TOBとは?目的やメリット・デメリット、必要な手続きを解説

TOBとは?目的やメリット・デメリット、必要な手続きを解説

日本国内では、大企業や上場企業のTOBが多く実施されています。『株式公開買付』と訳されるTOBは、どのような仕組みにより実施される方法なのでしょうか?公開買付者・対象会社・株主にもたらされるメリットや注意点を解説します。

TOBとは

M&Aや株式を取り扱う場面で、TOB(ティー・オー・ビー)という言葉を耳にしたことはないでしょうか?『Take Over Bid』の頭文字を取ったもので、『株式公開買付』を意味します。

英語圏では、Take Over BidやBid、Tender Offer(米国)と呼ばれるのが一般的で、TOBは主に日本国内で用いられる表現です。

株式公開買付のこと

TOBが意味する株式公開買付とは、一体どのようなものなのでしょうか?通常、上場企業の株式を売買する際は、証券取引所を経由します。TOBは、企業の株式を『取引市場外』で買い付ける手法です。

株式の買付を行う者は不特定多数の人に対し、『買付情報(期間・株数・価格など)』を事前に公告し、対象株式を保有する株主に株式の売却を促します。その後、売却条件に同意した株主から、取引市場外で株式を買い取る流れです。

主な目的は経営権を握ること

TOBを行う目的は企業によってさまざまですが、そのほとんどは『過半数以上の株式を取得して、その会社の経営権を獲得すること』といってよいでしょう。

株式を保有すると、議決権が与えられます。議決権とは、会社の意思決定機関である株主総会において、議案の賛否に意思表示ができる権利のことです。1株1議決権が原則で、持ち株比率の多い株主ほど経営への影響力が強くなります。

持ち株比率による影響力の違いは下記の通りです。

持ち株比率 権利
100% 全ての意思決定が可能(完全子会社化)
66.7%以上(2/3以上) 特別決議が単独で可決できる
50.1%超(1/2超) 普通決議が単独で可決できる
33.4%以上(1/3以上) 特別決議が単独で阻止できる

普通決議では、取締役の選任・解任や剰余金の配当、資本金の増加などを決定します。つまり、議決権を1/2以上獲得すると、実質的に経営を支配できるのです。

TOBが利用される場面

M&Aがごく一般的に行われている欧米諸国において、TOBは単なる株の売買ではなく、企業を買収する手法における中心的な存在です。TOBが利用される代表的な場面を解説します。

完全子会社化など

TOBは、対象会社の経営陣や株主の合意を得て実行される友好的TOBと、合意なしで行われる敵対的TOBに大別されます。日本では、完全子会社化や子会社化、グループ企業化を目的に友好的なTOBを行う事例が多く見受けられます。

  • 伊藤忠商事によるファミリーマートの完全子会社化
  • ソニーによるソニーフィナンシャルホールディングスの完全子会社化
  • NTTによるNTTドコモの完全子会社化
  • イオンによるキャンドゥの連結子会社化

2020年、NTTはNTTドコモの完全子会社化に踏み切りました。当初は買付予定数の下限を1468万6300株としていましたが、8億1501万5044株の買付数でTOBが成立しています。

NTTの代表はTOBの理由について、グループのリソースを活用し、業績に伸び悩むドコモの競争力を強化することが狙いであると発表しています。

スクイーズ・アウトとの関係

『スクイーズ・アウト』とTOBの関係性についても理解しておきましょう。スクイーズ・アウト(Squeeze Out)の日本訳は『少数株主排除』です。

上場会社の完全子会社化を目指す場合、TOBに応募しなかった残存株主から株式を取得し、100%の経営権を獲得する必要があります。

もし話し合いで買取に株主が同意しない場合、スクイーズ・アウトによる強制的な買取に踏み切ることになります。実施された場合、株主は株を手放さなければなりません。

ここでは詳細は省きますが、スクイーズ・アウトの手法には『現金対価株式交換』『全部取得条項付種類株式』『株式等売渡請求制度』『株式併合』の4パターンがあります。

TOBのメリット

TOBは、取引市場外で買付を行う手法です。証券取引所での取引と比較した場合、どのようなメリットがあるのでしょうか?TOBを実施する二つの理由を解説します。

株価変動の影響がない

会社が発行した株式には限りがあるため、買い手が多ければ株価は上がり、逆に少なければ株価は下がります。

市場で大量の株式を買い集めると、株価が一気に上昇する恐れがあります。ほかの投資家から「株の買い集めをしている」と注目を浴びてしまい、株価はさらに上昇するでしょう。結果的に、予定していた買付価格よりも高値で買い取る事態になります。

市場で株式を買い集めるよりも、取引市場外で一定の価格で買い付けるほうが、限られた資金を無駄にせずに済むのです。

効率的に大量の株式を取得できる

もう一つの利点は、大量の株式を短期間で効率的に取得できることです。TOBでは、市場価格よりも高い買取価格を提示するのが一般的であるため、大量の申し込みが見込まれます。

さらに、公開買付者は『申し込み数が予定買付数の下限に達しなければ、TOBは行わない』という選択も可能です。市場で少しずつ株を買い増ししていくよりも効率的で、時間・コスト・労力に無駄がありません。

株主や対象会社にとってのメリット

TOBは、経営権獲得に向けて一気に株式を集められる効率的な手法です。一方、友好的なTOBにおいては、TOBに応じる企業や株主にもメリットがあります。

プレミアム付き価格での売却

株主のメリットは、プレミアム付きの価格で保有株式が売却できることです。株主の売却意欲を高めるため、TOBの買取価格は市場価格よりも高めに設定されます。

買付価格と市場株価との差額は『プレミアム(上乗せ幅)』と呼ばれ、10~50%前後になるケースが一般的です。

また証券取引所を介した場合、取引時には『売買手数料』がかかります。取引市場外で行われるTOBには手数料がかからないため、株式を無料で現金化できるチャンスといえるでしょう。

経営改善効果

TOBを受ける企業には、経営改善につながるというメリットがあります。業績が伸び悩んでいる場合には特に、経営陣の交代や企業同士のシナジー効果によって、経営改善が見込める可能性があります。

また親子の関係を築くことで、親会社のブランド力を活用できるようになるのも大きなメリットです。資金不足から新規事業に着手できなかった企業では、経済的な資源の増加により着手できるようになるでしょう。

経営権が奪われるのは一見デメリットに見えますが、会社の将来にとってはプラスになる場合も多いのです。

義務的公開買付も

株の大量買付は、会社の経営や株価に大きな影響を与えます。一定規模の買付を行う場合、株式情報を適切に公開し、かつ株主に公平な取引機会を与えなければなりません。

TOBが義務付けられている買付は『義務的公開買付』と呼ばれ、『5%ルール』や『1/3%ルール』といった規制が存在します。

5%ルール

株式の所有割合が5%以上になると、その会社の経営権に影響を及ぼす上、株価が予想外の動きをして市場が混乱する恐れがあります。

買付後の株式の所有割合が5%を超える場合は、TOBによる買付を行うと同時に、5%超を所有することになった日から5日以内に、内閣総理大臣に大量保有報告書を提出しなければなりません。このルールは『5%ルール』と呼ばれています。

なお、所有割合が5%以上でも、60日間で10名以内の株主から買付を行う際は、TOBを行う必要がありません。

1/3ルール

買付後の株式の所持割合が1/3を超過する場合は、TOBを実施しなければなりません。所持割合が1/3を上回ると、特別決議が単独で阻止できるようになり、会社経営に大きな影響を及ぼすためです。

5%ルールでは、『買付相手が極端に少ない場合はTOBの必要はない』とされていますが、1/3ルールには人数の制限がありません。したがって、1人からの買付により所持割合が1/3を上回る場合でも、TOBを実施しなければならないのです。

以下の場合、取引市場内での取引も1/3ルールの対象となります。

  • 取引市場内で電子取引ネットワークシステムを利用する場合
  • (特定取引)
  • 取引市場内・市場外を組み合わせて『急速な買付』をする場合

ToSTNeTやJ-NETなどの電子取引ネットワークシステムを使った取引は、『特定取引』と呼ばれます。株式等保有割合が発行済み株式数の1/3を超えるような場合は、TOBで買付をするのが原則です。

また、市場内外の取引で以下の条件を全て満たす取引は、『急速な買付け』と定義され、TOBが強制されます。

  • 3カ月間で、対象企業が発行する株式の10%超を取得する
  • 該当取引に、証券取引所外や特定売買での株式取得が5%を超えて含まれている
  • 結果として所有割合が1/3を超える

TOBの流れ

TOBは複数の段階に分かれており、そのたびに報告書や届出書を提出しなければなりません。多くは提出期限が指定されているため、段取りよく進めていくことが重要です。TOBの大まかな流れと必要な提出書類について解説します。

公開買付開始公告

公開買付者は、TOBを開始するにあたり、以下の事項を公告するのが原則です。公告の方法は、金融庁の電子情報開示システムである「EDINET(金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム金融庁の電子情報開示システム)」、または日刊新聞上のいずれかで行います。

  • TOBの目的
  • 公開買付者の名称
  • 買付価格
  • 買付条件
  • 買付予定の株式の数(上限・下限)
  • 買付期間

公告日には、公開買付届出書と金融商品取引法で定める添付書類をEDINETで内閣総理大臣に提出します。

またTOBの実施に際し、買付価格や期間を記した『公開買付説明書』を作成し、応募株主に交付します。

対象会社が意見表明報告書を提出

公開買付にかかわる株式の発行者(対象会社)は、公開買付公告から10営業日以内に『意見表明報告書』を内閣総理大臣に提出します

意見表明報告書は、株主や投資家にとって重要な投資判断材料となるものです。報告書には、TOBに対する意見のほか、公開買付者に対する質問を記載することが可能です。

意見表明報告書に質問が記載された場合、公開買付者はその回答を記載した『質問回答報告書』を内閣総理大臣に提出します。

既存株主がTOBに応募

公告後は、既存株主によるTOBへの応募がスタートします。株主は、条件や価格を確認した上で、売却の可否を判断します。

応募は、自分が取引している証券会社を介するのが基本です。もし、取引中の証券会社が公開買付代理人になっていない場合、公開買付代理人証券会社に株式を移管する手続きが必要となります。

株主は必ずしもTOBに応募しなければならないわけではありません。TOBの公告後は株価が上がるケースがあるため、市場で売却して売却益を得ることも可能です。

株を保有し続ける選択肢もありますが、スクイーズアウトで強制的に買い取られる可能性があります。

TOBの成立

買付予定の株式数を満たすと、TOBが成立します。予定した株式数を満たさない場合TOBは不成立、予定よりも応募が多かった場合は抽選で株主を決定します。

公開買付者は、公開買付期日最終日の翌日中までに、公開買付の成否を記した『公開買付報告書』をEDINETを通じて内閣総理大臣に提出しなければなりません。

また、TOBによって株式の保有割合が5%を超えた公開買付者は、株式の『大量保有者』と見なされます。大量保有者となった日から5営業日以内に、EDINETで『大量保有報告書』を提出するのが原則です。

TOBの注意点

大量の株式を効率よく買い付けられるメリットがある反面、TOBにはいくつかの注意点もあります。買付がスムーズに進まない可能性がある上、TOBが成立する保証もありません。撤回が困難である点にも留意する必要があるでしょう。

失敗する可能性も

TOBには、両社の合意の上で行われる友好的なTOBと、合意なしで行われる敵対的なTOBがあります。後者の場合、対象企業は買収から自社を守るために、買収防衛策を講じる可能性があるでしょう。

対象企業が自社で株式を買い集めたり、大量の新株を発行して買収企業の持ち株比率を低下させたりしようとすれば、TOBの成立は遠のきます。

友好的なTOBであっても、買収を快く思わないライバル会社がTOBに介入してくるリスクもあります。他社が自社よりも高いTOB価格を提示して買い集めを始めれば、買付は失敗に終わってしまうでしょう。

TOBを中止することも可能?

TOBを自由に撤回することは、基本的に認められていません。ただし、金融商品取引法の『27条の11(公開買付者による公開買付の撤回及び契約の解除)』には、撤回が認められるケースとして以下が挙げられています。

  • 公開買付にかかる株式の発行者おおよびその子会社に、公開買付の目的の達成に重大な支障を与える事情が生じた場合で、その旨が特段条件として公開買付開始公告および公開買付届出書に記載されているケース
  • 公開買付者に、破産手続開始の決定、その他の政令で定める重要な事情の変更が生じたケース

公開買付を撤回する場合は、公開買付期間の末日までに撤回の理由を公告し、同日に公開買付撤回届出書を内閣総理大臣に提出します。

参考:金融商品取引法 | e-Gov法令検索

まとめ

TOBは、期間や株数、価格などを事前に提示した上で、取引市場外で株式を買い付ける方法です。企業買収や子会社化を主な目的としており、大量の株式をスピーディーに買い集められるというメリットがあります。

株主やTOBを受ける側にも利点がありますが、必ずしもスムーズに買付が行われるとは限りません。公開買付者は、5%ルールや1/3%ルールといった規制についてもしっかりと把握しておく必要があるでしょう。