アーンアウト条項とは?メリット・デメリット・目標設定・事例をわかりやすく解説
アーンアウト条項とは、M&A成立後の業績に応じて追加対価を支払う仕組み(条件付取得対価)です。アーンアウトの意味や英語表記、使われる場面、買い手・売り手のメリット・デメリット、目標設定の指標、キーマン条項や価格調整条項との関係まで、M&A実務目線で解説します。
M&Aの契約では、買収対価を一括で支払うのではなく、買収後の業績に応じて段階的に支払う「アーンアウト条項」が設定されることがあります。しかし、「アーンアウトとは何か」「どのような場面で使うのか」「メリットやデメリットは何か」といった点は、専門的で分かりにくい部分も多いものです。
アーンアウトとは、M&A成立時に対価の全額を支払わず、その後の業績などの条件達成に応じて追加の対価を支払う仕組みです。業績の見通しが難しいベンチャー企業やスタートアップの買収で用いられる傾向があります。
本記事では、アーンアウト(条項)の意味や英語表記、生まれた背景から、使われる場面、買い手・売り手それぞれのメリットとデメリット、価格調整条項やロックアップとの関係、実務上の注意点までを、M&Aの実務目線でわかりやすく解説します。
アーンアウト(条項)とは
まずは、アーンアウトという言葉の意味と、契約書に盛り込む「アーンアウト条項」の位置づけ、英語表記、そしてこの仕組みが生まれた背景を整理します。
アーンアウトとは
アーンアウト(Earn out)とは、M&Aの成立時に対価の全額を支払わず、その後の業績などの条件達成に応じて、追加の対価を支払う対価調整の方法です。
条件によって最終的な取得対価が変わることから、日本語では「条件付取得対価」とも呼ばれます。たとえば「1年後に利益1,000万円を達成した場合は、追加で2,000万円を支払う」といったように、売り手の将来の業績を条件に、追加報酬を支払うことを約束します。
売り手は結果を出せば出すほど多くの対価を受け取れる一方、買い手は業績が振るわなかった場合のリスクを抑えられる、という特徴があります。
アーンアウト条項とは
アーンアウトを実施する際は、M&Aの契約書に「アーンアウト条項(Earn out Clause)」を盛り込みます。これは、どの条件を満たせば、いくらの追加対価を、いつ支払うのかを定める条項です。
アーンアウト条項は、最終契約書であるSPA(株式譲渡契約書)などに規定されます。条件の内容や評価期間、支払いの方法などを具体的に定めておくことで、後のトラブルを防ぎます。
アーンアウトの英語表記
アーンアウトは、英語では「earn out」と表記し、契約条項としては「earn out clause(アーンアウト条項)」と呼ばれます。
また、条件によって対価が変動するという性質から、会計の分野では「contingent consideration(条件付取得対価)」と表現されることもあります。英語の資料や契約書を扱う際は、これらの表記もあわせて押さえておくとよいでしょう。
アーンアウトが生まれた背景
アーンアウトが用いられるようになった背景には、M&Aにおける価格交渉の難しさがあります。
M&Aの譲渡価格は、売り手企業の企業価値をもとに、双方の交渉によって決まるのが一般的です。しかし、買い手は売り手の事業実態を完全には把握できないため、将来性の見込みをめぐって希望価格に大きな差が生じ、交渉が決裂してしまうこともあります。
アーンアウトは「出来高払い」に近い仕組みのため、譲渡価格に対する双方の食い違いを和らげ、合意形成をスムーズにする効果があります。買い手にとっては、将来性やシナジー効果を過大に評価することで生じる「高値づかみ」のリスクを抑える手段にもなります。
アーンアウト条項が使われる場面・目的
アーンアウト条項は、どのような場面で、どのような目的で設定されるのでしょうか。代表的な3つのケースを見ていきます。
ベンチャー・スタートアップの買収
アーンアウト条項は、ベンチャー企業やスタートアップ企業の買収時に設定されるケースが多く見られます。
「現時点では売上が小さいが、製品やサービスが軌道に乗れば大きな成長が見込める」という企業では、買い手は将来の業績を正確に見通せません。そこで、業績が下振れした場合のリスクヘッジと、大きく伸びた場合への期待の両面から、アーンアウトが用いられます。
成長途上の売り手にとっても、「将来の成長を評価してほしい」という思いに沿う仕組みです。アーンアウトでは一定の評価期間が設けられ、その期間中は売り手の経営陣が引き続き経営にあたるケースが大半です。
高値づかみ(のれんの過大評価)の回避
買い手がアーンアウトを活用する大きな目的のひとつが、「高値づかみ」の回避です。
M&Aで高額な買収になってしまう理由のひとつに、のれんの過大評価があります。少しでも高く売却したい売り手は、将来性やシナジー効果などのメリットを盛り込んで価格を引き上げようとします。これらを過大に評価して買収すると、買い手は投じた金額を回収できなくなるおそれがあります。
アーンアウトでは、実際の業績に応じて追加対価を支払うため、業績が想定どおりに伸びなかった場合のリスクヘッジになります。
キーマン条項によるインセンティブ
アーンアウト条項は、買収後に残る前経営陣にインセンティブを与える目的で用いられることもあります。
M&Aの実施後、買い手から売り手に対して「キーマン条項」が設定される場合があります。キーマン条項とは、売り手の重要人物(経営者・役員・技術者など)が早期に会社を離れてしまうのを防ぐための規定です。引き継ぎを徹底し、買収後の事業運営を円滑に進めることが狙いです。
ただし、キーマン条項によって、売り手のキーマンは一定期間の就業を求められます。引退を考えていた人にとっては負担になりかねません。そこでアーンアウト条項を組み合わせると、キーマンは成果を出した分だけ追加対価を得られるため、モチベーションを保ちやすくなります。買い手にとっても、重要人物の意欲を維持できる点は大きなメリットです。
アーンアウト条項のメリット
アーンアウト条項には、買い手と売り手の双方にメリットがあります。買い手は買収時の資金負担を抑えられ、売り手は業績に見合った対価を受け取れます。それぞれの立場から見ていきましょう。
売り手のメリット:実績に応じた対価とモチベーション維持
アーンアウトでは、売り手は実績に見合った対価を受け取れます。条件を達成するごとに追加対価が支払われる仕組みのため、一括で譲渡対価を受け取るよりも、最終的に多くの対価を得られる可能性があります。
また、目標達成に向けて、売り手側の経営者や従業員のモチベーションが保たれやすくなります。これは買い手にとってもメリットです。特に、キーマン条項で売り手の経営陣を長期間拘束する場合、意欲の低下によって経営がうまくいかなくなるケースも少なくないため、アーンアウトによる動機づけが効いてきます。
買い手のメリット:資金負担の軽減とリスク分散
買い手のメリットは、リスクの分散に加えて、買収時に多額の資金を一度に用意せずに済む点です。買収額の一部を後ろ倒しにできるため、手元資金に余裕がない企業にとっては好都合です。
アーンアウト条項が設定されたM&Aでは、支払いが大きく2段階に分かれます。
- 譲渡対価:M&A成立時(引き渡し時)に支払う対価
- アーンアウトの対価:目標達成時に支払う追加報酬
譲渡対価はM&A成立時に必ず支払う対価で、原則として引き渡しがあった日に支払います。一方、アーンアウトの対価はあくまで目標達成時の追加報酬であり、売り手が目標を達成しなかった場合には発生しません。
目標設定の指標(財務指標・非財務指標)
アーンアウトの目標や支払い条件は、「売上高〇〇円を達成したら〇〇円を支払う」「売上高の目標超過額の〇%」といったように、財務指標を目安に設定するのが一般的です。代表的な指標には、売上高・EBITDA・当期純利益・営業キャッシュフローなどがあります。
EBITDAは、税引前利益に支払利息・減価償却費などを加えて算出される利益で、その企業のキャッシュベースの収益性(本業のもうけ)を判断しやすい指標です。なお、業種によっては、売上個数・空室率・ユーザー数といった非財務指標が用いられることもあります。
| 立場 | 主なメリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 買い手 | 資金負担の軽減/高値づかみ回避/ リスク分散/キーマンの引き留め |
目標設定・達成判定の手間/ 会計処理が複雑 |
| 売り手 | 業績次第で対価が増える/ モチベーション維持 |
業績未達なら対価が減る/ 評価期間中の拘束 |
アーンアウト条項のデメリット・注意点
メリットの多いアーンアウトですが、設定にあたっては慎重な話し合いが欠かせません。目標や評価期間の決め方で意見が食い違い、交渉が長引くこともあります。代表的なデメリットと注意点を整理します。
評価期間が長いと交渉が決裂しやすい
アーンアウトは売り手のモチベーションを高めますが、評価期間が5年、10年と長くなると、事業環境の変化によって目標達成が難しくなります。
評価期間をめぐって、買い手と売り手の交渉が決裂する可能性もあります。評価期間は1〜3年程度とするのが一般的で、あまりに長い期間を設定するのは適切ではありません。達成目標についても、客観的かつ公正な視点で、双方が納得できる要件を設定する必要があります。
再売却に制限がかかる
M&A成立後に再売却を検討している場合は、事前に再売却に関する取り決めをしておく必要があります。
買い手が勝手に再売却を行うと、アーンアウトの目標を達成したかどうかの判断ができなくなり、売り手の「対価を受け取る権利」が侵害されてしまうためです。再売却の可能性がある場合は、「所定の金額を支払えば、アーンアウト条項そのものを消滅させられる」といった項目を、あらかじめ契約書に加えておくとよいでしょう。
目標達成の判定をめぐる係争リスク
アーンアウトでは、「目標を達成したかどうか」の判定をめぐってトラブルになることがあります。たとえば、買い手の経営方針によって売り手部門の費用配分が変わると、利益指標が影響を受け、達成判定に疑義が生じかねません。
こうしたリスクを抑えるには、判定に用いる指標と算定方法を、契約書で具体的かつ客観的に定めておくことが重要です。可能であれば、第三者の関与や算定ルールの明文化も検討するとよいでしょう。
会計・税務上の注意点
アーンアウト(条件付取得対価)は、会計・税務上の扱いが複雑です。追加対価をどの時点で・どのように計上するか、のれんの金額にどう影響するかなどは、適用する会計基準(日本基準・IFRSなど)によっても異なります。
判断を誤ると想定外の損益や税負担が生じることもあるため、アーンアウトを設計する段階から、公認会計士や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
価格調整条項・ロックアップとの関係
アーンアウトは、M&Aの「価格調整条項」や「ロックアップ」と関連の深い仕組みです。混同されやすいため、それぞれの関係と違いを整理します。
価格調整条項の一種としてのアーンアウト
価格調整条項とは、M&Aの譲渡価格を、一定の基準にもとづいて事後的に調整する条項の総称です。アーンアウトは、このうち「将来の業績」に連動して対価を調整するタイプにあたります。
価格調整条項には、ほかにも、クロージング時点の運転資本や純資産の増減に応じて価格を調整する仕組みなどがあります。アーンアウトは、こうした価格調整の手法のひとつとして理解しておくと、全体像がつかみやすくなります。
ロックアップとの違い
ロックアップとは、M&A後に売り手の経営者やキーマンを一定期間会社に留め、引き継ぎや事業の継続を確保する仕組みです。前述のキーマン条項も、ロックアップの一種といえます。
ロックアップが「人材を一定期間拘束する」仕組みであるのに対し、アーンアウトは「成果に応じて追加対価を支払うことで動機づけする」仕組みです。両者は性質が異なりますが、ロックアップで在籍を確保しつつ、アーンアウトでモチベーションを高めるというように、組み合わせて用いられることもあります。
アーンアウトの活用事例
アーンアウトは、どのような場面で活用されるのでしょうか。ここでは、典型的な活用パターンを想定ケースとして紹介します(金額はイメージをつかむための一例です)。
ケース1:成長途上のスタートアップを買収する
現時点では売上が小さいものの、製品やサービスが軌道に乗れば大きな成長が見込めるスタートアップを買収するケースです。
買い手は、将来性を完全には見通せないため、譲渡時に一定額(たとえば1億円)を支払い、買収後に売上やEBITDAなどの目標を達成した場合に追加対価(たとえば最大3億円)を支払う、といった設計にします。これにより、買い手は下振れリスクを抑えつつ、大きく成長した場合の対価は成果に応じて支払うことができます。
ケース2:売り手と買い手の価格差を埋める
売り手は将来性を見込んで高い価格(たとえば5億円)を希望し、買い手は現在の実績をもとに慎重な価格(たとえば3億円)を提示している、というように希望価格に差があるケースです。
この場合、譲渡時に3億円を支払い、買収後に一定の業績目標を達成すれば追加で最大2億円を支払う、というアーンアウトを設定することで、価格差を将来の業績で埋める合意がしやすくなります。交渉が決裂しかけた場面で、着地点を見つける手段として機能します。
ケース3:キーマンの引き留めと動機づけ
売り手の経営者や技術者が事業のキーマンで、買収後に離脱されると事業価値が大きく損なわれるケースです。
買い手は、キーマン条項で一定期間の在籍を求めつつ、アーンアウト条項を組み合わせます。これにより、キーマンは一定期間とどまりながら、成果を出した分だけ追加対価を得られるため、引き継ぎと事業成長の両方を後押しできます。
アーンアウトに関するよくある質問・FAQ
ここでは、アーンアウトに関してよく寄せられる疑問について、検索されやすい論点を中心に整理して解説します。
Q1. アーンアウトとは何ですか?
A. アーンアウトとは、M&Aの成立時に対価の全額を支払わず、買収後の業績などの条件達成に応じて追加対価を支払う仕組みです。条件によって取得対価が変わることから、日本語では「条件付取得対価」とも呼ばれます。業績の見通しが難しいベンチャー企業やスタートアップの買収で用いられる傾向があります。
Q2. アーンアウトのデメリットは何ですか?
A. 主なデメリットは、評価期間が長いと事業環境の変化で目標達成が難しくなること、買い手による再売却に制限がかかること、目標達成の判定をめぐって係争が起こりうること、会計・税務上の処理が複雑になることなどです。
これらを避けるには、評価期間を1〜3年程度にとどめ、判定指標と算定方法を契約書で具体的に定めておくことが大切です。
Q3. アーンアウトは英語で何といいますか?
A. アーンアウトは英語で「earn out」、契約条項としては「earn out clause」と表記されます。
会計の分野では、条件によって対価が変動する性質から「contingent consideration(条件付取得対価)」と表現されることもあります。
Q4. アーンアウトの評価期間はどのくらいですか?
A. 一般的には1〜3年程度に設定されることが多いです。
評価期間が長すぎると、事業環境の変化によって目標達成が難しくなり、交渉が決裂する原因にもなります。デューデリジェンスや事業計画をもとに、双方が納得できる合理的な期間を設定することが大切です。
Q5. キーマン条項とは何ですか?
A. キーマン条項とは、売り手の重要人物(経営者・役員・技術者など)が買収後に早期離脱するのを防ぐための規定です。引き継ぎを徹底し、買収後の事業運営を円滑にする狙いがあります。
キーマン条項だけでは在籍を「拘束」するにとどまりますが、アーンアウト条項と組み合わせることで、成果に応じた対価による「動機づけ」が加わり、モチベーションを保ちやすくなります。
まとめ|アーンアウトは双方が納得できる設計を
アーンアウトは、M&A成立時に対価の一部を支払い、その後の業績などの目標達成度に応じて追加対価を支払う仕組みです。買い手は多額の資金を一度に用意する必要がなくなり、高値づかみのリスクも抑えられます。売り手にとっても、一括で受け取るより多くの対価を得られる可能性があり、モチベーションを保ちやすいというメリットがあります。
本記事の要点は、以下のとおりです。
- アーンアウト=業績などの条件達成に応じて追加対価を支払う仕組み(条件付取得対価)
- ベンチャー買収・価格差の調整・キーマンの動機づけなどで活用される
- 目標指標は売上高・EBITDAなどの財務指標が中心
- 評価期間は1〜3年が一般的。長すぎると交渉決裂のリスク
- 再売却の制限・判定の係争・会計税務の扱いに注意が必要
アーンアウト条項を設ける際は、達成目標や評価期間、再売却時の取り扱いについて十分に話し合い、双方が納得できる設計にすることが大切です。会計・税務や契約面の判断に迷う場合は、公認会計士・税理士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
事業承継・M&Aをご検討の際は、国内最大級の事業承継・M&Aプラットフォーム「TRANBI(トランビ)」もぜひご活用ください。
