2020-12-08

「生み出す」ではなく「コスト解消」のM&A!赤字自習室を格安で買収し、オフィス費用を解消

買い手(個人):匿名

<個人事業主の多角化M&A・買収事例>

 

シェアオフィスやコワーキングスペースが街中にもどんどん増え、存在が一般的にも知られるようになりました。今回、神奈川県相模原市にある自習室をM&Aで格安の金額にて買収したEさん(46歳)。買収にはどういった狙いがあったのか、自習室事業の特徴、将来への事業展望を購入者に伺いました。

【自習室経営は低コスト低リターン】

- 自習室案件のM&Aを考えられたのはなぜですか?
一番の理由は、個人事業を行っていることもあり自分の事務所として利用でき、さらにその場所で収益が上がるなら更にいいと思ったからです。自習室などのレンタルスペース事業では多くの収益は期待しにくいですが、一般的な飲食店等と比べ、運営の手間がほとんどなく人件費もかかりません。低コスト低リターンで経営ができると思いました。

コロナ禍で企業がオフィスへの出社などを限定している現在、自宅にこもりきりで作業をするのは辛いと感じている会社員もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。そういった状況から、まだまだ自習室の需要はあるはずだと踏みました。

- 当初、買収の予算や、立地条件はどのように考えていましたか?
予算は、100万から250万円ぐらいです。賃貸契約の結び直しなどでなんだかんだお金はかかるだろうと覚悟していました。また、自宅のある神奈川県中心部の駅近だと利用者は多いのですがかなり賃料が高いので、少し駅から離れた場所も含めて、案件を探していました。



(今回の買い手であるEさん)

 

- そんな中、自習室のどのような点に魅力を感じましたか?
売り手さんが2年間経営していましたが、基本赤字経営でした。しかし、赤字分はご自身の事務所の家賃代わりとして想定の上、運営されていました。クライアントさんの関係で東京に行くことが多く、事務所としての使用頻度が少なくなったため売りに出したのだそうです。

私も基本同じ考えで、極論、すぐに収益が出なくても良いとの考えが一致しました。また、自習室って大袈裟かもしれないですが、日本の次世代の頭脳が培われている場所です。必ずしも若い方だけでなく、現役世代の方も資格取得等で、新たな道を切り開こうとされています。ビジネスとは別に、そういった方々へのリスペクトと同時になにかお手伝いできたらと、エモーショナルな部分で魅力を感じていました

ただ、お引き受けした以上、もちろん事業者としては収益を出すチャレンジをします。私がイメージする利便性実現にはまだやることがあると思っており、そのためには投資が必要です。ボランティア事業ではないですから、まずは投資の原資をつくるための黒字化は進めていきます。

また、本件自習室では、時間制or月額制で座席を貸し出しますが、完全事前ネット予約のため、普段は無人で管理できるのもメリットです。

利用料は銀行振り込みのほかに、受け付けの無人料金箱で回収するという方式ですが、この2年間不払いの利用者はいないと聞きました。ユーザーのモラルの高さも本案件の魅力だといえます。とはいえ、今後、料金の支払い方法において、口座を持たない学生さんもいらっしゃるので、アナログな方式は残しつつ電子マネー決済の導入も検討しています。

- 案件が赤字とのことですが、財務諸表はどのような見方をされましたか?
売り上げ以外の経費を千円単位で細かく見ました。消耗品や細かい雑費など、積み上げていくと“チリも積もれば”で万単位の誤差になります。自習室のようなスモールビジネスの場合には、特に細かいお金の出入りを精査しないと後々経営を続け、黒字化を目指す中でボディブローのように効いてきます

収支も経費も二年分の数字には全部目を通し、またその結果として数字が改善されているか否かを把握し、損失が徐々に改善されてきていたことが今回のM&Aの決め手になりました。

また、利用者数を見てみるとコロナ禍でも自習室の利用者はそれほど減っていませんでした。必死になって勉強する人は、コロナ禍であったとしても目標のために良い環境を求めてやって来るのでしょう。

【格安での買収。売り手を尊重し、名前も運営方法も変えない】

- 価格交渉での苦労などはありませんでしたか?
売り手さんとしては、内装費も結構かかっているし、もっと高く売却したかったのだと思います。ただ、それ以上に売り手さんには事業を残してほしいという想いが強かったようで、私が「名前もそのまま、今のやり方も全部引き継ぎます」とお伝えしたところ、売り手さんの表情はパッと明るくなり「それではお願いします!」とおっしゃってくださりました。

最初のコンタクトからわずか2か月で締結できましたね。自習室を朝から晩まで利用して熱心に勉強している人も多く、愛着を持っていただいているお客様を大事にしたいということだったのでしょうね。

- 譲渡金額について、評価の基準となる内訳を教えていただけますか?
自習室があるスペースの賃貸契約の契約結び直しで30〜40万円、警備システムの残りのリース料で60〜70万円の負担が必要だった金額を合算したもので、売り手さん自身にはほとんどお金が入らない状況でしたが、それでもいいと言ってくださいました。



(自習室の設備)

【引き継ぎの落とし穴!ネットとセキュリティが継続できない?!】

- 本件自習室では、何故赤字に陥っているのでしょうか?
赤字の原因は、圧倒的にプロモーション量が足りていないことに起因していると考えています。

ツイッター、ホームページもあるのですが、積極的に活用はされていない状態でした。お客様の利便性向上に向けて、ツイッターでは細かく運営情報の展開、LINEのオフィシャルアカウントも新設して簡単にテンポよく問い合わせができるようになど、できることから改善を図っていこうと考えています。

本業の機械設計と不動産管理で収益は出ているので、もしこの自習室で収益が上がらなくても、事務所の家賃だと思えばいいと言えますが、それではサービスの向上はできません。

経営者の端くれとしては、収益の柱として育て、お客様への利便性向上というサイクルを回すことにチャレンジしていきたいと思っています。

- 自習室の利用者数はどれくらいですか?稼働率がどのくらいになると黒字化が見えてくるのでしょうか?
現在、実働会員が100人ほどいます。

内訳は、学生・浪人生と社会人で半々な状態ですが、平日は圧倒的に学生や浪人生が多く、土日に会社員が利用している状況です。

自習室自体は、朝の5時から夜11時までオープンしていて、その間ずっと満席になっている状態を100%とすると、計算上は25%以上の稼働で利益が出ることになります。現在、約10%の稼働率のため完全に赤字の状態です。

- 引き継ぎで苦労したことはありますか?
会社や株式の譲渡ではないので、引き継ぎの煩雑さはほぼなかったです。売り手さんとは、定例オンライン会議を実施、その結果を必ず議事録に残し、私からの質問は共有のクラウドシステムにまとめ、売り手さんに答えてもらうという形にしました。

一つ一つ不明なところをつぶしていって、今ではもう疑問がない状態です。売り手さんとはとてもいい関係が築けたので、自習室の名誉会員として、売り手さんには今後もぜひ自習室を自由に使ってほしいと伝えています(笑)。

- 引き継ぎの過程でなにも問題は起こりませんでしたか……?
実は、自習室を休業しないままインフラを引き継ぐことは思ったよりも大変な作業でした。インターネット契約の名義変更をするには、一定の期間、使用できない状態が発生するため簡単にはできないのです。

付随してネット契約を切った場合、警備システムも一度システムからケーブルから現物をすべて撤去して、一から設定しなおす必要があるという問題が出てきました。これでは営業の妨げになります。

- では、どうしたのですか?
事情をインターネット接続事業者(プロバイダー)に話しましたが、社内規定でダメなものはダメと言われてしまいました。交渉の末「売り手さんに別の契約をしてもらい、支払いは私で行う」というイレギュラーな形で対応していただくことになりました。

ただ、この契約方式は本来の形ではないので、現在も交渉中にあります。売り手さんとの信頼関係でなんとかしのいでいるという感じですね。

またそのほかに、ネットに関連するアカウントの引き継ぎも本人確認が厳重なので、通常売り手さんが接続されている端末以外でログインした場合、売り手さんのスマホに送られるセキュリティコードが必要になります。そのため、二人で肩を並べてPCで移行作業を行いました。

【赤字事業の活路、M&Aでどのコストが解消できるのか考える】

- 引き継いでから、ご自分なりに自習室に手をくわえたことはありますか?
以前は机が並んでいるだけでしたが、半個室と個室も作りました。仕事をする場合、自分のPC画面を見られたくないし、セキュリティ面でもNGです。個室ならばオンライン会議もできます。

そのほかに、自分があれば嬉しいという思いもあり、フリードリンクも用意しました。

- 将来的にはどんな自習室にしたいと思っていますか?
学生、浪人生の方が必死になって勉強をしている姿には胸を打たれます。そのため、この自習室教室が日本の将来の頭脳、知能になる人たちを応援できる場でありたいと考えています。

そのため、受験、昇格&資格試験を受けるための応援キャンペーンもはじめました。そして、私自身の長らく自動車の設計をしていた経験を踏まえて、もし車のエンジニアを希望する方がいればレクチャーの機会を提供することもできます。

幸いにも私の周りには建築、電気、IT、航空と専門家がいますので、その業界をチャレンジしたい方へのサポートが始められればと思っています。自習室経営に付加価値を提供するための施策ですね。

- 最後にM&Aにこれから挑戦する方へ、何かアドバイスはありますか。
やってみて実感しましたが、ゼロから事業を立ち上げるより、M&A、事業買収のコストパフォーマンスは圧倒的に高い。まずはやりたい事業が売りに出ていないかを見るべきです。

私の場合はオフィス兼用という視点で見ましたが、家賃負担という支払いが必要なコストの存在を考えたときには、赤字事業であったとしても購入する価値が出てくるものだと思います。生み出す視点だけではなく、どのコストがM&Aで解消できるかという視点でも見たら面白いと思います。

- ありがとうございました!




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  • 東野りか
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    ライター紹介東野りか


    ファッション誌、生活誌の編集者を経て独立。インタビューと旅の取材・執筆がもっとも得意な分野。酒と旅と音楽と映画をこよなく愛する。

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