スクイーズアウトのメリットは?少数株主の反対に注意が必要

スクイーズアウトのメリットは?少数株主の反対に注意が必要

スクイーズアウトとは、大株主が少数株主の株式を強制的に買い取って経営を完全掌握する手法です。会社からの一方的な締め出しに対し、少数株主は抵抗できないわけではありません。スクイーズアウトの実施手段やメリット、注意点について解説します。

スクイーズアウトとは

『スクイーズアウト(Squeeze Out)』は、英語で『締め出し』を意味する言葉で、M&Aでは少数株主を強制的に排除する手法を指します。実際にどのようなシーンで用いられるのでしょうか?

大株主による少数株主排除のこと

株式会社では、株式の大多数を保有する株主を『大株主(支配株主)』、それ以外を『少数株主』と呼びます。スクイーズアウトとは、大株主が少数株主の株式を強制的に買い取り、その会社の100%の株式を保有する行為です。

通常は、株主同士の話し合いと交渉により株式譲渡が行われますが、『少数株主が譲渡に応じない』『少数株主が分散していて連絡すら取れない』というケースも少なくありません。

スクイーズアウトは『通常の方法では株式取得が難しい場合』に用いられると考えましょう。

TOBとの関係

TOB(株式公開買付)とは、取引市場外で株の買付を行う手法の一つです。上場企業の株式を取得したい場合、不特定多数の株主に対してあらかじめ買い取る株数・株価・買付期間を公告した上で、一括して買い取りを行います。

上場会社を完全子会社にしたい場合、TOBで全株式を取得できるのが理想ですが、当然ながらTOBに応募しない株主も存在します。

TOBの後にスクイーズアウトを実施すれば、残存株式の全てを取得することが可能です。一段階目にTOB、二段階目にスクイーズアウトを行う手法は『二段階買収』と呼ばれます。

スクイーズアウトが用いられるケース

少数株主の株式を全て買い上げると、大株主が会社を完全支配する構図となります。スクイーズアウトを必要とする代表的な場面を紹介しましょう。

完全子会社化を目指す場合

スクイーズアウトは、対象企業を完全子会社化する場合に用いられます。『完全子会社化』とは、親会社が子会社の株式の全てを取得している状態です。

例えば、A社がB社の株式の90%以上を買い取って子会社化し、その後にスクイーズアウトを実施すれば、A社はB社を完全子会社化できます。

親会社は子会社の経営をコントロールできるといっても、子会社の少数株主を無視することは不可能です。スクイーズアウトで完全子会社化すれば、経営の支配権を完全に掌握できるでしょう。

迅速な意思決定を行いたい場合

株式会社の場合、『株主総会』が会社の最高意思決定機関です。原則、1株につき1議決権があり、議決権を多く保有する株主ほど、会社の経営への影響力が強くなるのが通常です。

経営陣に反対する少数株主がいる場合、円滑な議事運営が阻害される可能性があります。持ち株比率が3%を超える株主は、『役員の解任請求権』や『会計帳簿閲覧請求権』が行使できるため、オーナーや経営陣にとっての悩みの種となり得るでしょう。

スクイーズアウトで『単独株主』となれば、株主総会の招集を省略できます(会社法319条)。反対株主が全て排除されるため、意思決定のスピードが格段に速くなるでしょう。

スクイーズアウトの手法

スクイーズアウトの手法は複数ありますが、代表的な手法は『株式等売渡請求』と『株式併合』です。2017年の税制改正以後は『株式交換』を選択する企業も増えています。各手法の特徴や手続きの流れを見ていきましょう。

特別支配株主の株式等売渡請求

『特別支配株主』とは、対象会社の議決権のうち9/10以上を有する大株主(1人または1社)を指します。株式等売渡請求ができるのは特別支配株主のみで、保有比率が9/10に満たない株主は請求できません。

この方法は株主総会の決議を必要としないため、スクイーズアウトにかかる時間を大きく短縮できるのがメリットです。以下は手続きの大まかな流れです。

  • 対象会社に対して、株式等売渡請求の条件(対価・取得日など)を通知する
  • 対象会社に売渡請求の承認を得る
  • 対象会社が株主に通知する
  • 特別支配株主が株式を取得する

株式併合

株式併合とは、複数の株式を併合して、少数株主の持ち株を『1株未満』の端株にし、それらを全て買い取る方法です。会社法において、1株未満の端株は会社が自己株式として買い取ることが認められています(会社法234条)。

例えば、株主Aが70、Bが10、Cが15、Dが5の株式を持っていた場合、20株を1株に併合すると、B(0.5)、C(0.75)、D(0.25)の株式は端株になります。

なお、株式併合を行うには、株主総会での『特別決議(※)』で承認を得た上で、裁判所に『売却許可の申立』を行わなければなりません。売却許可決定後に、端株株主から端株を買い取る流れです。

※特別決議:発行済株式総数の『過半数』を保有する株主が出席し、議決権の『2/3』以上の賛成が必要

株式交換

株式交換は、主に子会社を完全子会社化する際に用いられる手法です。

まず、親会社の株式と子会社の株式を交換する手続きを行い、子会社の株式を全て親会社が保有します。これにより、もともとの子会社の少数株主は、交換された親会社の株式を代わりに保有することとなります。その上で、親会社が株式併合を行うことで、株式の保有割合を調整し、少数株主の保有株式を端株にします。そして、その端株を強制的に買い取ることでスクイーズアウトを実現させるという手法です。

もしくは株式交換の際に親会社と子会社の株式の交換比率を調整し、少数株主の保有株式を最初から端株(1株未満)にさせることでも可能です。

株価はどのように算定するのか

スクイーズアウトで株式を買い取るにあたり、株価(株式1株あたりの値段)を算定し、買収額を決定する必要があります。大株主としてはできるだけ安く買い取りたいのが本音ですが、少数株主が納得しない可能性もあります。

株価はどう算定するのでしょうか?

適切な株価を提示する必要がある

スクイーズアウトは、株主の意向を無視した強制的な買い上げです。買い取る側が適切な価格を提示しなければ、少数株主は提示価格を不服とし、適正な株式価格の決定を求める訴訟を起こす可能性があります。

株式を取得する際は、できるだけ安く買いたいという大株主と、高く買ってほしいという少数株主との間に利害対立が生じます。

裁判に発展すると、M&Aや会社再編の計画が大きく狂ってしまうため、株価算定をしっかり行い、妥当な金額を提示しなければならないのです。

複数の手法を組み合わせて算定

株価を算定する方法は以下のように複数あります。株価の算定は、一つだけ用いる場合がありますが、その適正性を確保する上で、複数の評価方法を用いて算定するのが一般的です。

  • インカム・アプローチ:対象企業の将来の収益性をもとに行う手法
  • マーケット・アプローチ:同業他社の状況や市場を参考にして価値を評価する手法
  • コスト・アプローチ:対象企業の純資産をベースに価値を評価する手法

各手法には、メリット・デメリットがあります。複数を組み合わせることで、互いの欠点が補完され、適正な株価を算出できる可能性が高いといえます。

反対株主には複数の対抗手段がある

会社法上、売渡株主には『売買価格決定の申立』や『差止請求』といった対抗手段が与えられています。対価が不当な場合や、違反行為で売渡株主の利益が侵害される場合、さまざまな決定が覆されてしまう恐れがあるでしょう。

売買価格決定の申立

支配株主が提示した株式の売買価格が不服である場合、売渡株主と支配株主は価格を取り決めるための協議を行うのが一般的です。

協議が合意に至れば、合意価格での買い取りが行われますが、合意が不成立に終わった場合、株式併合の効力発生日から60日以内に限り、売渡株主は裁判所に『価格決定の申立』を行うことが可能です。

裁判所では、支配株主と売主側のそれぞれの株価の主張を聞き和解を勧めますが、和解が成立しない場合は株価の鑑定という形で裁判所が最終的に価格を決定する流れとなります。

差止請求

スクイーズアウトの実施が法令・定款に違反し、かつ売渡株主に著しい不利益を与える恐れがある場合、株式併合や株式等売渡請求にかかわる株式取得をやめるように請求する『差止請求』を行えます。

会社法179条(売渡株式等の取得をやめることの請求)によると、請求ができるのは以下のようなケースです。

一 株式売渡請求が法令に違反する場合

二 対象会社が第百七十九条の四第一項第一号(売渡株主に対する通知に係る部分に限る。)又は第百七十九条の五の規定に違反した場合

三 第百七十九条の二第一項第二号又は第三号に掲げる事項が対象会社の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当である場合

まとめ

少数・反対株主を強制的に排除できるスクイーズアウトは、経営の実権を完全に掌握したい支配株主にとっては非常に有用な手段です。他方、売渡株主にもスクイーズアウトに対する複数の対抗手段が用意されています。

訴訟や差止請求のリスクを回避するためにも、スクイーズアウトを実施するのか否かや実施する場合における株価の算定は、独立した第三者機関や専門家の助言に基づいて行うのが理想でしょう。

記事監修:小木曽公認会計士事務所 小木曽正人(公認会計士、税理士)
【プロフィール】
1999年公認会計士2次試験合格後、大手監査法人にて法定監査、IPO支援等に従事したのち、2004年より東京と名古屋にてM&A専門チームの主力メンバーとして100件以上のM&A案件に従事。2014年12月に独立開業し、M&A、事業承継、株価評価といった特殊案件のみを取り扱った会計事務所を展開している。