2019-07-30

福利厚生も兼ねたM&A:英会話教室でグローバル化が進む社内コミュニケーションを解決へ

英会話教室事業

多くの業界で人材獲得競争が激化する昨今、企業は人材の獲得・定着にしのぎを削っています。そんななかで福利厚生の在り方も変化しつつあり、ユニークな制度でSNSを賑わす企業や、福利厚生専門のアウトソーシング会社を活用する企業が目立つようになりました。なかには、福利厚生を意識したM&Aを行う企業も……。
ソフトウェア開発などを行う株式会社もばらぶ(以下、もばらぶ)が、英会話教室事業を買収したのも“福利厚生”への活用が大きな理由でした。

人材獲得難の時代を勝ち抜くために。

もばらぶは、業務システムやWebサービス、スマートフォンアプリなどの受託開発を行うIT企業です。ユニークなのは、リモートワークを強く推奨していること。正社員、業務委託パートナー、アルバイトを含む全メンバーに、オフィスに通勤せずに好きな場所で働くことを認めています。

「勤務地以外にも、短時間勤務や兼職・副業なども社では推進しています。スタッフには、なるべく自由な働き方をしてほしいですし、加えて、年々、人材の採用競争が激しくなっていますので、その対策という意味合いもあります。ただでさえ優秀なソフトウェア技術者は不足しています。採用の際、居住地や働き方で選り好みしていては、人材確保が難しい時代です。人材採用の面において、柔軟に対応していますよという発信は積極的におこなっています」

そう話すのは、もばらぶの創業者/代表取締役の鹿島和郎さん。こうしたアピールは、実際に採用につながっており、特に海外在住の日本人、外国人を含めた海外メンバーが目立って増えたと言います。
しかし、スキルのある人材の確保に成功したことは喜ばしい一方で、別の課題が出てきました。それは、メンバー間のコミュニケーション。多国籍になったチームの会話は英語が中心ですが、なかには英語力に自信のないメンバーも。そんな状況への打ち手として鹿島さんが選んだのが、今回のM&Aでした。

「福利厚生」としての英会話教室M&A

「ちょうど、何か新しい事業投資をしようと考えていた時期で、英語教育がありきだったわけではありません。ただ、予算上限の1000万円以下の案件に絞り込んで、飲食などの今の事業にまったく関係のない業種を外していくなかで、英語関連のビジネスがいくつか残って。そこで、福利厚生への活用を考えました」

英会話教室に加え、留学支援や語学学校の運営、変わったものではワーケーション(ワーク+バケーションを組み合わせた新しい働き方)用の宿泊施設など、幅広く検討したそうです。 M&Aの対象になったのは、横浜の英会話スクール、C. ダイアナEnglish School。買収前は教室での授業だけを行っていましたが、新たにオンライン講義を用意し、社員やパートナー向けに開講しました。

「まだスタートしたばかりなので、英語力への影響はこれからですが、利用自体はそれなりにされているようです。うまく行くようであれば、他のソフトウェア会社にも提供できればいいなと考えています。IT業界ではどこの会社も同じような課題を抱えているはずなので」

既存事業のノウハウやネットワークを活かせる。

さまざまな候補があったなかで、C. ダイアナEnglish Schoolを選んだのは、どんな理由があったのでしょうか?

「福利厚生に活用するとは言っても、それがメインではありません。事業として収益を上げることはもちろん重要なので、一般の生徒さんから見た価値はしっかりと見極めました。横浜駅という、ビジネスマン、学生、買い物客など幅広い層が集まるターミナル駅から徒歩3分の好立地ということで、潜在顧客は相当多いのではと考えたんです。また、ソフトウェア開発事業で教育関連のシステムをつくったことがあり、講師を探す伝手も心当たりがあります。唯一、Webサイトの検索対策が上手くいかず、上位に上がっていない点は問題だと思いましたが、それこそ我々の得意分野ですから、リカバリー可能だと判断しました」

これだけの好条件、買収を希望するライバルも多く、5名の買い手が実名交渉を行っています。そんななかで自身が選ばれた理由を、鹿島さんはこう分析します。

「一番はスピード感だったのではと思います。最初にお会いしたタイミングですぐ買収したい意志を伝えました。そのときに、自分たちの事業と英語の関連性を伝えたことも、納得感につながったのかもしれません。前オーナーは英語教育への情熱の強い方で、今も神奈川県内で他の教室を複数運営されています。ご事情があって今回の売却を考えられたそうですが、横浜教室への愛着も持っていて、既存の先生や生徒さんもそのまま残したいという気持ちを伝えられました。そうした方々を預けられるにあたって、安心して任せられる人間かどうかは見られていたと思います。スピード感や事業の親和性の説明によって、安心感を持っていただけたのではないでしょうか? そんなやりとりがあったこともあってか、前オーナーさんには非常に協力的にしていただいて、『何かあったらいつでも連絡してください』というお言葉もいただいています」

残すところと変えるところ。

「ご希望いただいた通り、講師の先生には継続勤務いただいており、生徒さん25名もそのままの条件で通い続けていただいています。特に先生には、雇用主が変わることで不安を感じることがないよう、待遇面などを丁寧に説明するようにしました」

前運営から引き継いだ点もありつつ、ブラッシュアップしようとしている点もあります。

「子ども向けの授業も開講されていたのですが、生徒さんが集まっていない状態でした。今回のM&Aを期に、大人向けに特化しようと考えています。我々の福利厚生用のオンライン講義などとも合わせて、ビジネスに役立つというところで勝負できればなと思います」

toBビジネスであるソフトウェア開発と、toCビジネスである英会話教室。勝手の違いに戸惑うこともあるそう。

「お金を出す人が企業か個人かの違いは大きいですね。単純に金額だけ見ても、ソフトウェア開発は小規模でも数十万円からですが、英会話教室の月謝は数千円から1万円程度。売上のつくり方の違いは感じます。まずは結果の出る教室として評判をつくって、生徒さんを増やし、教室を大きくしていきたいと考えています」

会ってみないと分からないことがある。

TRANBIを利用するコツは?という問いに返ってきたのは、会って信頼できるか確かめることだという回答。

「明らかに良くない案件というのは、TRANBIの画面上からだけでも分かります。例えば、まだ全然売上の上がっていないWebサイトのように」

一方で、本当に良い案件かどうかの判断は、会ってみないとできないと言います。

「条件が良くても、オーナーの人柄が合わないということも大いにあります。顔見て話したときの直感って、案外アテになるものですよ」

ITツールを駆使してリモートワークを推進する鹿島さんが、アナログな対面の会話を重視されるのはおもしろいところ。ドライなイメージを持たれがちなM&Aですが、人間同士の感情も重要なのです。

広がりつつあるM&Aの目的。

譲渡手続きも完了し、すでに運営を移行したC. ダイアナEnglish School。検索順位の低かったWebサイトも、早速ドメインを取り直し、徐々に表示順位が上がり始めています。

「M&Aははじめてでしたが、自分たちでも可能なことなんだと分かりました。当面はこの教室単体で利益を出すことが目標ですが、将来的にはほかの事業の買収も検討したいと思っています」

「福利厚生」を含め、企業がM&Aを行う目的が多様化しつつあります。何か新しい事業投資を、とお考えの企業様は、ぜひ参考にしてみてください。

【関連リンク】
C.ダイアナ English School 
https://diana-english.yokohama/
株式会社もばらぶ 
https://mobalab.net/

  • 田中 ヤスヒロ(typo)
  • ライター紹介田中 ヤスヒロ(typo)

    コピーライター/京都大学理学部卒業後、広告制作会社にてコピーライターとして勤務。WebサイトやSNSなど、デジタル媒体を中心に広告コンテンツの企画・制作を担当する。ビジネス、科学など固いものを柔らかく伝えることが得意。2018年より屋号「typo(誤字脱字)」として独立。その名の通り、ケアレスミスが多いタイプ。