2025-01-09
ポテンシャルを秘める地方の温泉を0円でM&A!大幅な改装を視野に踏み出した一歩
買い手(法人):Ichigo Ventures株式会社
<中小企業の新規事業を目的としたM&A・買収事例>
- ➤ ビジネスチャンスを感じられる立地や施設であることが決め手に
- ➤ 問い合わせの翌日に施設見学&手付金入金のスピード感でライバルと差別化
- ➤ 今冬は現状維持も、春以降は改装に着手予定。観光客も訪れる、魅力的な温泉へ
青森県西津軽郡鰺ヶ沢町にある、源泉掛け流しの日帰り温泉「海のしずく」。
運営者が高齢で体が不自由になったことから事業売却を決めた経緯や、どのような方に事業を託したかったのかという思いについては、以前の記事において、売り手である株式会社白神の成田さんに伺いました。
今回は、この事業を継承したIchigo Ventures株式会社の佐々木さんに、温泉事業に興味を持った理由や引き継ぎ後の今の状況、今後のビジョンなどを買い手側の目線で語っていただきました。
【ビジネスチャンスを感じられる立地や施設であることが決め手に】
- はじめに、佐々木さんのキャリアについて教えてください。
大学を卒業後、漠然とした経済への興味から投資家としてのキャリアをスタートさせました。大きな資金を運用する事への挑戦、そして純粋に資産を築きたいという思いがあったからです。
投資家として資産運用を行いながら、未上場への出資も興味が沸いてきて、Ichigo Ventures株式会社というベンチャーキャピタル(VC)も設立しました。
- 最初からうまくいったわけではないかと思いますが、どのようにして投資家としてのキャリアを切り拓いてきましたか。
私が投資家になったのは今から20年ほど前ですが、当時は今のように情報が溢れていたわけではなく、投資について教えてくれる人もいませんでした。
そこで、投資に関する本を読み漁りながら独学をする毎日。あとは、投資家の方のブログを頼りにヒントを探していました。実際に投資をしてみて、負けたら敗因を分析してまた次に生かす、という繰り返しでしたね。
意識していたのは、とにかく勝ち癖を付けることです。自分の生活がかかっていたこともあって、「何が何でも毎月プラスにする」という明確な目標のもとに、自分の資産を守りながら勝ちを重ねることにこだわったのです。そのうち、知識や経験が身に付いて、安定して稼げるようになりました。
運用金額は数億円を優に超えていて、普段の生活する分には困らない程度の資産をすでに築くことができています。
そのため、今は短期的なプラスやマイナスに振り回されるのではなく、長期的な視点を持って「自分の資産をどこまで高みに持っていけるか」という勝負をしているようなフェーズになります。
- 今回、M&Aに挑戦しようと思った理由を教えてください。
今後「地方創生」が日本の欠かせないテーマとなる中で、「地方創生は本当に実現可能なのか」、「地方は本当に資産となりえるのだろうか」ということが気になっていました。
そのなかでも興味があったのが、銭湯や温泉などの事業です。昨今のサウナブームなどを見ていてポテンシャルがまだまだあるのではないかと思っていたのと、自分の手でそれを検証してみたいなと思ったんです。
ただ、いちから銭湯や温泉を作るとなると、1億円近くの金額が必要になるケースもあり、自己資金で取り組むにはリスクが高すぎます。
成功するかどうかもわからない事業にそこまで資金を投じるべきかは迷いもあったので、今あるものを引き継ぐ形が一番いいと思い、M&Aという手段を選びました。
- 銭湯や温泉という事業軸で探していて、案件はすぐに見つかりましたか。
都内の銭湯は激戦ですし、そもそも事業承継の話がなかなか出てきませんが、私が興味を持っていた地方の銭湯や温泉では、後継者を探している案件がちらほらありました。
ただ、地方ならどこでもよかったわけではありません。「インバウンドなども絡めて、ビジネスチャンスを作り出せるか」という点は大きなポイントでした。あとは、「源泉が湧いていて、お湯の質が良い」といったことも重視していました。
(※写真はイメージです)
【問い合わせの翌日に施設見学&手付金入金のスピード感でライバルと差別化】
- 改めて、今回購入した案件の概要を教えてください。
青森県西津軽郡鰺ヶ沢町にある、源泉掛け流しの日帰り温泉「海のしずく」です。直近のお客様の数は平日で60名ほど、土日で100名ほどでしたが、サウナが故障する以前は、平日で1日平均100名、土日には130~150名ほどのお客様が来ていたそうです。
若い方からお年寄りまで地元のお客様に愛される温泉である一方、冬はスキー、夏は青森ねぶた祭に訪れた国内や海外の観光客の方の利用がある点も魅力であり、この案件なら挑戦してみたいと思えたので応募を決めました。
- 交渉をするうえで、気を付けたことはありますか。
売り手様のご要望をしっかり聞いたうえで、自分の意見も伝えつつ、お互いにとって最良の妥協点を探すということです。
また、実際に現地を視察して決断したかったので、売り手様に問い合わせをした翌日に施設見学に伺うなど、早めに行動するようにしました。
- 現地に行ってみての印象はいかがでしたか。
過去に視察させていただいた別の場所と比べても、源泉かけ流しの温泉であることと、見た感じではそれほど老朽化しているように映らない点には好印象を持ちました。
また、改装に費用は掛かるものの、譲渡金額は0円で。着手金20万円と、土地や建物や設備の賃借料として月額支払うという条件も魅力的でした。
売り手様から条件や建物の説明を聞いて納得した上で、あとは自分でやってみなければわからないと思ったのと、「実は源泉が出ない」といった想定外のトラブルが起こらない限りはここを買いたいと決意が固まったため、見学したその日に手付金を入金させていただきました。
50件以上の申し込みがあった人気案件だったようなので、結果的に即決して手付金をすぐ入金してよかったと思います。
- ただ、その後、正式な成約に至るまでには8か月ほどが掛かるなど、交渉は長期間になったようですね。
長引いたのにはいくつか要因があります。たとえば、温泉を改装するために総務省の補助金の申請をして、結果が出るまでに4か月掛かったことも一つの要因です。
また、海のしずくは家族経営の温泉だったため、売り手様のご家族内での話し合いにも多少時間を要しましたし、温泉という特殊な事業を承継するため、弁護士と打ち合わせをして契約書を作る過程にも時間が掛かりました。
ただ、特に私の方で何か懸念点があって決断が遅れたというわけではないですし、契約書に特別な条項なども盛り込んではいません。
購入する気持ちは固まっていたので、先に賃貸借契約だけは締結しました。購入を決断した翌月から賃借料を支払い、改装の計画も立てていました。
(※写真はイメージです)
【今冬は現状維持も、春以降は改装に着手予定。観光客も訪れる、魅力的な温泉へ】
- 2024年10月に正式な成約となりました。成約から1か月ほど経った現状のフェーズを教えてください。
残念ながら補助金は取れなかったものの、3000万円ほどを掛けてこの冬に改装を行う予定でした。ただ、2024年1月から休業していたため、温泉の既存の設備や機械を早期に動かしておかないと、機械が朽ちてダメになってしまうという可能性がありました。
そこで、今年の冬は改装をせず、いったん現状維持のままで営業を始める形になりそうです。そして、冬が過ぎればもう一度休業して、改装に動けたらと考えています。
- 従業員の方を引き継がれるのですか。
これまで働いてくださっていた方が「引き続き働きたい」と希望してくだされば、そのまま働き続けてもらいたいと考えていますし、新たな従業員も雇う予定で今募集をしています。
- 将来的な改装のイメージもぜひ教えていただけますか。
海のしずくの近くには、インバウンドのお客様が多く訪れるスキー場もあるため、もともとは「鯵ヶ沢は北海道・ニセコのようなポテンシャルを秘めている」というコンセプトを立て、外国人観光客や富裕層をターゲットにした施設にしていきたいというビジョンを持っていました。
ただ、いったん改装が後ろ倒しになってしまったので、まずは今年の冬の3~4か月間営業をしてみて、実際の利用状況などを見ながら、そのビジョンでいいのかどうかを考えて、ブラッシュアップしていければなと。
想定していた通りになるかもしれませんし、多少異なるコンセプトに変わる可能性もあります。
- 成約後の変化や、事業承継をして得た知見や学びはありますか。
私は東京に住んでいますが、青森に行く機会がとても増えました、そして青森が日本で一番人口10万人あたりの公衆浴場の数が多い県であることや、1つ1つの公衆浴場から温泉が出ていること、熱い温泉が湧いているという特徴があることも知りました。
私が思っていた以上に、温泉事業を行ううえでは競争の激しい環境だったのです。
ただ、近隣の施設をいろいろと視察してみての正直な感想は、「どこも似ている」という印象でした。源泉の違いがそれぞれの個性にはなっているものの、どこも建物が古めで、良くも悪くも「昔ながらの銭湯」のような印象を受けたからです。
だからこそ、改装によって「どのように、どこまで、差別化をするのか」が問われますし、これからの挑戦だと思っています。
- M&Aを検討している方に向けて、メッセージをいただけますか。
買ってみないとわからないこともたくさんあるからこそ、特に未経験の業界の案件を買収する際には、資金的に余裕のある範囲で予算を設定して行うべきということでしょうか。
私も温泉事業の経験や知識はなかったので、契約後に機械や物を動かしたり、地元の電気屋さんや専門業者さんの話を聞きながら、建物や機械の「ここが使える/使えない」を確認したりしていくなかで、温泉を運営していくにあたって足りないところなども見えてきました。
想定外のこともありましたが、一度買って自分で事業を手掛けてみたからこそ得た学びもありますし、もし今後また新たな温泉のM&Aを行う機会がある場合には、今回の学びを踏まえて条件交渉に臨めると思います。
もちろんリスクもありますが、M&A前に机上で検討できることや想定できることには限界があるからこそ、まずは自分にとって安価な案件を選んで、M&Aの一歩目を踏み出してみることをおすすめします。
(※写真はイメージです)
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■今回買収した案件はこちら
「【ほぼ自走可能】銭湯あり!サウナあり!民泊あり!の事業譲渡」
■Ichigo Venturesさんが運営している事業はこちら
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