2021-09-07

食べログ百名店に選ばれた讃岐うどん店の「サバイバル事業承継」を大公開!

売り手(個人):岩崎良蔵氏

<(売り手編)個人の事業売却事例>

 

東京都文京区の千石駅近くに店を構えていた「讃岐饂飩(さぬきうどん)元喜(げんき)」は、食べログ百名店にも選ばれた人気うどん店。しかし、店舗が入居しているビルの取り壊しが決まり、半年程度で立ち退きをしなければいけない状況になりました。

69歳という年齢から一度は閉店を考えたものの、オーナーである岩崎良蔵さんは、営業継続のために事業譲渡を行うべく買い手を探すことを決意。新たなオーナーの下で働き続けることを選びました。

日本政策金融公庫の支援を受けつつTRANBIを活用し、時間が限られる中、トラブルがありつつも最終的には理想の買い手様への事業譲渡が成立。岩崎さんに、うどん店の営業継続を決意した理由や買い手を見極めるためのポイント、そして今後の展望を伺いました。

【店舗立ち退きが決定...一度は閉店を考えたが事業の存続を模索する】

- まずは岩崎さんのご経歴と、うどん屋を開業するに至った経緯を教えてください。
うどん屋を開業する前は、建設会社で30年近く勤めていました。もともと、うどんは好きだったのですが、20代の頃に仕事で中国・四国地方に滞在する機会があった際に香川で讃岐うどんを食べて、より好きになったんです。乾麺を茹でたうどんを後輩に振る舞ったり、関東に赴任してからも讃岐うどん屋を探しては家族で食べに行ったりしていました。

52歳のとき、職場で希望退職の募集がありました。当時、建設業界は、バブル崩壊後に不況からの脱出途上でした。かと言って退職するとしても今後何をしようかと考える中で、湧いてきたのがうどん屋開業への思いです。インターネットで調べてみると、香川県にある株式会社 大和製作所が運営する「大和麺学校」という、うどん学校を見つけました。

讃岐うどんの本場・香川県で最低3年ほど修行しなければ開業できないのではないかと思っていましたが、大和麺学校はたった1週間でうどんを作る技術から事業計画の立て方、店舗探しのポイントまですべて網羅して教えてくれるという内容の濃い教育をおこなっていました。

講師を務めていただいた 藤井薫 代表には、みっちりと厳しくご指導いただきました(笑)。大和麺学校に通った後、希望退職を選択。そして系列の店舗で1か月間の修行を経て、うどん屋を開きました。

- そうして2005年12月に開店した「讃岐饂飩(さぬきうどん)元喜(げんき)」ですが、お店のこだわりや看板メニューを教えてください。
無化調の国産小麦100%で作る自家製麺と、マグネシウム等が含まれていない軟水を使った本節・うるめ節・さば節等の素材の持つホンモノのとっても味わい深い出汁がポイントです。棒状で 15 ㎝×3 本の大きな鶏の天ぷらが付いた「かしわ天ぶっかけ」と海老・かしわ・ちくわの天ぷらが乗った「元喜盛りうどん」が人気ですね。

開店2年目に映画「UDON」が大ヒットして讃岐うどんブームが巻き起こったことや、テレビ番組「出没!アド街ック天国」で、店を構えている東京都文京区の千石・白山地区が取り上げられたことがきっかけで客足が増え、開店3年目から軌道に乗りました。

- 約16年経営されお店が繁盛していた中、今回どうして売却を決意されたのですか。
店舗が入居しているビルの取り壊しが決まって、立ち退きを要求されたことがきっかけです。後継者もおらず、69歳という年齢的にもこれから新たに借り入れをして新しい店舗で営業を再開するというのは考えられなくて。「引き際かな」と思いました。

ただ、大家さんがものすごく申し訳なさそうにしていたり、周りから「食べログ百名店にも選ばれたのにもったいない。身体が元気なら続けたらいいのに」と言われたりするうちに、だんだん心境が変化して。

なんとか店を生かさなければいけないなと思うようになったんです。そこで、事業譲渡を行い、新たなオーナーの下、再出店したお店で私が店長として働くという方法を模索してみることにしました。



(食べログ百名店にも選ばれた「讃岐饂飩元喜」)



(取材の引き合いも多い)

【日本政策金融公庫の事業承継マッチング支援を思い出して相談、条件は再出店と自身の雇用】

- 事業譲渡を決意されて、日本政策金融公庫に相談に行ったのはなぜですか。
4年ほど前に、日本政策金融公庫の方から事業承継マッチング支援のご案内を受けて、面談をさせていただいたことがあったんです。

当時は今よりも身体が元気だし、誰かに譲ることなど考えてなかったためピンと来ませんでした。ただ、面談の中で、私の生い立ちやお店に対する思いなどを含めた話をよく聞いていただいて。

ある程度の関係性を構築できていたことや、M&A仲介会社に依頼する場合は別に費用が掛かることもあって、相談を申し込んだのです。

今回は、店舗がなくなってしまうため、「再出店による店舗継続」と「私を雇用していただくこと」を条件にした事業譲渡になります。一般的には店舗がある状態での事業譲渡になることが多いため、日本政策金融公庫の方も珍しいケースに驚いてはいましたが、親身になってどうすればいいかを考えてくれました。

- 譲渡希望価格は、どのように設定されましたか?
日本政策金融公庫からのアドバイスを踏まえて決めました。相談に行ったのが2020年11月ごろで退去が2021年3月と時間が限られていたこともあり、金額面はあまり重視せず、よい買い手を見つけて、事業を存続させることが最優先でした。

うどん屋は繁盛していたし常に黒字ではあったのですが、経営が得意なわけではなく、そこまで高利益が出ているわけではありませんでした。しかも今後は店舗の再出店にお金が掛かりますし、雇われ店長の私の給料を払いながらオーナーさんにも利益が残る仕組みにしなければなりません。

正直、最初は自分自身として妥当かなと考えた譲渡金額があったのですが、金額を下げて設定しました。50社ほどの買い手様から立候補があったため、戦略としては正解だったと思います。



(お店の人気商品である「元喜盛りぶっかけ」)

【立ち退きが迫る中、一度破談に...最終的には複数の飲食店を経営する買い手と成約】

- 50社も応募があった中から、買い手様をどのようにして絞り込んでいきましたか。
まず、日本政策金融公庫にアドバイスをいただきながら、TRANBIの買い手情報などを元に10社程度まで絞り込みました。そこから4社と面談をさせていただいたのです。買い手候補となった4社はさまざまでした。

最初に面接したのは、都内で居酒屋を経営されている方でした。熱意は感じたのですが、多店舗経営は初めてとのことで、バランスよく経営していただくことが難しそうに感じたため、お断りをしました。

次に面接したのは、他県で異業種を経営されている方です。以前、東京にいらしたこともあり元喜に何度も食べに来てくださったこともあるそうで。その思いはありがたかったのですが、東京と少し距離があることもあって同じくお断りをしました。

3番目は、九州や沖縄で飲食店、東京で民泊を経営されている方でした。この方は多店舗経営もされていて、熱意もかなりあったため、好感触でした。

そして4番目が今回の買い手様です。飲食店を多店舗展開しており、M&Aの経験も豊富で、飲食店の管理能力に長けているという印象を持ちました。

ただ、実は当初、3番目の企業様に譲渡しようと思っていたのです。

- 3番目の企業様への譲渡を断念したのは、どうしてですか?
その企業様は非常に熱意があって、うどん屋のオペレーションや経営の勉強も熱心にしておられました。ただ、勉強すればするほど「うどん屋経営は想像していたより大変であり、自分にはできないかもしれない」という葛藤が強くなってしまったようで。同じ頃、物件探しもされていたのですが、物件がなかなか見つからなかったことも一因かもしれません。

最終的にその企業様からお断りされたのは、立ち退きまで残り約1か月。そして半月で店から什器や備品を運び出さなければいけない、差し迫った時期でした。非常に焦りました。

慌てて、面談で好印象を持った4番目の企業様に連絡を入れたところ、急なお願いにも快く「大丈夫です」と言ってくださって。再度の面談を経て、譲渡金額もそのままでスムーズに事業譲渡が決まりました。

- 買い手様の印象はいかがでしたか。
やはり、飲食店を20店以上取りまとめられている経営力やマネジメント力に信頼を置くことができました。

また、こちらから申し訳無く思いながら再度面談のお願いをしたときも快く即答してくれたように、とても決断力があってフットワークが軽い印象があります。

実は、買い申し込みをする前に、元喜にも視察を兼ねて食べに訪れてくれたみたいで。また、面談で好みのうどん屋さんを聞かれたため答えたところ、面談後すぐにそのお店に食べに行かれてました。そういった熱心さや行動力も魅力的でした。

交渉相手である執行役員兼営業本部長の方は、私よりは20歳以上若い方ですが、ジェネレーションギャップは感じませんし、常に話を前向きに進めてくれます。

冷蔵庫や厨房機器を一旦倉庫に保管しておく必要があった際も、引っ越し時期で運送会社が見つからず困っていたのですが、買い手様が2,3日で手配してくださって非常に助かりました

- 少し話が戻りますが日本政策金融公庫に相談をされて、どのような点が助かりましたか。
TRANBIへの掲載から買い手候補様とのやりとり、絞り込みまでお任せできた点です。ひとりで50社の買い手情報を見て選ぶのは大変ですし、経験豊富な日本政策金融公庫だからこそ、買い手様を選ぶ上で見るべきポイントもわかっていると思うのです。

支援してくださったからこそ、限られた時間内で効率的に進められました。



(売り手の岩崎さんとスタッフの方々)

【今後は買い手のノウハウも活かして、「うどん×イタリアン」にも挑戦】

- 現在の引き継ぎ状況はいかがですか?
9月オープンに向けて準備をしています。場所は買い手様の提案で代々木上原に決まりました。もともと歯医者だった古い建物をうどん屋に改装するため、厨房配置を考えている途中です。買い手様とも引き続きスムーズにコミュニケーションが取れていて、期待以上の事業譲渡だったと感じています。

- エリアが変わるに伴い、お店のカラーも変化するのでしょうか。
ミシュランの星を持つ店舗が周囲にあるエリアであるため、本物が認められる街でフラッグシップとなるような店舗にしようとしています。

買い手様は居酒屋やイタリアンバルも運営しているため、代々木上原で元喜のうどんが認められれば、「うどん×居酒屋」や「うどん×イタリアン」といった新しいスタイルのお店の展開も検討していて。チェーン展開するためにも、私の元で次の店舗の店長になれる人を育てなければなりません。

目玉となる創作うどんを開発するなど、新しいオーナー様の考えの下で私の色を出していけたらと思いますし、これからが楽しみです。

- 「事業承継」に対してネガティブなイメージを持つ店主の方もいると思いますが、岩崎さんはどのような意見をお持ちですか。
10年ほど前までは、「もっと店を大きくするぞ」ということだけを考えていたので、事業承継なんて考えられませんでした。案内を貰っても耳を貸してなかったですし。自分がこの年齢になったからこそ、柔軟に考えられるようになったのかなと。

今回、事業承継を行ったからこそ、自分では考え付かなかったチェーン展開のような構想も生まれて。毎日が新鮮ですし、新しいエネルギーを持って頑張れそうです。

- 事業売却を振り返って、ぜひ、売り手様へのアドバイスをお願いします。
私と同じように、飲食店の事業承継を考えているオーナーが買い手様を選ぶ際には、やはり「飲食店の多店舗展開の実績がすでにあるか」を重視した方がいいと思います。

多店舗展開するには、かなりノウハウが必要。「あと数店舗あったら儲かりそうだな」という考えだけでうまくいくものではないからです。飲食店経営を熟知していて、経験のある方にお任せするのが良いと思います。



(精魂込めて出汁をとる岩崎さん)


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  • 倉本祐美加
  • ライター紹介倉本祐美加

    関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。

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