子会社化とは?子会社の種類や利用されるM&Aスキームなどを解説

子会社化とは?子会社の種類や利用されるM&Aスキームなどを解説

親会社の傘下にある会社は『子会社』と呼ばれます。会社法では、子会社や親会社はどのように定義されるのでしょうか?子会社化には、株式譲渡や株式交換などの手法が用いられます。M&Aでよく使われるスキームやその特徴について解説します。

子会社とは何かを理解しよう

M&Aでは『子会社』や『子会社化』といったワードをよく目にします。親会社と子会社との関係性や、グループ会社、関連会社との違いを理解しておきましょう。

子会社とそれを支配している親会社がある

子は親から生まれるように、子会社があれば必ずそれを支配している親会社があります。以下は『会社法』で定められている親会社と子会社の定義です。

  • 親会社:株式会社を子会社とする会社その他の当該株式会社の経営を支配している法人
  • 子会社:会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人

要約すると親会社は子会社の意思決定機関(=株主総会)を支配しているということです。

親会社の定義にある『経営を支配』とは、ある会社の『財務及び事業の方針の決定を支配していること』を指します(会社法施行規則3条)。

つまり、形式的に株主の議決権の過半数を保有している場合に加えて、親会社が役員を派遣して子会社の意思決定権を支配しているなど、実質的に財務・事業の方針を決定している場合も親子関係が成り立つといえるでしょう。

なお、議決権とは、株主総会での決議に加わり決定に参加できる権利で、一般的には一つの株に一つの議決権があります。

参考:会社法 | e-Gov法令検索

参考:会社法施行規則 | e-Gov法令検索

関連会社やグループ会社との違い

子会社と混同されやすいのが、『関連会社』や『グループ会社』です。関連会社やグループ会社は、会社法で定義されている言葉ではありません。

グループ会社とは、親会社・子会社・関連会社を全て含めた会社です。グループ会社を『関係会社』と呼ぶ場合もあります。

一方、関連会社は以下の条件を満たしたケースと判断されます。子会社と関連会社の違いは、親会社から受ける支配の程度です。

  • 親会社が所有する議決権が20%以上50%未満の場合
  • 親会社が所有する議決権が15%以上20%未満で、かつ一定の要件を満たす場合

ここでいう『一定の要件』とは、親会社が『財務・事業の方針決定に重要な影響を与えている』『代表取締役や取締役などの重要な役職に就任している』『事業上の重要な取引や融資、技術提供がある』という場合を指します。

子会社の種類

子会社といっても、さまざまな種類があります。基本は『完全子会社』『連結子会社』『非連結子会社』の三つですが、雇用面で障がい者に特別な配慮をする『特例子会社』もあります。

株式を100%保有される『完全子会社』

『完全子会社』とは、ある親会社に議決権の全てを保有されている会社のことです。完全子会社に対して、親会社は『完全親会社』と呼ばれます。

一つの親会社が複数の完全子会社を持つケースはありますが、完全子会社が複数の親会社に支配されるケースはありません。

2020年9月、『日本電信電話株式会社(NTT)』は『株式公開買い付け(TOB)』によって、『株式会社NTTドコモ』の完全子会社化を実施しました。

NTTは完全子会社化の目的として、NTTの完全子会社である『NTTコミュニケーションズ』『NTTコムウェア』に『ドコモ』を加え、通信事業の競争力を高めることを挙げています。

「連結子会社」と「非連結子会社」

『連結子会社』とは、企業の連結財務諸表の対象となる子会社です。

親会社だけでなく、子会社や関連会社を全て含めた決算方法を『連結決算』と呼び、連結決算の全ての対象会社を単一の組織として作成する財務諸表を『連結財務諸表』と呼びます。

『非連結子会社』とは、連結の対象とならない子会社です。

ほとんどの子会社は連結の対象ですが、親会社にとって経営への影響が低い子会社や支配が一時的な子会社、規模が小さい子会社などは連結の範囲から除かれるケースがあります。

なお、連結決算を義務づけられているのは、原則株式を市場に公開している、いわゆる上場会社となるため、日本の多くの中小企業では連結財務諸表を作成する義務は負っていません。

さらに「特例子会社」もある

『特例子会社』とは、障がい者の雇用を目的として設立された子会社です

障害のある人の雇用を促進するために、国は事業者に対して『労働者のうち障がい者を雇う必要のある割合(%)』を法定雇用率として示しています。

民間企業における法定雇用率は2.2%で、従業員43.5名以上の企業の事業主は、法定雇用率以上の割合で障がい者を雇用しなければなりません。しかし特例子会社を設立した場合、子会社が雇用する障がい者を親会社の法定雇用率に含めることが可能です。

特例子会社を設立するにあたり、『当該子会社の意思決定機関(株主総会等)を支配していること』が親会社の要件です。

子会社には、『親会社との人的関係が緊密であること』や『障がい者の雇用管理を適正に行うための能力を有していること(専任の指導員の配置など)』『雇用される障がい者が5人以上で、全従業員に占める割合が20%以上』といった要件があります。

参考:特例子会社制度の概要|厚生労働省

子会社化に利用される主な手法

増資や株式分割によって子会社を作る方法もありますが、M&Aでは他社の株式を『買い取る(買収)』方法で子会社化が進められるケースが大半です。上場企業では、株式の移転によって子会社化を目指す場合も珍しくありません。

株式譲渡

『株式譲渡』は、対象企業の株式の過半数以上を買い取ることで経営権を取得し、自社企業の傘下に入れる方法です。株式譲渡には、主に以下の三つの方法があります。

  • 相対取引:株主と直接交渉して株式を取得する
  • 市場買い付け:上場企業の株式を証券取引所などで買い入れる
  • 株式公開買い付け(TOB):買取価格・株数・期間を公開し、市場を通さずに株式を買い入れる

市場買い付けと株式公開買い付けは『上場企業』の場合のみで、非上場企業の株式の取得には相対取引が用いられます。対象会社の株主が分散している場合は、買い手は複数の株主との間で譲渡取引を実行しなければなりません。

株式譲渡とは?メリットデメリットから手続きのポイントまで紹介
手法
株式譲渡とは?メリットデメリットから手続きのポイントまで紹介

株式譲渡は中小企業のM&Aで多く用いられる手法です。手続き後は会社の経営権が買い手側に移りますが、会社自体は存続します。買い手と売り手にはどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか?手続きの流れや譲渡所得税の計算方法も解説します。

株式移転

『株式移転』は主に、規模の拡大や業界の再編などを目指す企業が用いるM&A手法です。

単独または複数で新たに親会社を設立し、親会社に自社の株式を全て移転させることで完全親会社・完全子会社の関係を築きます。子会社には、親会社の発行する株式が割り当てられます。

株式譲渡による子会社化の場合、親会社となる買い手は買収のための資金を調達しなければなりませんが、株式移転は『株式』を対価とするのが特徴です。

株式移転は、グループ会社同士が経営統合をする際にも用いられます。完全親会社となった企業は『ホールディングス(持株会社)』と呼ばれ、大株主として子会社の管理や指導を行います。

株式移転は、会社法で定められている『組織再編』です。組織再編は、企業の組織や形態を変更するための行為で、株式移転のほかに、『株式交換』『合併(新設・吸収)』『分割(新設・吸収)』などが該当します。

株式交換

『株式交換』とは、親会社となる買い手が、子会社となる売り手の株式の全てを保有することで完全な親子関係を構築する手法です。

株式譲渡では買収の対価に金銭が用いられますが、株式交換では一般的に『買い手企業の株式』が交付されます。株式のほか、現金・社債・新株予約権の選択も可能です。

買い手は、売り手の株主のうち2/3以上から承認を得られれば、反対する株主を無視して完全子会社化を進めることができるのも大きな特徴でしょう。

株式移転との違いは『既にある会社を親会社とするか、新たに親会社を設立するか』という点です。

株式交換はどんなケースで利用される?メリット、必要な手続きなど
手法
株式交換はどんなケースで利用される?メリット、必要な手続きなど

株式交換とは、特定の株式会社を『完全子会社化』する目的で使われます。現金ではなく、株式を対価にできるため、買い手は買収資金を調達する必要がありません。手続きの大まかな流れやメリット・デメリットを解説します。

株式交付制度

『株式交付制度』は2021年3月1日に施行された新たな制度です。これまで、現金という対価以外でM&Aを行うには、株式交換などによって完全子会社化するか、現物出資のいずれかを選択しなければなりませんでした。

しかし、株式交換には『外国の株式会社との間では実施できない』『完全子会社化以外では用いられない』という問題点があります。

現物出資にも『検査役による調査に負担がかかる』『取締役が財産価額填補責任(財産の価額が不足する場合に不足額を支払う責任)を負わなければならない』といったマイナス点があります。

『株式交付』は、株式を対価とするM&Aを円滑にするために作られた制度で、完全子会社を目的とする以外でも、自社株式を買収の対価にすることが可能です。

対象となる子会社は『株式会社』のみで、持分会社や外国法人などに対しては株式交付が適用できない点に注意しましょう。

子会社化をするとどうなるのか

子会社化した場合、どのようなメリットやデメリットが生じるのでしょうか?自社が親会社になった場合と、子会社になった場合の両方から解説します。

親会社側への影響

同業以外の企業を買収して子会社化した場合、新たな領域への事業展開がスムーズにできるのがメリットです。同業の企業を買収した場合は、市場シェアの拡大が狙えます。

税制面に関しては、節税効果が期待できるかもしれません。親会社から役員や従業員が移る場合は退職扱いとなり、支給する退職金は経費として計上できます。

一方、株式譲渡によって子会社化した場合は、その会社の資産だけでなく、負債も一緒に引き継ぐことになる点に注意が必要です。

もしグループ内の子会社が不祥事を起こした場合は、親会社を含むグループ企業全体にその影響が及び、自社のブランドイメージを毀損する恐れもあるでしょう。

子会社側への影響

M&Aによって大きな親会社の傘下に入ると、親会社のブランドや知名度によって、自社(子会社)の業績が上がる可能性があります。親会社のビジネスモデルが確立されていれば、それらを利用して大きく成長することが可能でしょう。

ただし、グループ企業全体のイメージを統一するため、会社名の変更を求められたり、これまで使ってきたブランド名が使えなくなったりする場合があります。

もし親会社が不祥事を起こした際は、その子会社の信用も大きく低下するでしょう。

まとめ

子会社とは、ほかの会社に株主の議決権の過半数を保有されている、または経営権を支配されている会社を指します。子会社には、完全子会社や特例子会社など複数の種類があり、それぞれ性質が異なります。

子会社化を進める際は、親会社・子会社のそれぞれの視点に立ち、どのようなメリット・デメリットがあるかを考えましょう。

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