2021-05-11

コロナ禍で狙うはベッドタウンエリア!湘南の商業施設内カフェ買収に見出す勝機

買い手(法人):株式会社P&S

<中小企業の多角化を目指したM&A・買収事例>

 

スポーツブランドのブランディングやプロモーションに携わり、現在は起業してさまざまな業種・業態のブランドコンサルティングを手掛けている株式会社P&S代表の林修平さん。コロナ禍を機に本業以外の事業の柱をつくろうと、初めてM&Aにチャレンジして湘南エリアの商業施設内にあるダイニングカフェを買収しました。

いったいなぜコロナ禍で湘南というエリアを選んだのでしょうか?「弟と私の経験や得意分野が生かせる案件を探しました」と話す林さんに、勝機を見出したポイントを伺ってきました!

【予測不可能な時代を生き抜くため、受注型でない新たな事業の柱を】

- まずは林様の経歴や、株式会社P&Sの事業内容から教えてください。
新卒で大手印刷会社に入社した後、アメリカ系スポーツブランドの日本総代理店に転職しました。8年ほど勤めて、ブランディングやプロモーションのリーダーとして日本市場におけるブランドのグロースをしました。当時の経験が現在のコアスキルとなっており、株式会社P&Sではスポーツブランドをはじめ、ホテル、メディア、国内バッグメーカーなどさまざまな業態のブランドコンサルティングを手掛けています。

- 今回が初めてのM&Aだったそうですが、どうしてM&Aに興味を持ったのですか?
きっかけは新型コロナウイルスの感染拡大です。リーマンショック、東日本大震災、そして今回のコロナという誰も予測してなかった事態を幾度も経験して、「想定外のことがいつ起こるかはわからない。今後も不確実な未来を想定して物事を考えるべきだ」と改めて実感しました。

そして自身の現状のビジネスに目を向けたときに、受注型の仕事一本であることに課題を感じたのです。そこで、「会社を盤石な状態にするためにも、新しい事業を始めよう」と思ったときに浮かんだのがM&Aという選択肢でした。

M&Aは、事業を立ち上げて軌道に乗せるまでの一定の時間、労力を買うことができるため、効率的で合理性がありゼロから立ち上げるよりも魅力的だと思ったのです。

- TRANBIのことはどんなきっかけで知りましたか?
「同じ本の広告に3回めぐりあったら、その本を購入する」と、昔の上司の行動習慣に影響を受け、私自身、複数回同じ情報に触れた場合、その情報を掘り下げる習慣があります。電車内の広告や新聞や雑誌の掲載情報などですね。いつの間にか自分の中でアンテナが立っている、興味関心があるジャンルだからだと思うのですが、TRANBIも、まさにそのような出会いでした。

M&Aを検討しようと決めてから、個人でM&Aの仲介をされている方と話した際に「M&Aのプラットフォームといったものもありますよ」という話の中で、TRANBIを初めて知りました。

それから広告で見かけるようになったり、自社の担当の金融機関の方からTRANBIと提携しているというとお話を聞いたり、TRANBIという名前に接する機会が増えていきましたね。

これまで「M&Aの情報は閉じられていて、一部の方しかアクセスできないものでは?」というイメージがあったため、プラットフォーム上でオープンに案件情報が公開されていて、誰もが情報収集できる環境があることに驚き、とてもいいなと思いました。

【自分のスキル×弟の経験が生かせる案件を探した】

- どんな条件で案件を探しましたか?
まず重視したのはエリアです。私の拠点が東京にあり、ともに事業を行っている弟の生活圏が湘南なので、東京と神奈川にエリアを絞って探しました。

また、私がブランドコンサルティングを生業にしているので、業種・業態に関しては「私の得意領域をプラスオンすることで、事業をさらなる成長に導けるか」という視点で探しました。

予算は、それほど明確に決めていませんでした。というのも、M&Aに詳しい方から「たとえ譲渡金額が1億円を超える案件だとしてもとしても、事業体が自走できるモデルであれば何もリスクは無い」という話を聞いていたからです。

- そして今回、湘南エリアの一角をなす神奈川県藤沢市辻堂の商業施設内にある約40坪、50席の規模のダイニングカフェのM&Aが成立しましたが、案件のどんなところに魅力を感じましたか?
まず飲食業ということに魅力を感じました。私は弟と一緒に事業をおこなっているのですが、弟はもともと飲食業で複数店舗管理をしており、店舗運営に必要な基本的な実務及びマネジメント経験が活かせると思ったからです。

さらに、私はブランディングやPRが得意領域ですが、情報発信を強化することでさらに事業が成長するであろうという見込みを立てることができました。加えて、湘南エリアであること、辻堂の駅目の前という立地の良さも相まって、魅力的に映ったのです。

【コロナ禍で強みを発揮するベッドタウンエリア!】

- コロナ禍で苦境に陥っている飲食店もありますが、あえてこのタイミングでダイニングカフェのM&Aを行うことに不安は無かったですか?
「コロナ禍だから、ダイニングカフェを買うことにリスクがある」とは思いませんでした。

今回のM&Aにあたって、私自身、様々な情報収集をして導き出した答えとして、東京都心部の人が集まる駅はコロナ禍で大きく売上を落としている傾向にある。その一方、ベッドタウンと呼ばれる生活に根ざした街はコロナ禍以前に近い数字に戻ってきているというものです。

辻堂はベッドタウンであり、都心の企業に勤めている方が多く住んでいる街ですが、近頃は在宅勤務が進んでいるので平日昼間の人口は増えていて、人の行き交いが増えています。また、通勤している方も会食等をせずに、早めの時間に帰宅しているんです。ある意味、コロナ禍だからこそ辻堂にいる人の人口は増えて、人の往来が増えてチャンスがある街だと捉えました。

- 売り手側との交渉はどのように進んでいきましたか?
私は、「これだ!」とピンときてから論理を組み立てていくタイプです。案件内容を見て魅力的に感じたので、交渉の過程で情報を集めながら直感を確信に変えていく作業を行いました。

まず、売り手側に求めたのが業績の開示です。過去3年分の売上や利益がどのように推移しているのかを確認しました。コロナ禍で業績は右肩下がりになっていたものの、弟の経験も交えつつ抑えられる固定費の有無や店舗のオペレーションで効率化できる点をシミュレーションしたところ、現状の売上でも十分利益を上げられる可能性を感じたのです。

さらに私の得意分野を生かして、ターゲットである辻堂に住んでいる方のライフスタイルに寄り添った空間をつくり、SNSでのプロモーションに力を入れることで、より人気店になる青写真を描くことができたので、M&Aを決断できました。交渉は非常にスピーディーかつスムーズに進みました。



(新たなブランディングで変わるイメージ)

【オーナー交代を不安に思う、スタッフのケアに時間を掛ける】

- M&Aが成立してからは、特にどんな点に気を配りましたか?
スタッフのケアです。正社員3名、アルバイトを含めると10名程度のスタッフを引き継ぎます。スタッフにとってみれば、ある日突然働いている店舗の運営会社やオーナーが変わるわけで、「新しいオーナーはどんな人なんだろう」「この人たちとうまくやっていけるだろうか」と不安に思うはずです。

一方、私たちとしては今後スタッフにお店を任せていくわけなので、信頼関係をしっかり築いて「新しいオーナーたちと一緒にやっていくのが楽しみだな。お店をもっと良くできそうだな」と期待や希望を持ってもらいたかったので、スタッフとのコミュニケーションを重視しました。

4月1日から契約権限を委譲いただける契約でしたが、3月中旬から店舗に入りスタッフと話す機会を設けて、それぞれのスタッフができることや得意なことを見極めたり、現在不安や課題に思っていることをヒアリングする機会を設けました

すぐに気持ちを切り替えて前向きに頑張れるスタッフもいれば、不安な気持ちがなかなか拭えないスタッフもいるので、一人ひとりのスタッフが納得して前向きな気持ちになれるまで、回数を決めずに一対一で話してコミュニケーションを取りました。

私たちが「今後お店をこうしていきたい」と伝えることで、お店が持っていた課題感が言語化されたり、改善のアイデアが湧いてきたりしたスタッフもいました。とにかく話し合うことで、「僕たちは仲間なんだ」と強く伝えました。

- 林様の本業の強みも生かして、店舗をより魅力的にするためにどのような取り組みをされる予定ですか?
今までと方針転換をし、「地元の方たちに愛されるダイニングカフェ」を目指して、ターゲットとコンセプトを再設定します。メニュー自体を大きく変えるわけではないのですが、味付けや見栄え価格を変えていきます。

ダイニングカフェに来るお客様は、友達と楽しくおしゃべりができたり、一人でゆったりと自分の時間を楽しめたりする心地良い空間を求めています。加えて、思わず写真に収めたくなる見た目がかわいい料理があること、そしてご飯がおいしいことが人気のダイニングカフェに欠かせない要素だと捉えています。

こうしたポイントを押さえていると、照明やBGMなどの空間設計、料理の盛り付け一つとっても変わります。

また、現在は通りがかるお客様から店舗内が見えづらいという課題があるため、本格的なシェフが火力を使ってダイナミックに腕を振るう様子をデジタルサイネージを活用して魅力的に動画で訴求して、目に留めてもらいやすくしようと思っています。

もちろん、SNSでの発信も強化します。若い女性は特に、Instagramで見栄えの良い料理を見つけたことがきっかけで「このお店に行ってみたい」と思うものなので、来店されたお客様がシェアしたくなるような目を惹く料理を提供しようと考えています。

- お店をよりよく変えていきたいという意識は、スタッフの方にも根付いてきていますか?
もちろんです。最初にヒアリングしたときに、スタッフからも現在の課題感や「もっとこうしたい」といった要望を聞けたので、それらも踏まえながらより良いお店づくりを目指しています。

日々のオペレーションを手掛けながら、コンセプトやメニュー、盛り付けの改良を重ねていくことは大変です。しかし、4月1日から徐々に手掛けていて「ゴールデンウイークまでには理想の形を作ろう」とスピード感を持って進められているので、付いてきてくれるスタッフには感謝しかありません

ここに関しては、数字の管理やスタッフのケアを担当している弟が間に入って、スタッフと良好な関係性を築いてくれていることも大きいと感じています。私のキャリアだけならダイニングカフェのM&Aは考えなかったでしょうし、得意分野が異なるからこそ事業の幅が広がったと実感しています。



(林さんが目指す”愛されるダイニングカフェ”)

【「事業継承後は1年間静観せよ」は売上不振の事業には当てはまらない】

- 売り手側との現在の関係性はいかがですか?
前オーナー様には、現在も継続してたくさんサポートしていただいています。売り手様は複数店舗を展開されている企業なのですが、現在は私たちの店舗のメニューの再開発を売り手様企業の社員の方が手伝ってくれているほどです。

「スタッフが足りない日には、近隣店舗からヘルプを出しますよ」とも言ってくれていますし、先日も前オーナーのお知り合いが7人ほどでランチを食べに来てくださるなど、さまざまな面で支援していただいていて恵まれていると感じます。

- 初めてのM&Aを終えてみて、いかがですか?
周りからは「コロナ禍でM&Aなんて」と心配の声もありましたが、私は基本的に直感が働けば、できる理由を見つけて前向きに進んでいく性格ですし、コロナ禍だからこそ魅力的な案件に出会いやすくなっていてM&Aのハードルが下がっている側面もあるのではと思います。

自分ひとりだけで行うものではないので、100%理想通りにM&Aが進むことはないと思いますが、売り手様と話して、両者の落としどころを見つけながら一つひとつ点を繋いで道にしていく作業が必要だと感じました。自分たちの会社の未来に繋がる柱を築けた、いいM&Aができたと言い切ることができます。

- 最後に、M&Aを考えている方に向けてアドバイスをいただけますか?
大前提として初めての経験なので、アドバイスなんてとてもできませんが、ビジネス書にはよく「事業継承した後、1年間は静観せよ」といった定説が唱えられていますが、これは安定経営が成り立っている企業だからできることであって、それ以外の例えば赤字の企業などはできるだけ早く改善に向けた行動を起こしていかねばなりません。

元の事業体やオーナー様へのリスペクトという土台があるうえで、さらなる事業成長に向けた改善を手掛けていく。これがM&Aにおいて大切なことであり、買い手が意識すべきことだと思います。


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  • 倉本祐美加
  • ライター紹介倉本祐美加

    関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。

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