赤字会社を買収するメリット・デメリットとは?売却・価格の決め方・成功事例を解説
赤字会社のM&Aは、低い買収価格・シナジー効果・繰越欠損金の節税というメリットがある一方、簿外債務・PMIの難しさなど特有のリスクも存在します。買収・売却それぞれのメリット・デメリット・価格の決め方・成功事例をわかりやすく解説します。
赤字会社のM&Aと聞くと「なぜわざわざ赤字の会社を買うのか」と疑問に思う方も多いでしょう。しかし実際には、赤字会社を戦略的に買収して経営を立て直し、大きなリターンを得ている事業者は少なくありません。
赤字会社のM&Aには低い買収価格・シナジー効果・繰越欠損金の節税メリットがある一方で、買収後に損失が拡大するリスクや情報の非対称性など特有のリスクも存在します。
本記事では、赤字会社を買収・売却する双方の視点から、メリット・デメリット・価格の決まり方・成功のポイント・実際の事例まで体系的に解説します。
赤字会社のM&Aとは?なぜ赤字でも売買が成立するのか
赤字会社のM&Aは、業績が振るわない企業の株式や事業を第三者が取得するM&Aです。「赤字=価値がない」と思われがちですが、実際には赤字でも売買が成立するケースは数多くあります。
赤字会社でも買い手がつく理由
赤字会社が買収される理由は主に3つあります。第一に戦略的な価値です。たとえ赤字でも、自社にない技術・顧客・許認可・人材を持っていれば、買い手にとって大きな価値があります。
第二に黒字化の可能性です。一時的な特別損失や構造的な赤字でも、買い手の経営改善・資本投下によって早期に黒字転換できると判断されれば買収対象となります。
第三に低コストでの取得です。黒字会社と比べて買収価格が低く抑えられるため、投資効率の観点から魅力的な案件になることがあります。
赤字の種類によって買収の評価が変わる
赤字会社といっても、その原因はさまざまです。赤字の「質」を見極めることが、赤字会社M&Aの成否を分ける最重要ポイントです。
- 一時的な赤字:特別損失・大規模投資・減価償却費の計上などによる一時的な赤字。本業は黒字で買収価値が高い
- 構造的な赤字:市場縮小・コスト高・競争力低下など根本的な問題を抱える赤字。買収後も改善が難しいケースがある
- キャッシュフロー不足による赤字:損益計算書は黒字でもキャッシュが不足している状態。資金投入で解決できる可能性が高い
損益計算書と貸借対照表・キャッシュフロー計算書を組み合わせて分析し、赤字の本質を見極めることが重要です。
赤字会社を買収するメリット
赤字会社の買収には、通常のM&Aにはない独自のメリットがあります。ただし、いずれのメリットも条件次第で得られないケースがあるため、慎重な見極めが必要です。
自社事業とのシナジー効果が見込める
M&Aにおけるシナジー効果とは、複数の企業・事業の統合によって生まれるプラスの効果のことです。1+1=2にとどまらず、総和をはるかに上回る力が発揮されることを意味します。
赤字会社であっても、自社に取り込むことで販路が拡大できたり、技術やノウハウを生かせたりといったメリットがあれば、買収する意義は大きくなります。「他社に真似できない技術がある」「優良な取引先が多い」「業界トップレベルの人材がいる」という場合は、赤字でも企業価値が上がる可能性は高いでしょう。
買収価格が低く抑えられる
業績が安定している黒字会社と比較すると、負債を抱えた赤字会社は企業価値が低く算定されるため、買収価格も安くなる傾向があります。赤字会社の経営者は、借金から早く解放されたいという思いがあるため、買い手優勢で価格交渉が進むケースが多いでしょう。
赤字続きで純資産額がマイナスになっている企業の場合、「売値はいくらでもいい」というケースもあるほどです。自社のシナジー効果によって経営を立て直せれば、安い買い物といえるでしょう。
繰越欠損金による節税が可能な場合も
赤字の青色申告法人は、一定期間に限り欠損金を翌期以降に繰り越し、翌期以降に発生した所得と相殺することが認められています。そのため、赤字会社を買収したのち黒字化すれば、利益の圧縮によって法人税を抑えることが可能です。
ただし、繰越欠損金を利用するには「休眠会社を買収した後に、新規事業を開始しないこと」「売り手の旧事業を廃止して、旧事業の事業規模の約5倍を超える資金の借入をしないこと」などといったルールが設けられています(法人税法57条2)。単なる節税目的での赤字会社の買収に意味はなく、節税効果はあくまでも副次的なものと考えましょう。
参考:法人税法57条2 | e-Gov法令検索・No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除|国税庁
赤字会社を買収するデメリット・注意点
赤字会社の買収には大きなメリットがある一方で、通常の黒字会社のM&Aより難易度が高く、特有のリスクが伴います。事前にデメリットを正確に把握しておくことが、M&A後の「想定外」を防ぐカギです。
買収後も赤字が続く可能性がある
赤字の原因が構造的な問題(市場の縮小・慢性的なコスト高・競争力の低下)である場合、買収後に資本を投下しても業績が改善しないリスクがあります。「安く買えたとしても、赤字が続けば最終的な損失は拡大する」という点を忘れてはなりません。シナジー効果が発揮されない場合、経営は泥沼状態になる可能性もあります。
財務情報の非対称性リスク
赤字会社では財務管理が不十分で、貸借対照表に記載されていない「簿外債務」(未払い残業代・税金の滞納・保証債務など)が潜んでいるリスクが通常よりも高くなります。買収後に想定外の債務が発覚した場合、経営計画が根底から崩れる可能性があります。デューデリジェンスを徹底しても、すべてのリスクを事前に発見できるとは限らない点に注意が必要です。
PMI(買収後の統合プロセス)の難しさ
赤字会社は経営状況の悪化から、従業員のモチベーション低下や優秀な人材の流出が進んでいるケースがあります。買収後のPMI(Post Merger Integration)において、従業員の心情に配慮しながら経営改革を進める難しさは、黒字会社の買収より格段に高くなります。前経営者に依存した顧客・取引先との関係も、オーナー交代後に離反するリスクがあります。
専門家費用・デューデリジェンスコストがかさむ
赤字会社のM&Aは情報の不確実性が高いため、通常の買収以上に綿密なデューデリジェンスが必要です。公認会計士・弁護士・税理士などの専門家費用は、案件規模に関係なく一定以上かかります。買収価格が安く抑えられても、専門家費用・デューデリジェンス費用・買収後の経営改善コストを合算すると、トータルコストが想定を超えるケースもあります。
赤字会社の買収価格はどう決まるか
買収価格を決めるためには、赤字か黒字かに関係なく企業価値評価(バリュエーション)を行い、算定金額を基に価格交渉を進めます。赤字会社の場合は特に、数字だけでなく無形資産の価値をいかに正確に評価できるかが重要です。
企業価値の主な算定方法
企業価値の主な算定方法は3つあります。
- コスト・アプローチ:貸借対照表の純資産をベースに評価する方法。中小企業のM&Aで最も多く用いられる
- インカム・アプローチ:将来の利益やキャッシュフローを見込んで評価する方法。DCF法など
- マーケット・アプローチ:市場で成立する取引価格をベースに評価する方法
中小企業の場合、コスト・アプローチの一種である時価純資産法が多く用いられます。この方法は純資産の時価総額から負債の時価総額を差し引いて企業の価値を算定するものです。過去の実績に重きが置かれるため、成熟期〜衰退期の企業を評価するのに適しています。
無形資産(のれん)も加味した評価を行う
時価純資産法には「将来見込まれる利益」や「企業が保有する無形資産」が加味されていません。そのため、時価純資産で算出した結果に以下のような無形資産の価値をプラスして価格を調整するのが一般的です。
- 事業の将来性・成長余地
- シナジー効果
- 取引先・顧客基盤
- 優秀な人材
- ノウハウ・技術力・知的財産
- ブランド力・許認可
- 立地・不動産価値
企業の無形資産はのれん(営業権)といい、時価純資産にのれんを加えて株式価格を算出する方法は年買法と呼ばれます。「他社に真似できない技術がある」「優良な取引先が多い」という場合は、赤字でも企業価値が上がる可能性があります。
赤字会社を売却する側の視点
赤字会社のM&Aは買い手だけのものではありません。「赤字でも売却できるのか」「どうすれば高く売れるのか」——売り手(赤字会社のオーナー)の立場から見た視点を整理します。
赤字会社でも売却できる理由
赤字であっても、以下のような要素があれば買い手は見つかります。
- 他社にない技術・特許・許認可:買い手が自力で取得するよりM&Aで取得した方が効率的な場合
- 優良な取引先・顧客基盤:上場企業との取引実績・長期契約顧客は大きな価値になる
- 優秀な人材・専門技術者:採用コストを考えると、人材ごと取得することに価値がある
- 好立地の店舗・物件:場所そのものに価値がある
- ブランド・のれん:長年築いてきた地域での認知度・評判
「赤字だから売れない」ではなく「自社の強みを正確に伝えられるかどうか」が売却成否の分かれ目です。
売却前に行っておくべき準備
赤字会社の売却価格を高めるためには、事前の準備が重要です。
- 財務資料の整理:過去3〜5期分の決算書・損益計算書・貸借対照表を整備しておく。赤字の原因と経緯を明確に説明できるようにしておくことが重要
- 無形資産の見える化:顧客リスト・技術マニュアル・取引先との契約書など、目に見えない資産を文書化する
- 売却理由の明確化:「なぜ今売るのか」を誠実かつ論理的に説明できるように準備する
- 早めに動く:赤字が深刻化する前の「まだ資産価値がある段階」で売却活動を始めることが高値売却につながる
廃業を選択した場合、在庫処分・原状回復費用などで手元にほとんど資金が残らないケースもあります。M&Aによる売却は「廃業よりも価値を残せる出口戦略」として有効です。
事業譲渡と株式譲渡の違い(売り手視点)
赤字会社のM&Aでよく用いられるのが事業譲渡と株式譲渡の2つです。売り手にとっての主な違いは以下の通りです。
| 比較項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 負債の引き継ぎ | 買い手がすべて引き継ぐ | 売り手が引き続き負う |
| 許認可の引き継ぎ | そのまま承継可能 | 買い手が再取得が必要 |
| 手続きの複雑さ | 比較的シンプル | 資産・契約を個別移転 |
赤字で簿外債務のリスクがある場合、買い手は事業譲渡を好む傾向があります。一方で売り手にとっては、負債の一部を切り離せる事業譲渡が有利なケースもあります。どちらが適切かは専門家に相談した上で判断しましょう。
赤字会社の買収を成功させるポイント
赤字会社のM&Aは難易度が高く、判断を誤れば経営の屋台骨が揺らぎかねません。リスクとリターンを洗い出し、買収する価値のある赤字会社をしっかりと見極めましょう。
赤字の原因を徹底的に分析する
赤字会社だからといって、すべてが買収に適していないわけではありません。収益力・キャッシュの流れ・市場環境などを徹底的に調査し、赤字に至った真の原因を探ることが重要です。
損益計算書を精査することで赤字の原因と黒字化の可能性が見えてきます。「特別損失や本業以外の出費で一時的に赤字になっている場合」「損益計算書は黒字なのにキャッシュフローが赤字の場合」は、資金を投入すれば成長が見込めます。他社にはない独自の技術やノウハウがあれば、赤字でも買収する価値はあるといえるでしょう。
デューデリジェンスを徹底する
デューデリジェンスとは、売り手の価値を適正に評価するため、リスクやリターンを事前に調査することです。中小企業の場合、貸借対照表に記載されていない簿外債務が存在する可能性が高く、買収後の思わぬ損失の発生により経営計画が頓挫する恐れがあります。
特に赤字会社の場合は、見えないところに多くの問題を抱えているケースが多いため、公認会計士・弁護士・税理士などの専門家に依頼し、財務・法務・労務・税務のあらゆる側面からリスクを洗い出すことが肝要です。
M&A専門家のサポートを活用する
赤字会社の買収は、経営が健全な企業を買収するよりもはるかにリスクが高いため、M&Aのアドバイザーや専門家のサポートは必須といってよいでしょう。自社の経営陣だけで重要事項を決定すると、専門知識や経験の不足から誤った判断を下しかねません。
M&Aのアドバイザーや専門家には、それぞれに得意な分野や会社の規模があります。過去の実績を確認しながら、自社のM&Aにふさわしい担当者を慎重に選ぶことが重要です。TRANBIでもM&Aの専門家一覧を紹介しています。
事業承継・M&A専門家のご紹介|トランビ 【M&Aプラットフォーム】
赤字会社の買収事例
TRANBIの成約案件の中から、赤字会社を買収した事例を2つ紹介します。どのような判断で赤字会社を買収し、成功につなげたのでしょうか。
赤字のそば屋を業界未経験者が買収
飲食業界未経験者の買い手が目を付けたのは、銀座で30年続く老舗そば屋です。当初は「黒字経営で後継者が不在」と聞いていたものの、契約締結後に赤字が発覚し、M&Aを取りやめる選択も考えたそうです。
それでもM&Aを取りやめなかったのは、「買収する価値がある」と感じられる魅力があったためです。立地が銀座という一等地であることに加え、プロ意識の高い従業員をそのまま引き継げる点が決め手となりました。顧問税理士に過去の売上実績を確認してもらい、「売上も利益率も悪くない」というお墨付きをもらったことも決断につながったようです。
連続赤字の清掃事業者が事業承継へ
連続赤字で廃業を覚悟していた清掃事業者が、3カ月ほどで事業承継に成功した事例があります。直近3期はほぼ赤字で債務超過に近い状態でしたが、売却が成功したのは銀行からの借入がなかった点に加え、主要取引先のうち1社が大企業だったためです。
「上場食品メーカーの定期清掃を請け負う清掃事業者」とアピールしたことで短期間で理想の買い手と出会えたように、自社の強みを正確に言語化し、買い手に伝えることの重要性を示す事例です。
赤字会社のM&Aに関するよくある質問(FAQ)
赤字会社のM&Aについてよくいただく疑問をQ&A形式でまとめました。
赤字会社を買収するメリットは何ですか?
主なメリットは3つあります。①買収価格が安く抑えられる(黒字会社より企業価値が低く算定されるため)、②自社事業とのシナジー効果が得られる(技術・顧客・許認可などを低コストで取得できる)、③繰越欠損金による節税効果(黒字化後の法人税を抑えられる可能性がある)です。ただしいずれも条件次第であり、慎重な見極めが必要です。
赤字会社を買収するデメリット・リスクは何ですか?
主なデメリットは4つあります。①買収後も赤字が続くリスク(構造的な問題は経営改善しても改善しにくい)、②簿外債務などの隠れた負債(財務管理が不十分な中小企業に多い)、③PMI(買収後統合)の難しさ(従業員・取引先のモチベーション低下・離反リスク)、④専門家費用・デューデリジェンスコストのかさみです。
赤字会社の買収価格はどう決まりますか?
基本的には時価純資産法(純資産の時価総額から負債の時価総額を差し引く)で算定した上で、技術力・顧客基盤・人材・ブランドなどの無形資産(のれん)を加味した「年買法」で価格を調整します。赤字会社であっても、優良な無形資産があれば評価額が上がるケースがあります。
赤字会社でも売却できますか?
はい、赤字会社でもM&Aによる売却は可能です。他社にない技術・許認可・優良な取引先・人材・立地など、買い手にとって価値ある資産があれば買い手は見つかります。重要なのは「自社の強みを正確に言語化し、買い手に伝えること」と「業績が深刻化する前に早めに動くこと」です。
赤字会社のM&Aは事業譲渡と株式譲渡のどちらが多いですか?
赤字会社のM&Aでは、買い手が簿外債務を引き継ぐリスクを避けるために事業譲渡が好まれるケースが多いです。ただし許認可の再取得が必要など手続きが複雑になるため、案件の内容・債務の状況・許認可の重要性を総合的に判断して選択します。専門家に相談した上で最適なスキームを選ぶことをおすすめします。
まとめ
赤字会社のM&Aは、適切に進めれば買い手・売り手双方にとって合理的な選択肢になります。本記事のポイントは以下の通りです。
- 赤字会社でも「技術・顧客・許認可・人材・立地」などの無形資産があれば売買が成立する
- メリットは「低い買収価格」「シナジー効果」「繰越欠損金の節税」の3点。いずれも条件次第
- デメリットは「赤字継続リスク」「簿外債務リスク」「PMIの難しさ」「専門家費用のかさみ」
- 買収価格は時価純資産+のれん(無形資産)で算定する年買法が中小企業のM&Aでは一般的
- 売り手も「廃業より価値を残せる出口戦略」としてM&Aを活用できる。早めに動くことが重要
- 赤字会社のM&Aは難易度が高いため、専門家(公認会計士・弁護士・M&Aアドバイザー)のサポートが必須
赤字会社のM&Aは、アドバイザーの良しあしが成否を左右するといっても過言ではありません。信頼できるプロの協力を仰ぎ、企業価値評価とデューデリジェンスを慎重に進め、真の価値を見極めましょう。
