2021-06-11

運送会社がマッチングサイトを購入!?真の狙いは沖縄の運送業界のDX化で正しく儲かる仕組みづくり

買い手(法人):(株)樹来

<中小企業の事業拡大を目指したM&A・買収事例>

 

沖縄で土木・舗装業の資材運搬運送事業を手掛ける株式会社樹来。新規事業を検討するためTRANBIを閲覧していたところ、「荷物を送りたい人と荷物を運べる人を繋げるマッチングサイト」の案件に出会い、60万円で買収しました。

自社の新たな事業の柱を立てるためだけではなく、「沖縄の運送会社が抱える深刻な課題を解決するためにM&Aに踏み切った」と話すのは、樹来で運送部取締役の与那覇壮太さん。いったい沖縄にどんな問題があるのでしょうか?それをM&Aで解決する仕組みとは?

【M&A案件の中に、新たなビジネスアイデアのヒントがある】

- まずは、御社の事業について教えていただけますか?
私たち株式会社樹来は、道路や駐車場の工事を行う土木・舗装業や循環型社会を目指す産業廃棄物収集運搬業を包括した運送事業、沖縄県内で3店舗の「HottoMotto」運営、コインランドリー事業などを行っています。

もともとは祖父が土木の会社を立ち上げたのですが、受注型の事業であるため、どうしても相手の発注量に売上が依存する特性があります。そこで定期的に安定した売上を出すため始めたのが「HottoMotto」やコインランドリーの経営です。運送事業も3年ほど前から始めました。

「地域の方々の役に立つ仕事であれば、どんな仕事に挑戦してもいい」というマインドが祖父の代からあって。「この領域には進出しない」といったこだわりや先入観は持たずに、さまざまなことにチャレンジしてきたんです。

- どんな経緯でM&Aに興味を持ったのですか?
新規事業を検討していたときに、ある方から「手段としてM&Aを検討してみたらどうか。実際に買うかどうかは別として、世の中にどんな事業があって、どんな事業が売りに出されているかを知るだけでも参考になるんじゃないか」とアドバイスをいただいて。

その後、以前からお付き合いのあった日本経営合理化協会さんのWebサイト上でTRANBIのリンクを見つけたことをきっかけに、M&Aのプラットフォームで情報収集を始めました。

- 先の読めないコロナ禍でのM&Aに不安はありませんでしたか?
祖父も現在の社長である母親もそうなんですが、うちの一族には「常に新しいことにチャレンジする」というマインドがあって。不安はありませんでした。

過去には、学習塾や飲食業に進出してうまくいかなかった経験もあります。でも、それらを失敗とは思ってなくて。もしかすると、失敗に対する恐怖心が麻痺しているのかもしれません(笑)
 

- どのような条件で案件を見ていましたか?
一つは、当社が持っている財やサービスを生かして発展させられるかという観点です。たとえば、産業廃棄物の収集運搬業をしているため、同業種の案件にも注目していました。

一方で、「世の中にどのような事業があって、どんな事業が今売りに出されているのか」といった市況をフラットに眺めて、あえていろんな案件を見てみることも心掛けていて。見ていると、「こうやって活用すれば、うちのビジネスとシナジーが生み出せるかもしれない」といったアイデアが湧いてくるんです。



(運送部の方とお話する与那覇さん)

【沖縄の運送会社が抱える、深刻な「下請け」問題を解決したい】

- さまざまな案件を見る中で与那覇さんが買収されたのは、「運んでほしい荷物」がある一般消費者と、「運ぶことのできる」事業者やユーザーをマッチングさせるプラットフォームでした。なぜ、この案件に目を付けたのですか?
運送事業を始めてからのここ数年、本州のお客様から「沖縄に荷物を運びたいけれど、沖縄の運送会社さんを知らないから、どこにお願いしたらいいかわからない」といった相談をときどき受けていました。

そのようなニーズがある一方で、沖縄県内には850を超える運送会社があるものの、「少人数のために営業活動が十分に行えておらず、認知されていない」、「繁忙期と閑散期の差が激しい」といった実情があります。

さらに根深い問題として、沖縄への荷物は船や飛行機経由でしか届かないからこそ、ほとんどの小さな運送会社は船や空港の倉庫を持っている大企業の下請けや孫請けとして仕事を受けるしかなくて。そうすると、手元に入るお金は少なくなってしまいます。

こうした沖縄県内の運送を取り巻く課題感をずっと持っていたため、今回の案件を見つけたときに、「このビジネスモデルを応用して、BtoB向けプラットフォームに改修することができれば、本州の企業と沖縄の運送会社の直取引が可能になり、沖縄の運送会社がより高い単価で仕事を受注できるモデルをつくれるのでは」とひらめいたのです。

- M&Aの裏には、「新たな自社の事業の柱をつくる」目的だけでなく、社会課題解決を目指した使命感もあったのですね。
国土交通省の調査で明らかになっていることですが、「トラックドライバーは他業種と比べて、2割労働時間が長く、2割所得が少ない」と言われています。こうした状況を改善すべく、国土交通省も運送会社の労働改善を目的として標準的な運賃の設定を全国的に行いました。

とはいえ、まだまだ現場では標準的な運賃の半額や1/3の金額で仕事を依頼されることがありますし、仕事を受ける運送会社側も「実際、これだけの金額を取れるわけがないよ」と諦めていて。こうしたムードを変えるために、既存のシステム以外の手段を提示できればと思ったんです。



(※イメージ画像です)

【予算は「何年で投資金額を回収できるか」次第で決まる】

- 当初、売り手側は譲渡金額200万円を希望されていました。予算感と合っていましたか?
他の案件も検討する際にもそうですが、「投資金額を何年で回収できるか」はビジネスモデルをつくって慎重に計算しました

今回の案件は物流のマッチングサイトであるため、沖縄県内の運送会社から中間マージンを取るなら10%程度が妥当だと仮定して。その上で、沖縄県内の運送事業の金額規模やコストも踏まえて「10年間で回収できる投資金額」を算出すると、約500万でした。そのため、200万円はリーズナブルだと感じましたね。

- 売り手様は東京のIT系企業ですが、交渉はどのように進んでいきましたか。また、最終的には60万円での譲渡が決まられていますが、どのような経緯でこの金額に落ち着かれたのでしょうか。
まずは売り手様からサービスや経営状況を記載した資料を送っていただき、気になった点を質問させていただきながら進めていき、交渉開始から4カ月ほどで成約となりました。

交渉の中で、「本州の企業様が、荷物を運んでくれる沖縄の運送会社を手軽に探せたり、荷物のサイズや個数を登録したら運送会社が合い見積もりを提示できたりするような、BtoBのマッチングサイトに改修したい」という構想をお話ししたんです。

そのため、おそらく金額については「システム改修にまとまった費用が掛かりそうだから」と、先方がこちらの事情や予算感を考慮した上で下げてくださったのではないかと思います。

また、マッチングサイトは売り手様が開発されたものではなく、売り手様も別の事業者から買ったという経緯があったようで。開発費用が掛かっていない分、柔軟な金額調整に対応してくださったのかもしれません。

- 売り手様の印象はいかがでしたか?
担当していただいた社長様はITの最前線で活躍されている方で、IT関連の専門用語が交渉の中で多く飛び出してきて、最初は驚きました(笑)

ITの知見が無いため、単語をメモして調べ、「やりたいことは決まっていますが、素人でわからないことだらけなので教えてください」と素直にお願いしましたね。

コロナ禍で緊急事態宣言等の発令もあったため、対面でお会いすることは叶わず最後までZoomでの交渉だったのですが、いつも「体調はどうですか?」「沖縄の状況はどうですか?」とこちらを気遣い、雑談から始めてくださって、私の緊張も解けました。

- 交渉過程で苦労したことはありますか?
点数を付けるなら90点と言えるくらい、交渉は全体的にとてもスムーズに進みました。

ただ、文章の読み違いや意味の捉え違いをしてしまって、資料のやり取りや契約書の内容確認に予想より時間を要したことがあって。「言った」「言わない」にならないのはテキストベースでの交渉のいいところですが、一方で難しさも感じました。

また、Zoom越しでの交渉だったため、「伝えたいことがちゃんと伝わっているだろうか?」、「相手の意図を理解できているだろうか」という不安は、やはり直接話すより大きかったように感じます。

どうすれば売り手様に自分たちの思いが伝わるだろうかと、社長と相談しながらプレゼン内容をブラッシュアップして交渉に臨みました。



(新たなマッチングサイトで活用予定のサービスロゴ、現在サイト仕様を検討中)

【沖縄の運送会社の売上10~15%アップに貢献したい】

- M&Aが無事成立されて、現在はどのようなフェーズですか?
売り手様に紹介いただいたシステム会社に、私が描いているイメージや搭載したい機能を伝えて改修内容や金額を算出していただいている最中で、改修金額は300万円ほどになりそうです。

改修が終わったら、まずは沖縄の運送会社にテスト利用していただきます。現在も当社へ、「トラックが足りないから手配してほしい」というオーダーが来て、電話で周りの運送会社に依頼するというシーンがあるため、まずはそのやりとりをデジタルに移行しようかと思っています。

運送会社の現場で働く方は、電話やFAXで仕事をしてきた方ばかりで、ITサービスの利用経験がほとんどありません。そのため、「簡単で便利なサービスで、仕事を受けられる機会や営業機会も増えて、最終的には手元に残る金額も大きくなる」というメリットをいかに伝えられるかが今後の課題です。

実際に使ってもらって、使用感や改善点・要望のリクエストを聞いたうえで、さらにシステムを磨き上げて本リリースできればと考えています。

- リリース後、本州のどんな企業にマッチングサイトを使ってもらいたいですか?
理想はメーカーです。メーカーと言っても、すでに大手運送会社と取引のある大手メーカーではなく、「受注生産型の商品を作っていて、沖縄に数個だけ届けたい」といったメーカーと相性が良いように感じています。

他には、沖縄への進出にあたって資材の運搬が必要な企業なども対象になります。マッチングサイトが完成したら、展示会などへの出展を通じてサービスの認知を広げていきたいです。

ただ、荷物が沖縄に上陸するまでの船や飛行機の手配には、一般貨物運送業とは別の、貨物利用運送事業の許可が必要で。この許可を持っていない運送会社も多いんです。そのため、当社が許可を取得して、「沖縄の港や空港まで荷物を届ける役割」は必要に応じて担おうと考えています。

- こちらのマッチングサイトの運営はどなたが担当されるのですか?
私が担当します。マッチングサイトの一番の強みは、立ち上げてしまえば人手をあまり掛けずに運営できることであるため、新たに運営担当の人を雇うことは今のところ考えていません。

また、現在電話やFAXで現場の対応をしている担当者をマッチングサイトの運営担当にしないのは、今の業務をデジタルに移行する分、これまで多忙でできていなかった新たな営業活動に時間を割いてもらいたいという思いがあるからです。

- これからのビジョンを教えてください。
沖縄県内のたくさんの運送会社が登録しているマッチングサイトに成長させたいと思いますし、荷物の配送を依頼する荷主さん側から「沖縄の運送会社を探すならここ」と認知されるサービスにしたいです。

そして、マッチングサイトを利用した運送会社の売上が10~15%上がることを目標にしたいと思います。

- 最後に、これからM&Aを考えている方へ向けてメッセージをお願いします。
やはりM&Aを行うにあたっては、最初にリミットを決めて、「その期間で投資金額を回収できるか」を見極めることが大事ではないでしょうか。回収が見込める譲渡金額やビジネスモデルだと判断が付けば、買うという決断もしやすいと思います。

また、買う・買わないは別として、常日頃からM&Aのプラットフォームでいろんな案件を眺めて「この案件に、このアイデアを掛け合わせたら面白そうだ」と想像するのもおすすめです。私は今でも頻繁に、TRANBIで案件を眺めてはビジネスアイデアを着想しています。



(沖縄の運送業界の変革に挑戦する与那覇さん)



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  • 倉本祐美加
  • ライター紹介倉本祐美加

    関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。

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