学校法人のM&Aは特殊。事業会社の買収との違い、流れ

学校法人のM&Aは特殊。事業会社の買収との違い、流れ

対象が学校法人であってもM&Aは可能です。しかし事業会社のM&Aとは、用いるスキームや手続きが異なります。学校法人が抱える課題や、M&Aによって得られるメリットなどを、学校法人を取り巻く状況とともに見ていきましょう。

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学校法人の課題とこれから

学校法人は財務状況の悪化が深刻です。少子化の影響もあり、現状のまま改善を目指すのは難しいでしょう。そこで統合によって、再生を目指す動きが活発化しています。

経営基盤の不安定さ

私立大学の経営状況は、厳しい状況に陥っています。100を超える学校法人において、財務状況が悪化し経営基盤が不安定になっているという調査結果もあるほどです。

学校法人の経営状況がこれほどまでに悪化したのは、コロナ禍も影響しています。経済活動が滞った結果、受験生の保護者の収入は減少しました。

教育にかけられる費用が減り、併願校を最小限にしたり、進学を断念したりするケースが増えています。加えて、海外からの入国が難しい状況で留学生が減ったのも、財務状況の悪化につながる要因です。

このままでは、資金ショートを起こしかねない学校法人もあります。

統合などによる再生の動きが進む

財務状況の悪化を引き起こす要因は、全体に影響するものと個々の法人のものとがあります。全体に影響する要因として代表的なのは『少子化』です。このまま少子化が進行すれば、生徒を取り合う状況は避けられません。

また各学校法人には、教育の質の向上が求められるでしょう。そこで進むと考えられているのが、学校法人の統合による再生です。例えば東京歯科大学は、慶應義塾大学への歯学部の統合や法人の合併について協議を進めています。

学校法人のM&Aを実施する理由、メリット

学校法人のM&Aは、買い手にとってもメリットがあります。まず挙げられるのは、M&Aの実施により、新規開設をしなくても学校法人を運営できる点です。学校法人であることで社会的信頼を得られ、補助金や税の優遇など国の支援も受けられます。

新規開設が困難なためM&Aが選択肢に

学校法人を開設するには、私立大学や私立高専であれば文部科学省、高校以下の私立学校であれば都道府県が所轄庁となり、それぞれ認可を受けなければいけません。申請すれば認可されるといった簡単なものではなく、開設までに多くの時間と資金が必要で、ノウハウも求められます。

また開設後は人材の確保も必要です。質の高い教育を提供するには、経験を積んだ人材が欠かせません。一から人材を集めるには手間がかかり、優秀な人材を育成するための時間もかかります。

M&Aで学校法人を引き継げば、ハードルの高い新規開設をしなくても学校法人を運営でき、同時に人材の確保も可能です

信頼獲得、国からの支援が受けられる

学校法人は、所轄庁の認可を受けて設立されており、営利を目的としていないことから、社会的な信頼を得られやすいといえます。

一方、事業会社が運営する教育機関は、学校を取り巻く状況の変化に合わせスピーディーに変革できるのが強みです。しかし、信頼度の高さでは、厳格なルールのもと設立・運営される学校法人には及びません。

加えて学校法人であれば、補助金によるサポートや税金の優遇を受けられるのも特徴です。「国の支援を受けるために学校法人を獲得したい」と考える買い手も多いでしょう。

学校法人M&Aの事前計画

M&Aがスムーズに進んだとしても、現状維持のまま運営を引き継ぐだけでは、財務状況が悪化していく可能性があります。重要なのは、収益向上に向けて事前に計画を立てることです。戦略的なブランディングの実施や、収益事業への取り組みがポイントとなります。

ブランディング戦略

提供している教育の質や独自性が高くても、児童や生徒、学生が集まらなければ学校法人の財務状況は改善しません。そのため他校と違う点を明確に区別し、魅力として情報発信していく必要があります。

どのような情報発信をすれば、生徒や保護者に学校の魅力やメッセージを伝えられるか検討しましょう。考えるのは『誰に』『何を』『どのように』という三つの項目です。

情報発信のターゲットは、生徒・保護者・地域住民などの中から、どの層に設定すればよいのでしょうか? ターゲットを設定したら次に学校の持つ強みの中から、設定した層へ伝えたい内容を選びます。

さらにどのように発信するかを決めましょう。学生向けならSNSが効果的かもしれず、保護者向けなら学校案内の方が信頼度は高いといえるでしょう。

経営安定のための収益事業

教育は公共性の高い事業であり、学校法人は非営利法人の一種です。しかし現状では収益が悪化しており、存続の危機にひんしている法人もあります。安定した基盤作りに向け、『収益事業』への取り組みを検討してもよいでしょう。

収益事業で獲得した利益は教育研究活動に役立てられます。開始する際は、文部科学省への事前相談を行いましょう。加えて学校法人の在り方を規定する『寄附行為』(寄付行為)に、事業の種類や規定を設けた上で、所轄庁の許可を得なければいけません。

収益事業の業種として、18種類が文部科学省によって定められています。加えて収入に関しては以下に従う決まりです。

  • 企業会計の原則にのっとり会計処理を行う
  • 19%の法人税が課される(年800万円以下の部分は15%)
  • 収入を学校法人全体の事業活動収入未満に抑える

学校法人の承継先

M&Aによって学校法人を引き継ぐのは、学校法人のみとは限りません。事業会社や医療法人などが承継するケースもあります。それぞれの承継先は、どのような特徴を持っているのでしょうか?

学校法人

学校法人のM&Aでよく見られるのは、売り手も買い手も学校法人というケースです。入学者数の確保や増加を目指す場合『垂直的統合』が行われます。

例えば、大学を運営している買い手が、中学校や高校を運営する学校法人を引き継ぎ付属校とするケースです。内部進学枠を設ければ、毎年一定の入学者数を確保できます。

シナジー効果を期待する『水平的統合』では、今ある学部と売り手となる学校法人に設けられている学部とを組み合わせることで、魅力アップにつなげられるでしょう。多くの生徒や保護者が魅力を感じる統合により、入学者数の増加も期待できます。

事業会社、医療法人など

買い手は学校法人だけではありません。事業会社や医療法人などが買い手となり、学校法人のM&Aを実施するケースもあります。

例えば医療法人が医療系の学部を設置している学校法人を引き継げば、優秀な人材の育成が可能です。また現場の知見を生かしたカリキュラムを作成し、教育ビジネスに参入するケースもあるでしょう。

件数は少ないものの、事業会社が学校法人を承継する事例もあります。事業会社の経営により培われた知識やノウハウを活用した学校法人の再建は、今後増えていく可能性があるでしょう。

学校法人とのM&Aの流れ

学校法人とのM&Aであっても、事業会社同士のM&Aと同様に、まずはマッチングや交渉から始まります。ただし全ての工程が同じではなく、行政への届け出といった学校法人特有の手続きも必要です。

マッチング、交渉

M&Aを実施するに当たり、まずは対象となる学校法人とマッチングしなければいけません。ただし学校法人は設立が難しく、事業会社ほど数が多くないのが現状です。M&Aの案件もそう頻繁には出てきません。

学校法人は金融機関からすすめられてM&Aを実施するケースも多いため、仲介会社やプラットフォームで扱われる件数は、さらに少ないでしょう。

例えば2,500件以上の案件を掲載しているM&Aプラットフォームの『TRANBI(トランビ)』で見てみると、学校法人の案件が数件掲載されています。件数が限られているため、小まめに確認するとよいでしょう

こうしてマッチングができたら、次にさまざまな条件について交渉します。

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学校法人に特有の手続き

事業会社同士のM&Aであれば、買い手と売り手が合意に至れば、M&Aは成立します。一方で学校法人の場合には、行政への届け出に向けた調整が必要です。

例えば理事長の退任や就任は、文部科学大臣へ届け出なければいけません。届け出にはそれぞれ以下の書類が必要なため、事前に準備しましょう。不備がないよう、専門家へ事前に相談するのがおすすめです。

  • 理事長の退任:届出書・新旧対照表・寄附行為上の手続きを経たことを証する書類(理事会または評議員会議事録謄本)・登記事項証明書
  • 理事長の就任:届出書・新旧対照表・就任承諾書・履歴書・寄附行為上の手続きを経たことを証する書類(理事会または評議員会議事録謄本)・登記事項証明書

また学校内を混乱させないよう、新学期が始まる4月に合わせて手続きを進めるといった配慮も必要です。

財務状況の確認

学校法人を引き継ぐ場合でも、事業会社のM&Aで実施する詳細な調査であるデュー・デリジェンスを行い、財務状況を確認します。対象となる学校法人の財務状況は、厳しいケースが多いでしょう。

事業会社を買収する場合ほど詳しくはないものの、一通り確認します。簿外債務の有無や、適切な設備投資が行われているかという点も調査の対象です。

理事の交代によるM&A

経営権を移動する方法として、学校法人では理事の交代を実施します。交代時には前理事に退職金を仕払う必要があるため、M&A費用として退職金を用意するのが特徴です。

学校法人の組織構成

学校法人を構成するのは『理事会』『監事』『評議員会』です。それぞれの機能と必要な人数は以下の通り決まっています。

機関 人数 機能
理事会 理事:5人以上

外部理事:1人以上

最終的な意思決定機関、理事の中から議長として理事長が選任される
監事 監事:2人以上

外部監事:1人以上

経営面や財務状況を監査する機関、理事会へ出席し意見を述べる
評議員会 評議員:理事の定数の2倍を超える人数

※法人職員もしくは卒業生から1人以上

学校法人の運営に意見を述べる諮問機関、重要事項について理事会は評議員会の意見を聞かなければいけない

理事の交代で経営権が移動

M&Aでは売り手から買い手へ経営権が移動します。学校法人のM&Aでは、理事の交代によって経営権が移動するのが特徴です。

理事の交代のみで済むのは、学校法人に事業会社の株式に当たる持ち分がない点が影響しています。寄附によって設立が行われる性質上、前理事がどれだけ大金を注ぎ込んでいたとしても、対価は得られません。

仮に学校法人が解散した場合には、財産の換価・債券の取り立て・債務の弁済が行われ、解散した学校法人の残余財産について学校法人の方針を定めた寄附行為にのっとって、帰属すべき人が所有することとされています。

理事の入れ替えで支払う退職金

学校法人のM&Aで必要な資金は、理事の交代によって退職する前理事への『退職金』です。金額の目安は数千万円程度で、学校法人ごとに計算方法や限度額が定められています。

例えば1期につき10万円と定められており在任期数で決まるケースや、報酬月額に在任月数を掛け、さらに係数を掛け合わせることで算出するケースなど、学校法人によってさまざまです。

定められている方法に従い、退職金を支払う必要があります。

分離や合併の手法も認められている

理事の交代以外にも、『分離』や『合併』によるM&Aも可能です。分離にも合併にもそれぞれ二つの種類があるため、特徴を見ていきましょう。

分離

事業会社では、事業の一部や全部を引き継ぐ事業譲渡によるM&Aが実施されるケースがあります。学校法人において事業譲渡に似た手法が分離です。売り手が運営する複数の学校のうち一部を切り離し、買い手へ移管します。

このとき買い手は学校法人でなければいけません。また分離には、以下の通り吸収分離と新設分離の2種類があります。

  • 吸収分離:既にある学校法人に学校を移管する
  • 新設分離:新たに設立した学校法人に学校を移管する

分離によってM&Aを実施するときには、学校の『設置者変更手続き』が必要です。

合併

合併によるM&Aも、買い手が学校法人であれば実施可能です。ただし理事の交代と異なり、退職金以外にも費用が発生する可能性があります。

例えば合併が非適格合併と判断された場合の税負担や、債権者への債務の弁済にも費用が必要です。コストの発生の有無を判断するには、専門家に相談するとよいでしょう。

また合併には、既存の学校法人に引き継がれる『吸収合併』と、新たに設立する学校法人に引き継がれる『新設合併』の2種類があります。

合併について詳しくは以下もご確認ください。

会社合併でよく使われる吸収合併の手法とは。メリット、リスクなど 会社合併でよく使われる吸収合併の手法とは。メリット、リスクなど
手法
会社合併でよく使われる吸収合併の手法とは。メリット、リスクなど

会社合併は複数の会社を一つに統合する取引です。『吸収合併』と『新設合併』の2種類のうち、利用される頻度の高い吸収合併を中心に見ていきましょう。合併のメリットや注意すべき課題も確認します。買収との違いも把握し、自社の取引に生かしましょう。

まとめ

経営基盤の不安定さが課題の学校法人が多い中、財務状況を改善する方法としてM&Aを実施するケースが増えています。理事の交代によるM&Aであれば、事業会社による引き継ぎも可能です。

ただし学校法人は新規設立のハードルが難しい関係上、そもそも事業会社ほど多くは存在しません。加えてM&Aに踏み切る法人となると数が限られるため、なかなか案件が見つからない可能性があります。

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