新株予約権について解説。社内向け、社外向けの発行の目的は?

新株予約権について解説。社内向け、社外向けの発行の目的は?

新株予約権は、あらかじめ決められた価格・条件の下で株式交付が受けられる権利です。株式会社では主に資金調達を目的に発行されますが、敵対的買収の対抗策としても活用されます。新株予約権の種類や手続きの流れを確認しましょう。

新株予約権とは?

多くの株式会社では、既存の株主や投資家に『自社の株式』を購入してもらうことで資金を調達しますが、株式ではなく『新株予約権』を発行するケースがあります。新株予約権とはどのような権利なのでしょうか?

あらかじめ決められた価格で株式を取得できる権利

新株予約権とは、企業が発行する株式をあらかじめ決められた価格で取得できる権利です。

権利を付与された人(以下、権利者)が発行した株式に対して新株予約権を行使すると、そのときの株価に関係なく、一定の価格で株式の交付を受けられます。『新株発行を事前に予約できる権利』と考えましょう。

新株予約権と一口にいっても以下のようにさまざまな種類があります。

  • 社外向けの新株予約権
  • 社内向けの新株予約権(ストックオプション)
  • 新株予約権無償割当(ライツオファリング)
  • 有利発行

行使期間が設定されている

新株予約権は、権利を行使できる期間が設けられています。期限を迎えると失効してしまうため、権利者は期限内に権利行使や売却をしなければなりません。

権利の行使期間は企業が自由に決められますが、多くの場合は税制上のルールに合わせて設定されます。

例えば、行使時に税制の優遇が適用される無償ストックオプション(税制適格)の場合、『新株予約権の行使は、当該新株予約権の付与決議の日後2年を経過した日から当該付与決議の日後10年を経過する日までの間に行わなければならない』と定められています(租税特別措置法第29条の2第1項第1号)。

参考:租税特別措置法 | e-Gov法令検索

社内向けに発行するストックオプション

新株予約権には『社内向け』と『社外向け』があります。自社の取締役や社員が、自社株を一定の価格で取得できる権利は『ストックオプション』と呼ばれています。社内向けの新株予約権には、どのような目的があるのでしょうか?

有償型と無償型

まずは、ストックオプションの種類と課税方法について確認しておきましょう。社内向けのストックオプションは、権利者から金銭の払込を受ける『有償型』と、払込を受けない『無償型』に区別されます。

  • 無償型(無償税制非適格型ストックオプション):権利行使時に『給与所得課税』、株式譲渡時に『譲渡所得』が課せられる
  • 有償型:株式譲渡時に『譲渡所得』が課せられる

無償ストックオプションのうち、税制上のさまざまな要件をクリアしたものは『税制適格型ストックオプション』と呼ばれ、税制上の優遇措置が享受できます。

通常、権利行使時と株式譲渡時に課税されますが、税制適格型では行使時点の給与所得課税が免除されます。

社員のインセンティブに活用

ストックオプションは、自社株を特定価格で購入できる権利です。『株で支払う報酬』のようなイメージで、インセンティブの一環として導入する企業が増えています。

株価が順調に上昇していけば、数年後には値上がり益が得られます。一方で、業績が悪化した際は株価下落により損失を被る可能性があるでしょう。

インセンティブを得るため、役員や従業員は「会社の業績を向上させよう」というモチベーションが湧くのです。

利益が出る仕組みは?

ストックオプションでは、株式の売却による『キャピタルゲイン(売買差益・値上がり益)』が得られます。

例えば、株価が1株1000円のときにストックオプションの権利を付与されたとしましょう。株価が1株2000円に値上がりした際に権利を行使すれば、2000円の自社株を1000円で保有できます(権利行使時点)。

権利行使時点では株を売却していないので、キャピタルゲインはまだ発生していない状態です。仮に株価が4000円になったときに手放せば、1株1000円で買った株を4000円で売ったことになるため、3000円の利益が生じます。

新株予約権による資金調達

事業の拡大や新規事業への参入時には、多額の資金が必要です。多くの株式会社では株式の発行によって資金を調達しますが、ライツオファリングや新株予約権付社債でも資金を増やせます。

ライツオファリング

『ライツオファリング(Rights offering)』は、『新株予約権無償割当』と呼ばれます。既存の株主に対して新株予約権を無償で割り当てる方法で、株主は期限内に株式に交換するか、取引所で新株予約権を売却するかを選択できるのが特徴です。

ライツオファリングは、既存株主に配慮された増資方法といわれています。通常、新株が発行されると市場に出回る発行済株式数が増え、1株あたりの価値が低下してしまいます(株式の希薄化)。

既存投資家は損失を被るケースが多いですが、ライツオファリングを採用すると、株式の希薄化による損失を抑制できる可能性が高いのです。理由としては以下のようなものが挙げられます。

  • 権利付与時点よりも株価が上場した際に新株予約権を行使すれば、その差額は株主の利益となる
  • 出資を希望しない場合は、新株予約権を売却できる(売却金で株式の希薄化による損失の補填が可能)

新株予約権付きの融資、社債

社債や融資に新株予約権を付与して資金調達を行う場合もあります。

  • 新株予約権付融資:企業の新株予約権を金融機関が取得し、企業に必要な資金を無担保で提供する仕組み
  • 新株予約権付社債:社債に新株予約権が付与されたもの

新株予約権付社債は『転換社債型』とも呼ばれます。権利が行使されると、事前に決められた価格で社債が株式に転換される仕組みです。

通常、株式を発行する際は『バリュエーション(企業価値評価)』によって企業の価値を金銭的に評価します。一方、社債は『借入金』であるため、バリュエーションの必要はありません。

利益がまだ出ていないスタートアップ企業は、企業価値を正しく評価できない場合が多く、新株予約権付社債による資金調達を選択することがあります。

新株予約権による買収防衛策

上場企業の株式は、株式市場で自由に売買ができます。非上場企業でも株式譲渡制限を設けていない会社(公開会社)の株式は、株主との相対取引で取得が可能です。

こうした状況の中、意図的な株の買い占めによって経営権を奪われてしまう企業も珍しくありません。新株予約権は買収防衛策としても一役買っています。

買収防衛策の必要性

経営陣の同意を得ずに株を買い占めて、その会社の経営権を奪おうとする行為は『敵対的買収』と呼ばれます。株式には株主総会における議決権があるため、過半数以上の株式を取得された場合は、実質的に経営を支配されてしまうのです。

買収者が会社の意思を無視して株の大量取得を試みた場合、対象会社では買収者に『買収目的の開示』を求めます。

有効な回答が得られない場合、買収者だけが行使できない差別的条件を付した新株予約権無償割当を既存株主に発行し、買収者の議決権割合を希薄化させるのが一般的です(事前警告型ポイズンピル)。

経済産業省では、企業価値や株主利益の向上につながる合理的な敵対的企業買収防衛策のあり方を示しています。企業が敵対買収を防衛するのは当然の行為と考えられがちですが、買収が株主や従業員にマイナスの影響を及ぼすとは限りません。

経営者が一方的に買収防衛策を選択するのではなく、株主の意向や利益を考慮しながら対抗策を検討するのが好ましいといえます。

参考:敵対的買収防衛策(企業価値防衛策)の整備 - 経済産業省

信託型ポイズンピルとは

買収への対抗策は、『事前警告型ポイズンピル』と『信託型ポイズンピル』に大別されます。事前警告型は、企業が事前にルールを設定し、ルールを守らない買収者に警告をした上で新株予約権を発行するやり方です。

一方の信託型ポイズンピルは、敵対的買収にあらかじめ備える方法です。経営状況などから「将来的に敵対的買収のリスクがある」と経営者が判断した場合、先に新株予約権を発行して信託銀行に預けておきます。

敵対的買収が実施されると、信託銀行から既存株主に新株予約権がすぐに付与されるため、敵対的買収に対してスピーディーに対処できるのです。

新株予約権の有利発行

『有利発行』とは、株主以外の第三者に対し、通常よりも有利な価格(無償を含む)で新株予約権を発行することです。企業は、どんな目的で有利発行を行うのでしょうか?

株主を集められるメリット

有利発行をすると、投資家は通常よりも安い価格で株式を取得できます。企業では、新たな株主を募って株主層を拡大させたいときに有利発行を実施するケースが多いのです。

有利発行は新株を購入する人にとってはメリットがあるものの、既存株主には損失をもたらします。有利発行で不特定多数に新株予約権を付与すれば、既存株主の持ち株比率が希薄化し、損失を被ってしまうのです。

したがって、有利発行を実施する際は株主総会の『特別決議』で承認を得なければなりません。特別決議には、以下のような特徴があります。

  • 普通決議:発行済株式総数の過半数を有する株主が参加し、議決権の過半数の賛成を要する
  • 特別決議:発行済株式総数の過半数を有する株主が参加し、議決権の2/3以上の賛成を要する

新株予約権における注意点

新株予約権を発行する際は、企業のメリットだけでなく、株主への影響やデメリットも考慮する必要があります。とりわけ株式の希薄化は、既存株主にとって大きな損失であり、企業の信頼失墜につながるかもしれません。

株式の希薄化

『株式の希薄化』とは、新株や新株予約権などの発行により、1株あたりの株式の価値が低下することです。

新株予約権が発行されると、将来的に発行済株式の総数が増加することになります。加えて、新株予約権の行使価額は株式の時価よりも安いケースが多いため、発行済株式の価値がさらに希薄化してしまうのです。

株式の希薄化でデメリットを被るのは既存株主です。1株あたりの利益は『当期純利益÷発行済株式総数』で算出するため、得られる利益は少なくなるでしょう。議決権割合も下がり、株主総会では個々の株主の意思が反映されにくくなります。

株価の下落

株価は、市場の需要と供給のバランスに影響されます。売り手が多ければ株価は下がり、買い手が多ければ株価が上がるのが一般的です。

新株予約権の発行で株式が希薄化すると、株主は「株式を保有し続ける意味がない」と感じます。株式を売りに出す株主が増え、株価が下落することも想定しなければなりません。

株価下落は企業のイメージダウンにつながり、今後の資金調達が困難になる可能性もあります。

参考までに、2021年11月26日に株式会社QDレーザがSBI証券を割当先として、新株予約権の発行を発表したケースを紹介します。その後、株式の希薄化などを懸念する株主が株式売却を進めたことで、株価が一時下落しました。

参考:QDレーザが急落、新株予約権発行で1株利益の希薄化を懸念|会社四季報オンライン

新株予約権発行の流れ

新株予約権はどのような手順で発行されるのでしょうか?一連の流れと手続き上の注意点を解説します。募集事項や割当者の決定において、株主総会の特別決議が必要な点にも留意しましょう。

募集事項を定める

新株予約権の発行に際し、詳細内容を決定する必要があります。以下は募集事項の一例です。

  • 新株予約権の対象者
  • 新株予約権の行使時に発行される株式数と種類
  • 新株予約権の行使時に増加する資本金と資本準備金
  • 新株予約権の割当日
  • 権利行使価格(株式の購入金額)
  • 権利行使期間
  • 新株予約権の取得条項(ある場合のみ)
  • 払込の方法(払込が不要の場合は、その旨を記載)

なお、新株予約権付社債を発行する場合は、社債の返済期限や使途といった、社債に関する事項についても話し合う必要があります。

株主総会の特別決議が必要となるケース

株式を市場に公開している『公開会社』の場合、取締役会決議で新株予約権の募集事項を決定できます。取締役会とは、株主総会で選ばれた3名以上の取締役による意思決定機関です。

一方、株式を市場に公開していない『非公開会社』の場合、株主総会の特別決議が必要となります。新株予約権が発行された場合、既存株主の株式が希薄化し、損失を受ける恐れがあるためです。

非公開会社で取締役会を設置している場合は、募集事項の決定を取締役に委任することも可能です。

新株予約権の割当

取締役会や株主総会の特別決議で募集事項が承認された後、新株予約権の対象者に募集事項の通知を行います。通知を受けた対象者は、内容を確認した上で申し込みの可否を決定し、『新株予約権申込証』を提出しなければなりません。

新株予約権の申し込みを受け、取締役会または株主総会の特別決議において新株予約権を割り当てる人を決定します。なお有償発行の場合は、指定の口座に金銭の払込が必要です。

新株予約権を発行した日以降は、新株予約権証券の番号や数などを記載した『新株予約権原簿』を作成しなければなりません(会社法第249条)。作成後は、本店(会社が事業を行う法律上の本拠地)に据え置くのが原則です。

参考:会社法 | e-Gov法令検索

新株予約権発行の登記

通常、増資や株式を発行した際は、発行済株式の総数や資本金額などを変更するための登記手続きを行う必要があります。

新株予約権は株式ではありませんが、将来的に株式になり得るものであるため、割当日から2週間以内に管轄法務局で『新株予約権の登記手続き』を行うのがルールです。登記に際し、以下の書類を準備しておきましょう。

  • 株主総会や取締役会の議事録
  • 新株予約権の申し込みを証する書面
  • 払込を証する書面(有償の場合)

なお、新株予約権は『発行』と『行使』の各段階で登記申請が必要です。

まとめ

新株予約権には多くのメリットがあるものの、発行する際は既存株主への影響を考慮する必要があります。株式の希薄化や株価の下落が生じれば、これまで企業を支えてきた安定株主が一気に離れてしまうリスクがあるのです。

新株予約権を発行すべきかどうかで悩んだときは、専門家に助言を求めましょう。