エグジットの意味とは。スタートアップ、IPOとの関連は?

エグジットの意味とは。スタートアップ、IPOとの関連は?

エグジットとは、スタートアップやベンチャー企業にとって欠かせない経営戦略の一つです。具体的な方法にはM&AとIPOがあり、日本ではIPOが主流です。エグジットの定義や、エグジット戦略を策定する重要性について解説します。

エグジットとは

会社の経営者を目指す人は、エグジット(EXIT)という考え方を理解しておく必要があります。本来、エグジットには『出口』の意味がありますが、ビジネスにおいては『投資資金を回収すること』を指します。

投資資金の回収、利益確定のこと

エグジットとは、出資者や創業者がビジネスに投資した資金を回収し、利益を手にすることです。具体的には、投資していた会社の株式や事業を売却し、投資資金を現金化します。

ここでいう出資者には、不特定多数の投資家から資金を集めて企業に投資を行い、出た利益を投資家に分配する『ファンド』が含まれます。

ファンドの中でも、未上場の新興企業に出資して株を保有し値上がり益を狙うファンドは『ベンチャーキャピタル』と呼ばれます。エグジットは、ベンチャーキャピタルが投資に対する利益を回収する行為から広まった言葉である点も覚えておきましょう。

エグジットの主な手法には、『IPO(新規株式公開)』や『M&Aによる売却』があります。

エグジット戦略とは

元々エグジット戦略(出口戦略)は、人命や物資の損失を最小限に抑えながら、戦場から撤退する作戦を指しました。

軍事用語でしたが、投資資金の回収を前提にした企業の事業戦略として、ビジネスの世界でも採用されるようになりました。エグジット戦略では、以下のような内容を検討します。

  • エグジットをいつ実行するか
  • エグジットの種類(IPO・M&Aなど)
  • 出資の見返りはどのくらいか

エグジット戦略が示されると、出資者は『いつ・どのくらいの利益が獲得できるか』を予想できるため、出資の意思決定がしやすくなります。

エグジットまでの道筋が明確になれば、経営者や経営陣は、より具体的なプランを策定できる上、モチベーションも向上するでしょう。エグジット戦略は一度策定したら終わりではなく、必要に応じて修正・変更を加えていくのが通常です。

投資対象となる企業の例

エグジットにより投下資本が何十倍、何百倍になって還ってくるケースも珍しくありません。ファンドやベンチャーキャピタルは、どのような企業を投資対象に選ぶのでしょうか?

創業期企業(スタートアップ)

独自のアイデアで新たなビジネスに挑戦するベンチャー企業やスタートアップ企業は、成長のポテンシャルがあるため、ファンドの投資対象になりやすい傾向があります。

特に、『資金はないが、将来性のある事業や技術を保有している』という場合、資金が投入されれば、その見返りは何十倍、何百倍にもなる可能性があるでしょう。

一方、スタートアップ企業やベンチャー企業からすれば、返済義務のない資金が調達できるのがメリットです。経営に積極的に関与するファンドも多く、経営面でのサポートを享受できるでしょう。

ただし、出資者はエグジット戦略に基づいた見返りを期待しているため、企業には『期待に応えなければならない』というプレッシャーが重くのしかかります。成功の見込みがないと判断された場合、強制的な資金回収が実施されるケースも珍しくありません。

赤字企業

経営不振に陥った赤字企業も、ファンドの投資対象になりやすい傾向があります。中核事業に見込みがあれば、不良債権を抱えていても再生できる可能性が高いためです。

投資家からお金を集め、経営不振や経営破綻に陥った企業に投資をするファンドは『再生ファンド』と呼ばれます。

赤字企業であれば、安値で経営権を取得できる一方で、事業に失敗するリスクが高いのが難点です。そこで、再生ファンドは対象企業に企業再生のプロフェッショナルを派遣し、さまざまな側面から経営改善を図ります。

中小企業の再生をメインとするファンドの場合、地域の金融機関や中小企業基盤整備機構と連携を取る場合もあります。

事業承継を行う企業

事業承継をするなら、赤の他人に売り渡すよりも経営理念や事業内容をよく理解した自社の経営陣に譲りたいという企業は多いものです。

自社の経営陣による会社買収は『MBO(マネジメント・バイ・アウト)』と呼ばれ、日本ではのれん分けに近い、『友好的な企業買収』として位置づけられています。

経営陣に十分な自己資金がない場合、金融機関の融資やMBOファンドからの出資を原資として、会社を買収するのが一般的です。『MBOファンド=安定株主』と捉えられがちですが、長期的に株式を保有してくれる株主ではありません。

他のファンドと同様、投下資本を回収するのが目的であるため、一定の運用期間までに結果を出せなければ、株式の売却が強行される可能性があるでしょう。

アメリカはM&Aによるエグジットが主流

主なエグジットの方法は『M&A』と『IPO』です。日本ではIPOが主流であるのに対し、アメリカではM&Aによるエグジットが数多く実施されています。M&Aにはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?

M&Aとは

M&Aとは『Mergers and Acquisitions』の頭文字を取ったもので、『企業の合併と買収』を意味します。

  • 合併(Mergers):複数の会社を一つの会社に統合すること
  • 買収(Acquisitions):会社の経営権や事業を買い取ること

M&Aで企業を買収すると聞くと『会社の乗っ取り』をイメージする人も多いでしょう。実際は、経営戦略としてM&Aを選択する企業が多く、アメリカをはじめとする海外ではごく日常的に行われています。

アメリカはエグジットの約9割がM&Aで、IPOは1割に過ぎません。ベンチャー企業においても、9割以上がM&Aによるものです。

参考:大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書|経済産業省

M&Aのメリット、デメリット

M&Aの大きなメリットは、IPOよりもエグジットを迅速に行える点です。IPOの場合、エグジットの条件(純資産額・利益額・株主数など)を満たす必要があり、さらに審査にも一定の期間を要します。

M&Aは買い手と売り手が合意さえすれば、すぐにエグジットが実行できるため、時間や手間を大きく節約できるでしょう。

デメリットとしては、対象企業の経営者や株主の地位が喪失する点が挙げられます。買い手が対象企業の株式の過半数を取得すれば、経営陣が交代するのが一般的なので、会社のかじ取りを続けたい経営者にとってはM&Aは不向きかもしれません。

日本はIPOによるエグジットが主流

IPO(新規公開株式)は、証券取引市場で株式を売買する手法です。M&Aと比較して、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?IPOとM&Aのハイブリッド型である『二段階エグジット』についても解説します。

IPOとは

IPOとは、未上場企業が証券取引所に上場し、新規株式を投資家に取得してもらうことです。『Initial Public Offering』の頭文字を取ったもので、日本語では『新規株式公開』と訳されます。

日本ではエグジットの約7割がIPO、約3割がM&Aです。日本は自前主義が根強く、自社単独での事業や経営にこだわる企業が多い傾向があります。

会社買収に対して『身売り』や『乗っ取り』といったネガティブなイメージが残る点も、M&Aによるエグジットが普及しない要因の一つといえるでしょう。

M&Aによるエグジットを支援する環境が整っているアメリカに対し、日本は精通した人材やサポートが不足しているのが現状です。

参考:大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書|経済産業省

IPOのメリット、デメリット

企業が上場すると、株価が一気に高騰します。適切なタイミングで株式を売却できれば、M&Aよりも多額の利益が手にできる可能性があるでしょう。

上場する際は新たに株式を発行するのが一般的なので、金融市場全体で広く資金調達が可能です。知名度と対外的信用力の向上に伴い、取引先の幅も広がるでしょう。

また、経営者が交代するM&Aと異なり、経営者は引き続き会社の経営に関与することが可能です。

一方で、企業を上場させるには、証券市場ごとに規定された一定の基準をクリアしなければならず、エグジットまでには多くの時間と労力がかかるのがデメリットといえます。

日本ではまだまだIPOが主流ですが、手続きの煩雑さやコストの増大を考えて、M&Aを選択する経営者も増えています。

二段階エグジットという手法も

二段階エグジットとは、M&Aで大企業の傘下に入った後にIPOでエグジットを目指す手法です。

1回目のM&Aで株式の過半数を手放すことになるものの、大企業からのリソースを得ることで成長スピードが加速します。

M&Aの価格交渉は、上場を想定して企業価値評価(バリュエーション)が行われるため、高値になる可能性があるでしょう。買い手との関係性によっては、大きなシナジー効果を期待できます。

短期間で企業を成長させ、キャッシュ化の早期実現を目指す創業者にとっては、二段階エグジットも有効といえるでしょう。

まとめ

創業者が目指すゴールは、生涯にわたって会社を経営し続けるか、企業を売却して投資資本を回収するかのいずれかです。後者の場合、出口(エグジット)を見据えた上で、企業戦略を策定する必要があるでしょう。

エグジットには、M&AとIPOがあり、それぞれにメリット・デメリットが存在します。どちらを選ぶかによって結果が大きく異なるため、専門家の助言を取り入れながら慎重に検討すべきでしょう。

日本ではIPOが主流ですが、M&Aを選択する企業も増加傾向です。M&Aのプラットフォーム『TRANBI(トランビ)』では、売り手と買い手のマッチングのほかに、M&Aに関する有益な情報や成功事例を公開しています。

事業承継・M&Aプラットフォーム TRANBI【トランビ】
TOP
事業承継・M&Aプラットフォーム TRANBI【トランビ】

M&Aを通じて 挑戦者で溢れる社会を創造する

記事監修:小木曽公認会計士事務所 小木曽正人(公認会計士、税理士)
【プロフィール】
1999年公認会計士2次試験合格後、大手監査法人にて法定監査、IPO支援等に従事したのち、2004年より東京と名古屋にてM&A専門チームの主力メンバーとして100件以上のM&A案件に従事。2014年12月に独立開業し、M&A、事業承継、株価評価といった特殊案件のみを取り扱った会計事務所を展開している。