2021-09-29
不動産経営者ならではの着眼点!実は相性のいい「放置自転車の回収業」を買収~感謝のサイクルが生まれるビジネス~
買い手(法人):合同会社ファミリーツリー
<中小企業の多角化を目指したM&A・買収事例>
- ➤ コロナ禍で「安定などない」と突きつけられた
- ➤ “誰かのゴミは誰かの宝”感謝のサイクルを生む、自転車回収業とは?
- ➤ 交渉で本気度を示す、事業構想をまとめたプレゼン資料を用意
- ➤ 1本の柱に依存する時代じゃない!ビジネスマンは複数のわらじを履くべき
複数棟のアパートを所有するなど、不動産ビジネスを展開している合同会社ファミリーツリー。経営されるBさんは、平日は別の会社に勤めておりサラリーマンの顔も持っています。
今回、新たな事業の柱をつくるべく、初めてのM&Aに踏み切ることにしました。最終的に、買収に至ったのは、TRANBI内でもかなり珍しい案件「放置自転車やバイクの回収業」。この事業の優位性を見出したのは、不動産業を営む経営者ならではの視点がありました。
本事業の知られざる魅力、多くのライバルの中から選ばれるために行った工夫などを教えていただきました。
【コロナ禍で「安定などない」と突きつけられた】
- まずは貴社の事業内容と、M&Aを検討するに至ったきっかけについて教えていただけますか。
当社は不動産投資をメインに行っていて、アパートを複数棟所有しています。幸い、コロナ禍でも全室満室をキープし、まったく打撃は受けていません。しかし、見方を変えれば毎月入ってくる収入は決まった金額のため、金額を増やすために新たな事業の柱が欲しいと思っていました。
また、実は私は会社員でもあるのですが、観光業ということもあり、大きな打撃を受けています。給与が大きく下がったわけではないものの、「安定などない」ことを突き付けられました。コロナ禍を経験することで、改めて収入を増やすための挑戦は止めてはならないと思い知らされました。
- ゼロから何かの事業を立ち上げるのではなく、M&Aに興味を持ったのはどうしてですか?
単純に、私たちがゼロイチで立ち上げることをあまり得意としておらず、既存のリソースを利用してビジネスを広げていきたいと思ったからです。新しいことを生み出すよりも、既にある程度形が出来上がっているものを引き継ぐことに魅力を感じるもので。
最初は、「資金繰りが困っている」や「マネジメントやオペレーション上の課題があるので、支援してほしい」というニーズを持つ飲食店に出資者やアドバイザーとして関わることや、「オリジナルのビジネスアイデアを持っているものの、資金が足りない」と困っている起業家を支援する投資家のような立ち位置になることも考えていました。
そのため、エンジェル投資家と起業家のマッチングサイトなどでも案件を探していたんです。ただ、なかなか返信がなくて。それで、他のサイトも調べる中で、たまたま事業承継・M&AのプラットフォームであるTRANBIに辿り着き、投資するという手法ではなく経営者になるという選択肢もあるのだと発見しました。
- TRANBI上では、どんな条件で案件を絞っていきましたか?
立ち上げ段階ではなく、ある程度軌道に乗っているビジネスであることは前提条件でした。そのうえで、まず重視したのは金額です。今回は予算300万円以内で探していました。
この予算感だと、ECショップの案件も多くあったのですが、会社員としての業務内容と近いこともあり、もう少し新鮮なことに取り組みたいという思いから外すことにしました。
また、民泊の案件も同様に多くあったのですが、こちらも観光業であるため、会社員としてダメージを受けている分野と同分野で事業を展開するのはリスキーだなと。いつか回復するとは信じつつも、コロナ禍が長引いている背景もあってやめました。
その他には、クリーニングやコインランドリーの案件がありましたが、こちらは初期投資で大きい金額が必要だったこともあり、断念しました。
つまり、300万円以下で、PCの前にずっと張り付く必要がない仕事で、かつコロナ禍でのダメージを受けていない業種というのが求めていた条件でした。
- 多くの案件を検討されていたようですが、即決するのではなく時間を掛けて比較されたんですか?
そうですね。Google docsで案件管理リストを作って、気になる案件に出会う度に案件名・事業内容・予想収支・購入価格を記入して、比較していました。実際にこちらから面談申し込みをしたのは、10件中1~2件の割合でしょうか。同時並行で進めていたので、1週間に2~3社と面談したこともありました。
(回収用のトラックと回収された自転車)
【“誰かのゴミは誰かの宝”感謝のサイクルを生む、自転車回収業とは?】
- さまざまな案件を比較された中で、今回は「放置自転車・バイクの回収事業(放置自転車撤去サービス.com)」という、かなりレアな案件を100万円で購入されましたよね。改めて、事業の内容について教えていただいてもいいですか。
神奈川・東京を中心に、マンションやアパート、団地などに放置されている自転車やバイクの回収を行う事業です。
仕事の流れとしては、物件を管理する不動産管理会社から依頼を受け、回収に向かいます。回収完了後、回収した自転車やバイクを輸出業者に引き渡すまでが一連の流れになります。また、状態の良いものは少し修理をした後に再販売もしていて。回収は基本無料で行っていて、月に3~5日程度回収のために稼働をしています。
- 自転車やバイクの撤去には、所有権の問題も絡むと思うのですが、どのように対応されていますか?
こちらに関しては、行政が定めている内容に従って不動産業者様に対応していただいています。
放置自転車やバイクを見つけたときに不動産管理会社者様が取る行動としては、
①警告札を自転車に取り付けて、警告期間・連絡先等を記載した告知書を作成し掲示する
②盗難された自転車バイクであってはいけないため、同時に警察に盗難照会を行う
③一定の告知期間を設けても、放置されたままであった場合は撤去が可能
といったものになります。
「必ずこうしたステップを踏んだ上で、当社に撤去依頼をしていただきたい」と伝えており、当社側は「あくまで回収業であり、依頼された自転車やバイクの回収を委託されているだけ」というスタンスを示してリスクヘッジを行っています。
- こちらの案件のどんなところに魅力を感じて、購入を決められたのですか。
まずは金額面です。譲渡金額100万円もさることながら、身体1つ、車1台あればできる仕事なので、事業を続けていくうえでの維持費がほとんどかかりません。利益率も高く、会社員の仕事が休みである土曜や日曜に稼働するだけで、毎月10万円~15万円の収入を稼ぐことができると思いました。
次に、自身の経験からこの事業の必要性とありがたみを理解できていたこともポイントでした。私たち自身もアパートを持っているので、勝手に自転車やバイクを放置されるケースが多いことはよくわかっていて。「景観・美観に悪影響を与えられるのが嫌だ」と思っていたため、事業内容に共感できたのです。
また、多少の力仕事ではあるものの、“誰でも出来る仕事”であることにも魅力を感じました。今は私たちで行っていますが、ゆくゆくはUber eatsのように、「好きな時間に働きたい」というニーズを持つ人に業務委託で回収を依頼したり、フランチャイズ化してビジネスを拡大したりといった発展性も見込めると思ったからです。
ただ、これらの魅力は前提としてありながら、私たちが一番惹かれた点は“感謝のサイクルが生まれるビジネス”であることです。
- “感謝のサイクル”とは、どういったことなのでしょうか。
まず、放置自転車や放置バイクを回収することで、アパートのオーナー様や地域の方から感謝されますよね。
また、「回収した自転車やバイクを輸出業者に引き渡す」とお伝えしましたが、私たちが回収した自転車やバイクは、業者さん経由でガーナに送られ、再利用されていて。ガーナでは自転車が高価なため、日本から質の良い自転車が届くとすごく喜ばれます。
さらに、状態が良い自転車やバイクは直して、「中古でいいから、安く自転車やバイクが欲しい」という方に再販することで、ここでも喜ばれていて。
「リユース」という言葉が浸透してきたように、「使えるものは、ゴミにしないで再活用しよう」と促進されていますよね。こういった流れにも乗っていますし、何より「感謝のサイクルが生まれる、なんて素晴らしい事業だ」と思って、案件内容を見たときにビビッときたんです。
力仕事なので、夏は滝のような汗が流れるし、あまり人がやりたがらない仕事かもしれないけれど、みんなから感謝されるいい仕事だなあと思いました。
(マンションやアパートに大量に放置される自転車)
【交渉で本気度を示す、事業構想をまとめたプレゼン資料を用意】
- ちなみに、自転車やバイクの輸出業者は珍しいのですか?
いえ、全然珍しくなくて、郊外に行くとたくさんありますよ。私たちが取引をしているのはガーナに輸出している業者さんですが、ケニアや中国に輸出されている業者さんもいます。前オーナーさんが数社とお付き合いをされていて、そのうちの1社をご紹介していただきました。
- 輸出業者のルートも複数あって、“誰でも出来る仕事”となると、参入障壁も低いように感じました。貴社の競合優位性はありますか?
競合優位性はないかもしれません。ただ、現状は競合自体がそんなにいないとも感じています。
また、今後参入してくる企業に比べた当社の強みは、まず一定数のお客様がすでに付いていることです。前オーナーの時代から取引のある不動産管理会社様のリストをすべて引き継がせてくださって。このリスト自体に、譲渡金額100万円分の価値があると思っています。
さらに、私たちが不動産を所有するお付き合いのある5社ほどの管理会社様とお話ししたところ、どこの管理会社様も、「放置自転車を見つけた際には、絶対にこの業者に撤去してもらうといった、決まった取引先はない」と話していて。
つまり、今取引のある管理会社様との信頼関係を大事にして引き続き依頼していただける関係を構築することと、まだ取引のない管理会社さんへの新規開拓を強化していくことで、競合優位性は築けると思っています。
また、この事業は地理・エリアがかなり影響すると思っていて。たとえば、取引先を広げるためにエリアをあまりにも拡大してしまうと、回収場所から輸出業者のある場所への移動に時間が掛かりすぎて、どんどん非効率になってしまうんです。そのため、まずは地元密着戦略でいこうと考えています。
- 今回の案件は、非常に多くの買い申し込みが寄せられる人気案件だったそうですね。多くのライバルの中から選ばれるために、どんな工夫をされましたか。
簡単なものですが、プレゼン資料を用意しました。
まず前提として「買い手様がこれまで積み上げてこられた、管理会社様や輸出業者様との信頼関係を大事にします」とお伝えした上で、今の事業を引き継いでうまく回り始めたら、新しく取り組んでいきたいことについても資料に盛り込んで伝えました。
アイデアの1つが、大学等の新規開拓です。大学は毎年、人が入れ替わりますよね。卒業と同時に自転車やバイクを置いていく人もいれば、大学に入学するために引っ越してきて、自転車やバイクを新たに必要としている人も毎年一定数いて。彼らのために回収と再販を行えば、役に立てるのではないかと思うのです。
今はお客様のほとんどが不動産管理会社なので、新たな顧客獲得を目指していきたいという決意をお伝えしました。
他にも、今あまり力を入れていないWebでの情報発信の強化や、業務委託やフランチャイズのビジネス構想などについてもお話しさせていただいて。この資料がどれほど、売り手様が私たちを選ぶ際の決め手になったのかはわかりませんが、思いは伝わったはずです。
(海外へ輸送される前に集められた自転車たち)
【1本の柱に依存する時代じゃない。ビジネスマンは複数のわらじを履くべき】
- もともと投資家として案件を探されていたりしましたよね。ご自身がそれほど稼働しなくてもいい案件を探していたのかなと思っているんですが、今回力仕事を選ばれたのはどうしてだったんですか?
会社員の仕事が観光業で、コロナ禍で大きなダメージを受けたとお話しましたよね。それもあって、去年1年間はすごく悶々とくすぶっていて。あえてシンプルな肉体労働をすることで、気持ちを切り替えたいという思いもあったんです。
もう少し踏み込んでお話をすると、コロナ禍で勤めている企業の業績が悪化し、先の見通しも立たないことから人員整理をすることになったんですね。責任者格である私は、去年何人ものスタッフに解雇通知をしなきゃいけなくて…。中には、昨日まで一緒に働いていたスタッフもいました。
本当に、心が疲れました。何もできない自分の力のなさに押しつぶされそうになって。会社におめおめと残っている自分に腹も立って…。整理できない感情でいっぱいになったんです。
- なるほど。そんな経験をされたんですね。
M&A成立後、自転車やバイクの回収に行ったとき、肉体的には疲れたけれどスッキリしたんです。
もちろん、炎天下で作業をすると滝のような汗が流れるし、服も汚れます。それに、ゴミがゴミを呼んでしまうから、放置自転車やバイクのカゴの中には、ペットボトルや弁当などいろんなゴミが捨てられています。
そういった現場に行って、自転車とバイクを回収し、散らばっているゴミも一緒に片付けていると、鬱屈した気分が少しだけ晴れてくる気がして。私自身がこの仕事に打ち込むことで、没頭できる時間を作ることができて、少しだけ救われました。
- 話しづらいことも教えていただいてありがとうございます。“感謝のサイクル”に惹かれた理由がよくわかった気がしました。最後に、これからM&Aに取り組まれる方に向けたアドバイスをいただけますか。
多くの方が言われていることではありますが、1社に依存して生きていける時代ではないと思っています。
私たちは30代前半で不動産事業を始めていたので、今回コロナ禍で会社員の仕事が打撃を受けたときも「家賃収入があってよかった」と思いました。一方で、それだけに甘んじていた自分もいたなと反省して。決して今のままで安泰ではなかったんですよね。
まだ土日も空いているし、今は40代だからまだ身体も動く。余力があるのに、なんで現状に満足していたんだろうと思いました。
これからのビジネスマンは、三足、四足、五足とたくさんわらじを履くべきだと思っています。複数のわらじを履いていると、あるビジネスで得た知見が会社員の仕事に生かせるといった、相乗効果も生まれますから。
とはいえ、わらじを一足ずつ自分で探していくのはなかなか大変で。だから、M&A案件を紹介してくれるTRANBIというプラットフォームは、ビジネスマンにとって心強いサービスだと感じています。ぜひ、まずは案件を眺めるところから始めてみてください。
***合同会社ファミリーツリーが買収した事業はこちら***
「放置自転車サービス撤去.com」
https://cycle-cleanup.com/
「中古自転車販売」
https://cycleichiba.com
(修理され再販される自転車たち)
(癒しを与えてくれる、自転車倉庫から見える景色)
▶ 250万円以下の案件をご覧になりたい方はコチラ
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ライター紹介倉本祐美加
関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。