2020-01-21

建築会社が内装用建材会社をM&Aした理由 そして生まれたシナジーとは?

売り手:小松英介さん 買い手:TSGホールディングス株式会社 濵本利寿代表取締役社長

成約に至った、左が有限会社工房志楽の売り手、小松英介さん。右がTSGホールディングス株式会社代表取締役社長の濵本利寿さん 。互いに東京から戻ってきた二代目社長。交渉前から顔見知りだったというのも縁を感じる。

オリジナル内装用建材を扱う広島県の有限会社工房志楽を引き継いだのは、同じく広島県で7社のグループ会社を束ねる総合建築業のTSGホールディングス。TSGホールディングスにとっては、4社目のM&Aとなった。工房志楽の元社長である小松英介さんは、なぜ会社を売却しようとしたのか? 購入した濵本利寿社長が「工房志楽なら、高い相乗効果が生まれる」と直感した理由とは? TSGホールディングスの本社で、お二人にじっくりとお話を伺った。

今回、譲渡対象となった「工房志楽」。古材風の化粧梁や、コンクリートブロック風タイルなど、デザインの為の内装用建材を製造・販売している。

Q. まずは小松さんから、会社を売却するきっかけと経緯についてお聞かせください。

工房志楽は1990年にゼネコンに勤めていた私の父が脱サラして始めたオリジナル内装用建材の会社です。見た目はレンガで、中身は発泡スチロールといった“軽量レンガ”をはじめ、レンガ風タイルやブロック風タイルなど、特にデザインに特化した商品を、自社で開発し、製造から販売まで行ってきました。

私は大学卒業後、東京でケーブルテレビ関連の設備会社に勤めていましたが、2006年に広島に戻り入社。二代目社長になると同時に工房志楽の商品をネットで販売し始め、販売網を全国に広げてきました。工房志楽の商品は施工性がいいという特徴がありますので、我々が行かなくても現場の職人さんが施行できるという点も全国展開できた理由のひとつです。

売却の大きなきっかけとなったのは、2017年のこと。大手のスポーツメーカーから、工房志楽のコンクリートブロックを世界各国の店舗で使いたいという話があったときでした。これはすごいことだ、何が目に留まったのだろう、と考えたときに、ひとつがデザインだったんですね。そのときに私はデザインの可能性は、ここまで世界で通じるものなんだ、デザインを使って何か世界に貢献したいと思い始めてしまったんです。

そこで、このデザインに関連する事業を、新しい事業として立ち上げることを考え始めました。しかし、そうすると既存の事業を続けることが難しくなる。社長の私がいなくなると会社も困る。そこで既存の事業を引き継いでもらいたいと事業売却を考え始め、トランビに登録したのです。2018年12月のことでした。

「デザインの可能性を広げたい」と夢を語る小松さん。そのためにM&Aを決意。

Q. TSGホールディングスは、これまでM&Aの実績がありますが今回、なぜ工房志楽を購入されたのでしょうか。

当社は総合建設業の会社ですから、工房志楽のような建材の製造や販売を事業に加えて相乗効果を出すというニーズは常にあります。今回のM&Aは4社目になりますが、2社目に購入した装飾ガラスのデザインや製造を手掛けるハイカワデザインガラス株式会社と似たシナジー効果があるんですね。

そもそも私が当社の将来像を考えたときに、全くの同業種は興味がない。かといって全くかけ離れているのも興味がありません。今回、工房志楽に関しては、建材を自社開発しているという魅力があるのはもちろん、この2社目に買収したハイカワデザインガラスと、非常に高い相乗効果が生まれるのではないかと感じたのです。

というのは、ハイカワデザインガラスの販売は、ほぼガラス問屋からの受注と対面営業。一方、工房志楽は100%インターネット販売。これは、まさしく製品のノウハウだけでなく、販売のノウハウまで掛け合わせることができるなと。ほぼ迷わずに進めていったのには、こういった理由がありました。

Q. そもそもTSGホールディングスは、なぜ積極的にM&Aに取り組まれているのでしょうか。

その理由は2つあります。もともとこの会社は私の父が1970年に創業しました。実は私も東京の大学を出て、東京で働いていました。29歳のときに広島に戻り、2003年にこの会社に入社、2010年に2代目として代がわりしたんですね。

ところが社員時代も社長になってからも、いっしょに頑張ろうと言っていた社員が次々と辞めて独立していくんです。この業界は独立しやすいということもありますが、どうすれば今いる社員が独立せずに、この会社で頑張ってくれるんだろう……、と私なりに考えました。その結果、見つけた答えがM&Aだったんです。

つまりサラリーマンというのは、一生懸命働いても限界がある。どれだけ頑張っても収入に天井があるんです。そういう夢のない働き方はよくない。もっと夢を持って働いてもらいたい。そこで思ったのが、今いる社員がサラリーマンでなくて、社長になったらいいんじゃないかと。TSGホールディングスの社長は一人しかなれないけれど、他に会社が10コあれば、10人が社長になれると考えたわけですね。それが一つ目の理由です。

もう一つの理由としてM&Aは、価値を何倍にも高める可能性があるということ。たとえば1億円あれば、一般的には不動産を買うことを考えるでしょうが、不動産だと急激な利益拡大は難しいですし、むしろ時が経てば価値はどんどん目減りしていく。でも事業なら1億円の売り上げがあれば、頑張り次第で2億円にも3億円にもできる。そこに私はM&Aの可能性を感じるわけです。

実は1社目、2社目は赤字決算の会社を買ったんです。でも今は改善されていますから、結局、お客様に必要なものを作れば、絶対に売れるということなんです。

「社員の働きがいのある会社にするためにM&Aに取り組む」と濵本利寿社長。

Q. 2019年4月に初めての面談、その年の7月に成約したとのことですが、交渉はどのように進んだのでしょうか。

濵本さん:全くの異業種ということもあって、とりあえず小松さんにお会いしましょうと投げかけをしたら、すぐに来てくださいました。顔を合わせると、以前から知っている方でした。小松さんって、あの小松さん? みたいな(笑)。地元の異業種交流会で顔を合わせたことがあったんですね。ただ、それがきっかけで話がスムーズに進んだわけではありません。率直にお話しいただき、事業面でも費用面でも問題ないと判断して決断しました。

小松さん:僕ももちろん、濵本さんのことは知っていました。トランビに登録後、何社か面談させていただいたなかで、濵本さんに決めたのは、やはり一番はM&Aの経験をお持ちだったということですね。また私自身、ハイカワデザインガラスの技術や作品に非常に興味があったので、組み合わせたらとても可能性が広がるだろうなと感じた。そうすると、やはり濵本社長にお願いしたいと思いました。

Q. 工房志楽の社員の方には、どのようにお話になりましたか。

小松さん:結局、父と私が抜けて8名がTSGホールディングスに移ることになりましたが、社員に初めて伝えたときは、みんなポカンとして、よく理解できていない様子でしたね。

濵本さん:まずは小松さんから話して、今度は私から、と説明会のような形でしたね。

小松さん:株主、役員、代表者が変わるだけで、社名も雇用形態も勤務先も変わらないということは、従業員にしっかり伝えました。私の姉も勤めていたのですが、そのまま残らせてもらっています。

濵本さん:今は飲み会もして、いろいろ話をさせてもらっていますよ。

Q. 現在、引き継ぎ中とのことですが、何か変化したことはありますか?

濵本さん:もともと小松さんのうれしい悩みとしてあったのが、生産キャパが追いつかないということ。つまり受注はあるのに、受注しても場所も人も足りなくて、生産が追いつかないという状況にありました。しかし今回、M&Aによって、そういった工房志楽の商品の一部を、山口県宇部市の広大な工場にあるハイカワデザインガラスで作ることができるようになったんです。“材料を流し込んで型にはめる”という工程に共通するところがありますから。

ハイカワデザインガラスは特注品の受注製作がメインなので、どうしても注文が来るまで間が空いてしまう。それに対して、工房志楽は在庫で作っておいて、注文が来たら出すという形。そこでハイカワデザインガラスが空いた時間に工房志楽の在庫商品を作り、時間を有効活用するということが実現しつつあります。これをこなせれば、2割ぐらいの売り上げは見込めます。人員も場所も増やさず、利益率が上がる。これはすごくよかったなと思います。

小松さん:最初は、いきなり工房志楽の商品をハイカワデザインガラスで作ることができるかなと思いましたが、やはり職人同士だからか、ポイントがわかるのでしょうね。ハイカワデザインガラスの職人さんは飲み込みが非常に早くて、やる気を持ってやってくださっています。今は「あの型を使って、新しいものを作りたい」なんて声も聞こえていますよ。

濵本さん:ハイカワデザインガラスのほうもやる気はあるのに、仕事がないというのはストレスなので、新しい仕事が増えて、刺激になっていると思いますよ。

Q. 今回のM&Aを振り返ってみていかがでしょうか。

小松さん:売り手側としては今回、TSGホールディングスさんに選んでいただいて、本当によかったと思います。一番大きいのは、ハイカワデザインガラスの存在。工房志楽の社員もハイカワデザインガラスに行って、作り方を説明していくなかで、人的交流の幅が広がりました。私の力では、今の工房志楽をそれ以上成長させることができなかったのを、今回のM&Aによってそういった広がりができたことは、すごくよかったと感じています。

濵本さん:先ほども言ったように、工房志楽がグループ会社に入ることで、既存の会社とのシナジー効果が生まれ、利益が見込める。これは買い手側としては大きな成果です。そしてM&A全体の話として、買い手側からの注意点は2点あります。

1点目は「M&Aの目的を明確にする」ということ。そうでないと、もし売上が伸び悩んだ時に進むべき道を迷う等、苦労することになります。まずはM&Aを行うことで最終的に何を成し遂げたいのかを自分で考え抜く必要があります。

もう1点は「今ある会社の本体より大きな会社を買わないこと」。今のスタッフが50人なのに、500人の会社を買っても束ねられるわけがないですよね。やったことがないんですから、これは必ず無理がきます。地域の中小企業の経営者に聞かれたときも、この2点は必ず話すようにしていますね。

新築工事や修繕工事を手掛ける株式会社ティー・エス・ハマモトを中心に、不動産・保険代理業や建築設計事務所、建築確認申請サポートなどTSGホールディングスは、現在7社を抱えている。

  • 池田純子)
  • ライター紹介池田純子

    大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーのライター・編集者に。暮らしやお金、子育てにまつわる雑誌記事の執筆や単行本の製作に携わる。さまざまな生き方を提案するインタビューサイト「いま&ひと」を主宰。