譲渡制限株式の目的と譲渡の流れ。不承認の場合における手続きも

譲渡制限株式の目的と譲渡の流れ。不承認の場合における手続きも

株主は本来、保有する株式を自由に譲渡できますが、会社の定款に特別な定めがある場合は、株式の譲渡が制限されます。株式を他者に譲りたい場合は、どのような手順を踏めばよいのでしょうか?譲渡制限株式の目的や手続きの流れを解説します。

譲渡制限株式とは

『株式は自由に売買ができるもの』と考える人は多いものです。しかし実際には、自由に売買できるのは上場企業の株式のみで、ほとんどの中小企業の株式は譲渡に制限があります。

譲渡の際に会社の承認が必要な株式

譲渡制限株式とは、譲渡にあたり『会社の承認』が必要な株式です。会社法では、『株式会社の承認を要する旨の定めを設けている株式』と定義されています。

株式には『株式譲渡自由の原則』があり、株主の譲渡する権利を会社が阻止することはできないのが本来です。ただし、会社が定款に特定のルールを設けている場合は、例外的に譲渡が制限されます。会社法107条を見てみましょう。

第百七条 株式会社は、その発行する全部の株式の内容として次に掲げる事項を定めることができる。

一 譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要すること。
二 当該株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること。
三 当該株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること。

譲渡制限を付ける理由

株式に譲渡制限を設ける主な理由は、望まない人物の手に株式が渡るのを防ぐためです。

第三者に株式を所有されると、持ち株比率によっては会社の支配権を奪われたり、経営に口出しをされたりする可能性が高まります。支配力に変化が生じれば、会社運営に大混乱を招くでしょう。

特に、高い技術力を有する中小企業や家族経営企業は、財力を有する投資家に容易に買収されてしまいますが、株式に譲渡制限が設けてあれば、株の買い占めや会社の乗っ取りを未然に防げます。

譲渡制限の範囲と確認方法

M&Aで他社の株式を買い取る、または第三者に譲る際は、譲渡制限の有無をあらかじめ確認しておきましょう。M&Aの契約書を交わした後に制限が発覚すると、交渉が振り出しに戻ってしまいます。

非公開会社は全ての株式に譲渡制限がある

会社の株式は、譲渡に対する制限の有無により以下の三つのパターンに分かれます。

  • 全ての株式に制限を設ける
  • 一部の株式のみに制限を設ける
  • 株式に制限を設けない

全てまたは一部の株式に譲渡制限の定めがない会社は『公開会社』、全ての株式に譲渡制限の定めがある会社は『非公開会社』と定義されています(会社法第2条5)。

『非公開会社=非上場会社』と認識する人もいますが、『非上場企業は非公開会社である場合が多い』というだけであって、厳密にはイコールではありません。上場企業を除き、新規に設立する株式会社の大半は非公開会社です。

参考:会社法 | e-Gov法令検索

定款や登記で譲渡制限の有無を確認できる

譲渡制限の有無は、会社の『定款』で確認ができます。会社法では『譲渡に株式会社の承認を要する際は、定款にその旨を記載しなければならない』と規定しているためです。定款の文言は会社ごとに異なりますが、多くは以下のような内容です。


当会社の株式を譲渡により取得するには、取締役会(株主総会)の承認を受けなければならない
当会社の株式を譲渡により取得するには、代表取締役の承認を要する。ただし、当会社の株主に譲渡する場合は承認があったものとみなす

株式譲渡制限は会社の『登記事項』のため、登記簿謄本または登記簿の『株式の譲渡制限に関する規定』の欄で確認が可能です。

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譲渡制限株式の譲渡の流れ

M&Aで譲渡制限株式を第三者に譲渡する際は、『会社の承認』を得た上で、買い手と譲渡契約を交わすのが基本です。株式譲渡承認請求から株主名簿の書換までの流れを確認しましょう。

株式譲渡承認請求

まずは会社に対して『株式譲渡承認請求書』を提出し、承認を求めます。必ず書面で提出をしなければならないという法律上の規定はありませんが、請求の事実を残しておくためにも、書面での送付が好ましいといえます。


株式譲渡承認請求書

株式会社〇〇の株式を下記の通り譲渡するため、会社法第136条に則り、貴社に対して株式譲渡の承認を請求いたします。

1.譲渡する株式の数及び種類:普通株式〇株

2.譲渡先:住所〇〇 名前〇〇

貴社が承認しない場合には、貴社または貴社指定の買取人が該当株式を買い取ることを請求いたします

令和〇年〇月〇日 譲渡人〇〇

請求書の書き方に決まりはありません。承認を求める旨を記載した上で、譲渡を希望する株式数や譲渡先などを明記するのが一般的です。後述しますが、『会社が譲渡を承認しない場合の対応』についても記載しておきましょう。

株主総会または取締役会における承認手続き

請求を受けた会社は、株主を招集して株主総会(取締役会設置会社は取締役会)を開き、『普通決議』で承認の可否を決定します。以下は普通決議に必要な定足数と決議要件です。

  • 議決権総数の過半数の株式を有する株主が株主総会に出席
  • 出席株主の議決権の過半数を獲得

会社は、請求日から2週間以内に承認請求者に結果の通知を行います。2週間を過ぎた場合、請求が承認されたものとみなされる点に注意しましょう。

契約締結

会社の許可を得た株主は、譲受人と『譲渡契約』を締結します。契約書を交わすにあたり、譲渡価額や対価の支払い方法などを事前に話し合っておきましょう。以下は契約書に記載する内容の一例です。

  • 株式の種類と数
  • 価額
  • 譲渡日
  • 誓約事項
  • 表明保証(※契約目的対象の内容などに関して、事項が真実かつ正確であることを売り手が買い手に対して表明・保証すること)
  • クロージング条件
  • 契約違反の場合の損害賠償・補償
  • 株主名簿の名義書換の請求について

名義書換

契約締結後、譲渡人と譲受人は会社に対して『株主名簿書換請求』を行い、譲渡した株式の名義を変更してもらう必要があります。株式名簿とは、株主の氏名や住所、保有する株式の数などが記載された書類です。

書換が完了されない限りは、譲受人に株主としての権利は与えられません。株式名義書換請求書に決まった様式はありませんが、詳細内容を記載した上で、双方が押印をするのが通常です。

不承認となった場合は?

会社が株式に譲渡制限を設けるのは、経営権の支配を狙う第三者から自社を守るためです。会社が譲渡を認めない場合、株式はどのように処理されるのでしょうか?

会社や指定買取人による買い取り

会社が譲渡を承認しない場合、承認請求者である株主には以下の選択肢があります。

  • 株式を譲渡しない
  • 会社に買い取ってもらう
  • 会社が指定した買取人に買い取ってもらう

株式の所有を望まない場合は、会社に対して『株式の買取』を請求できます(会社法140条)。


第百四十条 株式会社は、第百三十八条第一号ハ又は第二号ハの請求を受けた場合において、第百三十六条又は第百三十七条第一項の承認をしない旨の決定をしたときは、当該譲渡等承認請求に係る譲渡制限株式(以下この款において「対象株式」という。)を買い取らなければならない。

(略)

4 第一項の規定にかかわらず、同項に規定する場合には、株式会社は、対象株式の全部又は一部を買い取る者(以下この款において「指定買取人」という。)を指定することができる。

株式の買取を希望する場合は、『不承認の場合は、会社または会社指定の買取人が該当株式を買い取ることを請求する』という旨の請求書を提出しましょう。会社側は請求内容を受け、以下の内容を記した『買取通知』を送付します。

  • 買取者
  • 買い取る株式の種類・数
  • 供託額(会社の1株あたり純資産額×買取対象株式数)

供託とは、金銭や有価証券を国家機関である供託所に寄託することを指します。指定した買取者と該当株主の間で売買の協議が整わない場合、供託額が買取額になるルールです。

参考:会社法 | e-Gov法令検索

売買価格の決まり方

株式を指定買取人が買い取る場合、売買価額はどのように決めるのでしょうか?譲渡制限株式を保有する会社はほとんどが非上場企業であるため、標準となる取引価格がありません。

そこで『企業価値評価(バリュエーション)』を実施した上で、株価の算定を行います。企業価値評価とは、さまざまな手法を用いて、企業価値や株式価値を算定する方法です。

仮に、買取通知から20日経っても協議がなされない場合、請求者は裁判所に対して『価額決定の申立て』を行います。

申立てがなく、かつ協議も整わない場合は、『会社の1株あたり純資産額×買取対象株式数の金額』が譲渡代金として支払われます。

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まとめ

新規に設立される会社や上場企業以外の会社の大部分は、非公開会社です。株式の全てに譲渡制限が付されているため、譲渡にあたり株主総会または取締役会の承認を受けるのが原則です。

同族会社や家族経営の会社は、譲渡承認を請求しても認められないケースがあります。不承認になる可能性も考慮して、M&Aの契約は慎重に進める必要があるでしょう。

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