2022-09-27
【飲食店M&Aから3年】赤字転落から売上2倍超へとV字回復!競合には真似できない最強の集客戦略とは?
買い手(個人):石戸亮さん・田中友英さん
<個人の複業を目的にした起業M&A・買収事例>
- ➤ 近所のパパ友から、飲食店を共同運営するパートナーへ
- ➤ 買収後は赤字が継続、デューデリジェンスをもっとやるべきだった
- ➤ コロナ禍で窮地に立たされ「目的地化」で商圏拡大を狙う
- ➤ トラブルも含めて、事業に挑戦すれば人生が面白くなる
東京都港区にある「肉バル×アヒージョ Trim 神谷町店」。東京タワーの近くに店を構え、本格的な肉料理、種類も量も豊富なアヒージョ、こだわりの生パスタや生産者直仕入のジビエソーセージや生ガキ、こだわりセレクトのナチュラルワインなど、多彩なメニューを提供し日々多くのお客様でにぎわっています。
この店舗がTRANBIを通じて譲渡されたのは、2019年9月のこと。それから約3年、店舗の売上は引き継ぎ当時の2倍を超すようになり、着実な成長を続けています。
当時は4名のオーナーが出資する形でM&Aが成立。このインタビューではそのうちのお二人、石戸亮さんと田中友英さんにお話を伺いました。どちらも複業(※)として事業に携わっており、今回は特別に買収後の経営プロセスについても詳しく語っていただきます。
【近所のパパ友から、飲食店を共同運営するパートナーへ】
- まずはお二人の関係と、この案件に出会った経緯を教えてください。
石戸:私たちはもともと近所に住んでいて、子どもたちが保育園からずっと同級生だったんです。だから、最初は“なんとなく保育園で会うパパ”くらいの関係性でした。
それから何度か一緒に飲んだりキャンプに行ったりする機会があって、その時に私が「キャンプ場とか、何か飲食関係やりたいんですよね」とつぶやいていたんです。すると、数か月後に田中さんから突然LINEが来て「お店が近くにあるんですが、買いませんか?」と。
田中:というのも、私は以前投資ファンドに勤めていて、飲食店チェーンの買収の買収に携わったことがあったんですよ。専門家にも話を聞いて、「自分でも飲食店をやれるな」という思いがずっとありました。
TRANBIについては、ファンド時代の同僚が教えてくれました。当時は最初キャンプ場を探していたんですが、その中で飲食店の案件も出てきて。コインランドリーカフェなんかも検討しつつ、色々探しましたね。趣味感覚でこまめにチェックしていました。
石戸:その後、神谷町の肉バルが売りに出てて、立地もいいし「どうですか」という話になったんですよね。
田中:そうそう。TRANBIを見て、沖縄のダイビング会社や埼玉のコインランドリー事業の案件など色々問い合わせをしましたが、実際に買うとちょっと大変だなと。トラブルが起きた時になかなか駆けつけられないし、距離が遠いと多分通わなくなりますから。やっぱり立地が大事だなと思っていたところに、この案件が出てきて「これは運命じゃないか?」とすぐに連絡しました。
業種を絞っていたわけではありませんが、やっぱり飲食店の方が自分も手ざわり感があったんですよね。売上や原価率といった数字の感覚も分かっていたし、ベースとなる知識が他よりもあったので。「距離×自分が知っている事業」という点で「神谷町×飲食店」という条件にビビッときました。
- 購入を決断する際に、ハードルはありませんでしたか?
石戸:ハードルは感じませんでしたが、最初は正直そんなに乗り気ではありませんでした。というのも、当時はそこまで自分の好みの食事や内装・外装などの雰囲気ではなかったのですよ。自分でやるからには、自分が美味しいと思えて、居心地の良い空間にしたかったですね。元々の外装・内装や店名を引き継いだので、全部思い通りにはなっていませんが、この3年で徐々に自分たち色になってきている気はしています。
でも業績やP/Lを見ると、ちゃんと利益が出ていたんです。原価率が低く、人件費も光熱費も安くて、テーブルや椅子などはもらいものでリーズナブルに揃えていたし(今はテーブルと椅子は全て替えました)、経営としてはすごく筋肉質にやっていたんですよね。前オーナーは飲食店コンサルをやっていた方でしたから。レシピもあって素人でもそのまま引き継げそうだし「だったらいいかな」と思いました。
あとは虎ノ門神谷町エリアが今後大規模開発されていくというニュースを見ていたので長期目線で見れば需要が高まっていきそうだなという感覚はありました。
田中:私もあまりハードルはなかったですね、本当に数字しか見ていなかったんで。しっかり儲かっているという状況と、オペレーションがマニュアル化されていること、あとは立地で決断できました。それに当時はオーナー4人で出資し、リスクシェアできたので、出発点が低かったのも大きいですね。
石戸:飲食店舗のM&Aというと、普通は「店買ったの!?」と驚かれるじゃないですか。飲食店をスケルトンから始めると1500万円ぐらいのイメージですし。譲渡だとスケルトンよりリーズナブルであり、かつ複数人オーナーでそこを分散できたんですよね。
田中:だから万が一倒産しても、勉強代かなと。数字やマニュアルを見ても、何も手を加えなくてもリスクは大きくはなさそうだし、まずはやってみたい、やらない方が後悔するだろうと思いました。
(今回買収を行った田中様(左)と石戸様(右))
- 誰かと一緒にビジネスを始めるのは、かなり信頼関係が必要かと思います。決断できた理由はどんなところにありますか?
田中:やりたいこと・情熱が向かっている方向が一緒だったことですね。あとは自分が全然持っていないものを持っていた、という部分です。
石戸:そんな感じですよね。私も「やろうとしているノリ感」が近かったなと。あと、田中さんはファンド出身であるので、お金まわりのプロだったので完全に任せられるし、もう一人は人材系に強く、私は事業作り、マーケティングや集客など業績向上には自信というか何とかやりきれるだろうと思っていたので、役割分担できるイメージが湧いたんですよ。
そしてやっぱり、金額的に肩肘張らずに始められたのも大きいですね。実は私たちは、1店舗目は利益が出てもオーナーは1円ももらわないと決めているんです。初めから利益分配を目指すと苦しくなるし、本当に価値提供できるかも分からない。だから、最初から人が揉めない構造になっていたし、実際に揉め事は1回もありません。
田中:それに、複業で何かやろうとした時に「面白そうだね、やりたい」という人は多いんですが、実際に行動に移す人は少ない。その点、石戸さんは「本当にやりそうだな」と思ったことが一番大きいかもしれないですね。行動力ですね。
石戸:それでいうと、最初の方は本業が忙しくて全然関われず、申し訳なかったなと……
田中:今回の案件は事業譲渡だったので、買収よりも先に会社(株式会社ゴッドバレー)を立ち上げました。当時は私が副業禁止だったから、石戸さんを社長にするしかなかったんですが、当時は彼が多忙すぎて、手続きもすべてこっちで進めて、はんこも代わりに買ったりして。
石戸:事業譲渡契約は当時多忙につき、完全に任せきりだったので、契約書にサインした記憶も、いつ何のはんこを押したのかも記憶がおぼろげという(笑)
田中:本当に信頼関係あってこそ、ですね。
(肉バルで盛り上がるお客様)
【買収後は赤字が継続、デューデリジェンスをもっとやるべきだった】
石戸:Trimは元々全部で全国3店舗展開していましたが、元オーナーが新規事業をやりたいということで、人材転換等含め、神谷町店舗を手放したいという意向があったようです。
- 当時は他にも買い手の候補がたくさんいたようですが、その中でどのようにアピールや工夫をしましたか?
石戸:元オーナーに対して、我々だったら金融にもマーケティングにもナレッジがあるので、安心してお任せください、とアピールしていた記憶があります。私たちの普段の仕事やキャリアを見て、先方もこちらに絞ってくれていたようでした。
田中:店舗の発展性もそうだし、私たちはわりと大企業勤めで、何かあってもある程度支えられる資力がありそう、と思ってもらえたのかもしれません。
石戸:ただ、事業を引き継ぐにあたっては、店長がいなくなることが前提でしたので、新たに採用する必要に迫られました。飲食店事業にそもそも明るくなかったので、店長を見つけるのは苦労しました。最終契約を待ってもらって、3か月ぐらい遅れた感じでしょうか。今月見つからなかったら断るかどうか、でも向こうは今さらそんなの無理かも……と、本当にギリギリでしたね。
田中:店長探しは、出資したもう1人が人材業界に詳しかったので、タウンワークや飲食店ドットコムといった媒体を活用しました。あとは知り合いを含めて、結果的に4、5人の候補と会いましたね。その中でご縁があったので、無事に契約締結に至りました。
- 買収後、実際に運営してみた印象はいかがでしたか?
石戸:買収して数か月経ってから、予想よりも集客が少なくて「あれ、思っていたほど売上が全然いかない」「なんか全然人が来ないよね」と思うようになりました。
田中:めちゃくちゃ苦労しましたね。
石戸:買う前に2、3回お店に来た時も「今日もお客さん入ってないな?」とは感じていたんです。でも、売上と利益を見るとちゃんと数字が立っていて。だからあれは本当に再現性あるP/Lだったのか、ちょっと疑念を抱きました。
田中:開示されたP/Lの再現性やなぜ買収直後に売上が急に減少したのかについてはいまだに疑問に思いますけど。結構早いタイミングで資金がどんどん減っていったので「これは資金繰りがまずいね」と、当時かなり心配していました。
石戸:前は店長基本ほぼ1ワンオペでお店を回していたようですが、さすがに過労が心配なので、3人体制で運営するように変更しました。すると当然人件費が上がります。さらに、メニューも自分たちが思い入れがあり、お勧めしたいメニューに変更したので、オペレーションコストや原価も買収直後の筋肉質な状態よりも上がるわけです。一方で集客は振るわず、赤字がしばらく続きましたね。
田中:でもそれから、頑張ってきたぶん売上が徐々に上がってきて、2019年12月の忘年会シーズンに前年の水準を越えました。
石戸:神谷町ってビジネス街にしては飲食店が明らかに少ないので、つまり需要に対して、競合が少ないので、ちゃんとやれば本当は集客できるエリアでもあるんですよね。以前の料金体系は大衆居酒屋よりも安かったので、周辺オフィスの宴会需要は取れていました。でもそれではお店の売上が立たないので、今は全部変えていった感じです。
- M&A当時を振り返って、反省点や「やっておけばよかったこと」はありますか?
石戸:私は実際に店に何度か来て、10日分~1か月分ぐらいは客単価と客数をしっかり見ておけば良かったなとは思います。売上や客単価のファクトをもう少し掴めていたら、買収後P/L急減の懐疑的な気持ち悪さは残らなかったのかなと。Excel上の決算しか見ていなかったので。
田中:やっぱり、1か月分ぐらいは実地でデューデリジェンスをやらないとダメでしたね。当時はその発想がありませんでしたね。そもそも、もらったデータが再現出来ないなんて疑ってもいなかったし。実際に運営してみると、3分の1ぐらいは再現性のない売上だったのでは?という印象です。帳票確認という意味ではレシートも見せてもらったんですよ。でも、やはりそれだけでは不十分でしたね。
石戸:そうそう、見極められないですよ。
田中:大企業相手だと「開示されているもの/ヒアリングしたものが正」ですが、個人間のビジネスではデューデリジェンスのやり方が全く違うんだ、というのを感じましたね。
石戸:私たちはまだデューデリジェンスに対して“土地勘”がある方ですが、それでも「これでは足りなかったんだ」と気づかされました。
田中:デューデリジェンスという言葉を知っていても、生の経験や感覚がないと、具体的な発想やプロセスに思い至らない。だから、まずは自分の得意領域の延長で始めないと難しいかもしれません。
(肉バルで提供されているメニュー)
【コロナ禍で窮地に立たされ「目的地化」で商圏拡大を狙う】
-お店を引き継いだ頃と比べて、売上は具体的にどのくらい変化しましたか?
石戸:今年の6月はおかげさまで売上が230万円ぐらいでした。コロナの感染状況が少し落ち着いてきて、会社でも歓送迎会をしようというムードが戻ってきた頃だったので。
田中:もともと買収直後の何も手を付けていない時は月90万、100万円のレベルだったのが、直近では200万円超えている、という感じですね。2倍はいくようになったと。このままいければ年商で言うと1店舗で2000万円くらいで着地出来る可能性あるかな、という感じです。
石戸:6月はお客様のおかげで通常より繁盛したにせよ、通常時でも150万〜160万円、多いと180万円ぐらいになってきています。
- 当初は集客に苦戦したそうですが、それからどうやって今の状態にもっていきましたか?
田中:引き継いでしばらくは本当に厳しくて、さらにコロナ禍に突入してますます大変な状況になった上、私が転職してものすごく忙しくなってしまって。ただそのタイミングで、石戸さんの状況が少し落ち着いたんですよ。そこからバトンタッチして、コンセプトから抜本的に見直すことになりました。
石戸:私は正直、以前のP/Lだったら、手をかけずに、少し放っておいてもどうにかなるだろうと楽観的に構えていたんです。ところが、コロナ禍に入り「これは真面目にやらないとヤバイな」と危機感を覚えました。
そこで大きかったのが、私の大先輩である現ファミリーマートのCMO足立さんからのアドバイスです。CMOという役割がありながら、会社とは別で六本木でカラオケ店を経営していて、うちの店にもよく来てくれていて。「この場所に来てもらうなら、けしてわかりやすい場所じゃないし、何か『目的』を作らなきゃいけないよね」、「石戸君がデジタルやマーケティングの仕事しているので、デジタル・DX関係やマーケターの人が集まる店にしたら?」とアドバイスをくれました。デジタル関係というのは、私がその分野の経験があって、世の中的にもDXやデジタル化の話題が盛り上がっていたからです。
そこで、デジタル関連のベンチャー企業や、マーケターの人たちが集まる場所として仕掛けることにしました。コロナ禍で人とつながれないからこそ「Trimに行けばデジタル関係やマーケティング関係の人と出会える」と、目的の一つにしたわけです。結果的に、そうした方々がお客様の大半を占めるようになりました。
加えて、マーケターの人たちは舌が肥えていたり、消費者・お客様視点を持っている人が多く、物事に対しての感度が高いんです。皆さんからの「こういう盛り付けの方がいいよ」「こっちの方が美味しいよ」という意見をもとに、その都度バージョンアップを図ることができました。
あとはお店の武器として、目玉商品を3つぐらい用意するようにしました。具体的には、私が好きだったナチュラルワインや、ジビエソーセージ、生ガキなどを取り入れています。
このジビエソーセージは、もともと自ら鹿をさばいて食べていた格闘家が作っているんですよ。タンパク質が豊富で格闘家やみんなに食べさせたいと思い、ソーセージ作りを始めたんだとか。ただ単に仕入れるだけではなく、こういう面白いストーリーの語れるくらいの武器が3つぐらいあると、色んな人を呼びやすいですよね。
田中:もともと周辺オフィスのランチ/宴会需要で成り立つ「最寄り品」的な側面が強かったところに、コロナ禍で出社する人も減ってしまった。そこで石戸さんが「目的地化して商圏を広げる」ことに踏み切ったわけですね。本当にトライアンドエラーで色々と挑戦しました。商圏を広げるために、デリバリーも始めたりして。
石戸:結果的にデリバリーは難しかったですね。どの店舗も一気にデリバリーとテイクアウトを始めて、うちも最初はオーダーがありましたが、その後は世の中的にも下火になりましたし、イートインとデリバリーのオペレーションや考え方はそもそもが違うので、本気でデリバリーに振り切れば別だったかもしれませんが、中途半端な共存は難しかった。
あとうちよりも強いフードデリバリーに特化した競合がデリバリー圏内を広げてくるとなかなかお客様の検索上位に上がってこなくなるという状況もわかりました。まぁ、本当にトライアンドエラーですよね。
(肉バルで提供されているメニュー)
- それでいうと、成功の一番の要因はどのあたりになってくるのでしょうか?
石戸:私の中では、やっぱりマーケター、ベンチャー企業、デジタル事業の人たちを徹底的に呼ぶことが一番大きかったと思います。
多い時は私自身も昼間の仕事が終わったとき、週に数回店に来ておもてなしをしたり、自分のFacebookで「今日店にいます」とコツコツ投稿したり。“飲食店芸人”のごとく2年ぐらい地道にやってきたことで、週に何件かは問い合わせやイベント後の貸切につながっています。
「石戸さんのお店、SNSに上げました」と言われることも少しずつ増えました。自分自身もそのような方々をと食事やお酒を囲みながらお話しすると、刺激になったり、勉強になることばかりで、一石三鳥くらいの感覚で、嬉しさと感謝しかないです。
私のつながりで来てくれるのは「大手企業で働きながら、飲食店を経営している」という、ワークライフインテグレーションのような働き方に興味ある人もいるようです。「あいつはフルタイム勤務のサラリーマンのはずなのに、飲食店も本腰入れて、どうして楽しそうなんだろう。そもそも何者なんだろう(笑)」と言われたり、初見の人には「飲食店の人」と間違われることも。
ミツカンのユニークな商品である「ぽん酢サワー」というメニューも出しているのですが、東京タワーをバックに「ぽ」という文字を記載した提灯と「ぽん酢サワー」という写真を投稿して、まったくふざけているわけではないのですが、こういうのを見ると「あいつコロナ過中に何をやってるんだ?」と思いますよね。そういう面白さや話題性で、興味を持ってもらうための努力をひたすら続けてきました。飲食店がコロナ過で大変な時に、盛りあげたいという個人的な想いもありました。
ただ、私が呼んでいるお客さんって、結局私がそういう集客をしなくなると減りますよね。だからこそ今はLINE公式アカウントを作り、連絡が来たらそのアカウントでやり取りをするようにして、私個人ではなく店舗との関係へ徐々にシフトするよう試みています。
他には、多くのお店もやっていますが、SNS(InstagramとFacebook)でデジタル上でお店の雰囲気や臨場感を伝え、最近はGoogle マイビジネスを見て来店するお客様も増えているので、そのようなデジタル上のメンテナンスや顧客の反応を大事にして店を知ってもらう機会を広げています。
もちろん、私だけじゃなくて店長の常連さんもどんどん増えています。店長は常連さんにカスタマイズしたお酒を用意したり、愚直にメニューを改善したり。そういった積み重ねが相乗となって、ここ半年ぐらいの成果につながっている気がします。
(東京タワーとポン酢サワー)
- 逆に、失敗談や苦労話などがあれば教えてください。
石戸:失敗談は結構ありますね。例えば、隣のカレー屋の真似をして、カレーを作ろうとなったことがありました。でも、カレーって普通まずくならないはずなのに、出来上がったらコクが一切ない仕上がりで。3人分で作ったら美味しかったのに、20人分作るとまずくなるという。正にやってみないと分からない、あれは謎でしたね(笑)安易に近いところで売れている商品を真似しようとして失敗した事例です。
デリバリーも苦戦しました。店舗の商品をそのままデリバリーに流用したので、オペレーションがうまくいかなかったんです。本来は店内のお客様に対して優先的に料理を提供すべきなのに、デリバリーの方で時間がかかって、結果として中のお客さんを待たせてしまうことも。梱包材の準備も必要だし、リソースをかけた割にはそう簡単にはうまくいかなかったです。フードデリバリー経由ですと手数料もけっこう発生するので、本腰入れないと簡単には成功しないですね。
あとは結局、お客さんに来てもらうことが一番難しい。メニューや料金の工夫も大事ですが、それだけだと結局大きく売上は変わらないし、人に認識してもらえないとそもそもインパクトがない。コロナ禍でどこも集客は難しくなっているだろうし、いかに集客するかは課題だと思います。
田中:それから、元オーナーからは「マニュアル化しているので誰でもできます」と聞いていたけれど、実際はやっぱり店長が大変で。細かいノウハウが分からず、知り合いの飲食店で“修行”させてもらい「飲食店とは」から学んでもらいました。栄養士にお願いしてレシピを考えてもらったりとか試行錯誤ですね。
石戸:鎌倉からイタリアンや肉のプロの人に来てもらって、肉のさばき方を教わったこともありましたね。我々はどうしても飲食店のプロじゃないので、アドバイスが難しくて。新メニューのアイデアを色々出しても、店長からするとオペレーションが大変だとか、特に初代店長の時はそこがうまく噛み合わないこともありました。
田中:もっと細かい話をすると、メニュー表ひとつとっても、どうやってデザインを変えるのか分からない。「パワポでいいの?」みたいな。最近はようやく知り合いのデザイナーに発注できるぐらいにお金をかけられるようになりました。
石戸:一つひとつやりたいことが初めてすぎて、分からないことばかりでしたね。仕入れにしても、媒体を使うにしても、1年目はなかなかスムーズに進まないことが多かったです。私たちは普段本業があるので、店長とコミュニケーションを取るタイミングも難しいですね。ちょこちょこお店に来て会話をするようにはしていますが。だからこそ、創業3年目の春には店長ともう1人のオーナーの4人で「キャンプ合宿」もやりました。
田中:キャンプファイヤーで楽しんで盛り上がっちゃって、気づけば夜12時頃。そこからようやく4時間ぐらい仕事の話をして、色々と出てきましたね。いい機会になりました。
- 飲食店を伸ばすためには、何が必要だと思いますか?これからM&Aに挑戦される方にも、真似できるポイントがあれば教えてください。
田中:飲食店はチェーンじゃない限り個性が大事なので、やっぱりそこをどれだけ発揮するかが重要だと思います。場所や規模、業態にもよりますが、いかにマッチする経営戦略を立てられるかじゃないでしょうか。
石戸:私は自分自身が食べたいと思えるものを置くようにしています。やっぱり自分が本当に美味しいと思えないと、自信を持って集客できないし、お客さんも来てくれないと思うんですよ。居心地の良さもそう。テーブルや椅子、電球なんかも、自分が欲しいと思えるものを選んでいるし、本心から「来て欲しい」と思える店づくりがすごく大切だと思います。
田中:個人で経営する規模の飲食店だと、そこが本当に大事ですよね。
石戸:あとは今、前々職の後輩だったデザイナーが来てくれていてメニュー表やPOPなどを作ってくれているのですが、店長にうまく寄り添いながら、潤滑油のような存在になってくれているんですよ。他にももう1人、店長の相談に乗ってくれて、大変な時には店に入ってくれる人がいます。
結果的にというところはありますが、そういう外部の人を巻き込みながら、ほどよく周囲の力を借りるのがいいのかなと思いますね。
(肉バルで提供されているメニュー)
【トラブルも含めて、事業に挑戦すれば人生が面白くなる】
- お二人は複業として飲食店を経営されていますが、本業では得られないものはありますか?
二人:めちゃくちゃありますね!
石戸:本業は大きな会社ですが、やっぱり小売って手ざわり感があるんですよ。自分たちでシステムやソフトを一つひとつ選ばなくてはいけないし、グルメサイトの設定もあるし、お客様と直接のやり取りもあるし。やったことが良くも悪くもすぐに反応がわかる。一気にエンドtoエンドで関われるので、自分たちで何かをやらなきゃいけない距離感なんですね。
生々しい経験ができるからこそ、経営視点も顧客視点もさらに身についたし、実務やユーザーのペインポイントが分かるようになったし、本業の方にすごく活きています。個人的には全部本業だから、時間の割き方は雇用している会社との契約守る必要ありますが、複業という言葉ならまだしも、副業という言葉は好きではないんですけどね。むしろ、飲食店は自分のキャッシュでやっているので、サラリーマンとは違い、ある種本業くらいの気持ちでやってます。
田中:色々と事業をやっていると、生きるのが楽しいです。本業だけだと小さな問題でも悩みがちですが、他にも関わっていることがあれば、良い意味で気が散るというか。人生が結構面白くなるし、気分的にもすごく晴れやかでいられます。
石戸:以前、店のダクトが壊れたことがあったんですよ。そしたら換気できずにディナー営業中に火が上がっちゃって。店長の髪が燃えるわ、非常ベルが鳴りやまないわ、消防車まで来たぞと。そういうとんでもない事件が夜に起きたりするから、もう本業の仕事どころじゃないというか、(笑)大変だけど楽しい、そんな感覚です。
田中:隣のカレー屋が火事になった時もそうだった。本業では数十億、数百億円単位でビジネスが動いているのに、たった数万円のトラブルで右往左往です(笑)こういうトラブルの経験も、全部自分ごとになるんですよね。
石戸:だから本業も副業も、切り替えるというよりは混ざっているかもしれません。特に私たちは仕事関係の人がたくさん来てくれて、店でその延長線上の会話もしているし。
実は私、今の会社の「副業人材第1号」なんですよ。転職時の面接では、副業している人は社内にいないと言っていて。でも、全く関係ない業種だし「好きにやってくれ」ということで認めてもらえました。もともと厳しい会社なんですけどね。
私が事実上の副業OKになってしまったので、私を起点に副業OKへと変わってきたような感じもします。私が働くような大手企業は最近デジタル人材を確保が急務という会社が多いですが、そのような人材は副業・複業が当たり前ですからね。その許容を広げないと、採用もうまくいかない。今となっては働き方改革の流れもあって、会社としても私の働き方をポジティブに使いたいと言ってくれています。
田中:ちなみに私も、世の中の流れもあるので積極的に副業を推進するような流れを作っています。
- 副業をしていると、家族とのコミュニケーションが減ってしまうこともあります。そのあたりはいかがでしょうか?
田中:私の場合は、お店を経営していることの実態を家族はほとんど知らないですね。もともと本業が忙しかったし、どっちに時間使っているかというだけで。店を買ったことも後から伝えたと思います。
石戸:うちの場合は、田中さんの娘さんが私の娘に言って、伝わったんです。「パパ、レストランやるの?」みたいな。そこまで重く捉えてなく、了承とかも不要と思っていて、もう少し固まったら報告しようかな、くらいで思ってました。一般的にはちゃんと了承を得てから進めるべきなんでしょうけど、我々はそこをスキップしてしまって。
田中:まぁでも、誤解を恐れずに言えば、究極的には自分の人生なので、やりたいように生きるのがいいのかなと。
石戸:確かにそうですね。ただ、万が一のためにも、お金の問題はクリアにしておいた方がいいとは思います。私たちは本業もありますし、比較的リスクを取れる状況だったのかもしれません。
- 最後に、このお店にキャッチフレーズをつけるとしたら、どんなお店でしょうか?
田中:私が思っているのは、我々は素人ということもあるし「みんなで作っている店」という感じはありますね。大企業で勤務している知り合いは多いのですが、結構食や手触り感のあるスモールビジネスに興味ある人たちは多いので、店に来て「こうしたらいいんじゃないか」とアドバイスしてくれるし、そこが新しい発見になって店が変わっていく、そんな流れもあります。
石戸:確かにそうかも。周りの人のサポートに支えられながら、ここまで2、3年やってきましたから。関わってくれる人たちみんなで作っている感覚はありますね。
田中:良い意味で、飲食店経営の軸がなかったんですよ。そこに、何か携わりたいと思ってくれる、身近な人が集まってくれたと。
石戸:私たちが楽しそうに、面白そうにやっているので、そこに「絡みたい」と思ってくれる人が増えてきているように感じます。あとは純粋に人間関係の付き合いで支援してくれる人もいますし、本当に恵まれているなと感じています。
※副業と複業の違い
どちらも読み方は同じ「ふくぎょう」ですが、厳密には違いがあります。 副業は、メインになる本業が他にあることが前提で、サブ(補助)として収入を目的に行う仕事のことを指します。一方、複業は、複数の仕事を掛け持ちしながらもメイン・サブという序列をあえてつけず「どれも本業」という考え方、Trimのオーナー陣は複業という価値観でお仕事されています。
※掲載されている写真に写っている方には掲載確認を事前に行っております
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■今回石戸さんと田中さんが買収した事業はこちら
■石戸さんと田中さんが運営している肉バルTrimはこちら
「「肉バル・アヒージョ Trim 神谷町店」(HOT PEPPER)
「トリム 神谷町(@trim.kamiya)」(インスタグラム)
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ライター紹介倉本祐美加
関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。