2022-09-20

創業50年の製作所、一度は後継者が白紙になるも金融機関が「これなら相手が見つかる」と確信した2つの理由とは?

売り手(法人):株式会社澤村製作所

<中小企業の事業売却・スモールM&A事例>

 

茨城県石岡市で、1973年に創業した澤村製作所。プラスチック射出成型業の会社で、プラモデル商品の製作や、家電・自動車・住宅設備等の部品の製作を行っており、取引先には誰もが知る大手企業が名を連ねています。

創業者であり代表の澤村正さんは、現在84歳。もともと親族に継ぐ予定が難しくなり、金融機関のサポートを受けてM&Aでの売却に挑戦します。

結果的に、技術力を高く評価されて、グループ会社で同事業を展開している企業への売却が成功します。長年育ててきた製作所の誇りやM&A前の思い、買い手様の決め手などを伺いました。

【得意先からの突然の契約終了通告やリーマンショックも経験。その度に事業を持ち直してきた】

- 売却した澤村製作所の成り立ちや、澤村様の経歴から教えてください。
澤村製作所は、1973年に私個人で立ち上げ、1976年に株式会社に移行しました。

私は出身が熊本で、学校を卒業した後、遠洋マグロ漁船の船長を務めていました。知り合いに紹介してもらった女性と結婚したのですが、彼女が茨城県石岡市出身で、結婚してその地域の土地を買いました。それが、今の澤村製作所の敷地となっています。

マグロ漁船の船長は、収入は安定しているものの、一度出発したら2か月、長い時には半年から1年ほど帰ってこれません。家庭での時間を大事にしたかったこともあり、27歳の時に石岡のプラスチック製造工場に就職したんです。

4年ほど働いた後、ドイツ製の成型機を取り扱っている東京の商社に誘われて転職し、複数の大手電機メーカーの元を飛び回りました。電気関係の学校を卒業していたため、“半・技術者、半・営業マン”として活躍できたのです。

大手時計メーカーもお客様だったのですが、そこが石岡に工場を展開することになって。「下請けを探している。澤村さんに仕事を任せるから独立しないか」と誘われたことを機に、独立しました。しだいに商社時代のお客様からも仕事をいただけるようになったのです。

- 事業は順調に進みましたか。
バブルの頃までは順調で、「いけいけ、どんどん」と新しい機械や設備を導入していました。

ただ、次第に日本でものづくりをしても採算が合わない時代になってしまって。売上の多くを占めていた大手時計メーカーも、石岡の工場を閉鎖して中国とタイに工場を移転することになり、契約を終了することになりました。それ以降も、2008年のリーマンショック時には不渡りを食らうなど、苦労が続きました。

ただ、新しい取引先を開拓しないことには売上が立ちません。商社経由で大手精密機器メーカーのお仕事を受けたり、照明器具メーカーや住宅設備機器を手掛ける企業からお仕事をいただいたりと、地道に取引先を増やしてきました。たとえば、トイレットペーパーホルダーの部品も、多い時には月1万個ほど製造した経験があります。

転機は2010年ごろで、大手玩具メーカーからプラモデルの部品制作で発注をいただいたことがきっかけです。売上が大きく上がり、現在は売上の4割ほどをその案件が占めています。



(※写真はイメージです)

【婿へ事業承継の予定が白紙に。後継者探しを決意】

- 大手企業とのお取引実績が豊富ですが、信頼を集める澤村製作所の強みはどんなところにあるのでしょうか。
まずは年中無休であることです。交代勤務制にしていて、土曜と日曜も休まず、365日24時間体制で稼働します。我々は、取引先から預かった金型に樹脂を流し込んで製品を作っているのですが、当然稼働時間が長いぶん生産可能個数が増えるので、取引先からも喜ばれますし、売上も上がります

また、大小幅広く15台の成型機を使用しており、多種多様なプラスチック成型が可能な点も強みです。さらに、時計の秒針や分針や時針のプラスチック部分の成型を月100万個ほど手掛けたこともあるなど、精密機械の加工にも強みを持っています。

我々が手掛けているプラスチック射出成型の仕事の工程は、金型を取り付け、プラスチックの材料を入れて乾燥させ、コンピュータで制御して成型機に流し込んで製品を作り、出来上がったら取り出して、寸法を測って確認した後に納品となります。

プラスチック成型を知らない方からは、「金型さえあれば、加工は簡単ではないか」と思われるかもしれませんが、実は相当な技術が必要です。金型を温めたり冷やしたり、サイクルや圧力を調整したり、コンピュータで成型機を適切にセッティングしたりしなければならないので、クオリティの高い製品を作るにはかなりの経験が必要になります。

- 優秀な社員の方が揃っていることも強みかと思います。どのようにして集められたのですか?
創業当初は、近所のおばさま方や高校生にパートやアルバイトで来てもらっていました。実は、当時アルバイトで来てくれていた高校生が今の係長です。今は60代で、勤続40年以上の大ベテランです。ただ、最近の若者には「24時間交代制勤務」という働き方があまり人気ではないため、若いメンバーはなかなか増えず、ベテランのメンバーが頑張っています。

現在の社員は20名ほどですが、うち8名が外国人社員です。皆、仕事熱心ですが、特に頼りになるのがネパール出身の社員です。教員免許所持のエリートで、社内で通訳のような役割を果たしてくれたり、私の言葉の絶妙なニュアンスを正しく社員に伝達してくれたりして、非常に助かっています。

- 今回、売却を決意したのはどうしてですか。
現在84歳であるため、以前から事業承継を考えていました。娘の旦那が婿養子に入ってくれているので、彼に引き継ぐ気持ちでいたのですが、負債があったからなのか、自信がなくなってしまったのかは定かではないのですが、「できません」と言われてしまって。

なんとか後継者を探さねばと、まず従業員に聞いてみたものの、引き受け手は見つからず。得意先にも相談しましたが見つからなかったため、事業売却を決意したのです。

近年は銀行も事業承継に力を入れているので、以前からそういったお話はいただいていました。複数の銀行や信用金庫、商工会議所などから譲受先の候補を紹介していただきました。ここ5~6年は業績が黒字転換していたことや、大手企業を取引先として抱えていた点を評価して、「これなら買い手は見つかる」と思っていただいたみたいです。

- 知らない方に事業を譲ることを不安には思われなかったですか。
もちろん不安でした。私の体が元気な限り働いて、解散する選択肢もあったと思います。ただ、せっかくここまで事業を育ててきましたし、従業員も一生懸命働いてくれているので、残したいなと、決断しました。



(※写真はイメージです)

【M&A前に買い手候補から仕事の発注が!売上を伸ばしてくれる相手だと確信】

- どのような買い手様が集まり、どのようにして譲渡先を決定されましたか。
銀行経由で、アルミダイキャストを手掛ける企業やペットボトル容器を製造する企業を紹介していただきました。合計5社ほど工場を視察に来ましたが、中には「規模が大きすぎて手に負えないので、辞退します」という方もいましたし、「プラスチック成型に手を出そうかな」というモチベーションで来られた異業種の方との話し合いは、まとまりませんでした。

最終的に、譲渡先に決まったのは日本政策金融公庫から紹介された、アニメ向け玩具やグッズを製造・販売しているカネバンという企業様です。カネバンのグループ会社であるナガヨシという企業で、我々と同じような射出成型業を行っていたため、異業種の企業様と比べると話が早くて進みやすかったんです。社長様がまだ40代で、パワーに満ち溢れていたことも魅力でした。

当社は新しい機械を揃えていたということもあり、視察に来た時は驚かれてもいました。また、実はM&Aの話が進む前に「M&Aとは別で、うちで受けきれない仕事を依頼できないか」とお話をいただき、取引をさせていただくことになりました。その仕事をやり遂げたことで、当社の技術力を非常に買っていただいたようです。同時に私としてもカネバン様と組むことで、今後の大きな需要も見込めると判断することができました

さらにカネバン様も、当社のメインの取引先である大手玩具メーカーと偶然にも取引があることがわかって縁を感じました。こうした共通点があったことも大きかったように思います。

製造している製品やルートや窓口もまったく別なので、バッティングしていなくてよかったですし、カネバン様にとっては大手玩具メーカーとの繋がりがより強固になる点で、メリットを感じていただけたのではないでしょうか。

交渉面は日本政策金融公庫に任せていましたが、非常にスムーズに進み、当初の希望通り数千万円で売却できました。

- 従業員の方の反応はいかがでしたか。
私の年齢もあるので、そろそろ交代するだろうと思っていたでしょうし、毎週のように銀行の担当者や買い手候補の方が視察に来るので、気付いていたと思います。経営者交代に伴って退職を選ぶ従業員もおらず、安心しました。



(※写真はイメージです)

【取引先や実績はシビアに見られる】

- 売却が成立して、現在はどのような状況ですか。
カネバン様から工場長が来て、指揮を執ってくれています。彼はPC操作などに長けている一方で現場経験はない方ですが、従業員に積極的に質問をしてコミュニケーションを取りながら、熱心に取り組んでくれています。

また、カネバン様から仕事の発注が多くどんどん請けていて、現在は15台の機械のうち5台程度をカネバンからいただいた仕事にあてています。今後、さらに新しい機械を導入しようかという話も出ているようで、うれしい限りです。

- 今回のM&Aを振り返ってみての感想を教えてください。
周りにも事業売却を考えている人は多くいますが、やはり買い手様もいい案件を探しているので、赤字だったり、取引先が魅力的でなかったり、実績が十分でなかったりすると話がまとまりづらいだろうと感じました。この会社は黒字を続けていたこと、大きな取引先がいたことが大きな武器になったと思います。

また、当社は同業種の企業と縁があったのでよかったものの、「異業種への参入を目的に買いたい」方と交渉するとなると、擦り合わせるべき事項が多くなり、トラブルも起こりやすくなる気がします

M&Aの相手を探すのは、結婚相手を見つけるのと同じくらい難しいのかもしれません。タイミングも大事で、本当によく巡りあえてよかったなと思います。

 

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  • 倉本祐美加
  • ライター紹介倉本祐美加

    関西学院大学卒業後、クラウド製品を扱うIT企業のインサイドセールス職を経て2016年にライターとして独立。企業取材を中心としたインタビュー原稿の制作に従事していますが、エンタメ・スポーツ・文化等幅広く好みます。

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