表明保証の主な三つの目的とは。内容、リスク回避で重要なポイントも

表明保証の主な三つの目的とは。内容、リスク回避で重要なポイントも

M&Aにおける表明保証は、主に買い手を保護する目的で最終契約書に記載される条項です。内容を正しく理解しておけば、安心してM&Aを進められるでしょう。表明保証の役割や重要性を、主に買い手の視点から解説します。

表明保証とは

M&Aで締結される最終契約書の必須項目には、表明保証と呼ばれるものがあります。どのようなものなのか、まずは概要を理解しておきましょう。

事実を表明し、保証するもの

表明保証とは、売り手が買い手に対し、開示内容が真実かつ正確であることを表明・保証することです。M&Aの最終契約書に表明保障条項として記載されます。

M&Aで実施されるデューデリジェンスでは、売り手に関するさまざまな情報をあらゆる角度から精査するのが基本です。しかし、対象企業の瑕疵(かし)を全て把握できるとは限りません。

事実と異なる開示情報により買い手に経済的な損失が生じた場合、売り手は損害を賠償する必要があります。表明保証をすることで、このようなリスクから買い手を保護することが可能です。

明らかな表明保証違反があった場合

最終契約書に記載された保証条項に明確な違反があった場合、買い手は売り手に対して損害賠償請求を行うことが可能です。違反が裁判所で認められ、売り手に賠償金の支払いが命じられた例もあります。

違反が生じたケースで賠償金を請求できるようにするためには、違反の対象となる情報や行為について、契約書に詳しく記載しておかなければなりません。違反が発覚した際の買い手の対処法も、契約書で設定しておく必要があります。

明らかな違反が生じた場合、クロージング前であれば契約書の内容に沿って契約自体を解除することも可能です。ただし、クロージング後に判明した場合には契約解除はできないため、損害賠償請求により経済的な損失を請求することとなります。

表明保証をする三つの目的

M&Aの最終契約書で表明保証条項を記載する目的を覚えておきましょう。買い手の保護やデューデリジェンスの補完など、主に以下三つの目的があります。

主に買い手を保護するため

表明保証をする目的の一つに、M&A契約における買い手の保護が挙げられます。買い手が情報開示を要望したのちに、売り手が提供した情報が誤っていたり、事実と異なる内容を開示したことで、買い手が損害を被った場合、買い手は売り手に対し責任を追及することが可能です

売り手側も、自社の瑕疵を正直に申告した上で買い手に判断してもらえます。表明保証条項の記載は、売り手にとっても決して不利なものではありません。

デューデリジェンスには限界があるため

M&Aの最終契約書締結前には、買い手によるデューデリジェンスが実施されます。デューデリジェンスで洗い出した法務や財務などの問題点は、最終的な買収価格に反映することが可能です。

しかし、デューデリジェンスは、売り手が開示した情報や資料が「真実であり、正確である」ことを前提に実施されるため、そもそも提供された情報や資料が不適切であった場合、買い手の意思決定に大きな影響を与えてしまう可能性があります。

そのため、売り手が宣誓する表明保証条項の内容を充実させることで、売り手による不都合な情報の隠ぺいを予防できます。表明保証には、デューデリジェンスの前提条件を保管する役割を持っているのです。

リスク分担を明確にするため

表明保証には、売り手と買い手のリスク分担を明確にする目的もあります。契約書に細かく条項を定めれば、当事者が負う責任やリスクの範囲を明らかにすることが可能です。

M&Aの数年後に表明保証条項違反が発覚する場合があるため、表明保証には『保証期間』が設けられるケースが多いようです。

また、売り手の賠償責任額を一定の範囲に限定するために、株式譲渡代金の範囲内で『賠償上限額』が盛り込まれることもあります。

契約に保証期間や賠償上限額を設けない場合、買い手が被った損害に対し、売り手が際限なく責任を負うことになりかねません。

売り手の責任の範囲を定めれば、買い手にも一定のリスクが生じることになります。表明保証があればノーリスクにできるわけではない点に注意が必要です。

表明保証条項は、M&Aのクロージング前に締結される最終契約書に設けられます。それぞれの具体的な内容をチェックしておきましょう。

最終契約書とは

M&Aの最終契約書とは、最終的な売買価格や取引条件などを細かく記載した契約書です。デューデリジェンス後の最終条件交渉が終わった後、クロージングを実行する前に締結します。

最終契約書に記載される主な条項は、M&Aスキーム・取引価格・秘密保持・表明保証・補償条項・前提条件・解除条件・管轄裁判所などです。契約書が法的拘束力を備えることも明記されます。

M&Aで売り手と買い手が取り交わす書類には、デューデリジェンス前に締結される基本合意書もあります。基本合意書はあくまでも基本事項の合意内容を確認するための書類であり、最終契約書とは異なる点に注意しましょう。基本合意書には一般的には法的拘束力はありません。

表明保証の内容

表明保証の内容は売り手と買い手の交渉により決まるため、条項数は案件によりさまざまです。基本的には、情報の真実性や正確性を証明する内容や、偶発債務・訴訟・提訴の隠ぺいがないことなどを保証する文言が記載されます。

具体的には、労務・税務・取引先・権利・資産などの条項を細かく設け、それぞれに対して表明保証を定めるのが一般的です。条項数が多いほど、買い手のリスクを軽減できることになります。

一方、売り手側もできるだけリスクを減らせるよう、条項数の削減や内容の修正を求めてくるでしょう。双方の交渉や調整を経て、最終的な内容が決定します。

買い手が特に気を付けたいこと

表明保証の設定に関し、買い手が特に気を付けるべきポイントについて解説します。表明保証条項を設けていれば安心というわけではない点に注意が必要です。

「規定があればリスクはゼロ」ではない

表明保証条項違反により損害賠償請求や契約解除ができるのは、明らかに違反していると認められた場合のみです。条項の記載が不十分なケースや文言があいまいなケースでは、明らかな違反とみなされない場合があります。

違反の程度が軽微な場合も、売り手の責任を追及できる可能性は低いでしょう。買い手に実害がなく、損害賠償請求が認められなかった裁判例があります。

最終条件交渉の結果によっては、表明保証条項に有効期限が設けられる事例も見られます。有効期限が過ぎた後に売り手の違反が発覚しても、買い手は売り手の責任を追及できません。

デューデリジェンスは手を抜かない

裁判所の解釈次第では、売り手の違反を買い手が見抜けた可能性を指摘されかねない点にも注意が必要です。不十分な調査を表明保証でカバーするという認識は危険といえます。

表明保証の効果を最大限に高めるためには、入念なデューデリジェンスが不可欠です。売り手の問題点を徹底的に調査すれば、デューデリジェンス不足により責任追及に制限が掛かるのを防げます。

デューデリジェンスは手間やコストが掛かることから、自社スタッフのみで済まそうと考えている企業も多いでしょう。M&Aを確実に成功させるためにも、デューデリジェンスは手を抜かないことが重要です。

トラブル防止のため専門家への相談を推奨

表明保証に関しては、あいまいな文言や不十分な記載事項があるだけで、責任追及に制限が掛かりかねません。テンプレートを用いて作ることも可能ですが、細かい文言の正確性や有効性は素人には判断できないでしょう。

クロージング後のトラブル発生を防止するためにも、表明保証を含めた最終契約書の作成はプロに任せるのがおすすめです。高度な専門知識を持つプロに依頼すれば、より適切な契約書を作成してもらえます

M&Aにおける一連のプロセスを通しても、法律に関するさまざまな専門知識が必要です。会社や事業の買収を成功に導けるよう、専門家に関与してもらう方向で検討しましょう。

表明保証保険とは

表明保証に関しては、当事者が被った損害をカバーしてくれる保険が存在します。表明保証保険の概要やメリット、手続きの大まかな流れを押さえておきましょう。

表明保証違反による損失を補償する保険

表明保証保険とは、表明保証違反により当事者が損害を被った際、損失を補償してくれる保険です。買い手用と売り手用の2種類が存在します。

例えば、売り手が表明保証した項目に関して簿外負債をクロージング後に見つけた場合、通常は買い手が売り手に対して損害賠償を請求することができます。一方、表明保証保険に加入していれば、売り手ではなく保険会社に補償請求を行えます。

近年のM&A市場は買い手のニーズが高く、交渉の主導権を売り手に握られるケースが増えています。買い手が不利になりがちな状況において、買い手用の表明保証保険によるリスクへの備えは非常に有効です。

損害賠償請求の手間がかからない

表明保証保険の大きなメリットとして、損害賠償請求の手間を省ける点が挙げられます。保険会社への保険金請求手続きを行えば済むため、買い手に多大な負担が掛かりません

表明保証違反が発覚した場合、補償請求や損害賠償請求の立証責任は買い手が負います。金銭の回収までには相当な時間や労力を要するのが一般的です。売り手に抵抗される恐れもあるでしょう。

しかし、表明保証保険に加入していれば、手間を掛けずに損害を補填できます。売り手への請求が不要なケースでは、売り手との関係悪化を回避できる点もメリットです。

表明保証保険加入の流れ

表明保証の内容は案件により異なるため、表明保証保険も案件ごとに約款を定める特注型保険となります。条項ごとに保険会社が異なる可能性がある点も特徴です。

保険に加入する場合は、最初に保険会社または保険仲介会社へ連絡します。条項ごとに集めた見積もりを比較した上で、引受審査を申し込む保険会社を選定しなければなりません。

引受審査を経て提示された保険条件をもとに、保険会社と最終的な交渉を行います。交渉がまとまり保険契約を締結すれば、表明保証保険への加入は完了です。

まとめ

表明保証とは、売り手の開示情報が真実かつ正確であることを証明するものです。明らかな表明保証違反があった場合、買い手は売り手に損害賠償を請求できます。

表明保証保険に加入すれば、手間を掛けずに損害を補填してもらうことが可能です。表明保証を作る場合は、トラブルを防止するために専門家へ相談しましょう。