2022-04-12

飲食未経験で、銀座の老舗蕎麦屋をM&A!契約締結後に大赤字発覚のトラブルも、「大満足」の理由とは

買い手(法人):株式会社ガーデンクォーツ

<中小企業の多角化を目指したM&A・買収事例>

 

ハウスメーカーで20年勤めた後、会社を立ち上げ、株式投資やファンド投資で安定的な収益を上げていた株式会社ガーデンクォーツの中郡一博さん。M&Aに興味を持ち、TRANBIで案件を探し始めます。

目を付けたのは、経験のない飲食業。黒字ながら後継者不在に悩む飲食業の売り案件を探す中で、銀座で30年続く老舗蕎麦屋「多吉」の売り案件に出会い、M&Aを決意しました。

継続して働いてくれる従業員との面談も良好な雰囲気で実施でき、トントン拍子で進んでいた交渉ですが、最終局面で直近の赤字が発覚したり、ビルオーナーとの交渉に苦戦したりと、想定外の事態にも見舞われました。

それでも「今回のM&Aには大満足しています」と語るほど、確かな手応えを感じている中郡さん。彼が老舗蕎麦屋に惹かれた理由や、交渉に臨む上でのポイント、そして現状維持にとどまらない店のビジョンやM&A構想について、お話を伺いました。



(銀座そば店「多吉」で提供しているメニュー)

【流行に振り回されない、安定的なビジネスとして目を付けた『銀座の老舗蕎麦屋』】

- まずは、中郡様のキャリアとM&Aについて教えてください。
もともとは、大手住宅メーカーで20年ほど営業として働いていました。独立願望はもともとあって、住宅営業で税金面や法律面など多岐にわたる知識やノウハウを得られたこと、個人で行っていた株式投資で資金ができたこともあり、独立を決めました。

独立後は、不動産のコンサルティングや株式など投資ビジネスを手掛けています。とある経営者の方と知り合って一緒にビジネスを行う中で、「M&Aが面白そうだ」という話になりました。

情報収集をする中でTRANBIに出会い、案件を見ていると、黒字経営でお客様が付いているにもかかわらず、「高齢で後継者が不在だから」という理由で事業を売りたい方が多くいると知りました。こうした案件に絞って、M&Aを検討してみることにしたのです。

- 今回買収された、銀座エリアの蕎麦屋に興味を持ったのはなぜですか?
まず、先ほどお話したように、黒字経営でかつ「高齢で後継者が不在だから」という条件に合致していたためです。従業員の方をイチから探すとなると大変なので、スタッフの引き継ぎができる点も魅力的でした。

また、お蕎麦屋さんは原価がわりと低くて売上が安定しており、利益率が高いイメージがありました。売上が大きく跳ねることこそないけれど、ぐっと下がってしまうイメージもなかったので、安定性に惹かれました

- 未経験で飲食業に飛び込むのは一見難しそうで、ECビジネスなどの方が取り掛かりやすそうにも思いますが、別の事業には目を向けなかったのですか。
ECサイトを含めた他のジャンルの案件も、最初は検討していました。ただ、流行りに乗った案件を買ってしまうと、一過性で終わってしまう怖さも感じました。流行の物に手を出すのはリスクが大きいし、まだお客様が付いていないビジネスも集客に苦労しそうだと思ったのです。

そうした理由もあって、安定して売上を挙げてきた実績があり、地域で知名度があって、常連さんが付いているようなビジネスがいいなと思い、飲食店に絞り込んでいったのです。蕎麦屋以外に、町中華のお店も検討していました。

今回買収したのは、銀座周辺で30年以上続くお蕎麦屋さんです。庶民派のお店で、昼どきはサラリーマンでにぎわっており、自転車やバイクで運ぶ昔ながらの出前にも対応しています。



(銀座そば店「多吉」で提供している食事)

【契約締結後に直近の赤字が判明!再度、妥協できる金額感を交渉】

- 社員の方が2名、アルバイトの方を4名引き継ぐ形だったようですが、それだけの雇用を抱えるプレッシャーはありませんでしたか。
不安に関しては、もちろんゼロではありません。ただ、売上を維持できれば、従業員の方の給料は十分確保できるだろうと思っていたのでそこまで心配はしていませんでした。

よかったのは、仲介会社の方が「譲渡契約が終わったものの、従業員が付いてこなかったということがあってはいけませんし、どういった方が働いているのかがわからないままだと不安だと思うので」と、譲渡契約前に従業員の方との面談の場をセッティングしてくださったことです。

面談では、給与を提示した上でいろいろなお話を伺ったのですが、社員の方のプロ意識がとても高いことに驚きました。40代後半の男性と50代前半の男性ですが、20年以上お店で働かれていて、蕎麦を含めたメニューのレシピは、すでに引退される前オーナー様から引き継がれていました。

彼らと話す中で、今後解決していくべき課題も見えてきました。1つは決済手段です。前オーナー様はザ・昭和の蕎麦打ち職人というタイプの方で年齢も70代だったことから、決済手段は現金のみでした。

「現金しか対応してないなら、いいです」と入店を辞めるお客様もいたようですが、社員の方が前オーナーにカードやキャッシュレス決済を提案しても、導入に踏み切れなかったようで。「決済手段を増やせば、もっと売上が上がるかもしれない」という意見をくれました。

社員の方もアルバイトの方も、皆素敵な方ばかりで。すごく良い雰囲気のお店だと感じましたし、彼らになら安心してお店を任せられると思いました。

- 交渉過程で印象的だったことはありますか。
譲渡金額の交渉です。面談を重ねて、店の現状を確認する中で、一部古い設備があることがわかりました。従業員の方も、「だましだまし使っているので、そろそろ買い替えてほしいです」とおっしゃっていたため、当初先方が提示されていた譲渡希望金額から、設備投資額を引いた金額で着地していました。

ただ、1つ困ったことがあって。3年ほど前までの売上データは開示していただいていたのですが、こちらが何度か催促しても、仲介会社の方がなかなかコロナ禍の直近2年間の売上資料を提出してくれなかったのです。

こちらとしても、コロナ禍で一定売上が落ちたことは想定していましたし、すでに従業員の方との面談も終えていたので買う気になってはいました。直近2年間の売上資料に関しては判断材料から外して譲渡契約を締結したのです。

すると、契約締結後にようやく資料を開示いただけるとのことで確認すると、コロナ関連の助成金を含めるとなんとか黒字であるものの、助成金を除くと数百万の赤字という状況で驚きました。後出しじゃんけんをされたようで気持ちの面でもすっきりしなかったため、共同経営者と「話が違うから、取り辞めようか」と相談もしました。

ただ、前オーナーさんや従業員の方とたくさんお話をして、すでにいい関係性が築けていたし、魅力的な案件ではあったので、一度決定した譲渡金額のうち今回判明した赤字分を引いてもらうことで折り合いを付けました

最後の確認段階で、夏場に使用する麺を冷やすための機械が壊れていたり、換気扇が壊れかけだったりといったこともわかったため、そうした機器代を折半しました。

ただ、あまりにも交渉で価格を下げ過ぎるとそれはそれで先方のプライドを傷つけることにもなるので、最後はいろいろなバランスを踏まえて譲渡金額を決めました。



(銀座そば店「多吉」の店前)

【収支バランスを競合と比較、顧問税理士からもお墨付き】

- 終盤までいろいろと大変だったのですね。ちなみに、直近2年間の赤字が判明する前に一度決定していた金額は、何を元に妥当であると判断しましたか。
TRANBIに掲載されている、他の類似物件の条件と照らし合わせながら妥当性を確認しました。

今回は立地が銀座であること、老舗蕎麦屋であること、なおかつ従業員の方も引き続き働いてくれる案件でしたが、他の売り案件は居抜きに近いものや従業員引き継ぎ不可のものも多くありました。そうした他の案件と比べた時に、十分妥当性があり、魅力的な金額だと判断しました。

また、顧問税理士に過去の売上実績を送って、確認してもらいました。世間一般のうどん屋や蕎麦屋の平均的な売上資料も取り寄せて比較をしてくれたみたいですが、「原価はもう少し下げられる余地がありそうだけど、売上も利益率も悪くないですよ」と経営自体についてはお墨付きをもらったので、安心しました。

【常連に愛される味と雰囲気を守りつつ、キッチンカーなど新たな取り組みにも挑戦】

- 現在のフェーズについて教えてください。
2月1日から、経営権を引き継いで営業を行っています。私はお店にたまに顔を出して様子を見る程度で、お店の切り盛りは社員の方とアルバイトの方に任せています。

味はもちろん変わっていません。また、アルバイトの熟練女性スタッフたちが手際も愛想も良くて、スタッフに会うために店に訪れるお客様もいるほどなので、お店の雰囲気もいつもと変わりません。2月の売上は前年比プラスだったので、いつもの味と接客を求めて、常連さんを中心にたくさんのお客様に来店していただいています。

実は、前オーナーさんが引退される日に、店にお邪魔させていただいたんです。すると、次々に常連さんがやってきて、「さみしくなるね」と声を掛けられていて。その光景を見て、思わずうるっとしてしまうと同時に、味を変えたり派手に改装したりはせず、これからもお店を守っていかなければという気持ちが強まりました。

- 引き継いでみて、想定外だったことはありますか。
困ったことというわけではありませんが、とにかく現金主義なことに驚きました。従業員の給料も現金払いだったんです。「はい、今月の給料ね」と手渡す昔ながらのスタイルだったようで。

もう1つ驚いたのが、仕入れ先の数の多さです。普通は、1社もしくは数社からまとめて食材を仕入れますよね。けれど、そば粉はここから、ネギはここから、鴨肉はここからというように仕入れ先が分かれていて、計30社ほどから仕入れていたんです。

まとめて仕入れた方が原価も下がるので、見直しの余地はあると思っていて。一気に減らすつもりはありませんが、「半数ほどに絞れないか?」といった観点から精査していきたいと考えています。



(銀座そば店「多吉」の店内の様子)

 

- 今後新しく挑戦していくことはありますか。
もともと出前には対応していますが、Uber eatsの利用を始めようと思っています。そして、昼時にビジネス街で、かつ丼や天丼をキッチンカーで販売しようと検討しています。せっかく銀座にお店を構えているので、立地を生かしていろんな挑戦をして売上を伸ばしたいです。

今回、銀座のお蕎麦屋さんをM&Aできたことで、銀座周辺での新しい繋がりが生まれたり、今後他のお店とコラボレーションできそうな構想も出てきたりと、新しい動きが生まれ始めています。お蕎麦屋さんだけで稼ぐモデルを作ろうとは思っていないため、ある程度黒字であれば問題ないです。こうしたコネクションや次の挑戦への足がかりができただけでも、M&Aの価値は十分にあったと感じています。

今回のM&Aを機にこの新会社を立ち上げたのですが、M&Aビジネスで飲食に特化した会社にしたいと考えています。今後も2店舗目、3店舗目とM&Aを進めていきたいです。

- タフな交渉もあったようですが、M&Aを振り返ってみていかがでしたか。
大満足しています。金額交渉の面ではいろいろと苦労もありましたし、すべてのプロセスで気持ち良く交渉ができたわけではありませんが、もし赤字がかなり早い段階でわかっていたら違う判断をしていたかもしれませんが、結果的にはとてもいいM&Aができたと感じています。

この前も、用事があって飲食業向けの問屋街である合羽橋に足を運んだのですが、椅子やテーブルが数万円単位で売られていて。「もしイチから全部揃えなければならない場合は、ものすごい金額になるな…」と想像しただけで恐ろしかったので、引き継げるのはありがたいなと思いました。

- TRANBIを利用してみて、いかがでしたか。
オールジャンルで案件情報が届く点はよかったです。また、TRANBIの料金体系が素晴らしいと思いました。

M&Aのマッチングサイトは、成約時に「成約金額の●%」を成約手数料として取られるのが一般的です。しかし、TRANBIは月額プランであるため、成約手数料が一切掛からなかったのは大きいです。「本当に支払わなくていいの?」と思うほど(笑)、買い手としてはありがたかったですし、大きな金額のM&Aにも挑戦しやすいと思いました。

- M&Aを考えている人に、アドバイスをいただけますか。
飲食店を開業するにしても、新しいビジネスを始めるにしても、全部イチから自分でやろうとすると、大変なお金と時間が掛かってしまいます。だからこそ、時間やノウハウを買えて、場合によっては技術を持った従業員も引き継ぐことができるM&Aをおすすめします。

特に、従業員を引き継ぐことができる点は、とてもメリットが大きいと思っています。飲食店の場合、お店の切り盛りを任せられる方を採用するのはとても大変だからです。

TRANBIで売り案件を見ると、100~200万円の価格感の案件や、後継者不在でお困りの案件もたくさん掲載されています。「たくさんのお金をつぎ込んで新規でビジネスを始めなければ!」と気張らずに、まずは数百万円でM&Aを行って、既存のリソースを生かしつつ、改善しながらビジネスを伸ばしていけばいいのではと思います。

*****今回株式会社ガーデンクォーツさまが買収した案件はこちら*****

「【黒字】銀座周辺 そば屋」

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  • 倉本祐美加
  • ライター紹介倉本祐美加

    関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。

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