リストラクチャリングの意味と目的。M&Aとの関係も解説

リストラクチャリングの意味と目的。M&Aとの関係も解説

リストラクチャリングは、『組織の再構築』を意味する言葉です。不採算部門を売却・縮小し、経営資源をコア事業に集中投下すれば、経営の合理化が図れます。リストラクチャリングの事例やM&Aとの関係性についても解説します。

M&Aとは?意味、種類、手順、メリットを図解で分かりやすく解説!
用語説明
M&Aとは?意味、種類、手順、メリットを図解で分かりやすく解説!

M&Aは企業の成長や経営改善をもたらす強力な手法ですが、その成果を最大限に引き出すためには、その意味から手順、様々な種類やメリット・デメリット、そして成功や失敗の事例まで、包括的な理解が必要です。本記事では、それらを分かりやすくかつ具体的に解説します。これからM&Aを検討する企業経営者や関係者はもちろん、一般的なビジネスパーソンの方もぜひご一読ください。

M&Aの流れを11ステップで徹底解説!準備からPMIまで全手順と成功のポイント
事業承継
M&Aの流れを11ステップで徹底解説!準備からPMIまで全手順と成功のポイント

M&Aは大企業だけでなく、零細企業にとっても事業承継や成長戦略に有効な選択肢です。や具体的な手法、メリット・デメリット、成功に向けた進め方まで、網羅的に解説します。

リストラクチャリングとは

『リストラクチャリング(restructuring)』は、省略して『リストラ』と呼ばれます。広義では、社会構造を根本から見直して再構築することを意味しますが、会社経営においてはどのような意味で使われる言葉なのでしょうか?

企業の構造改革、再構築のこと

企業におけるリストラクチャリングとは、『企業の構造改革』や『事業の再構築』を指します。多くの日本人はリストラというと『解雇』を思い浮かべますが、解雇はリストラクチャリングの一部に過ぎません。

成長戦略を実現するには、組織について根本から見直す必要があります。業績不振や成長の停滞があれば、不採算部門の縮小や撤退、人員削減などを行い、事業の再構築を進めなければなりません。

リストラクチャリングには、単に人を解雇したり、事業を縮小したりするだけでなく、高収益が見込める有望事業に経営資源を集中投下するという意味合いもあります。

企業価値を高めるのが目標

リストラクチャリングの目的は『企業価値を高めること』です。企業価値とは、事業価値に非事業資産の価値を加えた企業全体の財務的価値を指します。

金融機関や投資ファンドは、企業価値を評価して投融資の可否や金額を決定します。取引先も倒産リスクがある会社を避け、企業価値の高い企業との取引を好むのが通常です。

経営不振が続く企業は、各事業の収益性・成長性・安全性などを見直し、リストラクチャリングによって、企業価値を高めていく必要があるでしょう。

リストラクチャリングは、自社の経営部門を中心に全社的なプロジェクトとして取り組むケースもあれば、外部の専門家に協力を依頼するケースもあります。

企業価値はどのように評価する?企業価値を決める要因と評価方法
用語説明
企業価値はどのように評価する?企業価値を決める要因と評価方法

企業価値とは、企業の経済的価値を金額で表したものです。上場企業は株式時価総額が明確に算出できますが、非上場企業の場合どのように価値が決まるのでしょうか?投資やM&Aにおける企業価値評価の重要性や、代表的な評価方法を解説します。

事業におけるリストラクチャリングの例

企業の構造は、財務・人事・事業などに細分化されますが、『リストラクチャリング』というと、事業の再構築を指すのが一般的です。

複数の事業を展開している企業は、各事業に経営資産が適切に分配されているかを見極める必要があります。採算が取れる見込みのない事業があれば、撤退も検討しなければなりません。

不採算事業からの撤退

事業でのリストラクチャリングの代表的な例が『不採算事業からの撤退』です。『不採算』とは、支出に見合うだけの収入が得られていない状態を指します。

不採算事業がある場合、事業規模の縮小や人員削減を実施する場合もありますが、再建が困難であれば、事業から完全に手を引く『撤退』を選択します。

撤退の狙いは、不採算部門をなくし、経営資源を収益性の高いコア事業に集中投下することです。コア事業とノンコア事業を明確化し、コア事業に資源を集める経営戦略は『選択と集中』と呼ばれます。

PPMなどにより見極める

複数の事業を多角的に展開している企業は、『PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)』を活用し、経営資源の配分が最適であるかを見極めます。

PPMとは、各事業の位置付けや製品・事業の組み合わせを確認し、経営資源(ヒト・モノ・カネ)を無駄なく分配するためのフレームワークです。

実際のPPM分析では、縦軸を市場成長率、横軸を市場シェア率とし、各事業を四つの象限に分けて経営資源の配分を判断します。

例えば、市場成長率と市場シェア率の両方が高い象限は、売上を伸ばしやすい『花形』です。ただし競合企業も多いため、『お金を生み出す可能性は高いが、大きな投資も必要』と判断できるでしょう。

このように、PPMによって各事業の投資効率を判断し、全体の収益力が高まるような事業構成を考えていきます。

「選択と集中」はもう古い?事業の多角化との違い、誤った解釈とは
手法
「選択と集中」はもう古い?事業の多角化との違い、誤った解釈とは

『選択と集中』は、1990年代半ば頃から注目され始めた経営戦略です。『多角化の否定』と考える人もいますが、本来の意図は『フォーカス(集中)すること』です。選択と集中の意味や、メリット・デメリットについて理解を深めましょう。

事業価値はどう決まる?算出方法や企業価値・株主価値との違いを紹介
用語説明
事業価値はどう決まる?算出方法や企業価値・株主価値との違いを紹介

M&Aで事業の譲渡価格を決めるには、対象企業の『事業価値』を見極めることが重要です。事業価値は企業価値の一部であり、将来的にどれだけの収益を生み出せるかを示します。企業価値・株主価値との違いや、価値の算出方法を解説します。

財務におけるリストラクチャリングの例

財務におけるリストラクチャリングは、企業のキャッシュフローの改善が目的です。専門的な知識が必要となるため、M&Aの専門家や税理士、コンサルタントの助言の下で行うのが一般的です。

資産のリストラ

資産のリストラは『アセット・リストラクチャリング』と呼ばれます。一言でいえば、不要な不動産や流動性の高い有価証券などを売却し、キャッシュフローの改善を目指す行為です。

事業に関係のない資産を売却すれば、短期間で資金が調達できる上、売却代金を借入金の弁済に充てることも可能でしょう。

特に、工場や社員寮の跡地といった『不動産の整理』は、キャッシュフローを大きく改善します。人員削減のリストラは周囲にネガティブな印象を与えますが、不動産のリストラは企業価値の向上につながるため、株主や投資家には好印象です。

債務の整理、再構築

企業の債務の整理・再構築は『デット・リストラクチャリング』と呼ばれます。

会社が大きな負債を抱えていると、本来事業に費やすべき資金が元本と利息の支払いに消費され、本業が立ちいかなくなってしまうでしょう。負債を軽減するため、デット・リストラクチャリングでは以下のような手法を用います。

  • DPO(Discount Pay Off):債権者が債権を額面以下の価格で第三者に売却、その後、債務者が債権を第三者から額面以下で買い取る方法
  • DES(Debt Equity Swap):債権者に株式を発行し債務と交換する方法
  • DDS(Debt Debt Swap):債務者に対して有する債権を、債権者が別の条件による債権に変更すること
  • 債権放棄:債権者の一方的な意思表示で債務の一部または全ての返済を放棄すること
  • リスケジュール:借金の返済期間やスケジュールを変更してもらうこと

適切な資本構成を目指す

事業再生を行うにあたり、企業の資本構成を適切に変えることを『エクイティ・リストラクチャリング』といいます。

デット・リストラクチャリングが負債を減らすアプローチであるのに対し、エクイティ・リストラクチャリングは貸借対照表の『純資産の部』の資本を増やし、強化することが目的です。

手法としては、先に挙げたDES(Debt Equity Swap)のほか、『株式の併合』や『全部取得条項付株式の発行』などが用いられます。

全部取得条項付株式とは、株主総会の特別決議によって、会社が全部を取得できる株式のことです。

企業価値評価で用いられるDCF法。将来のFCF、TVの算出とは
手法
企業価値評価で用いられるDCF法。将来のFCF、TVの算出とは

DCF(Discounted Cash Flow)法は、将来のキャッシュ・フローを現在の価値に割り引いて、企業価値を算定する方法です。精度の高い事業計画書を使用することで、企業価値をより適正に判断できます。DCF法で企業価値を算出する流れと大まかな計算方法を解説します。

債務超過や赤字、資金ショートの意味とは。原因と対策を紹介
手法
債務超過や赤字、資金ショートの意味とは。原因と対策を紹介

自社が債務超過に陥っているなら、赤字経営や倒産を回避するための対策が必要です。債務超過になる原因や対処法を知っておけば、状況の改善に役立てられるでしょう。赤字・資金ショートとの違いや、債務超過による影響についても解説します。

業務におけるリストラクチャリングの例

業務のリストラクチャリングは、業務面での営業利益を上げることが主な目的です。『経費カット』と『売上アップ』が大きな柱となっており、経費カットの中には、人件費や人員削減のリストラが含まれます。

人件費、人員削減

経費を削減するには、経費が多く費やされているところから手を付けるのが一般的です。特に、会社の固定費の多くを占める『人件費』は、リストラクチャリングの最優先事項の一つといえるでしょう。

人件費削減の順番としては、最初に賞与や所定外勤務を減らすところからスタートします。次に、所定内業務や法定外福利厚生費の見直しを行い、最後にベースダウンや賃金カットに着手します。

人員削減は慎重に行う必要がある

人員を削減せざるを得ない場合は、従業員1人ずつに理由を説明し、納得してもらった上で手続きを進めなければなりません。会社都合で一方的に解雇をすれば、労働基準法違反となり、ペナルティが科せられます。

企業にとって、人材は財産です。無計画な人員削減は企業への不信感を生み、最終的には優秀な人材の流出や人材不足につながる恐れがあるでしょう。新たな人材を採用するには時間と費用がかかることを踏まえ、人員削減は慎重に行うべきといえます。

まずは不採算事業を立て直す

経費削減と同時に行う必要があるのが、不採算事業の立て直しです。赤字続きで再建の見込みがない場合は事業撤退もやむを得ませんが、マーケティング戦略の見直しや原価構造の把握、製品改良などを通じて利益率の改善が狙える場合もあります。

まずは、採算が取れなくなっている理由や赤字に転落したタイミングを徹底的に分析することが重要です。損益分析には会計に関する知識が必要になる場合もあるため、プロの力を借りることも視野に入れましょう。

業務効率化を進める

人員の削減をする前に、業務を効率化した上で、適正な人員計画を立てる必要があります。

業務の効率化をせずに人員計画を実施してしまうと、1人あたりのタスクが多くなってしまったり、優先度の低い業務に携わる人が出てきたりとさまざまな問題が生じるためです。

業務効率化のアイデアとしては、『アウトソーシングの活用』や『システムの導入』『AIによる事業の自動化』などが挙げられます。

資本コストの計算方法。企業価値評価の重要指標WACCを知ろう
用語説明
資本コストの計算方法。企業価値評価の重要指標WACCを知ろう

資本コストは企業が資金調達をするときに必要な費用です。また資本コストを構成する負債コスト・株主資本コストを用いると、WACCを求められます。企業価値評価を考える上で重要な役割を果たす指標について確認しましょう。

M&Aによるリストラクチャリング

M&Aには、株式譲渡や事業譲渡、資本提携などのさまざまなスキーム(手法)があり、リストラクチャリングの手段として活用する企業は少なくありません。M&Aによるリストラクチャリングの例と期待できる効果を紹介します。

買収などによって戦略を実現する

不採算事業を切り離すのも一つの手ですが、他社の買収を通じて収益構造を改革する方法もあります。言い換えれば、自社に必要な機能・事業を積極的に獲得するのが買収によるリストラクチャリングです。

  • 本業とのシナジー効果
  • 新規事業への参入
  • 事業の多角化
  • 事業規模の拡大

『シナジー効果』とは、二つの異なるものが組み合わさって生まれるプラスの効果のことです。他社の事業を獲得すると、2社の技術やノウハウが組み合わさった新たな商品を開発できる可能性が高まります。

また、新規事業を立ち上げるには多額のコストと時間がかかりますが、M&Aでは既に軌道に乗っている事業を獲得できるので、事業の多角化にスムーズに取り組めるでしょう。

組織の再構築のため、事業の権利義務の一部または全てを他社に承継する『会社分割(吸収分割・新設分割)』が用いられる場合もあります。

吸収分割では、買い手は対価を株式または現金で渡すことができるため、必ずしも多額の資金を必要としません。

不採算事業を切り離し、経営のスリム化

M&Aの手法の一つに『事業譲渡』があります。会社が事業の一部または全てを他社に売却する行為で、双方の契約により、譲渡する範囲が選択できるのが特徴です。

本業とのシナジー効果が薄い事業や不採算事業を会社から切り離せば、経営のスリム化やコア事業への注力が実現できるだけでなく、売却によりまとまった資金を獲得できます。

吸収分割で事業を承継した場合、買い手は現金ではなく『株式』で対価を支払う可能性もあります。非上場企業の株式は、『株式の現金化』が難しい点に注意しましょう。

会社を売りたい経営者が知っておきたい知識。M&Aの方法と流れ
具体的事例
会社を売りたい経営者が知っておきたい知識。M&Aの方法と流れ

近年はM&Aによる会社売却が増えています。売却に当たり、売り手は磨き上げを実施し、企業価値を少しでも高める努力をしましょう。株式譲渡による会社売却の流れや注意点、売れない会社と売れる会社の特徴を解説します。

事業の跡継ぎいない問題をどうする?経営者が取り得る選択肢を解説
具体的事例
事業の跡継ぎいない問題をどうする?経営者が取り得る選択肢を解説

少子高齢化による人手不足をはじめ、さまざまな要因で跡継ぎがいない問題に直面する企業が増えています。廃業の大きな原因であり、早急に跡継ぎを見つけたいと考えている事業主も多いでしょう。後継者が不在の場合に取り得る選択肢を解説します。

まとめ

リストラクチャリングは、企業の成長戦略の一つです。企業価値を高めることを目的に、事業・財務・業務・資産などの各構造の見直しを行います。

事業のリストラクチャリングでは、不採算事業を手放し、コア事業に集中するため、事業譲渡や会社分割などのM&A手法が用いられることがあります。自社にとっては不要な事業でも、他社から見れば、高収益につながる重要な分野かもしれません。

PPAとは?M&Aにおける意味と会計処理の流れをわかりやすく解説
用語説明
PPAとは?M&Aにおける意味と会計処理の流れをわかりやすく解説

PPA(Purchase Price Allocation:取得原価の配分)とは、買収価格を資産や負債に時価で配分し、企業価値を財務諸表に正しく反映させるための重要な会計手続きです。 本記事では、PPAの基本的な仕組みと目的、会計処理の5つのステップ、実務での注意点や失敗事例とその対策までを解説します。

バリュエーションの目的とポイント。三つの手法の違いを理解しよう
用語説明
バリュエーションの目的とポイント。三つの手法の違いを理解しよう

M&Aにおけるバリュエーションとは、買収対象の企業価値を評価することです。売り手と買い手は、その評価をもとに価格交渉の妥協点を探っていきます。バリュエーションの目的と、評価に用いられる三つの手法について詳しく解説します。

M&Aにおけるエグゼキューション業務とは。成功に向けて重要な過程
用語説明
M&Aにおけるエグゼキューション業務とは。成功に向けて重要な過程

M&Aのプロセスでは、エグゼキューションと呼ばれるフェーズがあります。どの段階の業務のことを指すのか理解しておけば、思い描いているM&Aの実現に一歩近づけるでしょう。エグゼキューションの意味や具体的な業務について解説します。

期待収益率とは?株式投資やM&Aに欠かせない考え方を解説
用語説明
期待収益率とは?株式投資やM&Aに欠かせない考え方を解説

将来の利益が不確実な投資において、投資家はリスクを踏まえた『期待収益率』を考慮する必要があります。M&Aの企業価値評価や収益性分析にも活用できるため、会社買収を考えている人は、期待収益率の考え方や推計方法を理解しておきましょう。

記事監修: 株式会社トランビ 代表取締役CEO 高橋 聡
【プロフィール】
アスクホールディングス株式会社代表取締役社長、中小企業庁中小M&Aガイドライン作成委員。アクセンチュアを経てアスクホールディングス株式会社を先代から事業承継。中小企業におけるM&A活性化の必要性を痛感しトランビを創業。
著書: 「起業するより会社は買いなさい」サラリーマン・中小企業のためのミニM&Aのススメ
「会社は、廃業せずに売りなさい」後継者不在の問題は、ネットで解決!