2020-05-26

次々とM&Aに挑む若き2代目社長  ~「ものづくり」のM&Aで町工場のイメージを「カッコいい製造業」へ~

買い手:有限会社セイワ工業様


 

TRANBIを通じた亜鉛メッキ加工の東栄コーティング株式会社とのM&Aを皮切りに、2社目は機械加工の株式会社カスカ、現在は3社目をデューデリジェンス中、と製造業のM&Aに果敢に挑戦する野見山勇大さん。元々は溶接加工の有限会社セイワ工業を譲り受けた2代目社長だ。『「ものづくり」のM&Aで町工場のイメージを「カッコいい製造業」にしたい』というM&Aへの思い、今後の夢を語っていただきました。


【中小企業の情報格差は自分にとってチャンス!】

- そもそもM&Aに興味をもったきっかけは?
もともと私は新卒として、父が代表を務めていたセイワ工業に入社しました。まずは経理で銀行との交渉窓口を行い、その後営業部に異動し1社から取引先を50社ほどまで増やしてきました。現在6年目、父の跡を継ぎ代表に就任してからは2年目となります。停滞していた会社を数年で再建させたことで、“稼ぐ”ということに関してはある程度自信が持てるようになってきました。

そんななか、実は私個人としても複数企業の経営コンサルティングを行っており、経営や税金に関して新しい情報を入手できていない中小企業が数多くいることを実感しました。長年経営をしてきて今更色々勉強するのが大変という方も多いのかもしれません。それゆえ、情報格差を理由に成長を逃している中小企業がたくさんありました

そういう会社とセイワ工業がいっしょになることで、新しいなにかが生まれるなら面白いかも、と思ったんですね。これがM&Aに興味を持ったきっかけです。

- M&Aを手掛けるにあたり、どのように学ばれていかれたのでしょうか?
投資会社の方に、個人レッスンのような形で教わりました。その方とはたまたまお互いの書籍を出したタイミングが近く、直接お会いして話した結果、弊社のアドバイスをしてもらうことになりました。

とにかくいろんな案件について、「自分はこう思うけどあなたはどう思う?」と壁打ちのようなやりとりを続けました。そこで、どういうシナジーを見出せるか、どうやったらバリューアップできるか、どのぐらいのファイナンスが妥当なのかなど、試行錯誤を繰り返しながら、ファイナンスの常識を学びました。


【M&Aをするほど、会社全体の経営が安定していく】

- M&Aで求めるものとは、どんなものでしょうか?
ようやく本体の会社が安定したところなのに、なぜM&Aをするのかとよく聞かれますが、M&Aをすることで逆に安定していくんです。投資の世界で言うポートフォリオを組んでリスクを分散させるのと同じです。自分たちの強みを持つ製造業のなかで、地域や扱う製品や業界を分散させてバランスをとるんです。

セイワ工業は官公庁からの受注が多く、東栄コーティングは自動車業界、カスカは産業機械業界に顧客を持っている。個社での売り上げが景気によって変動しても、全体ではバランスをとれるようになります。互いの領域が微妙に重なり合っていることもあり、グループ内発注で利益率の増加も結果としてできるようになりました。


【財務体質を冷静に見てこそ成功する】

- M&Aを進める際に大切にしていることは?
財務体質と経営の継続性です。1社目の東栄コーティングを購入する際、オーナーの経営に対する思い、社員の礼儀正しさ・能力の高さ、経営方針が浸透している管理統制など素晴らしいと思えるところがたくさんありました。ただその中でも、会社の流動性が高く、参入障壁が高いことが大きな決め手となりました。

ただ、現預金が多かった理由は設備投資を控えていたから。そこで私たちは製造ラインの改修がいつまでに必要か、いくらかけたら何年継続できるのか、製造できなくなったときにどういう施策をとるか、など最悪も想定しながら、あらゆるシナリオメーキングをしたうえで「いける」と判断して購入に踏み切りました。

とにかく、いちばん大事なのが財務的な部分。ここをはずしてしまうと、セイワ工業だけでなく、グループ全体に影響してしまいます。感情的な視点でいうと、M&Aの当事者は熱く入り込んでしまうと「M&Aをやってみたい」が第一になってしまう。寝る間も惜しんで資料を作ると、その案件自体の魅力的な部分ばかりが目に付くようになってしまう。M&Aすること自体が目的となってしまいそうになるんです。だから情熱があるときこそ、逆にどれだけ冷静に考えられるかも大事です。

実際にその市場に携わっている人に聞いたのか?代表が代わっても本当に売り上げは変わらないのか?自分に都合の良いように思っているだけじゃないのか?などをいったん振り返ってみるんです。

私も以前「このM&Aをやるには今しかない!今じゃないと金融機関から融資がおりない」と役員会で力説したことがありますが、「今じゃないと融資できない案件という時点で、長い目で見て本当に今やるべき案件なのでしょうか」と諭され、冷静になれたことがあります。

私の場合は、役員会でのガバナンスが感情を抑制する仕組みとして機能しています。アドバイザーがそばにいるのが理想ですが、個人の場合でも他人にアドバイスするかのように、客観的に数字で説明ができればよいのかなと思います。

参入障壁のところでいうと、実はメッキ事業は設備投資に約3億円程度かかること、そしてそもそもメッキ事業を運営する工場を建設するにしても近隣住民の理解を得る必要があることなどから、競合他社が入るには容易ではない環境であるといえます。

また、私の中では、そもそも働くということに関して、幸せにつながるのかということを大事な観点だと考えているため、うちの会社が買収したことによって、その幸せを達成できるかどうかっていうことも一つの考える指標にしています。


- 現在はどのようにM&A後の会社をマネジメントされているのでしょうか?
東栄コーティングでは、最初から私が社長として入りましたが、特に私が何もしなくても会社が回っていることに気づきました笑。自動車業界のことはまだわからないことが多かったので、改善すべきと考えていたリブランディングとIT化の導入の部分だけ入ることにしました。今では出向してもらったセイワ工業の総務部長と、私の2人で会社を運営しています。

2社目のカスカでは円滑な会社運営に向けて、いったん元のオーナーにはそのまま社長のポジションを継続いただき、私は最初から間接的にだけ会社に関わる形としました。今後は、採用した幹部社員に社長業務を引き継ぎつつ、会社運営を託していく方針です。これらは、あくまでもケースバイケースであり、PMI(Post Merger Integration:企業の吸収合併後に行われる事業や事業経営の統合、およびその統合プロセス全体のこと)のシナリオメーキング次第ですね。

- PMIの進め方について教えてください。
基本的にPMIは長い期間とっていて、あまり型にはめてやらないようにしています。型にはめて無理にすすめるよりは、寝かせながらゆっくりやったほうがうまくいきます。短期的にゴリゴリやったせいで、結果的に元のオーナーさんと仲が悪くなり失敗しているところをいくつか知っています。

今後、5社、10社とM&Aを進めていけば、いずれ規模別や属性別に“PMIフォーマット”といったものができてくるんじゃないかなと思っています。そうすると、指揮をとるのは私でなくても、プロ経営者や優秀な会社員が副業から事業に入って、腹が座ったら本格的に専念してもらうなど可能性もある。そういう仕組みにしていけば、どんどんスケールするだろうと期待しています。


【IT化でものづくりをカッコよく、目指すは“町工場連合の上場”】

- 今後の目標について教えてください。
今後も積極的にM&Aに取り組むつもりですが、そうすると拠点も人も増えていきます。とにかく増えれば増えるほど、負荷が高くなるのは確実です。ですから、IT化の推進は絶対

今もすでにIT出身の社外取締役とともに、製造ラインでどの順番で何をつくれば効率的に売り上げに寄与するかという工程管理のソフトウェアや、図面を読み込むことで最適な見積もり・部材・溶接場所などを推量できるシステムなどを考案中です。

そして複数の拠点を持つことで、製造の最適化にも力を入れたい。たとえば、これは静岡におさめる部品だから一番近い神奈川の工場で作ろうとか、こっちは利益率が高いから売り上げの安定化を図るために2社に分けようとか。

最適化することで、しっかりと利益の出る体質をつくり、それらを投資に回したり、ITに投入したりして、新たな風をつくっていきたいですね。また、うちの会社でIT化したものを商品化して、新しい事業にできたら、それもひとつの強みになるだろうと思っています。

私たちが目指すのは“町工場を世界で一番働きやすい場所にする”こと。そのための第一歩として、町工場が連合して上場することを目指しています。町工場というのは、仕事がきつそうとか、給料が安そうとか、“大変”が前提になっています。「カッコいい製造業」へと町工場のイメージを変えていきたい。“町工場連合の上場”で話題を生み出すことできれば、製造業に憧れる人も増えるかもしれないですし、社員のやりがいを生み出すことにもなると考えています。

M&Aという手段をうまく活用し、ものづくりとITという二軸をかけ合わせることで、製造業に新しいコンセプトを作っていきたい、そう考えています。

- ありがとうございました!


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  • 池田純子)
  • ライター紹介池田純子

    大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーのライター・編集者に。暮らしやお金、子育てにまつわる雑誌記事の執筆や単行本の製作に携わる。さまざまな生き方を提案するインタビューサイト「いま&ひと」を主宰。