後継者育成は早いほどよい?計画の立て方・育成方法・課題を徹底解説
後継者育成は多くの企業にとっての課題です。経営者のスキルはすぐには身に付かないため、長期的な計画を策定した上で一歩ずつ進めていく必要があります。サクセッションプランのポイントや育成方法、後継者が見つからない場合の解決法を解説します。
「会社を任せられる後継者を、どう育てればいいのか」——経営者の高齢化が進むなか、後継者育成は多くの中小企業が直面する重要な経営課題です。経営者に求められるスキルは一朝一夕には身につかず、行き当たりばったりでは、いざ引退という段になって間に合わないという事態にもなりかねません。
後継者育成を成功させる鍵は、早い段階から計画(サクセッション・プラン)を立て、社内外の学びをバランスよく組み合わせて、段階的に育てていくことです。育成には5〜10年かかることも多く、着手は早ければ早いほど有利になります。
この記事では、後継者育成の重要性から、育成計画の立て方、具体的な育成方法、育成時のポイント、そして後継者が見つからない場合の解決策までをわかりやすく解説します。後継者育成の課題に取り組む経営者の参考にしてください。
企業における後継者育成の重要性
「後継者をどう育成するか」という壁に直面する中小企業経営者は少なくありません。経営者の高齢化が進むなか、後継者育成がスムーズに進まなければ、廃業や解散につながる恐れもあります。まずは後継者育成の重要性を確認しましょう。
なぜ後継者の育成が必要か?
後継者育成とは、将来の経営者候補を選定し、計画に基づいて育成する取り組みです。経営者は遅かれ早かれ引退を迎えます。育成を行わない場合、企業にはどのような影響があるのでしょうか。
まず考えられるのが、経営者のスキル不足による「経営の悪化」です。資質や能力に乏しい人物がトップに就くと、業績悪化を招くおそれがあります。とくに中小企業は経営者が企業全体に及ぼす影響が大きく、経営者によって企業の命運が変わります。経営者の人柄やリーダーシップが評価されている企業では、経営者の交代と同時に離職者が相次いだり、取引先との関係が崩れたりするケースも少なくありません。経営者が理念や思いをしっかり引き継ぐことで、こうした求心力の低下を防げます。
経営者のスキルはすぐには身に付かない
単なる業務の引き継ぎとは違い、経営者には事業の専門性に加え、リーダーシップ・先見性・リスク管理能力・決断力など、多様なスキルが求められます。これらは一朝一夕には身につかず、日々の研さんと周囲のサポートが必要です。
中小企業庁の調査では、後継者が経営者になるために必要と考える準備期間について、「5年以上」と答えた人が40%を超え、事業拡大を目指すタイプでは「6〜10年」と答えた人も2割程度に上っています。後継者育成には5〜10年かかると想定し、経営者は自身の経営能力が衰えないうちに育成計画をスタートさせることが重要です。
後継者育成計画(サクセッション・プラン)の策定フロー
後継者育成の最初のステップは、「後継者育成計画(サクセッション・プラン)」の策定です。幅広い人材から後継者候補を選び、時間をかけて経営者にふさわしい人材へと育てます。まずは計画策定の全体像を整理しましょう。
| ステップ | やること | ポイント |
|---|---|---|
| ①方針・理念の明確化 | 目指す企業像・ロードマップを描く | あるべき後継者像を定める |
| ②要件の絞り込み | 求める資質・スキルを言語化 | 要件に優先順位をつける |
| ③候補者の選出 | 将来性のある人材を複数選ぶ | 実績よりポテンシャル重視 |
| ④育成方法の決定 | 社内・社外の育成を組み合わせる | 不足スキルを明確にする |
①経営方針・理念を明確にする
後継者育成では、実務面の強化だけでなく、企業の理念やビジョンを後継者にしっかり承継することが欠かせません。承継によってどのような企業を目指すのかを再認識することから始めましょう。
自社の経営方針・戦略・課題・組織風土を再確認すれば、後継者に必要な資質やスキル、価値観が明らかになり、「あるべき後継者の姿」が見えてきます。あわせて、経営者の交代時期を想定し、いつ・誰が・何を行うかを定めた育成ロードマップも作成します。
②後継者の要件を絞り込む
次に、後継者の具体的な要件を絞り込み、客観的な評価基準を作成します。求められる資質・スキルは企業の理念やビジョンに合致していることが前提で、詳細は企業ごとに異なります。一般的に挙げられるのは次のような要素です。
- マインド:リーダーシップ・粘り強さ・冷静さ・決断力・実行力
- 能力:変化への対応力・リスク管理能力
- 知識・経験:経営や事業の知識、実務経験、税務・財務・法務の知識、折衝力
育成前の段階で、すべての要素を満たす候補者はほとんどいません。要件に優先順位をつけておくと、候補者の見極めがスムーズに進みます。
③後継者候補を選出する
後継者育成は数年にわたる長期計画です。副社長や役員から選ぶ手もありますが、長期的に見れば必ずしも最善とは限りません。5年後・10年後の変化を見据え、将来性のある人材を選出する必要があります。
つまり、これまでの実績や経歴だけでなく、資質やポテンシャルを加味して選ぶことが重要です。交代まで時間がある場合は有望な若手を複数選抜してモニタリングし、間近に迫っている場合でも、1名に絞らず数名の候補者を立てるのが望ましいでしょう。
④具体的な育成方法を決定する
候補者を選出したら、具体的な育成方法を設定します。あるべき経営者像と比較して、候補者に何が足りないのか、どのようなスキルを身につけてほしいのかを明らかにしましょう。
育成方法は「社内での育成」と「社外での育成」に大別されます。両者をバランスよく取り入れることが大切です。社内で早くから責任あるポジションを経験させたり、社外(取引先や同業他社)での勤務を経験させたりすることで、自社にはない視点やノウハウも得られます。
後継者を育成する具体的な方法
後継者育成は「社内での育成」が軸となりますが、知識の幅を広げ、新たな視野を得るには「社外での学び」も欠かせません。学びの機会をできるだけ多く与えることが、育成成功の鍵です。
社内の業務プロセスを理解させる
経営幹部のポジションをすぐに与えるのではなく、各部署をローテーションで経験させ、社内の業務プロセスを理解させるのが理想です。現場感覚が身につくほか、次のようなメリットがあります。
- 業務に関連する専門知識が得られる
- 税務・財務・法務の知識が身につく
- 社内全体を俯瞰する能力が培われる
- 各部署の社員と良好な関係を築ける
チームリーダー・係長・課長・部長などの役職を順に経験させることで、組織における各役割への理解も深まります。
経営幹部のポジションで能力を磨く
現場で業務を遂行する能力と、経営者としての能力は別物です。トップとしての責任感や決断力、対外的な折衝力は、経営に参画しなければ身につきません。各部署・各役職での経験を積んだ後は、経営幹部のポジションで「経営感覚」を磨きます。
経営戦略や事業計画の策定に積極的に関わってもらい、経営の実務経験を積ませましょう。役員クラスへの昇進、経営企画室長の任命、子会社の経営を任せるなどが選択肢です。いきなり幹部を任せるのではなく、新規事業の立ち上げを担当させ、成長度合いを見ながら徐々に重要な任務へ移行するのも有効です。
経営者が理念やノウハウを伝授する
後継者育成の仕上げとして、経営者が後継者に引き継ぎを行います。1対1で話せる機会を設け、自社の経営理念・ビジョン・思い・経営ノウハウを共有しましょう。今後の事業計画や経営戦略は、具体的なデータを使って説明すると理解が深まります。
大企業では、後継者候補を社長付や秘書として一定期間働かせるケースも珍しくありません。思いや経営ノウハウをしっかり刷り込むには、経営者と後継者が共に行動する機会を増やすことが効果的です。
後継者育成塾やセミナーに参加させる
社内での育成と並行し、後継者育成塾やセミナー、ビジネススクールにも積極的に参加させましょう。経営に必要な一般知識やスキルを効率よく習得でき、後継者同士の交流を通じて経営に必要なネットワーク(人脈)も築けます。
後継者向けのセミナーは、商工会・商工会議所・民間の専門機関などが定期的に開催しています。代表的なビジネススクールには、中小企業基盤整備機構が運営する「中小企業大学校」があり、経営後継者研修で経営の基礎を集中的に学べます。
後継者を育成する際のポイント・課題
後継者育成計画の主目的は後継者を育てることですが、それに付随する課題への対応も欠かせません。後継者を支えるサポート役の確保や、育成にかかる時間・コストの把握など、留意すべきポイントを解説します。
「経営者の右腕」を確保・育成する
事業承継後によく直面する課題が、経営者を補佐する人材(右腕)がいないという問題です。後継者は就任後、重要な経営判断を自ら下さなければならず、孤独を感じたり思い悩んだりする場面が増えます。
後継者育成計画には、補佐役となる人材の確保と育成も忘れずに盛り込む必要があります。中小企業庁の調査では、補佐役に求める能力として「事業に関する専門知識と実務経験」「経営に関する専門知識と実務経験」「営業スキル」などが多く挙げられています。
育成にかかる時間とコストを把握する
後継者育成の大きな課題が、まとまった時間とコストがかかることです。3年・5年・10年と計画が長くなるほどコストは増大します。そこで、国や地方自治体の後継者育成事業や補助金の活用を検討しましょう。
たとえば、中小企業大学校の研修受講料を補助する自治体の制度などがあります。また、国が毎年公募する事業承継・M&A補助金には「経営者交代型」の申請枠があり、条件に合致すれば引き継ぎに要する経費の一部が補助されます。国や自治体の情報は不定期に更新されるため、こまめに確認しましょう。
後継者が見つからない場合はどうする?
多くの中小企業では、事業承継の既定路線は「親族内承継」や「従業員への承継」です。しかし、ふさわしい人材がいない、または育成がうまくいかなかった場合は、M&Aによる「第三者承継」という選択肢もあります。
M&Aで第三者に会社を承継する
M&Aによる第三者承継とは、親族や社員以外の第三者に会社を売却することです。近年は中小企業の後継者不在が深刻化し、中小企業庁も「中小M&A推進計画」を掲げてM&Aを後押ししています。
第三者承継を選べば、後継者不在による廃業を回避でき、優秀な人材を次期経営者として迎えられる可能性が高まります。経営経験のある人材なら、育成や引き継ぎの時間・コストも大きく軽減できます。一方で、経営理念や企業文化への理解が乏しい人が経営者になると、社員から反発が出る可能性もあります。譲渡金額や従業員の待遇は買い手との交渉で決まるため、メリット・デメリットを理解したうえで、自社にとって最適な選択肢を検討しましょう。
後継者育成に関するよくある質問(FAQ)
最後に、後継者育成についてよく寄せられる疑問にお答えします。
後継者育成にはどのくらいの期間が必要ですか?
一般に5〜10年程度が必要とされます。中小企業庁の調査でも、後継者が経営者になるための準備期間として「5年以上」と答えた人が4割を超えています。経営スキルは短期間では身につかないため、経営者の能力が衰えないうちに、早めに育成を始めることが重要です。
後継者育成の主な課題は何ですか?
主な課題は、育成に長い時間とコストがかかること、経営者を補佐する「右腕」人材の確保、理念やノウハウの承継です。とくに、実務能力だけでなく経営者としての決断力やリーダーシップを育てるには、計画的な取り組みが欠かせません。補助金や外部研修も活用しながら、長期計画で進めましょう。
後継者に必要な知識やスキルは何ですか?
事業に関する専門知識・実務経験に加え、リーダーシップ・決断力・リスク管理能力・折衝力などが求められます。さらに、税務・財務・法務の基礎知識や、取引先・金融機関との関係を築くコミュニケーション能力も重要です。これらを、社内でのローテーションや社外研修を通じて段階的に身につけていきます。
後継者を育成しても引き継げない場合はどうすればよいですか?
親族や社内に適任者がいない、育成が間に合わないといった場合は、M&Aによる第三者承継が有力な選択肢です。経営経験のある人材に引き継げば、廃業を回避しつつ事業を存続できます。まずは事業承継・引継ぎ支援センターやM&Aマッチングサービスに相談し、情報収集から始めるとよいでしょう。
まとめ|後継者育成は早いほどよい
後継者育成は、事業承継に向けた第一歩です。育成には5〜10年かかることも多く、着手は早ければ早いほどよいといえます。本記事のポイントを整理します。
- 経営スキルはすぐに身につかないため、後継者育成は5〜10年の長期計画で進める
- まずサクセッション・プランを策定し、理念の明確化→要件の絞り込み→候補選出→育成方法決定の順で進める
- 育成は社内の業務経験と社外での学びを組み合わせ、段階的に経営感覚を磨く
- 課題は時間とコスト・右腕人材の確保。補助金や外部研修も活用する
- 育成が難しい場合は、M&Aによる第三者承継で廃業を回避する道もある
後継者育成のロードマップを作成し、候補者の選定から具体的な育成方法までをスケジュールに落とし込みましょう。育成がうまくいかない場合は、M&Aによる事業承継という選択肢もあります。専門家の助言も取り入れながら、納得のいく方法を模索してください。事業承継やM&Aを検討されている方は、国内最大級のM&A・事業承継マッチングプラットフォーム「TRANBI(トランビ)」もぜひご活用ください。
