赤字会社を買収するメリットと注意点。価格の決め方や成功例も解説

赤字会社を買収するメリットと注意点。価格の決め方や成功例も解説

企業買収は黒字会社が対象になるのが一般的ですが、赤字会社が買収されるケースも珍しくありません。赤字の要因はさまざまで、資源さえ投下すれば黒字に成長する企業もあります。成功事例とともに、赤字会社を買収する際のポイントを解説します。

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赤字会社の買収にメリットはある?

赤字会社を買収することには一見、価値がないように思えます。しかし実際は、債務超過であるにもかかわらず、赤字会社の買収を検討する企業があるのも事実です。どのような目的やメリットがあるのでしょうか?

自社事業とのシナジー効果が見込める

赤字会社に限ったことではありませんが、売り手の事業によっては、買い手の自社事業とのシナジー効果が見込めるケースがあります。

M&Aにおけるシナジー効果とは、複数の企業・事業の統合によって生まれるプラスの効果のことです。1+1=2にとどまらず、総和をはるかに上回る力が発揮されることを意味します。

売り手が赤字であっても、自社に取り込むことで販路が拡大できたり、技術やノウハウを生かせたりといったメリットがあれば、買収する意義は大きいでしょう。

買い手は自社分析を徹底した上で、どのような企業を買収すれば高いシナジー効果が見込めるのかを明確にする必要があります。

買収価格が低く抑えられる

赤字会社を買収するメリットとして、買収価格が低く抑えられる点が挙げられます。例外もありますが、業績が安定している黒字会社と比較すると、負債を抱えた赤字会社は企業価値が低く算定されるため、買収価格も安くなる傾向があります。

加えて、赤字会社の経営者は、借金から早く解放されたいという思いがあるため、買い手優勢で価格交渉が進むケースが多いでしょう。

赤字続きで純資産額がマイナスになっている企業の場合、『売値はいくらでもいい』というケースもあるほどです。自社の事業とのシナジー効果によって経営を立て直せれば、安い買い物といえるでしょう。

ただし、いくら安いからといって、赤字会社の安易な買収は禁物です。シナジー効果が発揮されないと業績が思うように伸びず、経営は泥沼状態になります。

繰越欠損金による節税が可能な場合も

所得が赤字の青色申告法人は、一定期間に限り、欠損金を翌期以降に繰り越し、翌期以降に発生した所得と相殺することが認められています。そのため、赤字会社を買収したのち黒字化すれば、利益の圧縮によって法人税を抑えることが可能です。

ただし、繰越欠損金を利用するには『休眠会社を買収した後に、新規事業を開始しないこと』『売り手の旧事業を廃止して、旧事業の事業規模の約5倍を超える資金の借入をしないこと』などといったルールが設けられています(法人税法57条2)。

単なる節税目的で赤字会社を買収することに意味はなく、売り手の事業を継続し、かつ全体として黒字化した場合に繰越欠損金の恩恵が受けられるといえます。節税効果はあくまでも副次的なものと考えましょう。

参考:法人税法57条2 | e-Gov法令検索

No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除|国税庁

赤字会社の買収価格はどう決める?

買収価格を決めるためには、売り手の企業価値がどのくらいあるかを見極めなければなりません。そこで、赤字か黒字かに関係なく『企業価値評価(バリュエーション)』を行い、算定金額を基に価格交渉を進めます。

企業価値の主な算定方法

企業価値の主な算定方法は三つあり、それぞれのアプローチはさらに細分化されます。

  • コスト・アプローチ:貸借対照表の純資産をベースに評価する方法
  • インカム・アプローチ:将来の利益やキャッシュ・フローを見込んで評価する方法
  • マーケット・アプローチ:市場で成立する取引価格をベースに評価する方法

中小企業の場合、コスト・アプローチの一種である『時価純資産法』が多く用いられます。この方法は、純資産の時価総額から負債の時価総額を差し引いて企業の価値を算定する方法です。

過去の実績に重きが置かれるため、創業間もないスタートアップ企業よりも、成熟期~衰退期の企業を評価するのに適しています。

買収で得られる無形財産も考慮する

時価純資産価額法には『将来見込まれる利益』や『企業が保有する無形財産』が加味されていません。そこで、時価純資産価額法で算出した結果に、以下のような無形財産の価値をプラスして価格の調整を行うのが一般的です。

  • 事業の将来性
  • シナジー効果
  • 取引先・顧客
  • 人材
  • ノウハウ・技術力・知的財産
  • ブランド力
  • 立地

企業の無形資産はのれん(営業権)といい、時価純資産にのれんを加えて株式の価格を算出する方法は『年倍法(年買法)』と呼ばれます。

『他社に真似できない技術がある』『優良な取引先が多い』『業界トップレベルの人材がいる』という場合は、赤字でも企業価値が上がる可能性は高いでしょう。

企業価値評価の方法は以下のコラムでも詳しく解説しています。

企業価値はどのように評価する?企業価値を決める要因と評価方法
手法
企業価値はどのように評価する?企業価値を決める要因と評価方法

企業価値とは、企業の経済的価値を金額で表したものです。上場企業は株式時価総額が明確に算出できますが、非上場企業の場合どのように価値が決まるのでしょうか?投資やM&Aにおける企業価値評価の重要性や、代表的な評価方法を解説します。

買収を成功させるポイントと注意点

国内には赤字会社を買収し、本業とのシナジー効果を発揮させている企業が数多くあります。一方で、赤字会社のM&Aは難易度が高く、判断を誤れば経営の屋台骨が揺らぎかねません。

リスクやリターンを洗い出し、買収する価値のある赤字会社をしっかりと見極めましょう。

赤字の原因を明らかにする

赤字会社だからといって、全てが買収に適していないとは言い切れません。収益力やキャッシュの流れ、市場環境などを徹底的に調査し、赤字に至った原因を探ることが重要です。

損益計算書は企業の1年間の成績を表すものです。大きくは、収益・費用・利益の三つの要素で構成されており、『どれだけ売上があるのか』『費用をどこに使っているのか』『もうけはどのくらいか』が分かります。数値を精査することで、赤字の原因と黒字化の可能性が見えてくるでしょう。

企業によっては、特別損失や本業以外の出費で一時的に赤字になっている場合もあります。『災害による損失がある』『減価償却費が多い』『含み損の資産がある』という場合、本業は黒字でも財務会計上は赤字になるケースがあるようです。

また、『損益計算書は黒字なのに、キャッシュ・フローは赤字』という企業は手持ちの現金が不足している状況なので、資金を投入すれば成長が見込めます。他社にはない独自の技術やノウハウがあれば、赤字でも買収する価値はあるといえるでしょう。

デュー・デリジェンスを実施する

デュー・デリジェンスとは、売り手の価値を適正に評価するため、リスクやリターンを事前に調査することです。

中小企業の場合、貸借対照表に記載されていない『簿外債務』が存在する可能性が高く、買収後の思わぬ損失の発生により経営計画が頓挫する恐れがあります。

特に赤字会社の場合は、見えないところに多くの問題を抱えているケースが多いため、公認会計士や弁護士、税理士などの専門家に依頼し、リスクや課題の洗い出しを徹底することが肝要です。

デュー・デリジェンスの進め方やポイントは、以下のコラムをご覧ください。

M&AにおけるDDとは何か?買収監査の手順、種類、注意点を解説
用語説明
M&AにおけるDDとは何か?買収監査の手順、種類、注意点を解説

『DD』とは、M&Aにおける買収監査を指します。買い手は最終決定を下す前に、買収対象会社が重大なリスクや問題を抱えていないかを調査する必要があるでしょう。DDの手順や、問題が発覚した際の対処法についても解説します。

M&A専門家のサポートを受ける

赤字会社の買収は、経営が健全な企業を買収するよりもはるかにリスクが高いため、M&Aのアドバイザーや専門家のサポートは必須といってよいでしょう。自社の経営陣だけで重要事項を決定すると、専門知識や経験の不足から誤った判断を下しかねません。

M&Aのアドバイザーや専門家には、それぞれに得意な分野や会社の規模があります。過去の実績を確認しながら、自社のM&Aにふさわしい担当者を慎重に選ぶことが重要です。

事業承継・M&Aのプラットフォーム『TRANBI(トランビ)』でも、M&Aの専門家一覧を紹介しています。ぜひご活用ください。

事業承継・M&A専門家のご紹介|トランビ 【M&Aプラットフォーム】

赤字会社の買収事例を紹介

TRANBIは、M&Aに挑戦したい個人や中小企業を応援するM&Aプラットフォームです。TRANBIの成約案件の中から、赤字会社を買収した事例を紹介します。買収の決め手になったのは、どのようなポイントだったのでしょうか?

赤字のそば屋を業界未経験者が買収

飲食業界未経験者の買い手が目を付けたのは、銀座で30年続く老舗そば屋です。当初は『黒字経営で、後継者が不在』と聞いていたものの、契約締結後に赤字が発覚、M&Aを取りやめる選択も考えたそうです。

赤字が出ていたのはコロナ禍の直近2年間で、仲介会社の担当者が売上資料の開示を渋ったのが発覚の遅れにつながりました。赤字でありながらもM&Aを取りやめなかったのは、『買収する価値がある』と感じられる魅力があったためです。

飲食業界未経験者がゼロから店を立ち上げるとなると、多くの時間と労力が費やされます。立地が銀座という一等地だったことに加え、プロ意識の高い従業員をそのまま引き継げる点が決め手となりました。

顧問税理士に過去の売上実績を確認してもらい、『売上も利益率も悪くはない』というお墨付きをもらったことも決断につながったようです。

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ハウスメーカーで20年勤めた後、会社を立ち上げ、株式投資やファンド投資で安定的な収益を上げていた株式会社ガーデンクォーツの中郡一博さん。M&Aに興味を持ち、TRANBIで案件を探し始めます。

連続赤字の清掃事業者が事業承継へ

連続赤字で廃業を覚悟していた清掃事業者が、3カ月ほどで事業承継に成功した事例があります。清掃事業者Aは、ビルやマンションなどのクリーニング業を50年ほど続けてきましたが、直近3期はほぼ赤字で債務超過に近い状態に陥っていました。

売却が成功したのは、銀行からの借入がなかった点に加え、主要取引先のうち1社が大企業だったためです。売り手が持つ目に見えない資産の価値が高く評価されたといえるでしょう。

実際、売り手は『上場食品メーカーの定期清掃を請負う清掃事業者』とアピールしたことで、短期間で理想の買い手と出会えたようです。

継続赤字で廃業目前の老舗清掃事業者が無事に事業承継へ。会社を救った大きな“強み”とは?
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ビルやマンション、工場の清掃を手掛ける創業50年の清掃事業者Aは、経営者の高齢化や後継者の不在、売上の減少などを理由に廃業を検討していました。しかし、顧問税理士経由で相談を受けたM&Aコンサルタントが「売却は可能」と判断し、M&Aに挑戦。同じく都内にある、清掃ビルメンテナンス事業者への株式譲渡が成立しました。

まとめ

赤字会社の買収には、『買収コストを抑えられる』『節税が期待できる』などといったメリットがあります。経営が健全な企業を買収するよりも価格が低く抑えられるのは事実ですが、戦略を立てずにM&Aを進めれば損失が拡大するのは明らかです。

赤字会社のM&Aは、アドバイザーの良しあしが成否を左右するといっても過言ではありません。信頼できるプロの協力を仰ぎ、企業価値評価やデュー・デリジェンスを慎重に進め、真の価値を見極めましょう。

記事監修:小木曽公認会計士事務所 小木曽正人(公認会計士、税理士)
【プロフィール】
1999年公認会計士2次試験合格後、大手監査法人にて法定監査、IPO支援等に従事したのち、2004年より東京と名古屋にてM&A専門チームの主力メンバーとして100件以上のM&A案件に従事。2014年12月に独立開業し、M&A、事業承継、株価評価といった特殊案件のみを取り扱った会計事務所を展開している。