2022-02-15

テイクアウト&デリバリー需要で黒字続きの唐揚げ屋を500万円でM&A、幸運にもリフォーム済みの新店舗をそのまま入手!

買い手(法人):株式会社KAZAANA

<中小企業の新規事業を目指したM&A・買収事例>

 

日本の伝統工芸品を扱うECサイトなど多彩な事業を展開する株式会社KAZAANA。代表取締役社長の樫村健太郎さんは、「飲食店を開きたい」と数年前から物件を探していましたが、なかなか魅力的で条件に合う物件に出会えませんでした。

2021年8月、M&Aという手段を本格検討してTRANBIを利用していたところ、1か月ほどで「これだ」と惹かれる案件に出会いました。新宿にある、唐揚げともつ煮が二大看板のお店です。値切らず、飲食業への本気を伝えたところ、複数の買い手候補の中から選ばれてM&Aに成功しました。

この案件に惹かれた理由や交渉過程、さまざまな事業を通して樫村さんが成し遂げたいことなどについて、お話を伺いました。



(お店で出されるキングモンスター定食)

【飲食店は開店準備と固定客獲得に1年程度…M&Aならその時間を短縮できる】

- 貴社の概要について教えてください。
当初は2017年9月に創業し、日本の伝統工芸品やメイドインジャパン製品だけを扱うECプラットフォーム「BECOS」の運営からスタートしました。BECOSは現在7言語で運営しており、収益の柱になっている事業です。

- どのような思いを持って創業されたのですか。
新卒入社した会社の社長が、30歳で起業して上場を果たした方でした。高校生の頃から独立願望はあったのですが、社長の背中を見て「自分も30歳になったら独立する」と決めました。

KAZAANAという社名には、「業界の慣習や古い習わしやルールに縛られずに、新しいアプローチで付加価値を生み出す」、「業界のアウトサイダーになる」という思いを込めています。だからこそ、伝統工芸品の分野でビジネスをしようと決めました。

業界に長くいると常識が染みついてしまいますが、私たちは初心者だからこそ当たり前にとらわれずに斬新な発想ができると思っています。

- 今回は飲食店のM&Aを実施されました。貴社の事業とは関連のないように思いますが、どうして興味を持ったのですか。
確かに、飲食店は今の事業とは結び付きませんし、既存事業とのシナジーを考えたものではありません。

ただ、BECOSで伝統工芸品を扱う中で、それぞれの地域に根付く伝統的な食やお酒にもより関心が高まりましたし、最近ではBECOSで味噌や醤油や酒の取り扱いも始めています。

また、新卒入社した会社がレストランを経営していて、そこで飲食業や店舗開発の経験を積んだことも大きかったです。飲食店の経営でも自分のスキルを発揮できるのでは、と興味を持ち始めました。

- なぜM&Aという手段を選ばれたのですか。
これまで、事業はすべてゼロから始めています。今回の飲食業も、物件を見つけて、スケルトン物件の内装工事を行い、レシピやメニューの考案まで自分で行うものと想定していて、ここ2~3年ほど物件を探していました。

ただ、ゼロイチで事業を立ち上げる苦労は、経営者としてさんざん体験していました。さらに、自分が働いていた経験から、飲食店の開業後お客様が安定して付くまでに、半年から1年程度は掛かるだろうと思っていました。

だからこそ、M&Aならお店をオープンするまでの時間がぐっと短縮できてスタートダッシュが切れますし、オープン後の売上の凹みも最小限にできると思い、興味を持ったのです。



(譲渡前のお店の外観)

【テイクアウト&デリバリーで黒字続き!リフォーム済みの新店舗が手に入る好条件】

- 新宿にある唐揚げともつ煮屋をM&Aされましたが、この案件に惹かれたのはどうしてですか。
まず、500万円という譲渡希望金額に惹かれました。数千万、数億の案件にはなかなか手が出せませんが、これなら手頃だなと。さらに、業績不振による売却ではなく、売り手様が2021年10月から新しい業態のお店をオープンしてそちらに集中するための売却であったため、経営状態が良好であることも安心材料でした。

これは交渉の過程でわかったことですが、賃貸物件の家賃や保証金も格安で。保証金に至っては、通常12か月や18か月掛かるのが普通なところですが、数か月分で済みました

また、飲食店を運営する上でいきなり大きいハコを持つのはリスクが伴いますが、今回のお店はカウンターメインで5坪のコンパクトなお店だったことも魅力でした。僕自身も、お寿司屋さんやお蕎麦屋さんのカウンターに座って調理風景を見たり、店員さんやお客さんと話したりするのが好きで、ライブ感のあるお店をやりたいと思っていたのでぴったりでした。

周りから「唐揚げ屋を買うなんて、波に乗ってますね」と言われることも多いのですが、決して今の唐揚げブームに乗ったわけではなく、ビジネスモデルから勝算を感じました。多店舗展開やフランチャイズ化を見越すと、面白いビジネスだと思っています。

- コロナ禍で多くの飲食店が打撃を受ける中でも、そのお店の経営が順調だった秘訣はどこにあるのですか。
売上比率を見ると、お弁当などのテイクアウトとデリバリーでほとんどを占めているからだと思います。もともと店内に5席あったものの、コロナ禍以前から店内で飲食をされる方はほぼいませんでした。その傾向が、コロナ禍でさらに加速したようです。

特に2021年の1月~2月は、Go To Eatキャンペーンも追い風になって爆発的な売上をあげていました。それ以降も特別売上が凹むことはなくて。

引き継いだ後に、味のクオリティさえ落とさなければ安定的な売上は見込めるだろうと思いました。それだけでなく、メニューを充実させて店内での飲食需要を増やしていけば、さらに売上を上積みできると予測したのです。

- 唐揚げ屋ブームでたくさんの競合店舗がある中で勝負しなければいけませんよね。今回のお店独自の味や差別化ポイントはありますか。
唐揚げは、売り手様が全国の唐揚げを食べ歩いて配合を研究した上で開発したと聞いています。下味の仕込みの方法も独特で鶏肉が非常に柔らかいですし、胡椒やスパイスが効いていて。衣にも秘密があるので、パリッとした食感が楽しめます

唐揚げのサイズの大きさも特徴で、通常の唐揚げ屋に比べて1.5~2倍ほど大振りで、食べ応えがあります。また、秘伝のタレをかけて食べるという珍しいコンセプトの唐揚げです。

- 唐揚げともつ煮の2つを看板メニューとして提供するお店は珍しいですよね。
そうですね。2つを看板メニューにすることでオペレーションが効率化できるといった理由があるわけではなく、「売り手様がどちらも好きだから」という理由から始められたのだと思います。

もつ煮も、とても独特です。皆さんがイメージするような赤味噌で煮込んだどろっとしたものではなくて、白味噌で作っていてスープを最後まで飲み切れるほどさっぱりした味です。

それぞれにファンが付いていて、唐揚げともつ煮をセットで購入される方よりは、どちらかを気に入ってリピートされる方が多いですね。冬はもつ煮がたくさん売れます。

- 案件概要を見た時点で強く惹かれたようですが、買い申し込み後の交渉過程では、どのような観点で検討を進められましたか。
店内の状況と味やレシピの確認、そして何を引き継ぐことができて何は引き継げないかを明確にすることは気を付けました。厨房器具を新調するとなると、1個あたり30~50万円が掛かるので、もし「今ある物はほとんど使えません」という状態だとM&Aのメリットがないからです。

店内の状況と味やレシピについては、売り手様が設けてくださった試食会のタイミングで確認しました。当社以外にも6社ほど買い申し込みをしている企業があったため、1社30分から1時間の時間交代制で順番に店を訪れて、唐揚げやもつ煮を食べさせてもらったのです。

店内の状況は、唐揚げで大量に油を使用するためかなりギトギトしている感じがありました。この状況では、お客様が「店内でゆっくり飲み食いしたい」となりにくいだろうなと、もともと飲食の仕事をやっていた身だからこそ、余計に気になりました。

ただ、店内の状況に関しては朗報がありました。たまたま店の天井が雨漏りして、営業を停止することになった背景があったのですが、雨漏りの責任がビル側にあることがわかりまして。ビル側の負担で店内をリフォームしてくれることになったのです。

厨房器具は中古のままですが、床・壁・天井・トイレなどは綺麗まっさらな状態で引き渡してくれるとなったので、これは助かるぞと。新築の引き渡しと変わらない状態で引き継ぐことができるということで、ぜひ買いたいと思いました。

もしリフォームされないままの引き渡しであれば、店舗のクリーニングが必要でした。クリーニング費用を見積もってみて、あまりにも金額が大きくなりそうであればM&Aは断念していたと思います。



(人気のお弁当)

【値切らず、本気度を見せたことが勝因】

- 競合が複数社いた中で、どのような点を評価されて売り手様に選ばれたとお考えですか。
第一に、値切らなかったことだと思います。50万や100万円ほど値切ってきた買い手もいると伺ったので。

あとは、私の本気度を評価してくださいました。試食会の時に、売り手様とお話できたのですが、自分がこのお店を引き継いで現場に立った時のことを想定して、売上比率や客層や人件費、シフトの組み方やオペレーションの工夫などについて、たくさん質問をぶつけたんです。

一方、売り手様が言うには、ネットで調べればわかることを他の買い手から質問されて、「本当にこの人は飲食業へのやる気があるのか?」と疑問に思ったシーンもあったようで。「樫村さんは突っ込んだ質問をたくさんしてくださって、本気度が伝わってきました」とおっしゃっていただきました。

- 金額は値切らなかったとのことですが、500万円という金額をどう評価されましたか。
まず、回収期間を考えてみると、安定した売上があがり続ければ1年半から2年ほどで回収できるとわかりました。もしも店内飲食の売上をアップできたら、回収期間はさらに短くなりますよね。新規事業を考える上で「3年以内に初期投資の回収」を目安にしていたので、その範囲内に十分収まると思いました。

もちろん、売り手様と良好な関係性を築いておきたいという思いもあります。M&Aは売り買いが完了したら、そこで終わりではありません。困った時にはサポートを仰げる関係でありたいですし、売り手様は近場の歌舞伎町で新しいお店を開かれるので、お客様を紹介いただけたらうれしいですよね。

交渉して金額を抑えることも、経営者としては大事かもしれません。ただ、未来のことを考えると、今回は提示いただいた金額で買うことが、お互いにとって一番気持ちいいと思ったのです。実際、今も売り手様の新しいお店に遊びに行くなど、いい関係性が築けています。

- 交渉の中で、想定外だったことはありますか。
賃貸借契約のタイミングです。12月15日からオープン予定だったので、引き渡しは12月1日からでよかったんです。ただ、半年ほど前から休業状態だったため、売り手様としてはできるだけ早く売りたい状況で。

これに関しても金額と同じで、「12月からじゃなければ契約しない」と交渉もできますが、今後の関係性を見越すとどちらがよいのかなと。結果的に、当社側が譲る形で11月から契約しました。家賃が安いとはいえ、何もできない空白の1か月が生まれてしまったのは、もったいなかったという気持ちはあります。

もう1つは、仕入れの値段です。以前からの仕入れ先と継続して契約できることにはなったのですが、コロナ禍で鶏肉の値段が2倍ほどに上がっていて。さらに、油の値段も上がっているんですね。仕入れの値段が上がってしまったのは痛手ですが、交渉によって覆せるものではないので仕方ないと思っています。



(人気のもつ煮①)

【最大のリスクを考え、受け入れられるならM&Aを決断すべき】

- 12月から店舗をオープンされていますが、引き継ぎ後のことについて教えてください。お店のオペレーションはどなたに任せているのですか。
新卒時代の同期で、10年以上飲食業に従事してきた者に店長を任せています。彼がちょうど会社を辞めて、漁師をしている実家に戻っているタイミングで。オファーしたところ、ぜひということで東京に帰ってきてくれて。彼に任せることができなかったら、今回のM&Aを見送っていたかもしれないので、つくづくタイミングだなと思います。

- リニューアルしたことはありますか。
まず、もつ煮の味を少し変えました。もともとおいしかったのですが、店長が主導して調味料を変えながらアレンジしたところ、お客様からも「前よりおいしくなったね」と好評です。

また、店内をリフォームし、清潔感のある店づくりを心掛けた結果、「店内の雰囲気が良くなったね」や「お店の中に入りやすくなった」とお客様におっしゃっていただけています。

店内飲食を増やしていけるように、揚げ物専用の大きなフライヤーとガスコンロを使って調理できるメニューも充実させていて。具体的には、椎茸やヤングコーン、山芋などを揚げた野菜の唐揚げ、タコや軟骨の唐揚げ、鶏の雑炊や卵かけご飯などです。中でもだし巻き卵は、店内一番人気のメニューになっています。

さらに、屋号を「太陽庵」から「東京唐揚げランド」に変えました。「唐揚げともつ煮」と書かれた看板が目立つため、店名をしっかり認識しているお客様がいなかったこと、売り手様が店名にこだわりを持ってなかったこと、多店舗展開を見据えて新宿・東京発祥であることが伝わる店名にしたいという理由からです。

- 現在の売上はいかがですか。
売上はまだ以前ほどはあがっていません。 というのも、半年間ほど休業状態だったので、以前来店してくださっていたお客様にも「コロナの影響を受けてお店が潰れてしまったのかな」と思われてしまっているようなんです。

「復活したんだね」と言っていただくこともあるので、チラシ戦略などを練って販促に力を入れていきたいなと。販促活動の成果が出て認知が広がれば、デリバリーやテイクアウトの売上が回復すると思います。



(人気のもつ煮②)

- 今後の展望について教えてください。
EC運用の知見を持っているので、冷凍食品の販売などは検討していて。また、1店舗で終わってしまっては面白くないと思っているので、多店舗展開は必ずしたいです。

「コロナ禍で飲食業を開業なんてリスクが大きいのでは…」と思われるかもしれませんが、ビジネス的な観点からすると、皆が苦労している時期はある意味チャンスで。これまで出てこなかった良い立地の物件が市場に出てくるからです。

今後コロナが本格的に収束を迎える頃に、もう一度波が来ると思っていて。なぜなら、補助金目当てで営業している相当数の「ゾンビ店」が、補助金が期待できなくなったタイミングでどっと閉店すると予想できるからです。そうしたタイミングが来たら、多店舗展開に向けて動く大きなチャンスだと思います。

また、画期的なメニュー提供なのか、安月給・長時間労働というイメージを覆す従業員のワークスタイル実現なのか、具体的に何をするのかは現時点で決まっていませんが、KAZAANAらしく飲食業界の常識にとらわれない新しいことに挑戦して、業界にインパクトを与えられたらと思っています。

- TRANBIを利用してみての感想を教えてください。
売り手様と直接交渉できるところがよかったです。あとは費用ですね。もし成約手数料をがっつり取られてしまうと初期投資が重くなってしまいますが、TRNABIは掛かる費用が月額費用のみだったので助かりました。

TRANBIを見ていると、アパレル工場の案件があったり、民泊の案件が多く掲載されていたりと、コロナ禍の状況や世相を反映するような案件が並んでいて、眺めているだけでも勉強になりました。

- これからM&Aに挑戦される方にアドバイスをお願いします。
最大のリスクを把握した上で、そのリスクを無理せず引き受けられるかを検討することでしょうか。たとえば、私が今回購入した店の経営が立ち行かなくなったとしても、TRANBIに掲載すれば売却できるでしょうし、解体費用も必要ないでしょう。

費用面などのリスクを具体的に算出した上で、失敗しても瀕死状態にはならないとわかったのでM&Aを決断しました。そうした想像ができない場合は、おそらく身の丈に合ってなかったり自分のスキルが足りていなかったりするので、やめておいた方がいいかもしれません。

また、M&Aを検討している分野に精通している、信頼できる方がいると心強いですよ。私も以前、京都の民泊案件の買い申し込みを検討した際に、業界に詳しい方に相談したのですが、その方から京都の民泊の現状や私が買おうとしていた案件への懸念などを教えていただいて、購入手前で留まりました。

調べたり、さまざまな人に聞いたりしていると何を信じていいのか判断できなくなるので、「この分野のことは、この人に聞く」と決めて、その人のアドバイスを信じて従うのが最善かと思います。



(買い手である樫村さん)

***今回樫村さまが買収した案件はこちら*****

「創業三年毎月黒字のBIG唐揚げともつ煮の店」

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----買収した店舗「東京唐揚げランド」の詳細はこちら----

https://tabelog.com/tokyo/A1304/A130401/13225608/

<TRANBI会員限定特典>
お店へご来場の際に、「トランビ会員です」と店員の方にお伝えいただくと「アラカルトの唐揚げともつ煮を20%OFF」になるキャンペーンを行っておりますのでお近くをお立ち寄りの方はぜひご利用ください!
※キャンペーンは予告なく終了する可能性がありますので何卒ご容赦ください

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  • 倉本祐美加
  • ライター紹介倉本祐美加

    関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。

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