2021-10-12

わずか6日間の爆速成約!大胆さと繊細さを兼ね備えた若手ビジネスマンのM&A思考法とは?

買い手(個人):寺門諒太さん(30代)

<個人の副業を目指したM&A・買収事例>

 

ネットショップ開設やオンライン予約システムなどのプラットフォームを展開する企業で、カスタマーサクセス部門の責任者として働く寺門諒太さん。副業で経営コンサルティングを行っていましたが、他の副業にも挑戦すべくTRANBIで案件を探し始めます

その結果、買い申し込みを行ってからわずか6日で、「プログラミング学習・起業志望者向けブログ」をスピード成約。初めてのM&Aとは思えないほどスムーズに進んだそうです。

あまりのスピード成約のため、「勢いや直感で決めたのでは?」と思うかもしれませんが、実のところ案件選びは非常に慎重かつ緻密。事業形態や費用感だけではなく、ビジネスの再現性などを計る独自のチェック項目を設けて判断したそうです。

大胆さと繊細さを併せ持つ寺門さんに、案件選定基準や事業譲渡後の取り組み、今後副業でチャレンジしていきたいことについて、お話を伺いました。

【3つの副業をこなす中、貪欲に個人M&Aにも興味】

- まずは寺門さんのキャリアについて教えていただけますか。
現在32歳で、本業は会社員です。ネットショップ開設やオンライン予約システムなどの「STORES プラットフォーム」を展開するヘイ株式会社で、既存のお客様への活用支援を行うカスタマーサクセス部門の責任者を担当しています。現在は本業と並行して、3つの副業をしています。

- 副業に関心を持ったのはいつからですか。
前々職では副業OKだったため、スタートアップ向けの経営コンサルティングをしていました。ただ、前職は副業がNGだったのでいったん辞めたのです。

その後、2020年12月に前職がM&Aを経て今の会社に統合されたのですが、それを機にまた副業がOKになって。すぐに案件を取ってきて、スタートアップ5~6社を対象にした経営コンサルティングを始めました。徐々に、「本業は続けつつ、副業をもっとスケールさせたい」と思うようになり、他の副業も探すようになったんです。

- 副業を増やすための手段に、M&Aを選んだのはなぜですか?
副業に取り組むにあたって、ゼロイチで立ち上げるか、すでにあるものを買うかという選択肢がありますよね。ゼロイチは、経営コンサルティングの方ですでに経験していたのですが、安定した基盤を築くためにはどうしても一定の時間が掛かるなと感じていて。一方で、M&Aなら資金を投下することで時間を買うことができると思ったんです。

とはいえ、法人間のM&Aは知っていたものの、個人がM&Aをすることは可能かどうかもわかっていなくて。調べるうちに可能だと知ったため、「TRANBI」のようなM&Aのプラットフォームを眺めるようになりました。数百万円から案件が売りに出されていたため、これなら個人でも出来ると感じましたね。



(ブログを購入した買い手の寺門さん)

【今回のM&Aは成功パターンを見つけるための“検証”】

- プログラミング学習・起業志望者向けのブログと「YouTubeチャンネル」を買われていますよね。どのような基準で案件を絞っていったのですか。
まず、サービスの形態としては、自分の時間が空いたときに手を掛けられるネットサービスに限定していました。本業がある中で、実店舗を持って対面のビジネスを運営していくのは時間的に厳しいと思ったからです。

次に、軸としては、本業のスキルやこれまでの経験を生かせるものを探していました。具体的な例を挙げると、1つはIT領域です。また、4度転職を経験しているため「転職領域」のビジネスでも経験が生かせると思いました。こうした領域に関連するもので、ビジネスをスケールできそうな案件を探していたのです。

その他にも、いくつか条件がありました。1つは、属人化していないビジネスであること。そして、顧客やユーザーのエンゲージメントが高いこと。たとえばブログの場合、滞在時間が長く、閲覧記事本数の多い固定ファンがきちんと付いているかということです。

さらには、大きな予算を投下せずとも、ユーザーを獲得できていること。ファンがたくさん付いていたとしても、広告にお金を掛けて獲得していたのでは、再現性がありません。ブログに関しては、オーガニックで記事に流入している人が多いかを確認していました。

- かなり細かく条件を決めた上で、「すべての条件を満たすものがあれば買う」というポリシーが確立されているように感じます。
こうした基準を決めておかないと、どの案件も魅力的に見えてしまうんです。TRANBIからも毎日案件通知が届くため、「副業を増やしたい」「新しいビジネスがしたい」とモチベーション高い状態で眺めていたら、「全部いいな」と思ってしまって(笑)

勢いと直感だけで買い申し込みをすると、自分に合わないものに手を出して失敗するリスクも高まるでしょう。だからこそ、自分の中で基準を作って、基準に合うかどうかを冷静に見極めた上で選定をするようにしました。

そのため、最初はTRANBIの無料会員として案件を眺めながら精査していて。「これだ」と思えたブログの案件に出会えたタイミングで、TRANBIの有料会員に登録し、すぐに買い申し込みを行ったんです。

- ちなみに、売上高や利益など現状の財務面は買う際の条件に含めてはなかったのですか?
はい。収入に困っていて副業をしているというわけではないので、今の売上はゼロに低くても特に気にしていませんでした。どちらかというと、事業を育てることに関心があったのと、いろいろな検証をしてみたいと思っていたので。

- 「検証」とは、具体的にどんなことをするのですか。
「どのようなフェーズの、どのような事業を買ったときに、一番自分のスキルや知見を生かしながらビジネスを伸ばせるのか」ということですね。

あとは、企業間のM&Aは、抱えている製品やサービス、多数の従業員が働く組織ごと買うものであるため、ある程度、“仕組みをまるごと購入する”ような側面があると思いますが、それに比べると個人間のビジネスの売り買いは、どうしても個人の知見やスキルに依存する一面もあるような気がしていて。

「本当に個人のM&Aって成功するのかな?」というのも個人的に気になっているんです。だから、まずはそれほど資金的に痛手にならない数百万円単位の案件を2つ買って検証してみようと、走り出したところです。

1~2年の検証期間を経て、個人で案件を買っても十分スケールできる手応えを得ることができたり、自分に合うビジネスがわかってきたりしたら、数千万円単位のM&Aを実行したいと思っています。



(今回購入されたブログ)

【買収したブログの550記事すべてを精査&リライト。地道な作業にも手を抜かない】

- 今回購入されたブログの、どんなところに惹かれましたか。
案件の一番の魅力は、自分が引き継いで継続できるコンテンツ内容だったことです。案件を探す中で、ITやテクノロジー系のブログやWebサイトの案件を何百件も見たのですが、IT系と言っても「PC・周辺機器にまつわるサイト運営」や「エンジニア向けの専門的な情報発信」などがどうしても多くて。

一方で今回買収したブログは、テクノロジーとビジネスの内容がバランス良く盛り込まれた上で発信されていたため、「これなら自分でも継続できる」と思いました。また、検索エンジン上位にあがっている記事が一定数あったことも評価ポイントでした。

- ちなみに、TRANBIに登録されてから6日間で成約に至っていますよね。かなりのスピード感だと思うのですが。
個人的には、特別速いとは思っていませんでした。従業員が働いている会社を買うわけじゃないため、財務状況や事業的なリスクや法務確認も最小限で済むからです。

金額の値下げ交渉も持ち掛けたのですが、ライバルが売り手様の提示金額をそのまま了承していることや、「提示金額に納得いただけて、スピード感を持って進められる方にお譲りしたい」という売り手様からの言葉を聞いたため、提示金額通りに交渉を進めることにしました。

- M&Aにチャレンジするのは初めてだったと思いますが、どんな準備をされて交渉に臨みましたか。
「交渉のどの段階で、どの情報を得て判断していくべきか」といった進め方はわからなくて。そのため、まず買い申し込みの段階で聞きたいことをずらりと並べたリストを作って、交渉で順に質問をしながら疑問点をクリアにしていきました。

交渉の中では、ブログのアクセス解析ツールを確認させていただいて、現状を把握しました。本業で使っているものと同じツールだったため、どのデータを見るべきかなどもわかっていてスムーズに確認が進められました。

売り手様は、もともとブログを「本事業のための集客チャネル」という立ち位置で運営していたものの、事業を転換することになって集客チャネルの必要性がなくなったため、今回売却に至ったという経緯があります。

そのような性質のブログだったため、これまでアフィリエイトなどで稼いではおらず、現状の収益ベースでの評価は難しくて。ただ、アクセス解析ツールで数字を見て、サイトの潜在的な収益を見積り、適正金額だと判断しました。

無事交渉がまとまってからは、Googleスプレッドシートで「To do管理表」を作って、売り手様と共有しながら互いのタスクを1つずつ潰していきました。

- 交渉や引き継ぎのうえで、苦労はありませんでしたか。
売り手様は、私の本業と近い業界で事業をされているスタートアップ企業の経営者の方だったため、話もしやすくて、困りごとなくスムーズに交渉が進められたと思います。

事業譲渡契約書の締結方法に戸惑ったり、サーバー移行作業に少し手間が掛かったりはしたものの、大きなトラブルはなくて。売り手様には事業譲渡後に1カ月のサポート期間を設けていただいたため、不明点などもその期間で解決することができました。

- 事業譲渡後は、どんなことに取り掛かりましたか。
まずは、もともと掲載されていた550記事すべてに目を通しました。その上で、ブログの性質や方向性に合うものだけを残していくと、100記事ほどに絞られて。今度はその100記事をリライトしていきました。そのため、最初の基盤を作るまでには想定以上の時間が掛かったような気がします。

記事は、現在大きく分けると2種類あります。汎用的なテーマの記事は、リサーチすれば書ける記事であるため、クラウドソーシングでライターに外注して書いてもらっています。一方で専門的でディープな記事は、自分で書いています。

- かなり忙しそうに思うのですが、日々どのようなスケジュールで過ごしているのですか。
平日は本業に9時間ほど費やしています。フレックスタイム制で働く時間の融通も利くため、週2回ほどは平日の日中に経営コンサルティングの副業を差し込んでいます。

そして朝や夜の自由な時間は、ブログやYouTubeチャンネルの運営に費やしています。稼働時間はだいたい1日1時間で週5時間から多くて10時間ほど。まとめて時間を取りたいときは、土日に時間を取ります。

- ブログを引き継いで新しく取り組んだことや、今後の運営戦略について教えてください。
まず、収益化のためにアフィリエイト広告を貼るようにしました。また、もともとは「プログラミング学習」部分がメインとなっているブログだったのですが、サイトの構造を変えて「ベンチャー転職」「起業」「プログラミング学習」という3つのカテゴリを打ち出す構造にしました

このように変えることで、訪問者が読みたい記事を探しやすくなったようで。まだ引き継いで2カ月ですが、すでに訪問者数が120%に伸びています。

M&Aを行った段階では、ブログや別途M&Aで購入したYouTubeチャンネルは、私がもともと行っているコンサルティング事業の集客チャネルという立ち位置にしようかと考えていました。

ただ、コンサルティングに流すにしてもそのためのコンテンツや導線の整備が必要で。それに、すべてをコンサルティングに繋げてしまっていたのでは、私のリソースも足りなくなってしまいます。

そのため、現段階では、訪問者数を増やしつつ「ブログ単体で稼げるようになること」を理想に運営をしていこうと思っていますが、まだ検証段階であるため、運営しながら最適解を見つけていきたいです。



(購入されたYouTubeチャンネルを編集している画面)

【“副業”だからこそ、利益二の次でやりたいことに打ち込める】

- 今回のM&Aのお話を伺っていると、非常に堅実かつスムーズに進められてきた印象を受けました。そんな寺門さんにも、これまでのキャリアの中で忘れられない失敗体験などはあるのでしょうか。
失敗はたくさんありますよ(笑)よく覚えているのは、以前マーケティング担当に初めて就任したときに、予算が限られている中で600万円を投下して広告を出したにもかかわらず、ユーザーからほとんど反応が得られなかったことでしょうか。当時は広告代理店からもらった提案がすべて魅力的に見えて、誤った意思決定をしてしまったんです。

この失敗を経験したことで、「詳しくない領域について、すべて良く見えてしまう傾向があり、適切なジャッジができない」という自分自身の性質に気付くこともできて。だからこそ、今回のM&Aにおいても、きっちりと基準を設けた上で案件を選ぶことを意識したのです。

- 過去の経験が生かされていたのですね。「副業も拡大していきたい」という思いをお持ちのようですが、具体的にどんな構想を描いていますか。
3年後には、業務委託などでお仕事を任せられる仲間を20~30人集めたうえで、より大きな規模感の事業を行っていたいと考えています。

なかでも、「課題は山積みだけど誰も手を付けてこなかったこと」や「世の中に対する価値貢献が大きいこと」に取り組みたいと思っていて。今、一番興味を持っているのは教育分野です。

私自身、家庭の事情で高校時代に塾や予備校に行けなかった経験があるのですが、「学びたいけど学べない」学生は多くいますよね。誰もが等しく質の高い教育を受けられるしくみや、正しい学習方法を浸透させられるようなしくみを作ることに関心があります。

- 「本業を辞めて起業する」という選択肢もある中で、副業としてこうしたチャレンジを行うのはなぜですか。
「課題は山積みだけど誰も手を付けてこなかったこと」って、基本的に儲からないからなんです。本業としてやろうと思うと、どうしても稼げる分野の課題解決を選ばざるをえなくなりますよね。

それに、思いを持って起業しても、VCから資金調達をして周りからの期待に応えることが求められる中で、社会的課題の解決を諦めて、目の前の稼ぎを考えなければならなくなった方も何人か見てきて

そういったしがらみに負けずに、社会的課題を解決することにフォーカスするなら、自己資金で、かつ起業や上場とは無縁で、自分のできる範囲で課題を解決することがベストかなと思うからです。

- 最後に、これからM&Aにチャレンジする方へ向けてアドバイスをお願いします。
「M&A」と聞くと難しそうに思うかもしれませんが、プロセス自体は難しくありません。また、一般的にはゼロイチで立ち上げるよりも早期に収益を上げることができて、モチベーション維持にも繋がるため、M&Aに興味があるなら気軽に始めてみてはと思います。

ただ、「買ったものの事業を継続できない」といったことが起こらないようにするためにも、やみくもに行動するのではなく、「どんな事業を買うべきか」という基準をしっかり自分で整理した上で、案件を選ぶことが重要ではないでしょうか。

 

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  • 倉本祐美加
  • ライター紹介倉本祐美加

    関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。

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