2021-09-14

コロナ禍で停滞する会社を救うのは、買収したベビーアート事業!?

買い手(法人):コンテンツワークス㈱

<中小企業の事業拡大を目指したM&A・買収事例>

 

「子ども」「写真」「教育」……、親子向けにリアルな体験を提供する既存事業とのシナジーを第一に考えてキーワード検索した結果、出逢ったのが、赤ちゃんの五感を刺激する「ベビーアート」

この案件の買収が、コロナ禍で暗くなりがちな社内に明るい話題をもたらした、と話すのはコンテンツワークス㈱ 取締役管理部長の川口真由美さん。購入されたベビーアート事業とは、一体どんなものなのでしょうか。ベビーアート事業の買収が与えたメリットとは。

【親子をターゲットとした既存事業とのシナジーが第一】

- まず今回のM&Aにいたった経緯について教えてください。
コンテンツワークス㈱は、オンデマンド出版サービスを生かした事業からスタートし、現在はPhotoback(フォトバック)というフォトブック作成サービスがメインの事業となっています。

子どもや親子にイベントやワークショップなどリアル体験を提供する会員制のサービス、Famiful(ファミフル)をスタートしたのが約1年前。このファミフルのコンテンツとして何かいいものはないかと探し始めるなかで、出逢ったのが今回の「ベビーアート」事業という案件でした。

M&A自体は、数年前から視野に入れていました。実際、3~4年前に年賀状事業を売却したこともあります。ファミフルはイベント事業ですので、今のコロナ禍では本格的に動けませんが、コロナ禍が明けたら、すぐに動けるように準備しておこうと具体的に購入を考え始めたのです。

- 案件は、どのように探しましたか。また、この案件に魅かれた点は?
やはり、一番に考えたのは既存事業とのシナジーです。当社はプロのカメラマンを多数抱えていますし、親子のユーザー会員数も一定数いますので、うまくつなげられる事業がないかなと。

「子ども」「写真」「教育」などをキーワードに、首都圏だけでなく、地方の店舗やスタジオなどもチェックしながら、500万円以下程度で小さく始められる事業を探していました。

「ベビーアート」事業に魅かれた点は、コンセプトです。「ベビーアート」とは、イタリアの「レッジョ・エミリア教育」*をベースにつくりあげた、0歳から3歳くらいの乳幼児と保護者の方を対象としたアート活動です。

赤ちゃんが新聞紙やトイレットペーパー、絵の具、ねんどなど、身近な素材を自由に触ることで、五感を育てるメソッドが特徴になります。

*アートやプロジェクト活動を大切にするイタリア発祥の幼児教育実践法の一つ

1回のプログラムは40分程度ですが、これなら子どもの好奇心をくすぐる様々なリアル体験の提供を目指す、「ファミフル」のコンテンツとしていけるのでは、と社長に相談したところ、「面白そう」「いいね」という感想をえたので、交渉を進めていくことになりました。

ファミフルでは、これまで小学生を対象にしたイベント体験の提供は多かったものの、乳幼児向けのイベント提供はできていませんでした。そのため、ユーザー会員に幅をもってサービスを提供できることになることは魅力でした。



(コンテンツワークス様のエントランス)

【M&A交渉はスムーズに進んだものの、社内決済の段階で急ブレーキ!?】

- 交渉はどのように進みましたか?
私たちとしては、すっかりベビーアートに魅了されていましたが、価格交渉はさせていただきました。売り手のベビーアート協会様は近年人手不足を理由にイベント活動を休止されていたこともあり、売り上げも踏まえて、先方の希望金額の250~500万円はちょっと高いように感じ、交渉の席では、率直に予算が十分にないことをお伝えしました。

しかし、「ベビーアートは素晴らしいので、ぜひやりたい」と熱意を伝えて。すると先方も「希望の金額をおっしゃってください」と言ってくださったので、結果的に150万円という譲渡金額に落ち着きました。金額の根拠は、ベビーアートの商標登録や約40種類の体験プログラム、インストラクター養成講座の開発費用などから算出しました。今回は事業譲渡という形で、ベビーアート協会自体の譲渡はありません。

先方がファミフルをご存知で「親和性があるので、ぜひやってほしい」と言ってくださったのは嬉しかったですね。売却後のベビーアート事業の継続を大事に考えられていらっしゃったようで、ファミフルと組み合わせれば相乗効果で展開していけるのではないかとお伝えしました。

- 交渉時に困ったことはありませんでしたか?
交渉自体は売り手様のお人柄もあって、雰囲気よく、とてもスムーズに進みました。ただ、基本合意後の契約書作成において、少し時間が掛かりました……。

というのは、社内監査役がM&A交渉の当初から話に参加していなかったこともあり、契約書を監査役に見せたところ「この事業、買って大丈夫?」「他社でもベビーアートという商標を使っているけれど、きちんと精査しなくてもよいのか?」と、買収自体にストップが掛かりそうになりました。

そのほか契約書内の条件についても、監査役からさまざまな指摘があり、その一つ一つを先方に対応していただきながら、丁寧にやりとりをすることで、契約書締結までに時間が掛かることとなりました。



(オフィスで働く方々の様子①)

【初回イベントは大成功!イベント準備は大変も社内外の反響は大きく】

- 実際に事業を購入されて、その後の展開はいかがでしょうか。
契約書には、譲渡前に先方に一度インストラクター養成講座とベビーアートのイベントを開いていただくことをお願いしていました。そのため事業の引き継ぎは少しずつ進めており、事前のインストラクター養成講座のおかげで、当社の社員2名はすでにインストラクターを担当できる形になっています。

お客さま向けの1回目のイベントは21年6月に実施しました。インストラクターの手配自体は、今回はベビーアート協会様にお願いしたものの、イベント準備は私が担当しました。会場の手配、特に乳幼児が会場内で自由に遊んでいいことに特徴があるために、丁寧に養生をする必要がある等ほか、細かい材料や道具をそろえたりと、なかなか大変なことがわかりました。

イベントの告知は、初回ということもあり、モニター募集という形で行いました。ただ、募集したその日に満席になり、キャンセルが出てもすぐに埋まるという状況に。

人気の理由のひとつが、家でできないことを体験できるという点です。赤ちゃんが口に入れたとしても安全な小麦粉絵の具を準備しているので、存分に触って自由に動き回れるわけです。家では汚れも気になってなかなかできません。またトイレットペーパーやティッシュなど、家で赤ちゃんに触れられると困るものでも、このイベントでは自由に触れていただけます。

イベント当日、生き生きと遊ぶわが子の姿を見た親御さんたちは、「うちの子、こんな動きするんだ」ってすごく感動してくださいました。新しい発見があったみたいですね。

それから子どもを注意しなくていいことにも、すごく解放感を感じられたようでした。参加された方のアンケートには、「また参加したい」「ベビーアートに興味がある」といった、嬉しいお声もたくさんいただきましたね。

また、今回参加された方には特典として、弊社が抱えるプロのカメラマンをスタンバイして、撮影したお子さまの写真をカレンダーにしてプレゼントさせていただきました。

- 今回のM&Aの手ごたえをどのように感じていますか?
ファミフルのイベント事業がなかなか思うように進まなかったこともあり、社内ではベビーアートに対する期待が大きく、コロナ禍でなかなか明るい話題がない中で好意的に受け止められていると思います。

今回が初めてのM&Aでしたので、これが成功だったか失敗だったか、現時点ではわかりませんが、社内が活気づいてきたのはよかったなと思います。というのは、営業の方もクライアントの販促用のイベントにベビーアートを使ってもらうといったアプローチを始めるようになりました。



(オフィスで働く方々の様子②)

【既存事業の生かし方を考えつつ、今後の課題は事業単体の収益化】

- また今後の展開についてはどのように考えられていますか?
1回目のイベントは大成功に終わったものの、モニター募集という形をとって無料で実施しました。そのため、事業単体として成り立つかどうかは、まだ明確ではありません。

今後、半年は検証の機会として月に一回程度、小規模なイベントの開催を内容や形を変えながら継続して取り組んでいこうと考えています。また10月には大規模なファミリー向けの展示会に、ファミフルとベビーアートで出展する予定です。

また、イベントの写真をフォトブックにしたり、カメラマンの撮った写真をオンデマンドで購入できる仕組み等も考えています。カメラマンの活用や印刷サービスといった既存事業を大いに生かしていきたいですね。

さらに会員を獲得していければなと思っています。また今後は収益化を進めるために、自社イベントとしての開催だけでなく、ベビーアートをプログラム化して他社へ提供していく、といった事業戦略も練っているところです。






(アートに没頭する子どもたち)


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  • 池田純子)
  • ライター紹介池田純子

    大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーのライター・編集者に。暮らしやお金、子育てにまつわる雑誌記事の執筆や単行本の製作に携わる。さまざまな生き方を提案するインタビューサイト「いま&ひと」を主宰。

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