2021-04-20

建材メーカー営業マンがパン屋オーナーに! 成約前に退職しあえて退路を断った理由とは?

買い手(個人):小尾 豪さん

<個人の起業独立を目指したM&A・買収事例>

 

建材メーカーに勤める会社員の小尾 豪さんが、自宅からほど近い東京都練馬区関町南にあるパン屋「すずめベーカリー」を譲り受けたのは、2020年12月末のこと。

転職か副業か、それとも起業独立か……、将来の働き方を模索していた小尾さんが、最終的に選んだのは起業独立するという選択肢でした。成約前にも関わらず会社を辞めて、法人を立ち上げた理由とはなんだったのでしょう?

サラリーマンとして働きながら、いずれM&Aでの起業を目指す人必読のアドバイス満載です。



(パン屋(「すずめベーカリー」)さんの様子)

【会社に依存する働き方にリスクを感じた】

- まず今回のM&Aのきっかけについて教えてください。
大学卒業後は海外のアクセサリーブランドの日本総代理店で2年間ほど接客や広報に携わり、その後、エスニック系の飲食店で調理や接客を約4年間、建材メーカーで営業を約12年間していました。

2020年12月初旬に会社を辞めるまで、ずっと会社員でしたが、会社だけに依存する働き方は、これからはちょっと難しくなるなという考えは、もともとありました。

そこでまずは会社に勤めながら副業することを考えましたが、私の職務の内容も会社の意向としても、なかなか二足のわらじをはくことは難しい状況でした。ならば転職か起業か、と考えていたときに三戸政和著書『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』という本に出会いました。そこで初めて、個人が小規模の会社を引き継ぐ、M&Aという選択肢があることを知りました。一昨年ほど前のことです。

今後の働き方としてさまざまな選択肢がある中でなぜM&Aを選んだか、それはゼロイチで起業するよりも、自分が楽しめそうなことで、すでに経営が回っている事業をバリューアップしていく方が自分に向いていると考えたからです。

M&Aにより事業を引き継ぐということを知ってからは、TRANBIをはじめとしたM&Aのプラットフォームに会員登録し、実際に案件を見て買い申し込みをして、いろいろな方と交渉を始めました。1年ぐらいの間に、20件以上のやりとりはしたでしょうか。その中で、基本合意直前までいった方もいらっしゃれば、何回かのやりとりで終わった方もいらっしゃいます。こうした実際の交渉が、結果的に一番の勉強になったと考えています。

私がチェックしていた案件は、自分の知見がいきる業種です。店舗であれば自らが行くことのできるエリアに範囲を絞って探しました。知見をもつ業界ならば規模が大きくても融資をつけることで事業に取り組める、と案件規模は幅広く見ていました。そして、気になったものがあれば、とにかく早めにコンタクトをとって動くということを意識していました。

案件を見る際に私が重視していたことは、売り手様の紹介文です。案件紹介の限られたスペースでも、気持ちのこもった文章を書かれている売り手様は、実際にお会いしても、誠実に対応される方が多かった。あまりざっくりとした記載の案件には、そもそも問い合わせにも至りませんでした。



(スタッフの方とお話をする小尾さん)

【今回のパン屋案件は、“従業員”と“エリア”が決め手!】

- その中で、今回の案件ではどのようなところに魅かれたのでしょうか。
2つあります。ひとつは“従業員”です。開業時からずっと働いている従業員の方がいて、事業が自走できる状態だったこと。私に飲食店の経験はあったとはいえ、パン屋の経験はないので、この方々がいればお店を回すことができるという状態で引き継ぐことができるのは大きかったですね。

もうひとつは、“エリア”です。店舗が私の普段の活動圏内にあるわけではないため、お店のことは全く知りませんでした。ただ今回の案件「すずめベーカリー」は吉祥寺駅から徒歩圏内で自宅から自転車で10分という距離にありました。業種の知見はないものの、店舗が住宅街に位置している点も含めてエリア自体の知見はありました

ですから、知らないエリアに店舗が位置していれば従業員の方がいても取り組まなかったかもしれませんし、逆に従業員の方がいなければエリア自体を知っていても取り組まなかったかもしれません。

後継者不足により地方の優良企業が廃業してしまうことは社会にとって大きな損失です。たとえ東京であっても、やはりシャッターが閉まった店舗が多くなると、その街は閑散としてきます。

そのため地域に根づいたお店を引き継ぐことで、地域の活性につなげられるのではないかという思いもありました。

- 交渉はどのように進みましたか?
2020年9月末に案件が掲載されて、10月初旬に売り手様と初めてお会いしました。お会いする前に、メールでいろいろな情報をご教示くださっていたので、こちらは自己紹介や経歴などのプロフィール、引き継ぎ後の事業計画などの資料を持参して、初回の面談に臨みました

お会いする前に店名を教えてもらっていたので、下見もすませていました。店舗の第一印象は「きれいなパン屋さん」。設備がおしゃれで、素人目にも掃除が行き届いていることがわかりました。この場所でこういう雰囲気の店ならやっていける……。私のやりたいイメージと相違もなく、それほど手を入れる必要はないと感じました。

いくつかパンを買いましたが、毎日食べても飽きないおいしいパンです。日常的に食べるパン屋が、地元の方にとってすぐ行くことができる場所“住宅街”にあることは、駅前のこだわりのパン屋と差別化する上での強みになります。

当時、売り手様は現場に入っていらっしゃいましたが、家庭の事情で実務を続けることが難しくなり、すでに営業日を絞って従業員だけである程度、運営できる形にされていました。しかし、それでは利益は残らず、状況は厳しくなることが目に見えていました。

売り手様としても、なるべく早く譲渡したいという意図をお持ちで、私としても引き継ぐなら少しでもよい状態で早く引き継ぎたいとお互いの足並みが揃っていました。そして先方から提示された最低金額とこちらの予算感がほぼ一緒だったことなど条件も合致したため、初回の面談でほぼ基本合意に至りました。



(行列になるほど地元に人気のパン)

【引き継ぎ時に想定外の数百万円を負担も結果オーライ】

- 交渉の中で、苦労された点はありましたか?
もともと売り手様は、3年前にミニベーカリー開業支援会社から開業支援を受けて、この店を開始されました。そのためもし同じレシピを使うのであれば、その開業支援の会社と再契約する必要があることが判明して、経営者が交代するには、別途、再契約に数百万円もの多額の費用がかかるという話が出てきました。

私としては、当初の予算に数百万円が上乗せされるので、厳しい条件交渉を覚悟しましたが、売り手様がその点を考慮してくださり再契約費用を差し引いた金額を最低金額として改めて提示してくださり、助かりました。そのため、結果としては上乗せ分を足しても一千万円以内という形で事業譲渡をさせていただくことになりました。

私が開業支援の会社と再契約をすれば、スタッフの方はオペレーションを何も変える必要がなく、今のレシピをそのまま使うことができます。

また、売り手様が譲渡にあたって買い手の住所は気にされていました。朝早くだったり、夜遅くまで残って何かしたり、といったイレギュラーな作業が出てくる可能性があるため、近くに住んでいないと大変だと。私の住まいは店舗から偶然にも近かったため、条件としては問題ないと判断していただいたようでした。

- 交渉の際に気をつけたことはどんなことでしょうか。
こちらの希望を伝えるとき、ダイレクトに言わず、自分の中で1回、2回は反すうして、言い方やタイミングに気をつけました

設備の老朽化や、スタッフが離職するリスクなどを踏まえて、譲渡価格を下げていくということは交渉のセオリーだと思いますが、売り手様に正論を突きつけることで、気分を害しブレイクしてしまうということはよくあると思います。

また熱意があっても、熱意を前に出しすぎてはいけないと考えていました。その熱意で逆に相手に引かれてしまう可能性もあります。ですから、言いたいことは資料にギュッとまとめて、最悪それを最後に渡せればいいという気持ちでした。お会いしているときは先方とのコミュニケーションに専念することが大切だと思います。

- デューデリジェンスや引き継ぎはどのように行われましたか?
デューデリジェンスに関しては、財務関連の資料をもらいつつ、数字の裏付けをとるためにPOSレジで売り上げや来客数などを確認させていただきました。

また私が引き継ぐ場合、従業員の方に辞められては困りますので、成約前に6名の従業員全ての方と一人ひとり面談し、私の自己紹介と併せて、今後も基本的に同じ条件で働いてほしいとお伝えする機会を設けていただきました

引き継ぎについては、開業支援の会社とは再契約がありましたが、店舗の賃貸契約については名義変更だけですみました。その他、さまざまな営業上の許可をとる必要がありましたが、それも特に問題ありませんでした。

2020年12月末に成約し、2月1日からオーナーが私に変わりました。

今回買収した店舗はショーケースの中からお客様の注文を受けてパンをスタッフが袋詰めするスタイルで、比較的コロナの影響を受けにくい販売方式です。ただコロナとは関係なく、製造管理の難しさを実感している毎日を過ごしています。

季節や日によって変わるパンのニーズを考慮して製造個数をどのくらいに設定するか、あわせてスタッフのシフトをどうするか。そしてパンは売れ残った際に日持ちしないという特性を考慮する必要があるなど、勿論これまでの実績も確認しているものの、やはり現場で働いてみないとわからないことがたくさんあります

とはいえ、事業すべてができあがっていて、あとは改善点を見つけて運営していくだけというM&Aでの起業独立は、やはり取り組むべきことが限られており、時間的なメリットが大きいと感じますね。



(パンを製造する工房の様子)

【副業と起業独立では選べる案件が全く変わる】

- 今回、なぜ個人ではなく新たに設立した法人で引き継がれたのでしょうか。
実はM&Aの成約前に会社を辞めて実態のない法人をまず作りましたが、理由は主に2つあります。

ひとつは今後の事業計画があったことです。個人事業主としてパン屋をやるだけでなく、今後もパン屋以外にいろいろ事業に取り組みたいという思いもありましたので、それを見越して法人を設立しました。

もうひとつは日本政策金融公庫からの融資を受けるためです。法人であれば連帯保証人なしでお金を借りられますので、今回の譲渡金額や開業支援に支払うお金はすべて借入でまかないました。会社の資本金や細かい運転資金などは、自己資金でまかなっています。

- なぜあえて先に会社をやめるという選択肢をとられたのでしょうか?
今回、私はいわば退路を断ってM&Aでの起業を目指したわけですが、やはり会社を辞めて起業独立の形で取り組むか、副業として取り組むかによって、案件の探し方が全く変わってきます

あくまでも副業ベースで案件を探していると、労働の時間的な制約で選択できる案件は限られます

自分に覚悟をすえた上で案件を探した方が、より広い範囲で自分に合ったいい案件を探すことができるという思いでの行動でした。

- 今後はどのようにお考えですか。
まずは実店舗の運営を今まで通り回していくことが第一です。次の段階として、新たなパン屋を増やしていくのか、それとも今回の経験を生かして、カフェなど何か違う事業を始めるのか、まだわかりません。

ただなるべく早い段階で従業員の方に裁量を持ってもらい、自分自身は次のステップを考えていきたいと思っています。

今回のようなM&Aが社会で一般的なこととなれば、廃業を余儀なくされている方も他の方に事業を引き継ぐことができるようになり、売り案件が増えて社会全体が活発化すれば、買い手にも新しいチャンスが生まれるのではないでしょうか。

私自身、これからもまだまだM&Aに取り組んでいきたいですね。



(今回M&Aで買収したパン屋さん)


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  • 池田純子)
  • ライター紹介池田純子

    大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーのライター・編集者に。暮らしやお金、子育てにまつわる雑誌記事の執筆や単行本の製作に携わる。さまざまな生き方を提案するインタビューサイト「いま&ひと」を主宰。