2021-08-10
会社員と子育てを両立し、さらに副業でオンラインビジネスを買収したやり手女性のM&A
買い手(個人):宇髙風美さん
<個人の副業を目指したM&A・買収事例>
- ➤ 会社員・子育てとの両立が可能で、経営を体感できる案件を探していた
- ➤ 過度な期待を持たない!値引き交渉をせず気持ちよく!
- ➤ 初月から手応えが得られるのは顧客基盤があるM&Aならでは
- ➤ 本業では無いからこそ、売上に縛られずマイペースで”継続”できる
営業職として働く会社員の宇髙風美さんは、育休復帰から1年が経ち、仕事と子育てを両立するリズムが掴めてきたタイミングでさらに副業まで考えるように。2021年5月にM&AでレディースアパレルのECサイトを買収しました。
案件に求めていた条件は、オンラインで完結するビジネスであることと「経営経験をきちんと積むことができる」こと。ビジネススクールに通っていた宇高さんには、学んだことを副業で実践したいという思いもあったからです。
初めてのM&Aにあたり、どのように交渉を進めたのか、交渉の中で気を付けたこと、引き継いでからの学びを伺いました。
【会社員・子育てとの両立が可能で、経営を体感できる案件を探していた】
- まずは、宇髙様のご経歴や現在のお仕事について教えていただけますか?
10年ほど美容師として働いた後、営業職に転身して今に至ります。一見、大きなキャリアチェンジに見えるかもしれませんが、個人的にはそう思っていません。
というのも、美容師時代にはヘアカットの方法やカラー剤の作り方などを教える講師業をしていましたし、営業職としては英語教室事業に携わったり、大学や高専に対して教育系のITサービスを提供したりしていて。取り扱う商材は違えど「教育」という軸はブレていないと思います。
- どのようなきっかけから、M&Aで副業を始めることに興味を持ったのですか?
今まで勘と経験に頼ってきた営業のスキルを磨こうとビジネススクールに通い始めたんですが、そこでM&Aについて学ぶ機会があったり、実際にM&Aをされた先輩がいたりしたことがきっかけです。
ここ数年、世の中で副業やパラレルワークが加速して働き方が柔軟になり、本業ではできないことが副業で挑戦しやすい環境になってきたかなと感じていて。さらに、育休復帰から1年が経ち、仕事と子育てを両立するリズムも掴めてきたので、今が副業に挑戦しどきかなと。それで、2年ほど前からTRANBIを見るようになりました。
メールで新着案件通知が届いたときや空き時間にTRANBIの案件を見ていました。「今の時期はこういった案件が多いんだ」という気付きがあって面白かったです。マンションの間取り図を見るような感覚で見ていました。
- どのような条件で売却案件を探していましたか?
考えていたのは、オンラインで作業も顧客対応も完結する案件です。
というのも、化粧品や健康食品を販売している店舗やネイルサロンの案件にも申し込み交渉まで進んだのですが、検討する中で、フルタイムで働きながら実店舗の運営を行うのは現実的に難しいなと思ったんです。そのため、「場所の自由度が高い」ことが優先度の上位にありました。
ただ、決してオンラインのビジネスが「短時間で効率よくできる」とは思っていなくて。中には、案件概要に「1日5分の作業でOKです」と書かれているものもありますが、どんな案件を買うにしろ、慣れてリズムが掴めるまでは、ある程度自分の時間や体力や資金を投下することは絶対に必要だろうと覚悟はしていました。
- 「オンラインビジネス」以外に案件を探す際に重視されていたのはどんなことですか。
自分で手を動かすことができて、経営経験を生で味わえるものです。たとえば、中には「運営代行業者がいるので、運営の負荷は掛かりません」という魅力を訴求しているアプリサービスや民泊事業の案件などもあったんです。
ただ、それでは私自身の勉強にはならないなと思って。オンラインビジネスで経営を体感できるものを探していく中で、興味を持ったのがECサイトでした。商品を仕入れて、値付けをして、売上を立てて、顧客の動きを見ながら次の戦略を考えるといった、一連のプロセスを全部自分で考えられるところがいいなと思ったからです。
(今回購入されたアパレルECショップ「EDONA」のサイト)
【過度な期待を持たない!値引き交渉をせず気持ちよく!】
- そして、今回目を付けられたのがレディースアパレル商品を販売するECサイトでしたね。どのように交渉を申し込まれましたか。
案件概要を読んで惹かれたものの、財務資料などを見てみないことには、私で買えるのか・運営できるのか、判断がつかないと思ったので、まずは情報をいただくために交渉を申し込みました。
ただ、他にも多くの買い手様から申し込みが来ていると思うので、「交渉ルームを開けていただけたらラッキー」くらいに捉えていましたね。いきなり長文を送ってこられても売り手様は目を通すのが大変。それに、思いをぶつけたメッセージを送った後、資料を拝見して「やっぱり買いません」とこちらから断ると、お互い精神的に疲弊しそうですよね。
だからこそ、「資料を拝見させていただきたいです」というようなシンプルなメッセージを送り、失礼の無いように接することだけを心掛けていました。
- どのように購入の意思を固めていきましたか。
まず財務資料を拝見させていただきました。売上や利益などの数字はあくまで過去の実績。私が引き継いで保証されるわけではないですが、収益を予測する上での参考にはなりました。
譲渡金額も予算内でした。かつ、「お客様から商品の注文が入ったら、買い付けをしてお届けをする」という在庫を持たないビジネスモデルなので、リスクも抑えつつできるだろうと。
さらに、フリルやリボンの付いた個性的な洋服を扱うセレクトショップ的な役割のECサイトだったことから、すでにある程度リピーターのお客様がいらっしゃって。その点も魅力だったので、買うことに躊躇はありませんでした。
それから1週間も経たないうちに、売り手様と本案件を仲介していた方と私の三者でオンラインの面談をおこなって。その場で「買いたいです」と意思表明をしたところ、スムーズに売買が決まり、引き継ぎの方法やタイミングなど実務的なことを話すフェーズに移りました。
- 価格交渉などはしませんでしたか。
譲渡金額は妥当だと思ったのでしていません。サポート期間もたっぷり設けていただきましたから。それに、私もECサイトの運営は初めてで細かいことをたくさん質問するだろうと思ったので、そう考えると決して割高な金額だと感じませんでした。1円でも安くというよりも、お互いに気持ち良く進められる事の方が大事でした。
- 契約書を締結する際に、特別に盛り込んだ項目などはありますか。
売り主様は、今回売却するECサイト以外にも、レディースアパレルのECサイトを2つ持っていて。その2つは、今回私が購入したECサイトとは価格帯も取り扱っている商材もまったく違います。だから、競合することはありません。
ただ、競業避止のために、「今回私が購入したECサイトと、ターゲットや商品ラインナップが似たECサイトを今後立ち上げることはしないでください」といった内容は一応盛り込みました。
- 購入の意思決定や契約の締結を行うにあたって、専門家などに相談はしましたか。
金額的にとても高額という訳ではなく、イチ消費者として少し大きな買い物をする感覚に近かったので、特に相談はしていません。
ただ、ECサイトを引き継ぐ上で何をしなければならないのか、権利関係はどうなるのか、どのようなリスクがあるのかなどについて知らなかったので、仲介会社さんが主催されている勉強会に参加して学びました。
仲介会社さんは、こうした勉強会も開いてくれたり、いつも中立の立場に立って交渉を進めてくれたり、ネガティブな情報を隠さず話してくださったりしたので、こちらとしても非常に進めやすかったです。
(今回購入されたアパレルECショップ「EDONA」の商品)
【初月から手応えが得られるのは、顧客基盤があるM&Aならでは】
- 2021年5月に引き継ぎ作業や準備を行い、6月から実働をされているそうですが、現時点での手応えはいかがですか?
私が引き継ぐ前の3カ月ほどは、売り手様がECサイトにほぼ手を掛けられていなくて。季節に応じたお洋服の入れ替えもできていない状態だったので、売上がだいぶ落ち込んでいたんです。
そのため、お洋服のラインナップを季節に合わせて入れ替え、サイトのバナーを整えるなど、まずはECサイトを運営する上で基本的なことから取り組んでみました。
すると、初月からピーク時の半分くらいの売上を立てることができて。初月から売上が立つとは思ってなかったので、想定外の嬉しさがありました。
ECサイトに限らず、ブログでも何でもそうだと思うのですが、リアクションがゼロだと心が折れてなかなか継続できないですよね。購入してくれるお客様やお気に入りの商品をカートに入れてくれるお客様がいるなど、リアクションが見えたからこそ、「この方法でいいんだ」と思えて、地道な作業を継続できています。
おそらく、自分でイチからECサイトを立ち上げていたら、リアクションを得るまでにもっと時間が掛かっていたはずで。早いタイミングでリアクションが得られる点も、すでに顧客基盤のあるサービスを引き継ぐM&Aの魅力だと思います。
- 日々どれくらいの時間をECサイトの運営に充てていますか。
商品の写真や情報を掲載したり、商品をリサーチしたりとやることはたくさんあるので、1日1時間くらいは費やしています。
運営に慣れるまでの引き継いでから数カ月は、時間を取られるだろうとわかっていたので、大変とは思いません。ただ、慣れてきたら「どの作業を効率化できるか」を考えるフェーズに移らなければと思っています。
(今回購入されたアパレルECショップ「EDONA」のインスタグラム)
【本業では無いからこそ、売上に縛られずマイペースで”継続”できる】
- 初めてECサイトを運営してみて、どんな気づきや学びがありましたか。
まず、アパレルのECサイトならではかもしれませんが、対応しなければいけない季節感の早さに対する驚きがありました。春先には夏服を出し、夏が始まった頃には秋服を出してと、季節を先取りして商品を出す経験は新鮮で。売り手様からアドバイスをいただきながら対応しています。
経営的な学びとしては、値付けや商品説明の難しさです。「なぜ、この商品は高額でも人気ですぐに売れるのだろうか」と気になることもありますし、商品説明の書き方ひとつで魅力的に見えるか否かが左右されてしまうこともあると思うので、研究していきたいですね。ただ、会社員のときのような決められた価格で販売するのとは違い、難しさや苦労の中でお客様からなにか発見を見つけることがとても楽しくもあるんです。
- 今後の目標を教えてください。
まずは、きちんと季節に応じた商品を出すこと。次にお客様の反応を見ながら商品を入れ替えること。そして、買っていただいたお客様に誠意を持って対応すること。こうした基本を意識しながら、ECサイトを継続していくことに努めたいです。
もちろん、売り手様が運営されていたときのピーク時の売上までは持っていきたいですし、それ以上も目指しています。ただ「ECサイト1本で食べていけるようになる」ことを目指しているわけではないので、集客のために広告費をたくさん使ったり、KPIを設定して数字で自分を追い込んだりすることは現状考えてなくて。
目標を持ってガツガツ運用するのではなくて、一つひとつ必要なプロセスを踏みながら、ECサイトを成長させていきたいですね。
***今回宇高さんが購入されたショップ「EDONA」***
https://astylist.base.ec/
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ライター紹介倉本祐美加
関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。