2022-02-22
“あと1~2週間で廃業”の洋菓子店を救った、20代若者の即断力
買い手(個人):豊田拓弥さん
<個人の新規事業を目指したM&A・買収事例>
- ➤ 30歳を節目に、身に付けたスキルを活かせるM&Aを
- ➤ 「幸せを届ける菓子職人が病むのはおかしい」という問題意識があった
- ➤ 廃業寸前…スピード感が鍵、準備万端でなくても即断
- ➤ 前オーナーは、アドバイザーとして新しい店長に熟練の技術を伝達
コンサルティング会社などを経て、身に付けた販促スキルで独立した豊田拓弥さん。30歳を目前に自分のこれからのキャリアの展望を描く中で、M&Aを検討し始めます。
そしてTRANBIを眺める中で目を付けたのが、地元で愛される手作りフランス菓子店でした。豊田さんは「いつか菓子店を開きたい」という気持ちも持っていたのです。
「ゼロから開店するのは莫大な費用がかかるが、M&Aなら自分が出せる範囲の金額感で、すでに地元から愛されているお店を引き継ぐことができる」と、M&Aを決断。現在は、お菓子の製作や店の運営は従業員に任せつつ、自身の経験とスキルを活かして販売戦略や業務効率化に力を入れています。
今回は豊田さんに、M&A成功の肝となったスピード感や前オーナーとの関係性構築の重要性なども含めてお話を伺いました。
【30歳を節目に、身に付けたスキルを活かせるM&Aを】
- まずは、豊田様のキャリアについて教えてください
大学卒業後は経営コンサルティング会社に就職して、食品関連の中小企業をメインにコンサルティングを行っておりました。そこで約3年働いた後、宮城県へ移住し、独立、起業しました。
その仕事の中で、制作を行う個人事業主として、チラシや名刺など販促物のデザインや、写真撮影・動画編集などを事業として行っていました。
- どんなきっかけから、M&Aに興味を持つようになったのですか?
現在29歳ですが、30歳という節目を前にして「これからのキャリアや人生、どのような道を歩もうか」と考えたのです。
このまま個人事業主として事業をどんどん拡大していくことも、新たに新規事業で起業することも、自分のスキルを生かせる企業に入社することも、興味のある事業を承継して経営をすることも考えました。
そうしているうちに、兵庫のフランス菓子店の案件をTRANBIで見つけました。パティシエがいてお菓子を作れる体制があるので、自分は商品開発や販売戦略やマネジメントの部分で支援できると感じました。すでに売上があるという安心感もありました。
(買い手である豊田さん)
【「幸せを届ける菓子職人が、病むのはおかしい」という問題意識があった】
- 洋菓子店に興味を持ったのはどうしてですか?
過去に食品関連企業の中でもメーカーや菓子店など、製造機能を持った企業を中心にコンサルティングをしていた影響が大きく、魅力的な業界だと感じていました。特に、お菓子は誰かのお家に行く時や誕生日・結婚式など幸せなタイミングで常にそばにあるものですよね。
一方で、製造機能も販売機能も持つお菓子屋さんは超過労働になりやすい実態もありました。長時間労働で疲弊してしまい、従業員の方がどんどん退職していく業界だったのです。
「夢はお菓子屋さん」と語る子どもも多い業界の実態がそれでは悲しいなと思っていて。「幸せを届けるお菓子なのに、なぜ作る人がどんどん病んでしまうんだろう」と。なんとか改善したいという気持ちもあったのです。
ただ、ゼロから菓子店を作ろうと事業計画を立ててみると、3000~5000万円の投資が必要と知って。かなりハードルが高いので、お金を貯めつつ数年間検討していました。
そんな中、結婚を機に兵庫県に移住することになり、移住が決まったタイミングでたまたま兵庫県のお菓子屋さんのM&A案件を見つけ、自分が暮らす地域の近くで何か新しいことができたらいいなという気持ちもあったため、まさに「これだ!」という縁を感じました。
- 他の案件は検討しませんでしたか。
TRANBIでは今回の案件にしか申し込みをしていません。別ルートで、事業承継・引継ぎ支援センターに問い合わせて、予算感と「最終製品(商品)を製造できる機能を持った会社」という条件で、食品メーカーや金属加工を手掛ける企業も紹介され、視野にはありました。
私自身が、商品開発や販促を得意としているので、製造ができる機能と体制のある会社なら、自分の得意を生かしつつ事業を伸ばせると思ったからです。
売却検討理由が「債務超過」である企業こそターゲット外でしたが、経営状態はトントンであれば問題ないと思っていて。売上も利益も伸ばせる自信はありましたし、この年齢で自分を試すいい機会だと思っていたからです。
(買い手である豊田さん)
【廃業寸前…スピード感が鍵、準備万端でなくても即断】
- 交渉フローはどのように進んでいきましたか。
メッセージを送ったところ、売り手様の代理人を務めていた日本スモールM&A協会様から、お店の詳細情報が送られてきました。
それで、まずは一度、お店を視察に行ったんです。お店は、よくある街のケーキ屋さんという雰囲気で、近所に住む方が定期的に利用するタイプ。実際にケーキやお菓子を買って食べてみると、味はとても美味しいものでした。視察する中で、商品数がかなり多いことやお店の照明が少し暗いといった気付きもありました。
その後、日本スモールM&A協会の方と売り手様を含めた3社でお話をしました。印象的だったのは、売り手様の誠実で真摯な人間性です。自身の店を引き継いでくれる後継者がいるなら何でもサポートしたいという姿勢をお持ちで、人や物のマネジメントも丁寧にされている印象を受けました。
今回のフランス菓子店は、コロナ禍で売上が一度減少するも、2021年から復調したそうなんです。ただ、売り手様が親御さんの介護をしなければならなくなり、経営を続けることが難しくなったという事情をお持ちでした。そのような思いも伺って、引き継ぎたいなと。
もちろん、18年ほど地元で愛されてきた老舗のお店であること、さまざまな商品を作ることのできる知見やノウハウを持っていることも魅力的でしたし、自分のノウハウを生かすことで今後もっと売上・利益を伸ばせそうな予感もしました。
- 交渉の際に大変だったことはありましたか。
物件の賃貸契約の関係で、閉業するかどうかを決めるタイムリミットが迫っていたため、決断や引き継ぎを早期にしなければならなかったことです。
売り手様は、もともと知り合いを中心に承継先を探していたものの、見つからなかったようで、最後の手段としてTRANBIに掲載したそうなんです。あと1~2週間待っても問い合わせが来なかったり話がまとまらなかったりしたら、設備や機器をすべて売った上で廃業しようと考えていて、徐々に在庫を減らすなど廃業を見据えた準備も進めていました。
個人的には、当時まだ兵庫県に引っ越してきたばかりだったこともあり、生活が落ち着いた後、もう少し検討期間や準備期間を経た上でM&Aに臨みたかったのですが、一度お店を閉店してしまうと元の状態に戻すことが大変であるため、今引き継ごうと決断しました。
譲渡金額は約800万円ほどでしたが、もうこの金額帯でこれだけの条件が揃った案件には出会えないかもと思ったんです。運命だと感じました。
決断をするにあたっては、日本スモールM&A協会の方が売り手様へ私の経験・スキルや年齢を評価して推薦してくださったことや、売り手様からいただいた「できることなら、あなたのような人に事業を渡したい」という言葉にも背中を押されました。
- タイムリミットが迫った中だったため、価格交渉の余地もあったかと思いますが、要求などは伝えられましたか。
価格交渉はしていません。ゼロからお菓子屋さんを立ち上げて設備や機器を導入し、パティシエさんを新しく雇おうとすると、大きな費用と一定の準備期間が掛かることを知っていたので。この金額で事業やリソースを譲っていただけることはありがたいと思いました。
それに、M&Aを経て終わりではなく、売り手様とは今後も良い関係を築いていきたいので、提示いただいた金額を受け入れました。
800万円という金額は、事業価値としては妥当であるものの、私個人としては決して小さくない金額です。30歳を前に大きなチャレンジをしてみたいという気持ちがあったことと、個人事業主としての仕事は今後も続けていくので、複数収入の柱があることで何かあってもカバーできると思ったことが大きいですね。
(今回購入されたフランス菓子屋さんで並ぶケーキ)
【前オーナーは、アドバイザーとして新しい店長に熟練の技術を伝達】
- 引き継ぎ後、売り手様とは現在どのような関係性を築かれていますか?
再雇用という形でお手伝いに入ってもらうことに合意いただいていたので、現在はアドバイザーのような形でサポートをしてもらっています。そのおかげで、一定期間お店を閉めることもなく、営業を続けながら引き継ぎを行うことができました。
半年から1年ほどは、介護と並行可能な範囲で手伝っていただくことを想定していますが、その後どうされるかは売り手様の意向にお任せしようと思っています。
- もともと働いていたパティシエの方が、引き続き働かれているのですか。
はい、従業員だったパティシエさん1名を継続雇用の形で引き継ぎました。また、売り手様からの紹介で、新たな店長もお迎えしています。
新しい店長は、売り手様が付き合いのある業者様に「廃業予定のため、誰かよい引継ぎ手はいないでしょうか」と探す中で出会ったパティシエさんなのです。打診した当時は「1人で経営しつつお店を回すのは、まだハードルが高い」とパティシエさんが判断されて、承継には至らなかったようです。
今回私がM&Aを行ったことで、経営面やお店のマネジメント、販促等は私が担えるので、まずはお菓子を作る事業のメインパートをお任せできればと迎え入れました。売り手様からさらに技術を吸収してほしいですし、もし今後「自分のお店を出店したい」と要望があった時にはサポートしたいと考えています。
- 最後に、今後の展望を教えてください。
まだ引き継いで3か月ですが、売上は昨年よりも上がっていて、まだまだ伸ばせる余地があると感じています。店名も、街で愛されるケーキ屋さん・お菓子屋さんというイメージも変えるつもりはないので、良い伝統は守りつつ、改革や改善を進めていきたいなと。
もともと菓子店の長時間労働やそれに伴う従業員の相次ぐ退職に課題を感じていたこともあって、今後は業務効率化を推進していこうと考えています。今までより従業員の労働時間を短くしても、より高いお給料を支払えるような仕組みを確立したくて。そのため、どんな業務があってどの業務にどれだけ工数が掛かっているのかを調査中です。
たとえば、レジ締め作業や売上管理に要する時間を短縮するために、効率的な管理が可能になる新しいPOSレジを導入しました。
また、パティシエさんが担っている工程のうち「混ぜる」工程が自動化によって楽にできないか、商品の形をある程度統一することで業務が効率化されてロスも削減できないだろうか、ケーキを入れる箱を変えることで包装のひと手間を減らせないかなどと考えています。
一つひとつはちょっとした作業かもしれませんが、少しずつ手間やストレスを減らすことで、パティシエさんがケーキを作ることやパティシエさんにしか出来ない仕事に集中できるようになったり、お店全体の効率が上がったりすればいいなと。
また、現在は商品を店頭だけで販売していますが、販路は今後広げられると思っていて。ECで商品を販売したり、百貨店で販売できる商品開発に着手したりしていきたいですね。
***今回豊田さまが買収した案件はこちら*****
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(今回購入されたフランス菓子屋さんで並ぶ焼き菓子)
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ライター紹介倉本祐美加
関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。