2021-11-30

前払いビジネスの買収は要注意!事業譲渡で見落としがちな”隠れ債務”とは?

買い手(法人):M&A仲介会社(匿名)

<中小企業の新規事業立ち上げを目指したM&A・買収事例>

 

これまで数々のM&Aをサポートしてきた、愛知県に本社を置くM&A仲介会社・A社。「実業を経験することで、クライアントにとってより有益な経営アドバイスができる存在になりたい」という思いから、実業に乗り出すことを決めます。

さまざまな事業の中から、A社が選んだのはエステサロンの経営でした。TRANBIで理想的な案件に巡り合えたため、これまでの交渉ノウハウを生かしてM&Aを実行。しかし、デューデリジェンス(対象の価値やリスクなどの調査)を進める中で想定以上のデメリットが見つかります

それでもあえて買収を決断した理由、右肩下がりの事業を改革すべく今後予定している改善策について、お話を伺いました。

【クライアントへの説得力を高めるべく、実業に挑戦】

- まずはM&Aに踏み切った理由から教えてください。
当社はM&Aの仲介会社として、これまで多くのM&Aを支援してきました。クロージング率の高さには自信を持っていますが、一方で私自身に実業の経験が無いため、引き継ぎ後の経営のアドバイスなどはなかなかできなくて

もどかしさも感じていたので、自身で実業を経験することでクライアントにより有益なアドバイスができるようになりたいという思いから、今回M&Aを行い、新しく事業を始めることにしました。

- 今回購入されたのは、名古屋の小さなエステサロンですが、なぜエステサロンを選んだのですか?
一番の理由は、エステサロンの経営に長けた知り合いの女性経営者に、2~3年前から「コンサルティング支援はするから、エステサロンを開かないか」と誘われていたからです。最初は新規出店を考えていましたが、出店候補地を見つけて、機械を導入して、人を集めて…といった工程をすべて自分で行うのは大変で、あきらめかけていたのです。

新規でエステサロンの開業を考え始めていた頃に、TRANBIを眺めていたら良い案件を見つけて。すぐに交渉に入りました。



(※写真はイメージです)

【隠れ債務に気を付けよ!高額回数券販売のビジネスにある落とし穴】

- 今回購入した案件は、どんなところが魅力的でしたか。
まずは、立地が良くて駐車場が付いているところです。最寄り駅から徒歩ですぐの場所にありながら、3台分の駐車場があって。名古屋は車社会で、市内に住んでいる方も車で移動するケースが多く、どれだけ街中や駅近に立地していても駐車場は必要なんです。もし無ければ新たに借りなければならないと思っていたため、駐車場付きで助かりました。

また、ホットペッパーの口コミが好評で、潜在顧客もあわせると新規サービスを提供することで新たに一定数の集客ができるのではと考えました。

- 売り手様の譲渡希望金額は200万円でしたが、これは予算内でしたか?
新規出店に比べると圧倒的に低い金額なので、購入後に新たな投資を行うことを見越しても安いと感じました。

ただ、過去のM&A仲介の経験などを踏まえて、最初から“隠れ債務”があるとも踏んでいたんです。エステサロンは、お客さんに高額な回数券を販売しますよね。すると、お金はすでに貰っているものの、十数回分の施術を今後続けなければいけなくて。これは“隠れ債務”と呼ぶことができ、どの程度あるかによって譲渡金額も交渉可能だと思っていました。

- 売り手様との交渉にあたって、どんなことに気を付けましたか。
まずは、隠れ債務をしっかり確認すること。もう一つは、従業員の方が事業譲渡後もそのまま働き続けてくれるための同意を得ることです。

今回のエステサロンは、店舗開業時からいる店長とパート2名と合わせた計3名の体制だったのですが、店舗運営を任せる以上、もし店長さんに辞められたらビジネスができませんよね。

だから、交渉過程で店長さんと面談して、こちらのコンセプトや考えに共感してもらった上で、「働き続けたい」という意思表明をしていただくことは絶対に欠かせないと捉えていたんです。

結果的に、買い申し込みをして面談を行い、「買います」と表明して基本合意書を締結するまでは1~2週間とかなりのスピード感でしたが、隠れ債務の確認や店長さんとの面談、契約書の作成などで結果として2カ月ほどを費やしました。

- 隠れ債務はどのように確認したのですか。
個人事業ではよくある話なのですが、オーナー様もいくら隠れ債務があるのか把握できておらず、店長さんに聞いても「わからない」とのことだったので、「1日だけカルテを貸してください」とお願いして、カルテを一通り見て拾いました。想像以上の隠れ債務がありましたね。

- 隠れ債務やこうしたビジネスモデルを知って、エステサロンを買うことを辞めようとは思わなかったのですか。
むしろ、「変えられる余地がたくさんあるし、これらを変えることで売上を上げられるのではないか」という希望も見えました。

逆に、すべてをきっちり完璧にやった上で儲かっていないビジネスだった方が、「これ以上新たにできることはないかも」と思って手を出しづらいのではないでしょうか。女性経営者からコンサルティングを受けつつ経営戦略を正していけば、利益を上げられる体質に変えられるのではと感じたんです。

具体的には、脱毛はシュリンクさせて、痩身やボディトリートメントに力を入れようと決めました。また、高額な回数券を売るのもやめる方針です。

こうした方針は、店長さんとの面談でもお話させていただいて。店長さんも脱毛で大手サロンに対抗することに限界を感じていたようですし、「3~4人のお客様に対応しても収入がゼロ」の日があることに虚しさを感じていて、私の考えに共感してくれました。

一方、債務はありながらも、しっかりした顧客基盤はすでに築くことができていて。定期的に来店するお客様がいるということは、今後増やしていく新しいメニューを店頭で直接おすすめできる機会があるということで。チラシやメールでお知らせするよりも、よく知っているスタッフから直接案内された方が、お客様が興味を持ってくれる確率も高くなりますよね。

だから、債務を引き継いでも、潜在顧客も引き継げることになるため新規顧客獲得コストを下げられるメリットにもなると感じました。そう捉えると、債務は実際の半分ほどに感じましたね。



(※写真はイメージです)

【最終譲渡金額はゼロ円に!経営悪化を長引かせないため猛スピードで契約】

- 最終的に譲渡金額はいくらになりましたか?どんな交渉過程があったのですか。
想像以上に隠れ債務があったので、最終的には0円でオファーを行いました。もともと「隠れ債務を調べて、最終的な金額を決めさせてほしい」と伝えていたこと、売り手様自身も事業継続に限界を感じていたことから、スムーズに譲渡が決まりました。

これは、私も普段M&A仲介をする際に買い手さんにアドバイスをしていることなのですが、買い手側は「この金額の幅でしか買わない、これ以上の金額なら辞める」というラインをしっかり持っておく必要があります。事前に決めておかないと、相手にずるずると交渉の主導権を渡してしまいますから。

もう1つ、譲渡金額0円でも売り手に納得してもらえた理由に、私が店舗のビジョンを明確に伝えたことがあると思います。実際に店舗に出向き、「事業譲渡後は、こことここを変えて、こうした方針でやっていく予定です」としっかりプランを伝えたため、本気度が伝わり、信頼していただけたんだと思うんです。

- 交渉過程で一番ハードだったのはどこですか?
M&Aの交渉には慣れているので特に苦労はしていません。ただ、できるだけ早く契約を締結するために慌ただしくはしていました。8月末に買うか9月末に買うか悩んでいて、9月末に設定していたら余裕を持って進められたんですが、8月末締結を目指したので。

というのも、じり貧になっている状態をこれ以上伸ばすと後に響くため、早く買いたかったからです。それに、コンサルタントによる従業員への研修プログラムも9月からスタートする予定だったので、契約書の作成などに急いで取り組みました。

契約書は弁護士に作ってもらいましたが、特別な条項などは入れていません。物件や駐車場の賃貸借契約など、「何を引き継ぐか」を明示したくらいです。こちらで作成した契約書をベースに、売り手様に確認いただいて締結しました。

- 今後はどのような戦略の元にビジネスを行っていくのですか。
まずはメニューや料金体系を見直します。脱毛から痩身・ボディトリートメントにシフトを行い、お客様から要望いただかない限りは回数券の案内をやめます。代わりに、定額の月額料金を支払っていただくメニューを新設します。お客様にとっては「満足したら来月分も払う」というイメージです。

商売は、店側とお客様側がフェアであるべきだと思っていて。月額制なら、満足できないお客様も途中で辞めやすい。それに、店側としても解約問題がこじれてトラブル対応に迫られることも無くなりますから、お互いにとっていいんですよね。こうした料金体系にすることで、隠れ債務も無くすことができますし。

従業員には、「顧客満足度を一番大切にしてください」と伝えています。従業員が接客やサービス提供に集中できるようにカバーするのが私の仕事なので、お客様のためになる機械などには積極的に投資していきます。



(※写真はイメージです)

【新規立ち上げでは100時間あっても足りない、M&Aでビジネスを始めよ】

- いつ頃から黒字になることを見込んでいますか?
半年後には黒字に転じると見込んでいます。実現のためにはメンバーの増員も必要なので、現在はスタッフ採用も進めています。

実は、事業を引き継いだ初月である9月は、売上は0円でもいいと思っていたんです。なぜなら、スタッフにはコンサルタントによる研修を受けてもらう上に、回数券の販売を辞めようと決めていたからです。

しかし、蓋を開けてみると、通常月の半分の売上を挙げることができました。準備段階でこれだけの売上を挙げられるなんて、100~200万円の広告宣伝費をかけない限り、新規出店ではありえません。これも、顧客基盤を引き継ぐことのできるM&Aの良さですよね。

現段階でこの状況なので、新メニューを充実させてスタッフを増やしたら、大きく売上を伸ばせる余地は十分あると思っています。

- 今後M&Aを行う買い手に対して、アドバイスをいただけますか。
これからは、M&Aによる起業が主流になる時代が来ると思っています。実業に携わって改めてわかりましたが、新規でビジネスを立ち上げようと思うと、コストがたくさんかかります。もし、店舗空間の設計からスタッフの採用まで全部イチから自分でやっていたら、決めなければならないことだらけだし、100時間かけても終わらなかったのではないかなと

だからこそ、よほどの信念やこだわりを持って事業を始める場合以外は、M&Aで事業を始めてみてはどうかと思うのです。コストが抑えられるのはもちろん、M&Aは基盤がある分、「何を変えていくべきか」具体的な内容を考えやすいのかなと。

まずはM&Aから始めてみて、ノウハウを得た後でイチから新店舗を作ることに挑戦するのもアリだと思うんです。個人で新しくビジネスを始めたいという方には特に、M&Aという手段を勧めたいですね。

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  • 倉本祐美加
  • ライター紹介倉本祐美加

    関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。

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