法的拘束力を持たせない

優先交渉権や独占交渉権に対する法的拘束力を持たせた場合でも、その他の項目については意向表明にとどめておきましょう。例えば譲渡対価に法的拘束力を持たせると、デュー・デリジェンスの結果、リスクがあると判明しても価格交渉できません。

M&Aスキームに関する内容も、交渉が進む中で変化する可能性があるでしょう。後々変化するかもしれない点については、基本合意書の趣旨通り、条件を確認すればよいでしょう。

基本合意書を作成したら、法的に極めて不利な内容になっていないか確認するため、リーガルチェックも欠かせません。

基本合意の撤回について争われた事例

独占交渉権に法的拘束力を持たせた内容を基本合意書に盛り込んでいた場合、基本合意を撤回しても、独占交渉権が認められた事例があります。

住友信託銀行とUFJホールディングスで争われた事件です。独占交渉権を設定した基本合意をUFJホールディングスが一方的に撤回し、他社との交渉を行いました。

住友信託銀行側は、UFJ側を相手に訴えを起こし、基本合意の独占交渉権を法的根拠の一つとして、他社との交渉差し止めを要求しました。訴訟は最高裁まで争われ、最終的に交渉の差し止めは認められませんでしたが、判決において、独占交渉権の法的拘束力自体は認められています。

限界はあるものの、基本合意書への追記によって独占交渉権の法的拘束力が確かにあると示された事例です。この結果を踏まえ、基本合意書作成の参考にするとよいでしょう。

まとめ

他者より優先的にM&Aの交渉ができる権利を優先交渉権といいます。独占交渉権との違いは、複数の買い手候補への付与が可能な点です。

意向表明書への記載や、基本合意書に盛り込むことで設定します。売り手の義務違反を防ぐには、法的拘束力を持たせる条項を設定しましょう。これにより独占交渉権の法的拘束力が認められた事例もあります。

買い手にとってはスムーズなM&Aに必要な優先交渉権や独占交渉権ですが、売り手にとっては不利になるかもしれません。売り手の負うリスクや不利益も把握した上で、設定について交渉するとよいでしょう。

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