2019-09-03

地域に根ざす老舗企業がイマ、異業種M&Aを行う理由。「味を引き継ぐ」-1000万円弱で食品事業を購入

株式会社ふなやす様

日本は諸外国に比べ、老舗企業が多いことで知られています。100年を超える歴史を持つ企業が全国各地に多数存在します。その長命さの理由のひとつとしてよく挙げられるのが、事業ピボットの巧みさ。創業事業と現在の事業が全く違っているという会社も珍しくありませんが、その事業の変遷を紐解いてみると、既存のノウハウやリソースをうまく活かしていることに驚かされます。
トランビを通して食品事業を買収した株式会社ふなやすも、そんな老舗企業の1社です。同社はこれまでどんな事業をおこなってきて、なぜ今このときにM&Aをおこなったのでしょうか?

300年の歴史のなかで経験した事業転換。

株式会社ふなやすは、前進である安部商店時代から数えて300年以上の歴史を持つ会社です。水源に恵まれた岐阜県養老郡の地で、江戸時代から川魚の鮒(フナ)の仲買を営んでいた同社が大きく事業転換したのは今から60年ほど前。現在社長を務める安部潔仁さんのおじいさんの代に、結婚式場をつくりブライダル事業に参入したそうです。

「祖父は社名を安部商店からふなやすに変えた人でもあります。当時すでに、鮒があまり売れない時代でしたが、先人の想いを引き継ぎたいという気持ちから「ふな」という言葉を社名に掲げました。庶民の魚である鮒を扱っていたことを忘れず、人様をよろこばせられるような仕事をしようという意志もあったと聞いています」

鮒が売れなくなっていき何か新しい事業をと考えるなかで、ブライダルという事業を選んだのも、誰かをよろこばせたいという想いがあったからなのかもしれません。しかし、結婚式場が賑わった時代も少子高齢化の進行によって終わりを迎えます。地域の人口が減りはじめ、挙式数自体が目減りしていくなか、披露宴スペースを法要の際の食事会場や会議室としても部屋を貸し出すようになりました。

時代が変わるなか、生き残るための情報源としてトランビを利用。

父の代をはさみ、社長を引き継いだ安部さんは、既存の人材や設備、ノウハウを活かすビジネスを探し、葬儀会館のフランチャイジーとなることを選びました。現在は、岐阜県内5店舗の葬儀会館の運営をメインに、お弁当や仕出しの製造・販売も行っています。

「事業転換の理由は時代に対応するためです。高齢化が進むなか、婚礼需要が減るのとは対象的に、お葬式の需要が増えていますから。ただ、それもずっと続くわけではありません。人はさらに減っていきますし、葬儀のあり方も多様化してきています。今好調だからといってそれ1つを続ければ安泰だとは思っていません」

トランビに登録したのも、そんな危機感からだと言います。

「新しいビジネスを探さなくてはという気持ちは常にあったので、情報収集のつもりで登録しました。最初からM&Aありきだったわけではなくて、売りに出ている案件を見ながらアイデアを練るような使い方をしていました。よく売りに出ているなとか、売上の良し悪しとか、業種毎の景況感もなんとなく見えておもしろかったですね」

人材の活躍の場を増やすために選んだ事業。

そんななか、目に止まったのが今回買収した食品事業。電気配線器具の製造・販売を主事業とするメーカーが運営する、ギョウザの製造・販売事業をM&Aにて引き継ぎました。関心を持った理由は、お弁当や仕出しの事業と親和性があること。ふなやすの持つ、食品を扱う資格や十分な広さの調理場、そして何より、人材を活かせそうな事業であることに惹かれました。

「実は数年前から障害者支援会社からご紹介いただいて、障害者の方々を積極的に雇用しているんです。彼らにはお弁当の盛り付けや館内の清掃、道路案内板設置などを担当いただいています。受け入れ会社によっては、環境や業務が合わずに定着しづらい場合もあるようなのですが、ありがたいことに当社は働きやすいと評判なようで。どんどん紹介いただけるので、多くの方を雇用できるようにもっともっと仕事を用意したいなと思っていたところだったんです」

業務内容を覚えてもらいやすく、危険の少ない事業を探していた安部さん。ギョウザの製造販売事業の概要を見てピンと来ました。

「比較的シンプルな料理ですし、単品目で勝負すれば覚えることも最小限で済みます。普段お弁当の盛り付けなどを行っている彼らなら、十分対応できると思えたんです」

M&Aは事業の立上・育成の時間を買う感覚。

購入の決め手は、実際に交渉をはじめてみて感じた担当者さんの本気の仕事ぶりでした。

「売り主方の事業責任者さんが大手食品会社にお勤めだった方で。食品ビジネスのノウハウの奥深さに驚きました。日本全国の人気のギョウザ屋さんを400店舗以上回って、味や食感などをすべて数値化し、「この味のギョウザが一番売れるはず」とロジカルな裏付けを行っていて。そしてその味を誰でも再現できるように、調味料を入れる順番や素材の産地まで厳密に決めたレシピに落とし込んでいました。もちろん、ウンチクだけでなく実際の味も抜群でした」

買収時には、秘伝の資料(リサーチ結果をまとめたデータブック、レシピマニュアル)と調理用の機械一式を引き継ぎました。データブックは分厚いA4ホルダーが2つパンパンになるほどの情報量。びっしりと書き込まれたデータを見て、これは強い武器になると確信したそうです。

「担当者さんの熱意に尊敬の念を抱きましたね。我々からすると、これだけのノウハウをすぐに手に入れられるのはありがたいことだなと感じています。もし自分たちだけで0から事業を立ち上げるとしたら、どれほどの時間がかかったか……。時間を買ったという感覚ですね」

夢を持って事業に取り組むことが、売り手への恩返し。

安部さんのリスペクトは売り主にも伝わり、交渉はスムーズだったそう。譲渡前後もきめ細かいフォローのもと、事業開始に向けての準備は順調に進んでいます。

「私自身が事業経営をしているから分かりますが、売ることになったからといって事業への愛着心はなくならないはずです。ただ条件が折り合えばいいというわけではなく、事業にかける想いのある買い手に渡したいだろうことは想像できました。ですから、売り主様にとって、渡し甲斐があるように、この事業を通して、どんな夢を描くのかをお伝えし、また期待をもっていただけるようにと努めました」

まずは隣町である大垣市の駅前で飲食店としてスタートする予定です。特徴は、ギョウザとドリンクのみという思い切ったメニュー構成。カウンターのみのミニマムな店舗で、気軽に入って素早く出られるような店舗を目指します。

「小売販売も考えましたが、焼き方でもずいぶん味が変わるので、最初はこちらですべて管理できる店舗で勝負することにしました。最高の状態で食べてもらってファンをつくり、そこから次の展開を考えるつもりです。ゆくゆくは店舗を増やしたり、フランチャイズ店を募ったりできるようになればいいですね。夢を持って事業に取り組むことが売り手さんへの恩返しにもなると思っています」

老舗企業の選択肢にM&Aを。

自社の事業とは別に気になっていることがあるという安部さん。それは、地域の商工会の会議で廃業報告を聞く数が増えているということ。毎月新たに創業する会社もあるものの、その2倍ほどの数の会社が廃業していくと言います。

「売上不調などが理由の仕方がない廃業も多いと思うのですが、後継者不足で事業をたたむというお話を耳にすると残念だなと感じます。事業をはじめたい方にうまく譲ることができれば、売り手にとっても、買い手にとっても、そして地域にとってもいいことだと思っています。M&Aもその手段のひとつだと思うので、ぜひ周りに紹介したいですね」

生き残りのために事業ピボットや多角化を考える際に、あるいは事業を手放すという判断をされた際に……。老舗企業がこれからを考える際、トランビが何かお役に立てるかもしれません。まずは情報収取のツールとしてでもけっこうです。ぜひお役立てください。

 

  • 田中 ヤスヒロ(typo)
  • ライター紹介田中 ヤスヒロ(typo)

    コピーライター/京都大学理学部卒業後、広告制作会社にてコピーライターとして勤務。WebサイトやSNSなど、デジタル媒体を中心に広告コンテンツの企画・制作を担当する。ビジネス、科学など固いものを柔らかく伝えることが得意。2018年より屋号「typo(誤字脱字)」として独立。その名の通り、ケアレスミスが多いタイプ。